Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

「心のバリアフリー」で地域の産業を盛り返す──中能登町「障害攻略課」プロジェクト(後編)

2018年02月02日



「心のバリアフリー」で地域の産業を盛り返す──中能登町「障害攻略課」プロジェクト(後編) | あしたのコミュニティーラボ
石川県鹿島郡中能登町で2017年4月から「障害攻略課」というプロジェクトがはじまっている。障害者や高齢者の多種多様なニーズを起点に、それが満たせない要因となる「まち」「もの」「こと」「ひと」の障害をゲーム感覚で攻略し、結果的に「心のバリアフリー」を目指そうというものだ。その起点となったのは、「バリアフリーで地域の産業を盛り上げたい」という想いだったという。障害攻略課のコアメンバーである坂井さゆりさん、中能登町役場の高名雅弘さん、駒井秀士さんの3名からプロジェクトの発足の経緯とその背景にある想いを聞いた。(TOP画像:撮影/越智貴雄)

遊び心ある「障害攻略」で新たなビジネスを生み出す?──中能登町「障害攻略課」プロジェクト(前編)

義足女性は地元の繊維産業盛り返しの切り札

中能登町は2000年前の崇神天皇の時代から伝承があるほど機織りのまちとして歴史が古い。1970年ごろの最盛期には機場(はたば)が1,000軒近くあり、まちを歩けば、そこかしこの小屋からガッタン、ゴットンと機織り機の音が聞こえてきたという。繊維産業の海外生産シフトや技術者の高齢化などの要因により今や織物工場は100軒を切るまでになったが、先端技術を導入しさまざまな工夫を凝らした付加価値の高い生地を生産してブランド力向上を図っている。


中能登町では伝統的なシルクスクリーンの技法と先端技術を組み合わせた繊維産業が盛んだという

中能登町ではもともと繊維のまちをアピールする一環として、地元の子どもたちによるファッションショーや、全国の服飾学校からデザインを公募するファッションコンテストなどを実施していたが、その活動はいつしか途切れていた。

そんななか、中能登町役場企画課長・高名雅弘さんは「ファッションショーを復活させて中能登ブランドの発信を続けたい」という強い想いをもっていた。

高名雅弘さん
中能登町役場企画課長・高名雅弘さん

その想いに共鳴したのが、塗装・織物プリントの本業のかたわら、NPO法人石川バリアフリーツアーセンター理事長を務める坂井さゆりさん。坂井さんは、障害者や高齢者が必要とする旅情報を提供する仕事のためにリサーチするなかで、知人の写真家・越智貴雄さんの写真集が元になった義足の女性たちによるファッションショー「切断ヴィーナスショー」のことを知り、横浜で観覧した。

「本当にすごいなと思って。普通のファッションショーもいいけれど、中能登町の繊維クリエーターが生んだテキスタイルを義足の女性たちがまとうファッションショーはどうでしょう?」と坂井さんは、高名さんに提案した。

坂井さゆりさん
NPO法人石川バリアフリーツアーセンター理事長の坂井さゆりさん

地産の織物と義足の女性という意表をつく取り合わせに、当初は無意識の“心のバリア”がはたらいたのか、地元の人々からは戸惑いの反応もあったという。しかし、高名さんらの熱意を買った町長はゴーサインを出した。「繊維産業を盛り返すために義足の女性たちの力を貸してほしい」という中能登町からの斬新なオファーに「切断ヴィーナスショー」プロデューサーの澤田智洋さんが心を動かされたのは前編で触れたとおりだ。

2015年、2016年と2年続けて義足のヴィーナスのファッションショーが開催されると「これまでの常識を覆す画期的な取り組みに、町民の関心も高まりました」と中能登町役場の駒井秀士さんは話す。

駒井秀士さん
中能登町町役場の駒井秀士さん

「“今年の障害者ファッションショーはどんなことするんけ?”と、もう定番のお楽しみのようになって、障害者を見る目が“かわいそう”の同情から“すごい”の敬意に変わっていったのです」。前編で述べたように、そうした気運の高まりから生まれたのが障害攻略課にほかならない。まさに起爆剤は「切断ヴィーナスショー」だった。

「ゆるスポーツ」「バリアフリー観光」は何をもたらすか?

