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“私”に気づくきっかけを、地域でつくる──鹿児島県長島町「長島大陸Nセンター」「島TECH」から考える(前編)

2017年11月27日



“私”に気づくきっかけを、地域でつくる──鹿児島県長島町「長島大陸Nセンター」「島TECH」から考える(前編) | あしたのコミュニティーラボ
離島面積が全国の3分の1を占める鹿児島県では、子どもの教育のために住んでいる島を離れることによる、若年層の人口流出が課題となっている。この「島離れ」を解決するにはどのようなアプローチが考えられるのか。今回は、鹿児島県長島町で行われている「長島大陸Nセンター」と「島TECH」の取り組みを通じて、育った町やお世話になったまちに最終的に人を戻すような、新たな教育プログラムの背景を探った。前後編でお伝えする。

ブリのように人を地域に戻す、教育のあり方とは──鹿児島県長島町「長島大陸Nセンター」「島TECH」から考える(後編)

ブリ養殖日本一の町に開設したネット高校の拠点「長島大陸Nセンター」

鹿児島県の最北端にあり、海に囲まれた長島町。北に天草を望み、南は薩摩半島の阿久根市と架橋されている。長島本島、諸浦島、伊唐島、獅子島の有人島のほか、大小23の島々から成り、波おだやかな内海を利用した養殖ブリの出荷量は日本一で、輸出も多い。粘土質の赤土からつくられるじゃがいものブランド「赤土バレイショ」の産地としても知られる。

人口は11,000人弱。2007年に町内唯一の高校(長島高等学校)が廃校したため、中学卒業と同時に家族ごと近隣の阿久根市や出水市へ転出するケースが目立つようになった。人口流出の課題に対して打ち出された対策の1つが、Webによる通信制高校「N高等学校」との提携。N高等学校はドワンゴ株式会社、カドカワ株式会社が提供する、インターネットで双方向型の授業コンテンツを受講し高校卒業資格を取得できるプログラムだ。

長島町は、荷物置き場になっていた町役場の展望台を利用して、N高等学校のコンテンツを利用できる拠点「長島大陸Nセンター」を2016年8月に開設した。

各自治体とドワンゴ=カドカワが連携し、地域住民との交流や職業体験、プログラミング学習の機会なども提供することで都市と地方の教育格差解消をめざす「Nセンター」の全国第1号拠点だ。

長島町総務課行政係長の町口真浩さんは、Nセンター発足の経緯をこう振り返る。

長島町 総務課 行政係長 町口真浩さん
長島町 総務課 行政係長 町口真浩さん

「総務省の地方創生人材支援制度で派遣された若手官僚の井上貴至さんが2015年から2年間、副町長として赴任、共に立案した長島総合戦略で、高校の復活という目標を掲げたました。しかし、全日制高校を新たに設立・誘致するのは難しい。何か良い方策はないかと模索していたとき、ドワンゴ=カドカワの担当者の方と意見交換するなかで決まっていったんです」

長島大陸Nセンターの運営主体は長島町。実務スタッフは「地域おこし協力隊」のメンバーだ。長島町で働く地域おこし協力隊は11人(2017年10月現在)。総務省のこの地域支援制度は、自治体によっては人手が足りない公務の補助的な人員確保に使われてしまうこともあるが、長島町の地域おこし協力隊のメンバーは本来の趣旨どおり、地域おこしにつながる創発的で多様な活動に取り組んでいる。明確化されている課題に意欲、スキルを持った人を全国から招く同町の方法は、成功事例として全国から視察も多い。

町口さんが「外から来る人たちには、まちの人間にはできないことをやってもらわなければ意味がありません。ずっと同じまちにいるとどうしても考え方が固まってくるので、外からの刺激が必要です」と言うように、長島町は協力隊の自主性を重んじている。

長島大陸Nセンター所長の神明竜平さんは、大阪府出身。東京大学法学部を卒業後、都内の企業でゲームのプロデュースを手がけていた。

学生時代、海外30カ国以上の地方都市を旅し、地域ならではの活気を見知っていた反面「日本では地域のポテンシャルが狭められている」と感じ、「既存の教育に対する違和感」をずっと抱えていた神明さん。

長島大陸Nセンター 所長 神明竜平さん
長島大陸Nセンター 所長 神明竜平さん

「(前述の)井上さんは一度だけお会いしたことがあり、高校・大学の先輩でした。ちょうどNセンターの話がまとまった頃にお会いして、教育サービスの仕事をしたいと思っていたこともあり、これもご縁だな」と会社を退職し、地域おこし協力隊として長島町に移住した。

地域の課題解決にWebサイト制作を通じてコミットする「島TECH」

現在、長島町のNセンターに実際通い、N高校のプログラムを受講している学生がいるわけではない。

学生を受け入れる前段階として、全国の高校生を対象とした合宿制プロジェクト学習プログラムを実施している。それが「島TECH」だ。5泊6日で漁業・農業などの生産者の家庭に2~3名ずつホームステイする。

