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あなたの暮らしがガラリと変わる!?
オープンデータの今──庄司昌彦インタビュー(上)

2013年04月17日



あなたの暮らしがガラリと変わる!?<br />オープンデータの今──庄司昌彦インタビュー(上) | あしたのコミュニティーラボ
政府や自治体などの公共機関が持つさまざまな情報を、より使いやすい形で公開し、利活用しようとする「オープンデータ」が注目を集めている。知らなかった情報が<見える化>されると、街とのつきあい方も変わるかもしれない。 国内外のオープンデータの動向に詳しい庄司昌彦さんに話を伺った。

行政の「空き地情報」から始まったハーブプロジェクト

――公共機関の開示データを活用して、自分たちの住む街をよくしようとする取り組みが日本でも始まっていると聞きます。たとえばどのように活用されているのでしょう。

庄司 ディズニーランドのある千葉県浦安市は、大半が埋め立て地の新しい街ですが、一方で漁師町だった旧市街は歴史が古く、高齢化が進んでいます。

たとえば、国立社会保障・人口問題研究所のデータを元に他の自治体と比較してみると、浦安市は2005~2035年の30年間で65歳以上の人口が3.34倍となることがわかりました。南関東で最も急激な高齢化が進む街、といっていいと思います。今、こうしたデータをふまえて、まちぐるみで介護予防し介護力を高めるにはどうしたらよいかを話し合う、市民による自発的なプロジェクトを始めています。

――具体的には。

庄司 旧市街の中心部には、空き地も目立っています。私の仲間で、地域で介護サービスを提供してきた小黒信也さんという方がいるのですが、彼はその空き地を使って何かできないかと考えた。介護にかかる費用を抑えるためには、高齢者がどんどん街に出て人と触れ合うことが大切であって、家に引きこもらないしくみや地域づくりが必要だと日ごろから感じていたそうです。

そこでまず、浦安市が管理する空き地の情報をもらい、フィールドワークをしました。そのときに見つけたふさわしい土地を実際に借りて、お年寄りも一緒に耕していけるようにとハーブ畑をつくったんです。最初は小黒さんたち有志が数人で耕していましたが、そのうちに近所の方が声をかけてきてくれてコミュニケーションが始まり、「浦安ハーブプロジェクト」として発展しました。今では小黒さんをはじめとしたプロジェクトの仲間も地元の方々との関係ができて、「祭りで神輿を担ぎなよ」といわれるほど親しくしています。
浦安ハーブプロジェクトの様子「浦安ハーブプロジェクト」の様子(提供:浦安ハーブプロジェクト)

――なるほど、行政が管理する空き地の情報提供を受け、それを利用することによって市民の活動や地域のつながりが生まれた、ということですね。他の街でもオープンデータ活用の事例はありますか。

庄司 先日、神奈川県横浜市では、オープンデータデイという公共データを活用するイベントがあり、その中でWikipediaのページをつくるワークショップが行われました。図書館には必ず郷土資料のコーナーがありますが、ふつう、あまり利用されていませんよね。このワークショップでは横浜市民がそうした文献を見て、実際にフィールドワークもして、みんなでわいわい喋り合いながら、横浜の名所や公園などのWikipediaの項目を充実させていったんです。

横浜市で行われたワークショップの様子(提供:Open Knowleldge Foundation Japan)

――自分の住んでいる街について図書館で調べ、Wikipediaに書くというのは、確かにモチベーションが上がりそうですね。

庄司 そうなんですよ。街を知れば、もしかすると浦安みたいに課題に気づくかもしれない。Wikipediaは出典を明記しなければいけませんが、公的な資料を元にしているので情報ソースとしては確実。これは、いい話だなと思いました。

さらにもう一つ、千葉県千葉市の事例があります。少子高齢化が進むなかで、千葉市は「こどもNo.1千葉」を掲げ、子育てをしやすい都市を目指しているんです。では、どれだけ子育てしやすい街なのか──それを調べるため、とビデオカメラを取り付けたベビーカー調査隊が出動しました。それだけだと怪しまれるので、クマのぬいぐるみを載せて(笑)。すると赤ちゃん目線で初めて気づくことがあります。
クマちゃんベビーカー
ビデオカメラを取り付けたベビーカー調査隊( 提供:畠中一幸さん)

石が敷き詰められた歩道だとガタガタ揺れてうるさかったり、クルマが車道に出るときに歩道を横切るような場所は、たとえ一旦停止をしていたとしてもかなり怖かったり……。

――その映像データはどんなふうに使われたんですか。

庄司 赤ちゃん目線のビデオをYouTubeにアップし、気づいたことをオンラインの地図にポイントすると、みんなでそれを見ながら考えることができます。これはゴミや落書き、バリアフリーなどの地域の問題を市民がウェブ上に投稿して共有する「Fix My Street」というサービスを利用していますが、ICTを活用して情報を共有することで、格段に議論しやすくなっている。データを活用することで、こういう動きがもっと広がっていくといいと思いますね。

