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“超人化”と “スポーツ化”の技術が⼈間の身体を拡張する──超人スポーツ学術研究会

2018年03月16日



“超人化”と “スポーツ化”の技術が⼈間の身体を拡張する──超人スポーツ学術研究会 | あしたのコミュニティーラボ
超人スポーツは、テクノロジーで身体を拡張し「人機一体」の新しいスポーツを開発しようという新しい試みだ。あしたのコミュニティーラボではこれまで、超人スポーツ協会代表の中村伊知哉さん、同協会理事・事務局長の南澤孝太さんにご登場いただいた。このたび編集部が訪れたのは「第3回超人スポーツ学術研究会」。研究者がスポーツクリエイションへ関わることの意義とは? 「超人スポーツ」のなかでアカデミズムが果たす役割とは? 「学術研究会は"新しいもの"を生み出し、評価する場」だと話す、研究会実行委員長(超人スポーツ協会理事/広島大学大学院工学研究科准教授)の栗田雄一さんにお話を伺った。

“スポーツ化”が楽しさを生み出す

2017年12月8日、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)において「第3回超人スポーツ学術研究会」が開催された。

そもそも「超人スポーツ」とは、以前お伝えした超人スポーツ協会代表の中村伊知哉さんのインタビューにあるとおり「何かしらテクノロジーを用いる」「性別・年齢・体格などを問わず誰でも参加できる」「身体性を伴う」という要件のもと、新たなスポーツを創造する取り組みだ。

また、超人スポーツ協会理事・事務局長の南澤孝太さんは、2017年9月にあしたラボが開催したイベントで、超人スポーツ開発の目的のもと多様なコミュニティーが形成され、これまでハッカソンをきっかけとして数多くのスポーツが生まれていることを“Touch & Try”とともに紹介してくれた。

さて、この超人スポーツにおいて特徴的なのは、新たなスポーツをつくりだす“多様なコミュニティー”のなかに研究者らアカデミー(大学・研究所)に属する人々が多数参加し、学術研究会が運営されている点だ。この学術研究会は2015年11月に第1回目が開催されたのを皮切りに、今回で第3回目の開催となる。

第2回、第3回の研究会で実行委員長を務めているのは、超人スポーツ協会理事である広島大学大学院工学研究科准教授の栗田雄一さんだ。

新たなスポーツの創造を行う超人スポーツ協会において、スポーツをつくりだすハッカソンとは別に、専門家が集まる学術研究会を運営しているのはなぜなのか。

「超人スポーツがただ楽しいだけで終わり、なんてことにならないために、われわれアカデミーの人間は学術的な基準で超人スポーツを“評価”します。専門家の目線で“研究内容がどう新しいのか”を見極めたり、安全・倫理の面に配慮したりもしています。超人スポーツはまだまだこれからの分野。大きな事故が生じれば、全体を潰してしまいかねません。研究によって超人スポーツを加速させながらも道を外れないようにどこかでブレーキをかける──そんなイメージでこの学会活動に取り組んでいます」


超人スポーツ協会理事・広島大学大学院工学研究科准教授の栗田雄一准教授。超人スポーツ学術研究会は「研究者同士のオープンクエスチョン(5W1H)により、解決すべき点を洗い出す場」だと表現する

栗田さんの専門は「人の運動と感覚機能の理解、ならびに人間拡張、ヒューマンインタフェース、運動アシストデザインの研究」。栗田さんは、超人スポーツには「“超人化”と“スポーツ化”の2つの要素がある」としたうえで、「ロボット系の研究者としてフィジカルな “超人化”に挑んでみたかった」と、超人スポーツへの参画経緯を語る。

