Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

eスポーツ人材を育成する東京アニメ・声優専門学校──eスポーツに芽吹く新たな「競技」の潮流(後編)

2017年12月15日



eスポーツ人材を育成する東京アニメ・声優専門学校──eスポーツに芽吹く新たな「競技」の潮流(後編) | あしたのコミュニティーラボ
主にPCを使いオンライン対戦型ゲームを競い合う「eスポーツ」。海外では高額賞金や選手の年収の高さに注目が集まるほか、オリンピックの競技種目としても検討されている。そうした世界の趨勢に一歩出遅れていた感のある日本でも、最近になって新たな動きが活発化しはじめた。日本ではじめてプロゲーマーを育成する専攻学科を創設した東京アニメ・声優専門学校の取り組みを通じて、eスポーツの未来を探ってみたい。

【特集】「競う」と「楽しむ」の境目から生まれる、スポーツの新たな可能性

オリンピックに向けて動き始めた日本のeスポーツ業界

専用機器で個人が楽しむコンシューマーゲームの普及が早かった日本は、インターネット経由で対戦するPCゲームから発展したeスポーツのグローバルな潮流とは別のところにいた。eスポーツはいま海外でどのように展開されているのだろうか。日本ではじめてeスポーツ専攻科を開設した東京アニメ・声優専門学校 e-sportsプロフェッショナルゲーマーワールド講師の鈴木悠太さんに、まずその概要を聞いてみた。


東京アニメ・声優専門学校 e-sportsプロフェッショナルゲーマーワールド講師の鈴木悠太さん

「eスポーツの大会は、ゲームの権利をもつメーカーが主催するケースや、サードパーティーが主催するケースがあり、大会の参加費やスポンサー企業を募って賞金にあてます。予選はオンラインで実施され、ゲーム配信サイトなどで観戦可能です。決勝戦大会は会場を借りてオフラインで運営されることも多く、無料もしくはチケットを販売し観客を入れてリアルのスポーツ試合のように盛り上がります」(鈴木さん)

2017年8月に米シアトルで開催された「DOTA2」(ドータ・ツー)というゲームの公式世界大会では賞金総額が2,000万ドル(約23億円)を突破して話題を集めた。

ちなみに日本では、主催者がゲームメーカーの場合、その商品を参加者が消費者として購入しプレーする、という構図になる。そのため、景品最高額を10万円と定めた景品表示法の適用を受け、高額賞金の大会を開催できない規制の壁がある。

鈴木さんによれば「世界にはゲーム各部門の選手を総合的に抱えた“マルチプロゲーミングチーム”と呼ばれる集団が多数あります」。マネタイズのしくみは、ゲーム配信の平均視聴者数やSNSのフォロワー数などを実績として、企業にスポンサードの営業をかけ、広報契約やゲームアイテム商品などのプロモーション契約を結ぶ。すでに日本にも約20~30のプロゲーミングチームがあるという。

「日本のeスポーツ業界はオリンピックに向けて動きはじめている」と鈴木さんは話す。

「アジアオリンピック評議会が2022年のアジア競技大会でeスポーツを正式種目とすることを決め、2024年のパリオリンピックでも前向きに種目化が検討されています。日本からも当然、選手を派遣したい。JOC(日本オリンピック委員会)への加盟条件として連盟や協会が統一されている必要があるので、eスポーツ業界5団体により2017年9月、統合に向けた取り組みが発表されました」

eスポーツ全般に通じる人材を育成する専門学校

日本はゲーム大国といわれているのにeスポーツの世界では出遅れている。優秀な人材を育成して巻き返したい。こうしたeスポーツ業界のニーズに応えて東京アニメ・声優専門学校は「e-sports プロフェッショナルゲーマーワールド」という専攻学科を2016年に開設した。


高性能なゲーミングPCとモニター、椅子が完備された練習室

総合プロゲーマー専攻では現状、競技人口が多く、プロ活動を行っている選手が多いタイトルを中心に取り組んでいる。プロゲーマーから技術や戦略や学ぶ実習はもちろん「情報収集・発信に必須の英会話や、セルフマネジメント、プレゼンテーション、キャリア設計といったスキルも身につけるカリキュラムになっています」(鈴木さん)。

