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疾病予防と健康増進のトリガーはエンターテインメント!?──株式会社メディシンクCEO 八村大輔さんインタビュー

2017年11月30日



疾病予防と健康増進のトリガーはエンターテインメント!?──株式会社メディシンクCEO 八村大輔さんインタビュー | あしたのコミュニティーラボ
病気を未然に予防する、そもそも病気になりにくい体をつくる。それによって、より生活の質つまり「QOL」が向上するのではないか。現在注目されているのが、この「予防医療」や「未病」という考え方だ。あしたのコミュニティーラボでは、2016年秋から2017年春にかけて、それを歯科の分野で実施する「予防歯科」の活動を取り上げ、予防医療の重要性を認識する消費者や企業の取り組みを紹介してきた。

 

では、企業やサービスを提供する側は、どのような背景を持ち、どのような試行錯誤を行っているのだろう。今回お話を伺ったのは、メディカル(医療)とエンターテインメントを組み合わせた「メディテインメント」というコンセプトを掲げ、サービスデザインを起点にヘルスケア事業を支援する株式会社メディシンクCEOの八村大輔さん。未来の健康増進社会を切り拓くヘルスケアビジネスの可能性を聞いた。

“楽しい、おもしろい”を入口にした自発的で持続的な健康増進

──八村さんがCEOを務める株式会社メディシンクは「総合ヘルスケア支援事業」を手がけてらっしゃいますが、具体的にはどんな取り組みに注力しているのですか。

八村 超小型センサーでデータを取得し、ユーザーの健康状態を“見える化”する、IoTやウェアラブルの技術を使ったヘルスケアサービスの事業化支援が得意分野です。

2012~13年に千葉県柏市で行なわれた、総務省の実証実験に予防による健康長寿のまちづくりを目指す試みとして「柏の葉スマートヘルスプロジェクト」を三井不動産と中心的に提案し企画推進しました。

株式会社メディシンク 代表取締役社長 CEO 八村大輔氏
株式会社メディシンク 代表取締役社長 CEO 八村大輔氏

そこで提供したのは、リストバンド型活動量計と体組成計をネットワーク経由で健康データ分析システムに連携させたサービス。そこにパソコンやスマートフォンで健康状態を表示し、ランキングや目標設定など楽しく継続的な利用を促す機能を付けて、専門家による健康増進アドバイスも受けられるものでした。この社会実験での実績をきっかけに、さまざまな企業が相談に来られるようになりました。

──企業がヘルスケア分野に参入したり、ヘルスケアに関する新規事業を立ち上げる際のコンサルテーションということですね。具体的にどんな点に悩む企業が多いのでしょうか。

八村 皆さんすばらしい技術はお持ちなのですが、サービスをつくる、サービスデザインの段階で足踏みしてしまっている企業が多いです。ユーザーへ体験価値をどのように届ければよいのか、企画の初期段階からお手伝いをしています。

──柏の葉スマートヘルスプロジェクトで「ランキングや目標設定など楽しく継続的な利用を促すしくみを設けた」というお話がありました。八村さんは「明るく楽しく自発的に継続性ある健康増進」をめざす「メディテインメント®」(メディカル+エンターテインメント)という概念を提唱しておられます。先のプロジェクトはその実践例でもあったわけですね。

八村 その通りです。20年ほど前、私は医療機器商社で骨粗しょう症の診断装置の販売を担当していました。その時に28兆円の国民医療費が毎年1兆円ずつ増え続けると知りました。

出典:総務省 平成25年版情報通信白書
出典:総務省 平成25年版情報通信白書

同時期に、治療中心で発達してきた医療に、今後は予防の考え方が増えていくと考えていたのですが、予防医療の専門家も、それに予算を割く行政も当時は皆無に等しい状態でした。それに、多くの人は病気になってはじめて健康の大切さに気づきますから、健康なときは病気にならないように努める動機が薄い。──ではどうしたらよいでしょう。

人はおもしろい、楽しい、美しいといったポジティブ・ファクターに興味を喚起され、動機が発生します。ならば、エンターテインメントを入口にした上で「エビデンスベースド」つまり、そのサービスが医科学的な根拠に基づく健康行動を推奨・促進するものであれば、予防を経済活動に置き換えられるのではないか、と仮説を立てたのです。

