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「官が民に合わせる」ことで共創が加速する?──横瀬町の「よこらぼ」がまちにもたらすもの(前編)

2018年02月07日



「官が民に合わせる」ことで共創が加速する?──横瀬町の「よこらぼ」がまちにもたらすもの(前編) | あしたのコミュニティーラボ
民間から事業を募集し自治体が支援する、埼玉県横瀬町の官民連携プラットフォーム「よこらぼ」。始動から1年で、提案42件のうち採択22件と、予想を上回る展開を見せている。新技術の実証実験、シェアリングエコノミー、教育・子育てといった旬の課題の事業案件が、なぜ人口8,500人弱の小さなまちに集まるのか。官民をつなぐ共創エンジンとして機能する「よこらぼ」の姿から、地域で成果をもたらす共創の推進役はどうあるべきかヒントを探りたい。

新技術を実証し、横瀬が未来型ビジネスの発信地となる?──横瀬町の「よこらぼ」がまちにもたらすもの(後編)

官が半歩前に進んで汗をかき、民のスピード感に合わせる

秩父市や飯能市と隣接する横瀬町は人口8,500人弱と、埼玉県の自治体で3番目に小さい。「町民1人ひとりの顔が見える行政サービスを提供できる絶妙の規模感」と語る富田能成町長は、常々「わがまちの強み3点セット」として「豊かな自然環境、住民の高い参加意識、東京へのアクセスの良さ」を挙げている。


富田能成 横瀬町長

青々とした棚田の向こうにそびえる武甲山──まるで日本の原風景のようだ。秩父地方では多種多様な祭りが盛んで、それが地域住民の強いコミュニティーと高い参加意識を育んできた。池袋から特急列車1本で74分と意外に東京から近い。これらの要因が、横瀬の強みをかたちづくっているというわけだ。

だが全国的に人口減少が進むなか、横瀬町も例外なくこの課題に直面している。このままだと立ち行かなくなる未来は目に見えている。「必然的に、今までどおりではない新しい試みや挑戦が欠かせません。それが大前提」と富田町長は明言する。「小さいまちの限られた資源だけでことを起こすのは難しい。民間活力や外部資源を最もダイナミックに導入する戦略として“よこらぼ”を構想しました。戦術としては“強み3点セット”を活かしたい。とりわけ“都会に近い田舎”の魅力を発揮して、人や仕事や情報を効率的に呼び込めるようなしくみにしています」。

国の交付金の後押しもあり、各自治体で一斉に“地方創生”の取り組みがはじまっている。そこにビジネスチャンスを見出そうとする人も多い。だが「そういう人たちが自治体とコネクションをつくるのに苦労していることがプレ・マーケティングの段階でわかった」富田町長は、企業・個人を問わず横瀬町で取り組みたい事業があるなら誰でもウェブサイトから簡単に応募できる窓口を「よこらぼ」に設け、民から官へのアプローチのハードルを低くした。

それだけではない。たやすく「官民連携」というが、実際のところ対等に連携できるケースは少ないだろう。その理由を富田町長は「官には官の仕事のやり方が決まっていて、いつも民がそれに合わせるしかないため」としたうえで「そこに一石を投じたい」と身を乗り出す。

「官が半歩前に進んで企業や住民と一緒に汗をかき、民のスピード感に合わせる。そういう構えで動いています」

「あしたラボ」でもレポートした、都内のクリエイターがアイデアソン、キャリア授業、映像制作などを通じて横瀬の中学生に感化と成長を促す「横瀬クリエイティビティー・クラス」は案件化から3か月足らずで実施され、その半年後には最終発表会に至った。“民のスピード感”に合わせた成果の一例といえよう。


中学生を対象に行われた「横瀬クリエイティビティー・クラス」。写真は、第一弾として2017年4月に開催されたクリエイティブソンの様子(撮影:Kenichi Aikawa

「その事業がまちのためになるなら、何でも手伝います」

「よこらぼ」は2016年10月スタート。「提案が1か月に1件入り、1年で3件くらい採択になれば」という富田町長の見立ては良いほうに外れた。2017年9月末時点で提案42件のうち22件を採択。期待値を大幅に上回る反響だ。メディアへの露出が増え、知られていない町だった横瀬の知名度アップにも寄与した。人と情報がつながることで案件が案件を呼ぶ好循環が生まれている。

「数ある官民連携の取り組みのなかで、最も縛りがないプログラム」と富田町長が強調する「よこらぼ」の特性が大きな反響の要因だろう。

「比較的多いのは、自治体が課題設定をして解決のアイデアを募るケースです。“よこらぼ”は、そうではありません。みなさんの考えている事業をそのまま持ち込み、それが横瀬町の住民のためにもなれば、お手伝いしますよというわけですから、官民連携の中では際立って民のプレイヤー寄りのプログラムといえます」

採択された案件で目立つ分野は、新技術活用・開発7件、シェアリングエコノミー4件、教育・子育て関連4件。これでわかるように、テーマがオープンであれば、必然的に今の社会情勢やマーケットを反映した案件が多くなる。

課題は、ソフト事業中心なので可視化しにくく、住民への浸透・周知が行き渡らないこと。特にインターネットになじんでいない高齢者には伝わりにくい。解決策について、富田町長は「PR冊子を作成し、“町民と語る会”などでの説明を地道に繰り返すつもりです。“横瀬クリエイティビティー・クラス”で良かったのは、中学生が対象なので保護者だけでなく、おじいちゃん・おばあちゃんも最終発表会にいらして、見違えるように成長した孫の姿を見て喜んでくださったこと。こうした積み重ねも大切」と話す。