スポーツの実況解説を想定して学ぶキャスター専攻、SNSやウェブを活用した広報活動、映像制作などに取り組む宣伝プロモーション専攻、他専攻と連携しながら企画から運営まで実習するイベントスタッフ専攻など、選手だけではなくeスポーツを裏で支える仕事の人材も育成。「この学校を卒業したメンバーでぜひ業界を引っ張ってほしい」(鈴木さん)との思いがこめられている。


日本eスポーツリーグ2017 Summer」のオフライン決勝戦の会場にもなった対戦スペース。実況解説や配信のための設備も充実している

入学にあたっては、「将来eスポーツ業界で本当に仕事をする気があるのか、その強い意思を重視する」(鈴木さん)という。単にゲームのスキル向上を目指す学校ではないのだ。プレーヤー層の特性やアイテムの売れ筋といったマーケティングも含め、eスポーツを核とするゲームビジネス全般に通じた人材育成を目指すため「ゲーム関連業界からの注目度は高い」(鈴木さん)。

誰でも知っているスター選手を輩出するために

eスポーツには、選手がチームで一つ屋根の下に住み、日々の練習に勤しむ「ゲーミングシェアハウス」というしくみがある。

たとえば「リーグ・オブ・レジェンド」のような5人対5人で戦うゲームだと、チーム同士は互いにボイスチャットで連携を取る。顔が見えない声だけでのスムーズな連携プレーは非常に難しい。そこで、オンライン上でのやりとりだけではなく、実際に顔を合わせてコミュニケーションを深めながらチームワークを醸成する必要があるのだ。海外では常識になっているこのしくみを日本でも踏襲しはじめている。

じつは、「AVA」(アライアンス・オブ・バリアント・アームズ)というゲームの選手でもある鈴木さん自身、とある企業が運営しているゲーミングシェアハウスの住人の1人。

鈴木さんが東京アニメ・声優専門学校でeスポーツのプロ育成の仕事に携わるようになったのも、高校2年生のときベルサール秋葉原でAVAの日本代表決定戦を観戦したのがきっかけという。

「それまで親に小言をいわれながらやっていたゲームが、こんなにみんなで盛り上がれるエンターテインメントになるんだと衝撃的に感動しました。舞台に上がっていた選手がとてもカッコよくて、こんなヒーローに僕もなりたいと思ったんですね」(鈴木さん)


鈴木さんは、はじめて観戦したeスポーツの試合に衝撃を受けてプロ選手を目指したという

それから本格的にチーム活動を開始し、「1日15時間くらい猛練習して」日本一になった。立教大学入学後は、いったんゲームから離れて、興味のあった法律を勉強したが、エンターテインメントとは対極にある法曹界にどうしても馴染めず、もともと熱中していたゲームに関わる職業を選んだ。

これからeスポーツを日本で盛り上げるための課題は何か。冒頭で触れた景品表示法などの法律の問題を含め、鈴木さんは「業界全体としてもっと大会やイベントを自由に開催できる環境を整える必要がある」と話す。ゲームメーカーをはじめ関係各所の許諾を得る手続きが煩雑で、たとえるなら草野球の大会を開催するのにさまざまな許可が必要、というような状況なのだという。

とはいえ、前編でも触れたように、ゲームに対する偏見を払拭し、eスポーツの認知度を高めるのに欠かせないのは、多くの人に親しまれ、愛されるスター選手を輩出することだろう。そんななかで、先陣を切った東京アニメ・声優専門学校のような育成機関の役割は大きい。どんなプロの世界も狭き門に変わりはないが、未来の1億円プレーヤーを「当校から輩出したい」と鈴木さんは力を込めた。

オリンピックでの種目化を目指し、新たな産業としてのポテンシャルを発揮できるのか。eスポーツの普及には日本のさまざまな可能性が詰まっている。

東京ヴェルディが広げるスポーツの可能性──eスポーツに芽吹く新たな「競技」の潮流(前編)


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • RSS

Copyright 2018 あしたのコミュニティーラボ