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【イベントレポート】人が集まりたくなるこれからのスポーツのヒント

2017年11月24日



【イベントレポート】人が集まりたくなるこれからのスポーツのヒント | あしたのコミュニティーラボ
試合の勝ち負けや記録を競う。プロのアスリートの試合を観戦する。2020年東京オリンピック・パラリンピックを前にして、それだけではないスポーツの楽しみ方、活用が拡がっています。今回は、去る2017年9月12日にあしたのコミュニティーラボが開催したイベント「人が集まりたくなるこれからのスポーツのヒント」@SIBAURAHOUSE(田町)をレポート。新たなテクノロジーやアプローチを活用した「これからのスポーツのあり方」について、実践者や専門家をゲストに招き、参加者に体験してもらいながら考えてみました。

“競争”ならぬ“共創”で生まれる「超人スポーツ」

モデレーターを務めたのは慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科准教授の南澤孝太さん。南澤さんの研究分野はVR技術などを使って人の感覚や運動機能を拡張する「身体性メディア」。2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて生まれた新しい潮流が超人スポーツです。南澤さん自身スポーツマンではなく、学生時代に体育は不得意でした。しかし、身体能力を拡張するテクノロジーとスポーツを組み合わせれば、どんな人でもスポーツを楽しむことができる、と南澤さんは語ります。

南澤孝太さん
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科准教授/超人スポーツ協会理事・事務局長の南澤孝太さん

超人スポーツは情報化時代の新たなスポーツ。“人機一体”による身体の拡張でスポーツのフィールドも拡張し、道具も競技者も観戦層も多様化するでしょう。

2015年6月には「超人スポーツ協会」が発足。ハッカソンを通じて学生、エンジニア、クリエイター、デザイナーなどさまざまな人たちが新しいスポーツをゼロから「共創」しました。体重移動で操作する電動二輪車に乗り“おたま”のような容器に入れたボールを落とさずゴールする球技「ホバークロス」、電動アシスト全方向車椅子を用いドリフト走行などのテクニックを駆使して競うレース「スライドリフト」など、20種類ほどの競技が生まれました。

理事・事務局長として関わっている南澤さんによれば、超人スポーツを通じて福祉とスポーツ、地域とスポーツの新しい関係が見えてきたそうです。テクノロジーの力を借りることで身体にハンデを持つ人たちの潜在的な優れた能力を引き出すことができます。障害者も健常者も一緒に同じスタートラインから楽しめるのです。

岩手県では「ご当地超人スポーツ」ハッカソンを開催し、地域の歴史・伝承・文化の魅力をスポーツに組み上げることができました。「ロックハンドバトル」は岩手の県名の由来となった、悪鬼を祓う伝承をモチーフにした競技です。


「ロックハンドバトル」をプレイ中の様子(提供:一般社団法人 超人スポーツ協会)

いまスポーツでは“する”“見る”“支える”のエコシステムが回っていますが、これに“つくる”を加えたい、と南澤さん。スポーツに携わる多様性を拡張するのが超人スポーツです。

観客参加の競技アプリを通じた感動の共有

富士通ネットワークサービス事業本部の三宅正史さんは、場所や時間などユーザーのいる状況に合わせてスマートフォンアプリを自動切り替えできる「プレイスサービス」技術の普及に取り組んでいます。クラウド上に構築したシステムが場所や時間に応じてユーザーのスマートフォンを自動制御することで実現するサービスなどが考えられます。


富士通株式会社 ネットワークサービス事業本部の三宅正史さん

このシステムは新たなUX(ユーザーエクスペリエンス)を提供します。たとえばスポーツ分野なら、スタジアムに来場した観客がアプリで参加できる競技サービス。

2015年のJ1リーグ公式戦「川崎フロンターレ対ベガルタ仙台」のスタジアム(等々力陸上競技場)で行われたのが、その実証実験です。実験参加者は試合開始前に、川崎フロンターレのマスコット別に3チームに分かれ、バーチャルなカーレースを競いました。スピードが決まるのは制限時間内にスマホを振った回数。ゲームのスタートと同時に参加者はスマホを力いっぱい振りまくります。チーム順位の変動はスタジアムの大型ビジョンに表示。サッカーを見るために訪れた人たちが、スマホを利用した参加型ゲームを楽しんでいました。


