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東京ヴェルディが広げるスポーツの可能性──eスポーツに芽吹く新たな「競技」の潮流(前編)

2017年12月15日



東京ヴェルディが広げるスポーツの可能性──eスポーツに芽吹く新たな「競技」の潮流(前編) | あしたのコミュニティーラボ
2016年に初開幕した「日本eスポーツリーグ」にJ2リーグの東京ヴェルディが参戦している。90年代後半から米国や韓国を皮切りに盛んになり、海外では“1億円プレーヤー”のプロゲーマーを多く輩出、今やオリンピックの競技種目としても検討されている「eスポーツ」。世界の趨勢に出遅れていた日本だが、最近新たな動きが活発になっている。なぜフットボールクラブがeスポーツに参入したのか、新たなスポーツとしてのeスポーツの可能性を探ってみたい。

【特集】「競う」と「楽しむ」の境目から生まれる、スポーツの新たな可能性

新しいファンやスポンサーとのつながりが生まれる

主にPCを使い、オンライン対戦型ゲームを競い合う「e(エレクトリック)スポーツ」。

海外では、2017年の「DOTA2」(ドータ・ツー、DOTA2というゲームタイトルの世界大会)のように賞金総額23億円にのぼる大会も開催され、年収1億円を超すプロゲーマーも珍しくない。オフラインで開催される決勝戦では会場に観客がつめかけ熱狂する。

専用ゲーム機やスマートフォンで楽しむコンシューマーゲームが主流の日本において、eスポーツは馴染みが薄かったが、2022年アジア競技大会の正式種目に採用され、2024年のパリオリンピックでも正式種目化が検討されるなど、ここにきて話題を集めている。


Newzoo社のデータを元に編集部にて作成

スポーツには陸上、球技、水泳などといった競技分野があるのはご存じだろう。eスポーツでこれに相当するのが、互いに陣地を奪い合う「MOBA」(Multiplayer Online Battle Arena)、一人称視点で銃を撃ち合う「FPS」(First Person Shooter)と呼ばれるチーム戦ゲームや、「スポーツゲーム」「対戦格闘ゲーム」などの個人戦ゲームのカテゴリーだ。

陸上に「100メートル走」の種目があるように、たとえばMOBAには、競技人口が世界でもっとも多い(推定1億人)といわれる「リーグ・オブ・レジェンド」(略称LoL)のようなゲームタイトルがある。

2016年に初開幕した「日本eスポーツリーグ」には北海道・東京・愛知・大阪・福岡から6チームが参加。ひときわ異彩を放つのが「東京ヴェルディ」だ。そう、Jリーグの名門がeスポーツに参入しているのだ。

日本eスポーツリーグ2017 Summer」は6月4日(土)~7月8日(土)の毎週末にオンラインで試合が行なわれ、ゲーム専用配信サイト「Twitch」でライブ配信された。決勝戦は8月13日(日)、東京アニメ・声優専門学校(東京都江戸川区)で開催され、「東京ヴェルディ」が、サッカーゲームの「FIFA17」、対戦格闘ゲームの「BLAZEBLUE CENTRALFICTION」の2種目を制して優勝を果たした。

「新しいファンとのつながりをつくることができる」。東京ヴェルディ1969フットボールクラブ株式会社ファンデベロップメント部でeスポーツを担当する森太郎さんは、そう考えて日本eスポーツリーグでの活動に取り組んでいる。


東京ヴェルディ1969フットボールクラブ株式会社ファンデベロップメント部の森太郎さん

「スポーツ業界とゲーム業界の接点がeスポーツ。両方のファンやスポンサーはふだん重なりにくい。しかし、eスポーツという共通軸を持たせることで、今まで縁遠いところにいたお客さまに、東京ヴェルディというフットボールクラブを好きになっていただき、応援していただくきっかけになるかもしれません」

クラブのねらいどおり、応援団の裾野は広がった。PCメーカーのレノボジャパンや東京アニメ・声優専門学校など、これまでJ2リーグのチームとしてはあまり縁のなかった業種の企業が、「日本初のプロスポーツチームが運営するeスポーツチーム」という事実に魅かれ、チームスポンサーとして名乗りを上げている。

