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“クリエイティブ×教育”が地域にもたらすポテンシャルとは ──横瀬クリエイティビティー・クラス

2017年12月27日



“クリエイティブ×教育”が地域にもたらすポテンシャルとは ──横瀬クリエイティビティー・クラス | あしたのコミュニティーラボ
埼玉県秩父市に隣接する横瀬町で2017年4月〜11月にかけ〈横瀬クリエイティビティー・クラス〉というプロジェクトが実施された。東京で活躍するクリエイターが、地元の中学生たちとのクリエイティブソンを起点に、アウトプット制作と並行してキャリア教育授業に臨んだこの取り組み。しかも、報酬なし、という草の根プロジェクトだ。彼らはどんな価値を見出して地域に集ったのか。そして、町の子どもたちは何を学び、地域にどんな新しい価値がもたらされたのだろうか。そこには、これからの地域づくりのヒントと、クリエイティブが持つ新たな可能性があった。(トップ画像 提供:横瀬クリエイティビティー・クラス

東京のクリエイターたちが、地元にやってきた

(東京・池袋から特急で74分、埼玉県秩父郡横瀬町。武甲山を望む人口8,500人弱の山あいのまちに、都内在住のクリエイターが手弁当で集結した。中学生を中心とした町民と、映像やウェブや音楽などのクリエイター11名がタッグを組み、まちに新たな価値を生み出す〈横瀬クリエイティビティー・クラス〉だ。

2017年4月、キックオフイベントとして「クリエイティブソン」を開催。その後、5〜9月にかけ、クリエイターが中学生に各々の分野に関する全10回の講義を実施しつつ、クリエイティブソンで生まれたアイデアのアウトプットを制作した。11月のグランドフィナーレでは、オール中学生のスタッフ、キャストによる、横瀬町を舞台とした4分間の映像作品を最終成果として発表した。


「横瀬クリエイティビティー・クラス」プロジェクト全体像(提供:横瀬クリエイティビティー・クラス)

このプロジェクトのきっかけをつくったのは、地元出身の橋本健太郎さん(SCHEMA)だ。友人の田村祥宏さん(EXIT FILM)、野間寛貴さん(Garden Eight)らが熊本の黒川温泉郷の住民とともに制作し、海外で高い評価を受けた映像作品「KUROKAWA WONDERLAND」を知り、「横瀬でも何かできないか」と考えていた橋本さん。2015年頃から新たな地元の猛者たち(*編集部注)とのつながりができていたこともあり、本人いわく「横瀬町の猛者と黒川を盛り上げてきた2人が出会ったら新しいことが生まれるんじゃないか、というちょっとした下心」を抱いて、田村さんと野間さんの2人を横瀬に招いたという。

*編集部注:“猛者”とは、横瀬町でエネルギッシュに活動する地元の人たちの総称。橋本さんによると、「横瀬クリエイティビティー・クラス」のプロジェクトを進めるにあたり、「猛者を集めよう」という話から定着したフレーズであり、「MOSAS(モサズ)」として活動もはじめているという

「横瀬の猛者に2人を引き合わせたら、瞬く間に仲良くなりました。その後、田村さんがもう一度、2016年夏に横瀬にキャンプをしに来たんです。そのとき、町役場で官民連携プラットフォーム“よこらぼ”を担う田端将伸さんが差し入れに来て下さり、たちまちクリエイターと意気投合。そこから一気に動きはじめたんです」(橋本さん)


〈横瀬クリエイティビティー・クラス〉を牽引したフィルムディレクターの田村祥宏さん(左)と、プロジェクトのきっかけをつくった地元出身の橋本健太郎さん(右)。ともに取り組みの中心的な役割を担ったクリエイターだ

田村さんがまず考えたのは、クリエイターと町民がコラボするアイデアソン「クリエイティブソン」の開催だった。

「黒川では、僕らが入る前に1年間かけて住民たちがセッションを重ねていました。だから、課題が浮き彫りになっていたし、コミュニティーもできあがっていた。それがまだない横瀬では、クリエイティブソンで課題を露出させるのが先ではないかと思ったんです」