その一方で「“スポーツ化”の可能性を追求していきたい」とも話し、こう続ける。

「超人スポーツに携わる他の多くの研究者と同様、僕も体育は大嫌いだった(笑)。特に体育の授業での長距離走が大嫌いでした。授業での評価軸はタイムや距離で、“がんばり度”ではないので、元の体力がない人はがんばっても評価されないからつらかったんですよね。でも今は早起きしてジョギングしたりもします。自分のできる能力の範囲で体を動かすのは楽しいということに気づきました。スポーツの本質は、体を動かすことを楽しむことにあるんじゃないかと思っています」

プレイヤー同士の走力差を軽減する「デジタル鬼ごっこ」

ここで「第3回超人スポーツ学術研究会」のプログラムを振り返ってみよう。この日は超人スポーツにまつわる3つの特別講演(招待講演)と6つの研究発表がプログラムに盛り込まれ、さまざまなジャンルの研究者によって意見が交わされた。

●特別講演(招待講演)
「身体化のための主体感と所有感の理解と設計」(大阪大学 大学院情報科学研究科、古川正紘 助教)

「YCAMスポーツリサーチプロジェクトの動向をはじめとしたYCAMの事例紹介」(山口情報芸術センター[YCAM]朴鈴子 エデュケーター)

「障害をもつ子どものスポーツバリアフリーへの期待」(県立広島大学 保健福祉学部理学療法学科、助産学専攻科(兼務) 島谷康司 教授)

●研究発表セッション(6つ)
「REINFORCED SUIT USING LOWPRESSURE DRIVEN ARTIFICIAL MUSCLE FOR BASEBALL BAT SWING」〈邦題:低圧駆動型人工筋を利用した野球バットスウィング強化スーツ〉(広島大学)

「Augmented Dodgeballにおけるプレイヤ情報管理および観客向け情報表示」(電気通信大学)

「参加者間の走力差を軽減させるデジタル鬼ごっこの設計と実装」(神戸大学/青山学院大学)

「踊りを意識せずに遊ばせるボールヒットゲームの提案」(神戸大学)

「短剣道:いつでも,どこでも,誰もが楽しめる武道競技」(茨城県立医療大学/筑波大学)

「アートによる身体拡張」(More Than Human project)

発表者の1人、神戸大学 工学研究科 電気電子工学専攻 特命助教の磯山直也さん(塚本・寺田研究室)の研究内容は「参加者間の走力差を軽減させるデジタル鬼ごっこの設計と実装」。


腰にスマートフォン(Android OS)を装着して行うデジタル鬼ごっこ。スマホの加速度・磁気センサーの値からプレイヤーの移動速度・方向が判断され、“鬼役”はVRゴーグルから他のプレイヤーの位置情報を閲覧。“逃げ役”を追いかける(提供:磯山直也)

通常の鬼ごっこであれば、足の速いプレイヤーが断然有利だが「デジタル鬼ごっこ」はプレイ開始前にプレイヤーの「全力走」を判定。プレイヤー同士の走力差を軽減してくれる。まさに「すべての参加者がスポーツを楽しめる」という超人スポーツの要件に沿う発表内容だった。なお、磯山さんの「デジタル鬼ごっこ」の発表には実行委員会からこの日の研究奨励賞が授与された。

人工筋による“超人化”のポイントは「いかに人を疲れさせるか」

栗田さんは研究会の実行委員を務める一方で、研究室としての発表もしている。タイトルは「REINFORCED SUIT USING LOWPRESSURE DRIVEN ARTIFICIAL」。邦題は「低圧駆動型人工筋を利用した野球バットスウィング強化スーツ」だ。


広島大学 栗田雄一研究室のアントニオ・ベガさんは、人工筋肉を用いて野球のバットスウィングをサポートする実験について発表した

栗田研究室は、岡山県を拠点とする医療用品メーカー・ダイヤ工業株式会社と共同で「無電力供給型身体機能増強スーツ」を開発している。スーツにはダイヤ工業の開発した空気圧人工筋を搭載。空気圧で収縮する人工筋のしくみを利用して、身体の動きを増強できる。この日発表された「バットスウィング強化スーツ」は各部位のセンサー検知によって適切なタイミングを自動判別し、人工筋の収縮によりプレイヤーがバットを振る力をアシストする、という内容だった。