当日はスタジアムの大型ビジョンに実証実験の様子が映し出された

熱心なファンと普通の観客の温度差が気になっていた三宅さんは、観客参加型の競技サービスを通じて競技場内の観客の熱気アップと客層の輪が広がれば、と望んでいます。

勝ったらうれしい、負けても楽しい「ゆるスポーツ」

コピーライターの澤田智洋さんは、足が速くて女の子にもてた小学校の同級生をうらやんで以来、運動が苦手だというコンプレックスをずっと抱えていました。そんな自分でも、2020年オリンピック・パラリンピックに向けて盛り上がっているスポーツに楽しく関われる方法はないか——。


コピーライター / 世界ゆるスポーツ協会代表の澤田智洋さん

ノルウェーで生まれた、上半身に巨大なビニールボールをかぶって競技する「バブルサッカー」が体験できるイベントを2014年に日本で開催してみたところ、その参加者の半数が「久しぶりに運動した」と回答。澤田さんは、運動が苦手な仲間はたくさんいる、と気づきます。文部科学省のスポーツ実施率調査によると週1回1時間以上の運動をする人は42%。ということは58%が未開拓のマーケットです。

2016年4月に「世界ゆるスポーツ協会」を設立。年齢、性別、運動神経を問わず誰でも参加できて、勝ったらうれしい、負けても楽しいのが「ゆるスポーツ」です。企業20社以上を巻き込んで延べ2万人以上が参加しています。

ゆるスポーツはスポーツの再解釈、と澤田さんは言います。スポーツ=笑い。たとえば「ベビーバスケ」。激しく動かすと大声で泣き出す特殊なボールを、泣かせないように、そっとパスして、そっとキャッチするのがコツ。たとえば「ハンドソープボール」。ボールを落とすたびに、ツルツルとすべるハンドソープを手につけなければなりません。どちらもプレーの最中は爆笑の渦です。

プレイヤーの声に合わせて土俵が振動し紙相撲の力士を動かす「トントンボイス相撲」は楽しみながら高齢者の喉の機能を回復させます。湯呑みを使って“デジタルみかん”を弾き合う「こたつホッケー」は腕の伸縮運動。このようにスポーツは高齢者のリハビリにもなります。さまざまに再解釈、再定義できるスポーツの万能力を活かし切って社会を良くしたい、と澤田さんは話しました。

スポーツを教えることで“伝える力”を学んだ

東洋大学時代に箱根駅伝で4年連続往路優勝を達成するなど長距離ランナーとして活躍した柏原竜二さん。卒業後は富士通陸上競技部で活動し、2017年3月をもって現役を引退、アメリカンフットボールチーム「富士通フロンティアーズ」のマネージャーに就任しました。アメフトの知識はまったくなく、ルールを勉強し、動画を見たり、わからないところは選手に聞いたりしたそうです。


元陸上選手で現在は「富士通フロンティアーズ」のマネージャーを務める柏原竜二さん

そこで気がついたのは、1人ひとりのプレーヤーの役割が決まっているアメフトは将棋やチェスなどアナログゲームに似ていること。柏原さんの趣味の1つであるサバイバルゲームは相手陣地に立つフラッグを触ったら勝ちですが、アメフトも相手エリアにタッチダウンを決めたら勝ち。そう考えるとスポーツとゲームなどのサブカルチャーには共通している部分があり、そこを入口にすればスポーツが苦手な人でも親しみやすくなるはず、と柏原さん。

柏原さんはテレビやラジオに出演したり、陸上教室で小学生に教える機会が増えました。小学生はそうした特別な場所に来ると、楽しくなってはしゃぎ、制御がきかなくなります。言うことを聞いてくれません。

「水分補給をさせるために『帰ってきて!』と指示しても帰ってこない。どうすればよいか悩んだ末、答えが出ました。子どもには、他人に負けたくないという競争意識がもともと備わっています。そこをくすぐる言い方に変えてみました。『いちばん遅い子だれかな?』するとダッシュで帰ってくる」

スポーツを教えることを通じて、逆に“伝える力”について勉強させられた、と柏原さんは言います。

身体を動かす楽しさはもっと自由であっていい

トークセッションでは南澤さんが「スポーツが人を巻き込む力」について問いかけました。澤田さんは「身体性を伴うのが大きい。身体の活動度が幸福度に変わる。身体を使い倒したいという欲求は誰にでもあって、実現のきっかけがなかっただけ。ゆるスポーツは、その選択肢を足す試み」と話します。