これに対し、野間さんは「クリエイティブソン単体でプロジェクトが終わるのでは意味がない。中長期的な取り組みにするべき」と提案した。町役場の田端さんの熱意を思い浮かべ、「確かにそうだ」と田村さんもうなずいた。


Garden EightのCEOでディレクターの野間寛貴さん。「KUROKAWA WONDERLAND」でも田村さんとともにプロジェクトの中心的な役割を担った(関連記事はこちらから。提供:横瀬クリエイティビティー・クラス)

そこで生まれたのが、教育と結びつけるスキームだ。田村さんはオランダとデンマークの教育プログラムを視察したことがあり、かねがね関心を抱いていた。

「オランダでは、いろいろな職業の人たちが“教える側”として学校の授業を受け持っていて、社会全体での教育参加が図られています。一方、デンマークでは、発信ツールとしての映像制作を通じてアイデアの出し方や表現の方法などを学ぶ授業が必修になっています。今回のプロジェクトでは、クリエイターたちによるキャリア教育、映像を手段に使ったアウトプット制作と、両方で学んだことを取り入れることにしました」


EXIT FILMの田村祥宏さん

中学生を対象としたのは、「自分もはじめて将来を考えたのが中学生のときだったので、選択肢や道筋を提示して進路を考えるヒントにしてもらえたら」との田村さんの想いからだ。

一方、野間さんは「僕は15歳の頃に出会った、今の僕らと同年代のカッコいい大人たちから大きな影響を受けた」。そんな経験をもとに、「大人が中高生に対して振る舞いを見せ記憶に残すことで、彼らの将来的な価値観や姿勢、行動が変わるかもしれない実験」だと考え、このプロジェクトに参加することを決めたという。

「クリエイティブな発想の可能性を、地元で体感する」という経験


2017年4月に開催されたクリエイティブソンの様子。最初はぎこちない様子だった地元の人々とクリエイターの距離感は、2日間で急速に縮まっていった(提供:横瀬クリエイティビティー・クラス)

教育委員会と議会の承認を得て、実施が決定されたのが2017年1月。4月にはキックオフとなるクリエイティブソンが開催された。参加クリエイターの1人、鍛治屋敷圭昭さん(AID-DCC)が「ちょっと前に企画の種を話していたばかりなのに、すごいスピードで実現してしまい、非常にびっくりした」と言えば、「尋常じゃないスピード感が横瀬のいいところ」と、田村さんは笑う。

とはいえ、舞台となる横瀬中学校側では「最初は警戒感が強かった」と、橋本さんは振り返る。素性の知れないクリエイターとかいう人たちが、何のために、何をはじめるのか──。「怪しさ満点だったでしょうね。無理もないです。何回、説明しに行ったことか……」と田村さんは振り返る。

中学生20人近くの希望者が参加したクリエイティブソンのテーマは、「高校を卒業して横瀬を出て行っても、また戻ってきたくなる魅力」をつくること。

横瀬の“猛者”と呼ばれる有志の町民たちが、まずクリエイターに地域の魅力と課題を話し、クリエイターはフィールドワークに出かけてヒントをつかんだ。そのうえで、クリエイター、町民、中学生の混成6チームに分かれ、解決すべき課題を発表した。翌日、課題解決の手段を通じて、また戻ってきたくなる魅力をどうつくるか、ブレストしてアイデアを練り上げ、最終発表のプレゼンへ。

最終的に生まれたのは、次のようなアイデアだった(一部抜粋)。

・ インパクトの強い名産品がほしいので、石灰岩を破砕して採掘する武甲山のセメント産業にちなんだ、「ダイナマイトごはん」を創作
・ まちの思い出づくりに、下校ルートに紐づいた映像が生成されるツール「横瀬帰り道ドラマジェネレーター」を開発
・ まちを出た人たちのつながりをつくるため、世代を超えた横瀬町独自のSNSを創設
・ 仕事の選択肢にクリエイティブな多様性を増やそうと、音楽、アート、工芸のフェスを開催

