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遊び心ある「障害攻略」で新たなビジネスを生み出す?──中能登町「障害攻略課」プロジェクト(前編)

2018年02月02日



遊び心ある「障害攻略」で新たなビジネスを生み出す?──中能登町「障害攻略課」プロジェクト(前編) | あしたのコミュニティーラボ
石川県鹿島郡中能登町で2017年4月から「障害攻略課」というプロジェクトがはじまっている。たんに公共空間の物理的なバリアフリーだけを目指す福祉施策ではない。障害者や高齢者の多種多様なニーズを起点に、それが満たせない要因となる「まち」「もの」「こと」「ひと」の障害をゲーム感覚で攻略し、結果的に「心のバリアフリー」を目指そうというものだ。同プロジェクトのプロデューサーを務めるのは、あしたラボのイベントにも登壇いただいた澤田智洋さん。プロジェクト発足の経緯とねらいを聞いた。(TOP画像提供:障害攻略課)

「心のバリアフリー」で地域の産業を盛り返す──中能登町「障害攻略課」プロジェクト(後編)

きっかけは、義足のヴィーナスたちのファッションショー

義足を付けた女性たちが色とりどりの鮮やかな着物をまとい、笑顔で晴れがましくステージを闊歩する。義足のヴィーナスたちと、織物のつくり手たちがコラボした「切断ヴィーナスショー with FIBERS CREATORS」が2015年8月、繊維産業で知られる石川県中能登町の町祭「織姫夏ものがたり」で開催された。翌2016年の夏祭でも、義足のヴィーナスによるファッションショーは披露され、陸上のリオパラリンピック日本代表の大西瞳選手もモデルとして登場した。


2016年の「切断ヴィーナスショー with FIBERS CREATORS」当日の様子

地域の伝統技能のテキスタイルデザインによる美しい衣装をひるがえし、義足を見せびらかすかのように、生き生きとショーを楽しむ女性たち。そんな堂々たる姿を目の当たりにし、障害者を見る観衆の目が「かわいそう」から「カッコいい」に変わる。満場の拍手喝采が、明らかに観客の意識の変化を表していた。

そもそも義足女性たちによるファッションショーを立ち上げたのは、パラリンピックを撮影する写真家で2014年に義足女性の写真集『切断ヴィーナス』(白順社)を刊行した越智貴雄さんと、広告代理店のコピーライター/プロデューサーでありつつ一般社団法人世界ゆるスポーツ協会代表理事を務める澤田智洋さん。「ゆるスポーツ」とは、年齢性別や運動神経の良し悪しを問わず誰でも“ゆる〜く”楽しめる新しいスポーツを開発・普及させる取り組みだ。

2015年2月に横浜ではじめて開催された「切断ヴィーナスショー」を知った中能登町からのオファーによって、第2弾として開催される運びとなったのが「切断ヴィーナスショー with FIBERS CREATORS」にほかならない。その後も義足のヴィーナスのファッションショーは各地で開催され、話題を呼んでいる。

澤田さんは中能登町からの「依頼の仕方が新しいというか、僕らのねらいと合致していたので、2つ返事で引き受けました」と振り返る。

澤田智洋さん
一般社団法人世界ゆるスポーツ協会代表理事の澤田智洋さん

「いわゆる福祉関係者だけが集まるイベントはお断りしていたんです。ふつうに義足ってファッションアイテムとしてカッコいいし、本人も自分の人生の一部だから隠す必要はなく、むしろ見せたいと思っている方もいる。中能登町からのオファーは“技術者の高齢化と海外生産へのシフトで衰退している繊維産業を盛り返したい、そのために義足女性たちの力を貸してほしい”と。これは視点が新しいな、と思いました」

4つの軸で社会障害の攻略に挑む「障害攻略課」

盛況だった2回の「切断ヴィーナスショー」をきっかけに、町の人たちの障害者に対する意識が少しずつ変わりはじめ、車椅子の人に自然に声をかける人が増えた。「点で終わらせず、線につなげ面へと広げたい。そのためのプラットフォームをつくりませんか」。澤田さんは中能登町に提案した。

こうして2017年4月に中能登町で誕生したプロジェクトが「障害攻略課」だ。

ネーミングに込めた思いを澤田さんはこう語る。「日本語のほうが納得できるし、合意形成が取りやすく加速度も上がるはず。物理的な段差や無意識の差別など、社会にあるさまざまな障害を、ゲームを攻略するように楽しく攻略しようというのが目標です。マイナスをゼロに戻すのではなく、マイナスをプラスに変える付加価値が大切、そのためにはワクワクするようなポップさや遊び心が必要。それが伝わるネーミングと、古き良きRPGのドット書体風ロゴにしました」

「障害攻略課」のロゴ
「障害攻略課」のロゴ

コアメンバーは澤田さんと越智さんのほか、NPO法人石川バリアフリーツアーセンター理事長の坂井さゆりさん、プロジェクトの所管として中能登町企画課の高名雅弘さんと駒井秀士さん、2010年バンクーバーパラリンピック銀メダリストの上原大祐さん、筋ジストロフィーの娘さんをもち“こころのバリアフリークリエイター”として講演・執筆活動をする加藤さくらさんといった面々。地元の方や中高生にも「攻略士」「障害攻略サポーター」として関わってもらう。