「インターネットになじんでいない高齢者へ“よこらぼ”を周知させることが課題」だと語る富田町長

「よこらぼ」の知名度は高まり、人脈の層も厚くなった。「2年目は広める部分と深める部分を」と富田町長は意気込む。

「横瀬町の周辺地域や埼玉県を巻き込むなど横へ広げたいですね。一方の“深める”というのは、これだけ横瀬町で多様なプロジェクトが進んでいるのが認知されれば、そろそろ課題設定をしてアイデアを募集しても関心を持っていただけるかな、と」

たとえば商店街がなく“へそのない”まちに中心部をつくることや、鳥獣被害対策などが目下の横瀬町の課題だという。

官民の共創には既存の行政分野を超えるコーディネーターが不可欠

では具体的に「よこらぼ」は、どんなしくみで回っているのか。

まず提案は「よこらぼ」のウェブサイトで申し込む。サイトには、自治体によるサポートの一例として「行政権限を活かした法的サポート」「公共領域や住民に参加協力を要請」「イベント等に最適な遊休地の貸し出しやWi-Fiを使えるオフィスの利用」などが挙げられているが、「必要なサポートがあれば随時ご相談を」ともある。応募フォームは、「プロジェクト名と内容説明」「横瀬町に依頼したい協力」「プロジェクトを通じて社会や横瀬町がどのように良くなりますか」などが主な項目。これに記入するだけでよいのだから、たしかにハードルは低い。

応募締め切りは毎月25日。事務局で社会通念上ふさわしくないものを除外したのち、応募フォームの項目を少し詳しくした本審査用エクセルシートを応募者に入力してもらう。その内容をもとに審査する。審査員は町議会議員、観光関係団体代表、商工会議所(中小企業診断士)、金融機関、住民代表、町役場の課長や副町長などの管理職で、計17人。通過者は町役場で10分のプレゼンと質疑応答を行い、審査会が点数をつける。最終決定するのは町長だが、審査会の点数と審査会での意見などが尊重されて採択される。

行政との連携は、個別に相談するとさまざまな理由で断られてしまうケースが多い。しかし、「よこらぼ」では審議会制をとっていることによって行政の縦割りの都合では断りづらいしくみになっているという。


「よこらぼ」におけるプロジェクト開始までのフロー(提供:横瀬町役場)

採択されたあとは、まち経営課の田端将伸さんら3人の事務局スタッフが案件の担当となり、分野ごとにふわさしい担当職員と採択者を引き合わせる。

「本当はここで事務局の手は離れるのですが、なかなかそうもいかず、引き続き私たちも関わります」と田端さんは言う。


横瀬町役場まち経営課の田端将伸さん

「プレスリリースなどは一緒にやったほうがうまくいくし、それに、今どきの案件は多岐に渡る分野が多く、たとえば観光と健康の2つの行政分野にまたがる場合、それぞれの担当課に振るわけですが、どちらが主体になるか譲り合って、任せっきりにすると潰れてしまうのです。新しい事業は既存の行政分野に対応していませんから、間に入って調整する役割が欠かせません。また、審査用シートやプレゼンの内容がすべてではないので、採択者と各課と私たちが話し合って横瀬の実情にふさわしい方向転換も大いにありなんです」

官民の共創を成功させるための示唆に富むヒントだ。

最初の営業活動が功を奏し“筋の良い”案件が集結

ところで気になるのは、「必要なサポートがあれば随時ご相談を」のなかに金銭的な支援がどれくらい含まれるのかという点。「国や県の補助金の申請代理もします。ただし補助金は町の財布を通すから議会で予算計上が必要です。今のところ22のプロジェクトのうち予算計上したのは、小中学校にタブレットを導入してIoT教育をするという一般社団法人さんの案件1件のみ」と田端さん。そもそも「お金欲しさ」で応募する事業は採択されない可能性のほうが高い。

ウェブサイトで募集をかけただけで、いきなり“筋の良い”案件が集まるとは思えない。応募のハードルが低いから、なおさらだ。どんな工夫をしたのだろうか。田端さんは振り返る。

「はじめだけは、名だたる企業さん何社かに事業の内容を説明したところ、ぜひ、ということで関心をもっていただきました。“よこらぼ”設立発表会では、その企業さんにも登壇していただきました。1回目の締め切りで3社の応募があった後はメディアにも次々取り上げられたので、問い合わせが殺到し、2カ月近くでPRはやめました」


取材は、町の遊休資産として「よこらぼ」で貸し出しをしているあしがくぼ笑楽学校(旧芦ヶ久保小学校)の校長室で行なった

最初の“営業活動”が功を奏し、実績の提示が望ましい案件を呼び込んだのだ。「人を巻き込み、自分も巻き込まれる」「横並びから半歩だけ前へ出る」という、ありがちな公務員らしくない行動を身上とする田端さんのようなキーマンが現場で汗を流していることも、「よこらぼ」がうまくいっている大きな要因だろう。これからは「採択者同士がつながる仕掛けなどを用意して、案件が案件を呼ぶ好循環を加速していきたい」と田端さんは意気込む。

官が半歩前に進んで汗をかき、民のスピード感に合わせることで推進エンジンとして機能している「よこらぼ」。後編では、よこらぼに採択されたプロジェクトの具体的な取り組みについて話を伺う。

新技術を実証し、横瀬が未来型ビジネスの発信地となる?──横瀬町の「よこらぼ」がまちにもたらすもの(後編)

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