リアルなスポーツとの連携によるシナジー効果

東京ヴェルディeスポーツ所属のy0ichiro (皆川洋一郎)選手は、サッカーゲームのオフライン集会「FIFA会」で、eスポーツの日本人トッププレーヤー、マイキー選手と親交を深めたことがきっかけで、慶應義塾大学理工学部を今春卒業してすぐ、プロeスポーツプレーヤーの道を選んだ。

y0ichiroさんは、両親は我が子の進路選択に当初は戸惑ったと振り返るが、「調べて知っていくうちに将来性があるとわかり、今は応援してくれています」(y0ichiro選手)。そして、日本eスポーツリーグ2017 Summerの決勝で、“負けたら終わり”という緊迫の状況で見事に勝利を呼び込み、その後の逆転優勝に繋げる流れを作ったのはy0ichiro 選手にほかならない。

y0ichiro選手がプレーする、国際サッカー連盟公認のFIFAシリーズは、高度なビジュアルでリアルにプレーを再現するサッカーゲームで、世界中にプレーヤーがいる。毎年アップデートされた新作が発表され、現在はFIFA18。国際大会のFIFAインタラクティブワールドカップの優勝者には賞金20万ドルが授与される。リアルなスポーツに最も近いeスポーツのゲームタイトルだ。

スポーツ選手の日頃のトレーニングにあたるのが、eスポーツ選手では、ひたすらオンラインで多くの相手と対戦し、研鑽を重ねること。実際のスポーツと同様で「集中力は一瞬たりとも欠かせない」とy0ichiro選手は強調する。


東京ヴェルディと専属契約を結んでいるy0ichiro選手

「大会になるとトーナメントで1日8試合を連続で戦ったりします。日頃の練習試合でも、たとえば2-0で勝っていたとしても、勝敗はさておき、テクニック向上に努めるのを怠ることはできません。それにゲームは、アップデートされるたびにさまざまなところが変わるので、少しでも早く慣れるために多くの練習が必要です。特に週末は長時間にわたって集中しますから、頭がボーっとしてきたり、イスの座り過ぎでエコノミー症候群にならないよう、健康管理にも気をつかっています」(y0ichiro選手)

特に「FIFA」のようなゲームでは、リアルなサッカーの試合から学ぶことも多いから、Jリーグのフットボールクラブが運営する利点を活かせそうだ。森さんは「選手へのサポートを強化していくつもり」と意気込む。


eスポーツ選手に対するサポートを強化していきたいと語る森さん

「うちのコーチがたとえば、こういうフォーメーションはこんなしくみでこのように崩していくのがセオリー、といったサッカーの知識を提供して、リアルなスポーツとeスポーツの連携によるシナジー効果を生みだす環境を早くつくりたいですね」(森さん)

eスポーツならではの見せ方を提示して価値を上げたい

日本でeスポーツが盛り上がるのはこれから。森さんは「東京ヴェルディeスポーツとしての事業基盤を早々に整えたい」とした上で「どのゲームを強めれば海外との橋渡しになるか」を重視する。

「フットボールクラブとして引き続きFIFAには力を入れ、eスポーツだからこそできる見せ方をエンターテインメントとして提示したいですね。たとえば海外の有名フットボールクラブとeスポーツで対戦して東京ヴェルディが勝つ、といったおもしろさなども含めて。そうやって注目が集まればeスポーツ全体の価値も上がっていくでしょう」(森さん)

家庭用ゲーム機から子どもの遊びとして定着した日本では、親が「ゲームばかりしていないで勉強しなさい!」と叱る光景も見られ、ゲームに対する偏見が相変わらず根強い。しかし、ゲームで育った世代が親になるにつれ、そうした偏見も解消されていくにちがいない。y0ichiro選手のようなプロゲーマーの活躍がメディアに取り上げられることも普及の後押しになるだろう。

森さんも「他のスポーツ選手にも劣らない高いプロ意識で真剣にゲームに取り組んでいる彼のような選手が何人も出て、その活躍の様子が数多く見られるようになれば、おのずとeスポーツは盛り上がるはず」と期待をかける。

高いプロ意識を持って切磋琢磨するeスポーツ選手たち。東京ヴェルディeスポーツチームは誰よりも真剣にゲームで競っている。そんな彼らをスポンサードし、日本eスポーツリーグのオフライン決勝戦の会場にもなった東京・アニメ声優専門学校は、日本でいち早くeスポーツプレーヤーの育成に取り組んでいる。そこにはどのような狙いがあるのだろうか。後編で詳しく取り上げる。

eスポーツ人材を育成する東京アニメ・声優専門学校──eスポーツに芽吹く新たな「競技」の潮流(後編)へ続く


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