これが成立すると、おもしろい、楽しいことに投資しながら健康になる社会が到来するのではないかと考えました。

──国民医療費は現在42兆円を超え、医療保険制度は破綻の危機に瀕しています。予防による健康維持の重要性が増していますが、「予防しないと病気になる」という“北風アプローチ”ではなく、「おもしろくて楽しいことが予防になる」の“太陽アプローチ”ではじめて人は動き出し、経済が回りはじめるのでしょうね。

八村 そんなタイミングに流行ったのが、「たまごっち」(編集部注:1996年にバンダイから発売された小型育成ゲーム)です。数千円支払ってキャラクターを育てるゲームに熱中するのなら、自分の健康を育てるゲームにも市場性があるだろう、と。さらに、同時期に任天堂が発売した歩数計とゲームが合体させスマッシュヒットした「ポケットピカチュウ」もその流れを汲んでいましたし、シャープが発売した携帯情報端末「ザウルス」も、手のひらにコンピューターが乗ることが大衆化することを予感させました。

これらの組み合わせから、楽しめるコンテンツが搭載された個人用の測定機器を身に付けて自分の健康を管理する未来があるのではないかと考えました。楽しさ、おもしろさなど、ポジティブ・ファクターを起点に、健康数値を見える化する。数値化すれば第三者評価も可能になります。

株式会社メディシンク 代表取締役社長 CEO 八村大輔氏

さらに、当時JALが始めたマイレージサービスのように、健康状態や運動状態を記録するとポイント付与されるしくみを応用し、自分の健康状態に応じてアラートやアドバイスを受け取れるシステムを発想しました。毎日見るそのデバイスは多くのユーザーが注目する健康メディアとして機能し、広告スポンサーが付いて事業価値も大きくなるだろう、と考えたのです。

個人認証技術が確立し、健康データの改善が証明できるようになれば、保険の割引制度も実現できるかもしれません。そうすると、誰も損せずに健康増進サイクルが回る社会に出来る、そんなことを夢想したんです。

ウェアラブルなユーザー体験をどうデザインするか

──さまざまな生活者向けのサービスからヒントをもらったんですね。実際この「メディテインメント®」の構想には当時どんな反応がありましたか。

八村 賛同者がいなくて、とにかく寂しかったです(苦笑)。

当時のクライアントだったドクターなどに「生活習慣病予防のアプローチとしてメディテインメント・モデルはどうですか?」と提案したところ、「医療で“楽しい”とは不謹慎きわまりない!」と怒られたのが象徴的なエピソードです(苦笑)。ほとんど取り合ってもらえませんでした。

──そこから、約20年たって、楽しみながら健康を維持するという風潮は徐々に一般的になりつつあります。潮目が変わってきたのはいつごろですか。

八村 最初は12年前にアメリカのベンチャー企業が生体データをセンシングするアームバンドを発売した頃でしょうか。その製品の発売がメディシンクを創業するきっかけにもなりました。最初はアスリートのユーザーが運動データを取るための専門機器として広まり、「メディテインメント」のコンセプトに近い一般生活者向けの市場は存在していませんでした。

2001年にアメリカで開発されたSenseWearアームバンド。二の腕につけて被験者の運動、睡眠といったデータを取得する
2001年にアメリカで開発されたSenseWearアームバンド。二の腕につけて被験者の運動、睡眠といったデータを取得する

次に、「FitBit」や「AppleWatch」など一般ユーザー向けの腕時計型やスマートウォッチが発売され始めた2014年ごろでしょうか。そして、今ようやく、さまざまな器具によって、予防医療をおもしろくて楽しいアクティビティに変える、ヘルスケアサービスをデザインできるところまで来ていると思います。

──現状ではどのような課題がありますか。

八村 1つ目は個々のUX(User Experience、ユーザー体験)です。

健康の3大要素は食事・運動・休息(睡眠)。そうした生活習慣を改善しようとしたとき、たとえばAさんの場合は具体的に何をどう変えればよいのか、どの数値をどのように「見える化」したら健康行動につながるのか。つまり、個々のUXをどのようにデザインしたら、もっとも望ましいサービスとなるか、クライアントとも実験や議論を重ねている最中です。