ふだん地元について考えたこともない中学生たちは、これまた今まで出会ったことのないタイプの大人であるクリエイターを前にして、「はじめは戸惑いまくり、ほとんどしゃべってくれなかった」(田村さん)という。だが、その場でプログラムを組んだり、イラストを描いたり、音楽を作曲したり、映像を撮ったり──。どんどんアイデアを形にしていくクリエイターたちのカッコよさに、だんだん感化されていった。

また、町の人たちの意識も大きく変えることになった。町長の期待は大きく高まり、それまで警戒心がのぞいていた横瀬中学校の校長も「めちゃめちゃ感動されて、マインドが変わって(笑)。以降の講義編にも毎回参加して、最大の協力者になっていただけました」(田村さん)。その後の継続的なプロジェクトを考えると、クリエイティブソンは成功を収めたと言えるだろう。


2日間のクリエイティブソンを介して、打ち解けあっていくクリエイターと地元の人たち(提供:横瀬クリエイティビティー・クラス)

「クリエイティブソンの目的はアウトプット自体ではなく、本気になれば横瀬にいながら、いろんな発想でアイデアを生み出せる、という可能性をクリエイターの力を借りて中学生に感じてもらうことでした」と田村さんは話す。

そのことがどれほど次代を担う若者を力づけるのか──。町の人たちも痛感したことだろう。

目的は、どの業界へ行っても必要なスキルを高めること


野間寛貴さん(Garden Eight CEO)のプロデューサー論の講義に、真剣に耳を傾ける横瀬中学校の子どもたち(提供:横瀬クリエイティビティー・クラス)

講義編では、プロデューサー、プログラマー、音楽家、アートディレクター、ライター・編集者らがクリエイティブ職の仕事内容をわかりやすく解きほぐし、どんな道筋をたどってその職業に就いたのかを話したうえで、基礎から実践への、ごく初歩的な入口を中学生に体験してもらった。


映像作品の楽曲を制作した、音楽家の[.que]さん(右端)の講座の様子。中学生との授業を通じて「一緒にレコーディングをしたときの楽しそうな笑顔は美しかった」と振り返ってくれた(提供:横瀬クリエイティビティー・クラス)

田村さんが担当した脚本術の講義の場合、アウトプット制作の基礎となるので実践に重きを置き、ワークショップ形式でプロットとシーンのアイデアを中学生に出してもらった。最終的な成果物としての映像作品のシナリオづくりから撮影まで、中学生のスタッフとキャストは、田村さんらクリエイターの指導のもと数十時間の濃密な時を過ごした。ムービーカメラの操作方法など、テクニカルな面についても細かく中学生に伝えた。

「アイデアを実行に移すとき、どういう努力や技術が必要なのか知ってほしいと思って。たとえば露出とか被写界深度とか、なんにつけても数字の話になって、映像ディレクターになりたいから数学なんかどうでもいいとか、プログラマーになりたいから英語なんか要らない、ということではない、という事実をわかってほしかった」(田村さん)


映像作品における脚本術を解説する田村さん。講座を踏まえてすぐさまワークに入るなど、体験を取り入れた熱のこもった授業を展開した(提供:横瀬クリエイティビティー・クラス)

とはいえ、〈横瀬クリエイティビティー・クラス〉の真の目的は、決して将来のクリエイターを育てることではない。田村さんいわく「クリエイターの講義やアウトプット制作を通じて、ディスカッションやチームビルディング、プレゼンテーションなど、どの業界に行っても必要なスキルを高める」ことだ。

一見カッコいい職業への憧れを助長するだけの取り組みでないことは強調しておきたい。プログラマー/クリエイティブ・ディレクターとして参加した鍛治屋敷圭昭さんは、「回を重ねるごとに子どもたちの顔つきがみるみる変わっていったのは、予想以上の出来事。ちゃんと自分の力に気づいて成長していく過程を間近に見ることができ、少しでも関われたのは価値ある経験でした」と話す。


プログラマーの仕事を中学生に伝える鍛治屋敷圭昭さん(AID-DCC)。「スキルもバックグラウンドもバラバラな大人たちが、全力で協力し合って何かを成し遂げるということも貴重な経験でした」とも語ってくれた(提供:横瀬クリエイティビティー・クラス)