障害攻略課の取り組みの1つに、年齢性別、運動神経の良し悪し、障害の有無を問わず誰でも“ゆる〜く”楽しめる「ゆるスポーツ」がある。2017年のハロウィーンイベントでは、商工会青年部が繊維の端切れを使った獅子舞の玉入れ競技「せんいスポーツ」を考案し、親子が一緒に楽しんだ。中能登の繊維を活用した「ゆるスポーツ」が地元のアイデアによって生まれはじめている。


中能登町で生まれたゆるスポーツ「せんいスポーツ」。ハロウィンにちなんでキャンディーで玉入れを行う競技となっている

駒井さんは「勝手に考えているだけですけど、運動会に取り入れたらもっと広がるかな、と。お爺ちゃんお婆ちゃんとお孫さんが同じフィールドで一緒に楽しめますから」と話す。坂井さんも「核家族化で失われた3世代の絆を取り戻し、障害者も高齢者も健常者も混じり合って楽しむ経験で、子どもたちの世の中を見る目、気持ちが変わるのでは」と「ゆるスポーツ」に期待をかける。

駒井さんと坂井さん
ゆるスポーツに対する期待を語る、駒井さんと坂井さん

前編で紹介した“車椅子使用者でも手軽にできる滝行”など、バリアフリー観光にも障害攻略課では力を入れているが、これには、孫が祖母の車椅子を押して旅するような「3世代で来てほしい観光地」(高名さん)を目指す意図もある。障害者や高齢者が安心して楽しめるバリアフリー観光は、家族やヘルパーが随行するため多人数になる。単身での観光に比べると、地元にもたらす経済効果も大きく、持続可能な好循環を生む可能性が高い。

バリアフリー観光について、坂井さんが印象的なエピソードを紹介してくれた。「視覚障害の方は雨の兼六園が最高、というんです。どうしてかというと、玉砂利に当たる雨音、池の水面に降る雨音、大きな葉を打つ雨音、小さな葉に落ちる雨音、すべての音色が違い、それぞれに楽しめて景色の広がりがわかるんですって」。目の見える人が思いもよらない“雨音の違いを楽しむ”という発想が、もしや新しいエンタテインメントを生むヒントになるかもしれない。

障害と混じり合い、社会の経験値を高めることから攻略がはじまる

「心のバリアフリーはその気になれば誰にでもできます」と坂井さんは強調する。

「バスの運転手さんがポロっと言うんです。“いつも元気に声をかけてくれるお年寄りが病院帰りに沈んだ顔をしてバスに乗ってきた。きっと良くない結果が出たんだろうけれど、どう声をかけていいかわからない”って。別に何も特別なことを言う必要ないんじゃない?“ばあちゃん、そこ空いとるから座れや”って声をかけるだけで、きっと気持ちが伝わるはず。————そう言ったら、運転手さんは“ああ、そんなんでいいんか”と肩の荷がおりたようでした。先に溶け出すのは心(ソフト)のバリア。設備(ハード)のバリアフリーは後からついてきます」

坂井さん
「ハードのバリアフリーは個人には難しくとも、ソフトのバリアフリーは誰にでもできる」と語る坂井さん

「障害者や高齢者が社会と切り離されたままでは、いつまで経っても社会の側の経験値が高まりません。混じり合うことで経験値が高まり、社会の障害が攻略されます。ハードとちがって心のバリアフリーにはお金がかかりません。日本全国どこでも同じ。まずは経験してみることだと思います」と高名さんも話す。

高名さん
高名さんは「まずは高齢者や障害者と混じり合い、社会の側で経験値を高めることが大事」と語る

「切断ヴィーナスショー」のモデルの女性がファッションショー終了後、「義足に触ってみる?」と中能登の小さな子どもに問いかけた。その子が義足に手を触れた途端、おずおず遠巻きに様子を伺っていた中高生たちが賑やかに集まりだした。坂井さんは「一瞬で空気が変わったと感じた」という。子どもたちが心のバリアフリーのフロントランナーになった。

「障害者のファッションショー」「バリアフリー滝行」「ゆるスポーツ」。これらはすべて、健常者と障害者や高齢者が楽しく混じり合うことで心の障壁が取り払われる巧みなしかけがなされている。たとえば、公共施設の段差解消に多額の予算を費やすことはできなかったとしても、車椅子使用者に声をかけ手助けする人が増えれば、物理的な障害は心のバリアフリーで乗り超えられるだろう。中能登町の障害攻略課はそのことに気づかせてくれる。

左から高名さん、坂井さん、駒井さん

遊び心ある「障害攻略」で新たなビジネスを生み出す?──中能登町「障害攻略課」プロジェクト(前編)


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • USTREAM
  • RSS

Copyright 2018 あしたのコミュニティーラボ