2つ目は、予防医療が属するカテゴリの問題です。たとえば「生活習慣病の予防」は専門的にいうと、治療ではなく公衆衛生の分野であり、治療を中心に発達してきた従来の医療業界や医療保険制度の枠組みから外れます。

八村大輔氏

従来の枠組みから外れるという意味だと、数値の取り方も同じです。従来の医療では検査や診断といった、ある時点の定点データしか取り扱いません。しかし、私が提唱するメディテインメント・モデルは、毎日・常時データを取り続けることの価値を提唱しています。この定点か連続か、という違いによって、診断にとって重要な高精度な検査、分析、アドバイスの裏付けとなる医療の専門家の理解がまだ得にくいのも大きな課題です。

健康をサポートしない企業は生き残れなくなる

──ご自身が関わるプロジェクトを含めて、どんなところにヘルスケアビジネスの未来を切り拓くポイントがあると考えていらっしゃいますか。

八村 メーカー側の開発ポイントでいえば、やはりIoT、AIといった技術的なトレンドが後押しする「非侵襲もしくは低侵襲な生体データ取得」(編集部注:非侵襲とは「生体を傷つけないような、身体の開口部や皮膚に器具を侵入させない状態」を指す)でしょうか。

つまり、連続的な生体データの取得をいかに安価に、しかもユーザーに負担をかけずに実現するか。日本人は肌が敏感なので、ずっと装着し続けるウェアラブルデバイスの場合には特に注意が必要です。女性向けではTPOに合わせて取り替えるファッションニーズ等も考慮に入れなければならないでしょう。

サービス側では、企業の健康経営や美容院など、サービスの「現場」にメディテインメントの考え方を導入することです。最近は、百貨店のグループ会社の健康経営をサポートしているのですが、就労時間中いかに健康行動を増やすか、というアプローチにメディテインメントを応用しています。

「デスクでできる簡単エクササイズ」のムービーをガイドにして社員さんが仕事の手を休め、数分間ほど体を動かす習慣が定着しはじめました。勤務時間中、手軽に楽しくできるところがポイントで、無理なく自分の身体に意識を集中する機会を増やすことができていると思います。

取材班全員で、「デスクでできる簡単エクササイズ」を体験!
取材班全員で、「デスクでできる簡単エクササイズ」を体験!

私は何年も前から講演するとき必ず冒頭で「いま皆さんが直接健康に関係のない仕事に携わっているとしても、この先、健康をサポートしない企業は生き残れません」と断言しています。偉そうですけど(笑)。

たとえば、自動車メーカーにとってはドライバーが長く健康でいてくれなければユーザーを失うことになってしまう。するとユーザーや予備軍に対して健康をサポートすることも企業として重要です。そう考えると、あらゆるビジネスにヘルスケアは関わりがあります。

ウェアラブルデバイスで個人の生体データを扱う場合、セキュリティやリスク管理の観点には特に気を遣う必要があります。そうした配慮を施したシステムはどうあるべきか、引き続き国の研究機関とも協議を進めています。

その上で、楽しさ、おもしろさ、美しさなど興味喚起力の強いポジティブ・ファクターを入口とするヘルスケアサービスの構築が今後はより一層求められていくはずです。

八村大輔(はちむら・だいすけ)

八村大輔(はちむら・だいすけ)

株式会社メディシンク 代表取締役社長 CEO(創業者)、明治大学 学長特任補佐 兼 社会イノベーション・デザイン研究所 特任研究員、多摩大学 医療介護ソリューション研究所 フェロー。広告会社を経て医療機器商社で予防医療と出会い、1996年に高齢社会の課題ソリューションとして「メディテインメント・コンセプト」を着想。2006年メディシンクを設立。2011年柏の葉スマートシティの健康長寿都市コンセプト立案に関与、2012-2013年度総務省ICT街づくり推進事業の「柏の葉スマートヘルス事業」を主導。以来、デジタルヘルス・イノベーションを巻き起こすための事業企画やコンサルティング、業界への参入支援など総合的なプロデュースを提供中。


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