こうした講座の末に、中学生が自ら脚本を書き、キャストから撮影、演出、音楽制作に至るすべてを、クリエイターと協働で、映像作品が制作された。完成作を目にした中学生の多くは、涙を抑えることができなかったという。動画は近日公開予定だ(こちらのページでもご覧いただく予定です)。

「横瀬のためじゃなく、自分のために来てくれ」

ところで、いったいなぜクリエイターたちは、多忙な本業の合間を縫ってまで、報酬のないこのプロジェクトに馳せ参じたのだろうか。橋本さんは次のように語る。


橋本健太郎さん(SCHEMA)

「やはり、田村さんの人に火をつける熱量がとんでもなく高いことですね。“KUROKAWA WONDERLAND”の実績もあって、田村さんがそんなに言うなら行ってみよう、というクリエイターは多いんです」

これを裏づけるように、音楽家の[.que]さんは「田村さんから、横瀬にクリエイターを集めておもしろいことをやるからぜひ、と言われて。きっとまた大きなことをやるんだろうなと思い2つ返事でOKしました」と話している。


映像作品の楽曲を制作した音楽家の[.que]さんは、田村さん・野間さんとともにKUROKAWA WONDERLANDにも参加していた(提供:横瀬クリエイティビティー・クラス)

当の田村さんに聞くと、「みんな個別に、自分の理由を見つけて来てほしい、とは言いました。横瀬のためじゃなくて自分のために来てくれないと本気にならないし、自分ゴトにしないと後悔すると思ったからです」という答えが返ってきた。

「あと、横瀬へ来て試してほしかったのは、実際のユーザーや課題当事者と直につながって、課題に立ち向かうということ。ふだんクライアントの企業や代理店と仕事をすることが多いクリエイターにとって、これは確実に新しいクリエイティブのつくり方です。日本ではまだ少ないこうした試みを実証してみたいというのは、1つの大きなモチベーションでした」(田村さん)

橋本さんによると、田村さんの想いには、参加したクリエイターたちもそれぞれ感じるところがあったのではないか、という。

「クリエイティブソンが終わり、クリエイター自らが横瀬での体験や感動について、ブログやSNSで発信しはじめたんです。その瞬間、やっと僕も成功を感じることができたし、みんなにとってプロジェクトが“自分ゴト”に変わっっていったように思います」

クリエイティブ×教育をベースに新しい地方創生を


中学生によるメイキングシーンのひとコマ。クリエイターのサポートもあり、町の人たちが見つめるなか映像制作は進められていった(提供:横瀬クリエイティビティー・クラス)

〈横瀬クリエイティビティー・クラス〉は、望ましい波及効果を生んでいる。クリエイターとともに汗を流した役場の田端さんを、「カッコいい大人」として憧れの目で見る中学生が増えたのだ。

「プロジェクトに関わった地元の人を、クリエイターと横並びに見てもらえる状況がつくり出せているので、これを拡げていけば、電気屋さんでも八百屋さんでも、地元で働く人たちが中心になってプロジェクトを継続できそう。すでに今後の動きについては、地元から手が挙がっています」と橋本さん。まさに田村さんの言う“オランダ型”の社会全体による教育参画が、横瀬ではじまろうとしているのだ。

クリエイターにとっては、これからの新しい潮流となるであろう「当事者と共に取り組む課題解決」の経験を積む絶好の機会。地域にとっては、クリエイターとの共創を起爆剤に子どもたちのクリエイティブな成長を促し、自分の頭で考え行動して、未来を切り拓く人材を育てる絶好の機会。

野間さんは、「“クリエイティブ×教育”をベースに地方創生を考えているところはあまり見かけないので、良い先行事例になるのでは」と指摘する。そのとおり、熱量の高い「横瀬クリエイティビティー・クラス」のようなプロジェクトは、他地域にも飛び火する可能性が充分にあるだろう。


(提供:横瀬クリエイティビティー・クラス)

※「横瀬クリエイティビティー・クラス」提供画像の撮影者は、以下のとおりです(敬称略)……Kenichi Aikawa、なかむらしんたろう(SCHEMA)、林沛哲(SCHEMA)、寺井彩(EXIT FILM)


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