スマートフォンが普及してアプリがつくりやすくなったことも、オープンデータ利用を後押しするはずです。欧米では、バスが今どこを走っているのか、運行状況がリアルタイムでわかったり、貸し自転車のステーションの位置や空き状況がわかるなど、公共機関が持っているデータを活用して街中での生活を便利にするアプリが、すでにたくさん出ています。

みんなに開かれているデータを活用すれば新ビジネスも

――なぜオープンデータが注目されるようになったのでしょう。

庄司 技術的にはデータの形式が整い、ビッグデータを処理できるようになったなどの背景がありますが、社会的・政策的には2000年代前半から欧米を中心に、公共性の高い組織が持っているデータを、より使いやすい形で公開していこうという取り組みが始まりました。特に2009年、アメリカのオバマ大統領が就任したときに「オープンガバメント」という概念を強く打ち出したことが大きかったです。〈透明性〉〈参加〉〈協働〉。新しい政府のキーワードはこの三つで、より開かれた、機能する政府をみんなの力でつくっていこう、と。同じころ、イギリスのキャメロン首相も、財政が逼迫し課題も複雑化していくなかで、政府はこれ以上大きくなれない、社会のほうを大きくしていくことが必要だと述べました。そのための手段の一つが公共データの活用です。

――公共機関のデータを活用する目的は何ですか。

庄司 およそ三つに整理されます。第一に、政治や行政の透明性を高めて民主主義の質を向上させること。第二に、民間の参入や官民の連携による行政サービス効率化や質の向上を図ること。第三に、新しいビジネスを生み出して経済を活性化すること。公共機関は多種多様な価値あるデータを持っているわけで、「それが新ビジネスの源泉になるのではないか」という第三の目的への期待は、日本でも非常に高いです。

――今までよくいわれていた情報開示は、政府の側が透明性を高めるまでの話でしたが、オープンデータはそこから先の参画・協働など、むしろ市民の側からアクションを起こそう、ということなんですね。

庄司 そうですね。日本政府もデータを開示するところまではかなり努力してきましたが、「もっと使いやすくするためにはどうしたらいいか」まではあまり考えていなかったので、そこを促そうということになります。まさに市民や企業がオープンになったデータをどう活用するか、というところがポイントです。

――海外における企業の活用事例にはどんなものがありますか。

庄司 アメリカでいうと、クライメートコーポレーションという企業が、気象と地質データを組み合わせて農家向けの新しい保険商品を生み出しています。250万カ所にもおよぶ地域の気象データと、過去の収穫量データ、そして全国各地の土壌に関する情報を組み合わせて、地域や作物ごとの収穫被害発生確率を独自に予測し、農家あるいは農場ごとに保険をカスタマイズするとともに、農場ごとの収穫量を動的に判断して年間を通じた収入補償を提供しています。
THE CLIMATE CORPORATIONのHP
またMRIS(メトロポリタン地域情報システム)は、地域の犯罪発生率や教育水準、所得水準、経済状況、環境などの非常にたくさんのデータを不動産情報とともに提供しています。こうしたデータをマーケティングに活用しているケースもありますね。
MRISのHP

――欧米では、公共情報を営利活用することへの抵抗はないのでしょうか。

庄司 端的にいえば、「税金でつくったデータは誰のものか」ということですね。批判が起こるときは、「みんなの税金で作成したデータを特定の企業がビジネスに使うのはけしからん」という話になったりするのですが、よく考えてみれば、みんなに開かれているデータなのだから別に問題はないんですよ。「文句言うんだったら、あなたも使えば?」ということです(笑)。それで誰かが儲けたとしても、社会に役だって税金が入るんだったらいいですよね。

――個人情報の観点からはいかがでしょうか。

庄司 もちろん、さまざまなデータを掛け合わせることで知られたくないことが知られるようになってしまう可能性はあります。どのデータがそうした問題を引き起こすのかはなかなかわからないので、市民と相談しながら活用法を検討したり、苦情を受けつける窓口を設けたりする必要はあると思います。ただ、各国各都市でいろんなオープンデータの利活用が進められていますが、これまで誰かのプライバシーが暴かれて大問題になったようなことはまだ聞いていません。

今、日本の行政のデータは、そもそも営利利用を禁じていたり、連絡をしてからでないと使えなかったり、利用に対して細かい条件が設けられている場合が多い。面倒を起こしたくないという行政側のマインドを変えていく必要があると思います。安全装置をつくったうえで行政は誠実に情報を公開し、使う側は自己責任で情報を扱う。そんな割り切りが日本でもできるようにならなければいけないと思っています。

後編に続く

庄司昌彦(しょうじ・まさひこ)

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主任研究員/講師
1976年東京都生まれ。中央大学大学院総合政策研究科修士課程修了。情報社会学、電子行政、地域情報化、ネットコミュニティー、社会イノベーションに関 する研究を進める一方、近年はオープンガバメント・オープンデータ関連で政府の委員等を務めている。Open Knowledge Foundation Japan代表、インターネットユーザー協会(MIAU)理事も兼務。


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