これだけなら、よくある地域留学のプログラムだが、島TECHがユニークなのは、高校生にミッションとして生産者のWebサイト制作が課せられること。滞在中、そのための取材やワークショップに勤しむことになる。これまで5回実施し、合計30名が参加した。地域別では首都圏と鹿児島県内の高校生がそれぞれ4割、他府県が2割。参加者の6割が女子だ。

豊かな自然の恵みのおかげで長島町には多様な第一次産業の生産物があるが、生産者自らWebサイトを開設して発信している例は少ない。生産者が直接消費者に商品を届ける「六次化」の取り組みにも、ツールとしてのWebサイトは不可欠。島TECHのプログラムでは、生産者が宿泊場所を提供する対価として高校生がWebサイトを作成する。つまり高校生は地域の課題解決にコミットすることを通じて、学校の教室では得られない生きた学びを体験するわけだ。

長島大陸Nセンターの運営メンバーで、島TECHのプログラムの代表を務める間瀬海太さんは、神奈川県出身で慶應義塾に通う大学生。

間瀬さんは2014年から、学生がスマートフォンを使って“伝わる”映像の発信方法を学ぶ短期合宿プログラム「メディアキャンプ」の運営に取り組んでいた。その活動のOBだった大学の先輩が地域おこし協力隊として長島町に移住したことから、メディアキャンプを長島町で開催し、同時にNセンターのプロジェクトを知った。

長島大陸Nセンター 島TECH代表 間瀬海太さん
長島大陸Nセンター 島TECH代表 間瀬海太さん。地元の食材にまつわるストーリーを情報誌にまとめ、食材とともに味わってもらう「長島大陸食べる通信」の編集長も務める

「偏差値という均一の基準からこぼれ落ちる個性を伸ばせない学校教育に、強い問題意識を持っていました。ゆくゆくは自分で学校をつくってみたい」と考えていた間瀬さんは、地域による新しい教育のしくみづくりに魅力を感じ、大学を休学して長島町の地域おこし協力隊に参加した。

「高校生がアウトプットするのは生産者のWebサイトですが、その制作ノウハウの習得がプロジェクトの主眼ではありません」と間瀬さんは強調する。

「見知らぬ土地で初対面の同世代とチームを組み、生産者と密接に交流しながら1つの目的を成し遂げるプロセスを体験する。それらを通じて、今までそれが当たり前と思っていた高校生の日常とは大きくかけ離れた経験を重ねます。すると、自分でも気づいていない素の自分を発見したり、本当は何がやりたいのか見つめ直すきっかけになり、自力のライフプランニングがはじまる。それを経験してもらうことが大きな目的です」

先輩や先生にすすめられて島TECHを知った高校生が多い。AO入試の準備として体験が欲しい、との動機も。以下のような参加者の声が寄せられている。

「ヒラメ養殖場で、(生産者の方が)ものすごく真剣な眼差しで“ヒラメは我が子だ”だとおっしゃっていたのを聞いて、その大切なヒラメを、どうやってWebを通じてたくさんの人たちに届けたらいいか、5日間みんなで話し合った」
「サバ養殖をしているお宅にホームステイ。小さい女の子が4人いて、その子たちと遊ぶ機会がたくさんあって、貴重な体験だった」
「誰一人知り合いがいなくて不安だったけれど、初日のアイスブレイクでゲームをして、グループで一致団結する機会があったので打ち解けやすかった」
「Webサイトをつくるのは難しかったが、大学生の方やスタッフさんが付いてくださったので、すぐ質問できたし、技術面でも講習を受ける機会が2日あったので、完成させることができた。できあがったWebサイトを(生産者が)見て涙を流し“ホームステイを受け入れて本当に良かった、来てくれたのがこの3人で良かった”と言ってくださったのがものすごく嬉しかった」

「高校生が地域と触れ合う意義は“真剣に生きている人”と向き合えること」。神明さんはそう考えている。

神明さん
神明さんは、長島で学ぶ意義を「地域の未来を諦めていない大人がいること」と話す

「命がけで自然に向き合い、その恵みを多くの人たちに届ける仕事をして、同時に地域の未来について前向きに考えている。そういう大人には、都会ではなかなか出会えません。そこに地域ならではの優位性がある。バーチャルな世界ではなく、リアルな世界で真剣に命がけで生きている大人に向き合えるからこそ、高校生も自分について、将来の進路について、深く考えるきっかけになるのだと思います」

長島大陸Nセンター、島TECHの取り組みは、参加する高校生のみならず、ホームステイ先として協力する地域の人たちにも気づきや変化をもたらしている。後編では子どもたちへの教育が地域の活気につながる可能性について考えたい。

ブリのように人を地域に戻す、教育のあり方とは──鹿児島県長島町「長島大陸Nセンター」「島TECH」から考える(後編)へ続く


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