澤田さんによれば、障害攻略課の活動は「まちの障害攻略」「ものの障害攻略」「ことの障害攻略」「ひとの障害攻略」の4軸で展開される。障害者や高齢者でも気軽に行ける場所、使いやすいツール、楽しく参加できるイベントや体験。これらを増やすことによって健常者も障害者も混じり合い、結果としてそこに関与するあらゆる人々の“心のバリアフリー”を実現しようというものだ。

きわめてユニークな取り組みの一例に「バリアフリー滝行」(TOP画像参照)がある。「滝に打たれてみたい」という車椅子使用者の要望を実現するため、中能登町の名勝「不動滝」の身障者用駐車場を整備し、滝壺までの凹凸道を舗装した。それだけに留まらず、これも車椅子使用者の声をもとに、下半身は濡れない撥水性の滝行用白装束を、まちの繊維技術を活かして開発している。

不動滝 身障者用駐車場
不動滝から徒歩3分ほどの場所に整備された身障者用駐車場

車椅子使用者が危険を伴わず、しかも全身がずぶ濡れにならないで手軽な滝行が体験できるとなれば、一般の観光客のなかにも滝に打たれてみたい人が増え、まちの新たな観光資源になるかもしれない。まさに「遊び心でマイナスをプラスに変える付加価値」だろう。

不動滝
駐車場からは段差のない道(右手前)をとおって滝にたどり着くことができる

中能登のテキスタイルを障害者が身にまとうファッションショーは引き続き開催され、地産の繊維を使った「ゆるスポーツ」も障害攻略課プロジェクトを加速させる柱と位置づけている。端切れを集めてつくったアフロヘアーのウィッグをかぶり、頭頂部の凹みにボールを入れ合って競う「アフレルアフロ」が第1弾として生まれた。中能登町ではワークショップを通じて新スポーツを開発中だ。

障害者や高齢者は社会の最先端にいる「課題発見者」

障害攻略課プロジェクトが重視するのは当事者のニーズを深掘りして起点にすること。前述の「バリアフリー滝行」がその好例だ。車椅子の人が、実は「滝に打たれたい」と思っているなんて、当人から打ち明けられなければ絶対にわからない。「障害者や高齢者のニーズを深掘りして開発すれば、それが結果的に多くの人にとっても有益なものになる、というインクルーシブデザインの考え方ですね。僕らが実現しようとしているのは、いわゆるこれまでの“福祉”ではありません。障害をもつ人を起点に、社会の障害を攻略することで新たなマーケットを顕在化し、ビジネスとして成立させる。それが結果的に福祉となり持続するのです」と澤田さん。

澤田智洋さん
「障害攻略を起点に、新たなビジネスを成立させる」ことを目指している、と語る澤田さん

片腕を失った兵士がタバコに火を付ける道具としてのライター。全身麻痺の人が飲み物を吸う道具としてのストロー。筋力の弱い人がサッと羽織れて暖をとれる衣服としてのカーディガン。これらはすべて、もともと障害をもつ人のニーズを起点に開発され、結果的にそれが汎用商品として使われるようになったインクルーシブデザインの典型的な成功事例といえる。障害攻略課が目指すのは「もの」づくりに限らない。「まち」「こと」「ひと」づくりも同じ方向性で考えられている。

「障害者や高齢者は課題ファウンダー(発見者)」と澤田さんは明言する。「健常者にはもちえない最先端の課題を抱えている人たちなんです。ということは、僕らの暮らしがもっと良くなるヒントをもっている人たちで、めちゃめちゃ価値が高い。“かわいそうな人”じゃなくて、そういう人とつながり、まずは友達になってみればいい。いちばんやりたいのは、障害攻略課に関与した人たち同士が友達になること。地方創生は関係創生だと考えています。僕は“何かをしてあげる”という上から目線の表現が嫌いで、“友達のために何かをするのが楽しそうだからやってみよう”みたいなノリがいちばん社会を変える力をもつと思う。そういう空気づくりを障害攻略課のなかでも進めています。」

超高齢化社会を迎えた日本で、バリアフリー環境を潜在的に必要とする人たちは約4000万人にのぼるといわれている。総人口の3割を占めるということは、もはやマイノリティーではない。この人たち1人ひとりの多種多様なニーズを掘り起こすことによってマーケットを開拓し、新たな価値を生み出す。企業にとってもイノベーションの種を育てることに等しい。澤田さんが「中能登で障害攻略の先行事例を生みながら2018年からは全国に広げていきたい」というように、障害攻略課のような取り組みはいたるところで求められている。

澤田智洋さん

後編では、中能登町の障害攻略課コアメンバーに話を聞き、このプロジェクト発足の背景や“心のバリアフリー”先進地域へ向けての想いなどを探る。

「心のバリアフリー」で地域の産業を盛り返す──中能登町「障害攻略課」プロジェクト(後編)


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