三宅さんは観客参加の競技アプリについて「スマホを力いっぱい振ってゲームに参加するのは、カラオケ屋さんでマラカスを振りたくなるのと同じモチベーション。いわば“大人向けのガラガラ”。ふだん強面の役員の方々も笑って楽しんでいらしたので、何か意味があるに違いない」と確信したそうです。

南澤さんは「超人スポーツのハッカソンではアカデミーのコミュニティーからいろんなアイデアが出てきた。自分たちの持っている引き出しをスポーツに当てはめてみる発想が今までなかっただけで、まだまだ開拓の余地がある領域」と捉えています。

柏原さんも、ゆるスポーツや超人スポーツの話を聞いて「“スポーツをつくる”というのは考えてもみなかった。新しいスポーツを通じて身体を動かす楽しさを知ってもらいたい。スポーツはもっと自由であっていい」と期待をかけます。


元アスリートの目線で「スポーツをつくること」について期待を語る柏原さん

”Touch & Try“を通して気づいた新たな身体感覚

今回のイベントでは、参加者自身が身体を動かすプログラム”Touch & Try “を目玉の1つとして設けました。

超人スポーツの「ホバークロス」と「スライドリフト」は南澤さんが、ゆるスポーツの「ベビーバスケ」は澤田さんが、そして観客参加型の競技アプリを三宅さんが紹介。このプログラムでは、アスリートの柏原さんもいち参加者として体験を楽しみました。


体験プログラム”Touch & Try”は大盛況。写真は「観客参加型の競技アプリ」を楽しむ様子


終始笑いの耐えなかった「ベビーバスケ」を体験する参加者たち


「スライドリフト(写真左)」と「ホバークロス(写真右)」。

体験を終えた柏原さんは、「ベビーバスケは膝の使い方が重要。子どもをあやす行為に直結しているのがおもしろい」「ホバークロスは力を入れると乗れない。アスリートじゃない、スポーツが苦手な人のほうがスムーズに乗りこなせるかも」と、アスリート視点で身体の動かし方に着目して感想を述べました。

それに対して、南澤さんが「足の裏とモビリティが1つにつながっている状態だとスムーズに動く。力が入っていると境界ができてしまう。そこが身体拡張のミソ」と解説しました。

日常がそのままスポーツになる世界へ向けて

体験のあとは、参加者同士で感想や気づきを共有。参加者からは「新しいルールをつくれるのがおもしろい」という感想が多く寄せられました。


”Touch & Try”で盛り上がり、熱気を帯びた空気のなか、活発に議論を交わす参加者たち

ホバークロスもベビーバスケも「歩行が変わる」「赤ちゃんをあやす」という日常生活の延長にルールを付与してスポーツ化したもの。「スポーツは継続しにくいけれど、日常の活動に組み込まれて、ふだんの生活がそのままスポーツになっているような世界が生まれたら素敵」といった声があがりました。

参加者たちの興味が「新しいルールをつくること」に集中したことについて議論になり、澤田さんは「老朽化した日本の制度を壊してつくり直す練習に新しいスポーツのルール設計は使える」、南澤さんは「体育はルールメイキングを学ぶ授業であるべき」とコメント。


参加者からの感想・質問を受けて、それぞれの視点から回答する登壇者たち

柏原さんは「スポーツといろんなことを掛け算できたらいいなと日頃から思っていたが、どうしたらいいかわからなかった。そのヒントをもらえた」と今回のイベントの感想を語ります。
澤田さんも「スポーツのためのスポーツではなく、スポーツを何に活かせるか、という観点が大切」と強調しました。三宅さんは「元をただせばスポーツも遊び。むかし田舎の子どもは遊びを自分たちでつくった。その現代版。駅まで歩くのにひと工夫するとか、自分の行動のどこかを変えるだけで刺激があり、それをみんなでやると共感が広がる」という原点に気づかされたと言います。

南澤さんは「スポーツを起点に新しい文化をつくっていければ。街の風景がどう変わるかワクワクしている」とイベントを締めくくりました。スポーツを新しい観点から捉え直すことで、その多様な可能性が垣間見えた2時間強でした。

「競う」と「楽しむ」の境目から生まれる、スポーツの新たな可能性


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