ダイヤ工業製の人工筋。ポンプで空気を送り込むと、赤い部分が収縮する。「ロボットを使ったアシストでは、金属など硬くて変形しにくい材料の使用を前提に理論構築されていることが多く、柔らかくて固定されていない人工筋は扱いが難しい」と栗田さん

「たとえばリハビリテーションの世界では、“自分の足で歩いている感覚”を残しながら実際に歩く、というアプローチがあります。すなわち“まったく疲れないロボットスーツ”ではだめで、いかに人を疲れさせるのかが重要。だからこそ、運動が嫌にならない程度に少しだけ疲れを軽減する“ソフトなアシスト”をするロボットスーツも必要、という考えで研究をしています」

これを「バットスウィング強化スーツ」に置き換えれば「バットを振れない人のため」ではなく「ソフトなアシストで、もともとできる人を “もっとできる人”にする」という発想。楽しむために技術を活用する超人スポーツのポリシーにも適合しているといえる。「製品として一般の方の手元に届けるにはまだ時間がかかると思いますが『理論的にはできますよ』と学会の場で見せることで、ニーズを探れますし、次に僕たちがしなければいけないことが見えていきます。研究者のいちばんの役割は“新しいもの”を生み出し、その可能性を評価すること。それを世に広めるのは研究者以外にも得意な方がたくさんいます」と栗田さんは語る。

スモールスタートで価値を高めるアプローチ

走力差を埋めるシステムやバットスウィングを強化するロボットスーツのような人間を拡張させる新たな技術を生み出すこと──。それが超人スポーツにおける研究者の役割だといえる。では、技術を生み出した先において、超人スポーツを社会実装していくプロセスを栗田さんはどう考えるのか。

「大学のような実験室環境だと『できた!動いた!』で終わってしまいがちです。だからこそ、こうした学術研究会ではアカデミーの専門家同士が互いの反応を見ながら『イケる!』と思った研究・技術を深めていく──そんなふうにスモールスタートで徐々にその価値を大きくしていくアプローチを大切にしたい」


「ハッカソンのような場に研究成果を技術・プロダクトとして提供できれば、そこで新たなシナジーを生み出すかもしれません」と栗田さん

今回の学術研究会では、リハビリの専門家による特別講演、さらには義肢義足をアートで“ステキ”にするプロジェクト「More Than Human project」の小林武人さん、坂巻善徳 a.k.a. senseさんらが研究発表を行っている。いくつかの分野をまたがったプログラムになる理由について栗田さんは「ものをつくり、実装して終わりではない。それを社会にどう活かすのか? という議論をするため、あえて多様な内容になっている」と話す。

これから先、VRなどの技術が進歩してテレワーク(遠隔勤務)が普及すれば、人はますます移動しなくなる可能性が高い。もしかしたら“移動するのが贅沢”と言われるようになる日もそう遠くないかもしれない。しかし「人の身体は動かすことによって健康が維持されるしくみを持っている」と栗田さん。だからこそ、人間が健康に暮らしていくために「身体を動かすこと」の重要さは今後ますます高まっていくのではないだろうか。

「つらいだけの“修業”のようになっている体育、リハビリ、トレーニング……といったものに楽しさを加えると、多大な効果を発揮します。超人スポーツで技術を加えて新たなスポーツをつくり出すことは、社会的に大きな意義を持っていると考えています」

AI、VR、IoT、インターネットなど、人間の生活を変える技術はすべて地道な研究から生まれている。超人スポーツがきっかけで集った学際的でアカデミックなコミュニティーも、そんな技術を生み出しうる大きなポテンシャルを秘めているのかもしれない。人間の可能性を拡張し続ける超人スポーツに、これからも注目していきたい。


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