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被災地から出でよ!ソーシャルアントレプレナー ──「あすびと福島」が挑む人材育成(前編)

2018年02月13日



被災地から出でよ!ソーシャルアントレプレナー ──「あすびと福島」が挑む人材育成(前編) | あしたのコミュニティーラボ
「福島の復興を担う人材を育てたい」──福島県南相馬市小高区出身の元東京電力執行役員が、原発事故への責任と地元復興への強い想いを胸に、小中学生の自然エネルギー体験学習や、実践経験を通して社会課題に挑む力を養う「高校生あすびと塾」などの活動に取り組んでいる。地域を再生し元気にするポテンシャルは「志を強くもつ人」の存在に負うところが大きい。日本の社会課題を先取りした被災地を舞台に、未来の社会起業家の育成に挑む一般社団法人「あすびと福島」の取り組みから、持続可能な地方創生モデルのヒントを探ってみたい。前後編でお伝えする。

ソーシャルビジネスを生み出すのは“憧れの連鎖” ──「あすびと福島」が挑む人材育成(後編)

体験学習を通じて「発表に躊躇しない勇気」を育む

半谷栄寿さんは約50年前の小学生の頃、合併前の小高町長だった祖父に連れられ、福島第一原子力発電所の建設現場を見学したことをよく覚えている。東京大学法学部を卒業して東京電力に入社後は、サッカーのナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」の立ち上げなど新規事業開発に携わる一方で、環境NPO「オフィス町内会」を立ち上げ、1,000事業所をネットワークした古紙リサイクルや、間伐材を使った再生紙の普及活動に取り組んだ。「今でいう“2枚目の名刺”を持ってビジネスマン人生を送ってきました」と半谷さんは振り返る。

2010年6月に東京電力の執行役員を退任。9カ月後に東日本大震災、そして福島第一原発の事故が起きた。自身の責任を痛感した半谷さんは、故郷の南相馬市に東京から救援物資を届けるボランティア活動をした。そのとき出会った菓子店を営む女性の「子どもたちのために何かを」のひと言に心を揺り動かされる。

「それが私の志の原点です。今後は物の支援ではなく、しくみの支援が必要。子どもたちの成長のための事業を立ち上げたい。目的は福島の復興を担う人材を育てること。最初の手段として、誰もが賛同する自然エネルギー体験学習からはじめよう」と半谷さんは決意し、一般社団法人「あすびと福島」を設立した。

半谷栄寿さん
あすびと福島代表理事の半谷栄寿さん

東日本大震災からちょうど2年後の2013年3月11日。株式会社東芝のCSR出資、農水省補助金、復興交付金を原資として、500kWの太陽光発電所と植物工場からなる「南相馬ソーラー・アグリパーク」(TOP画像)が完成した。ここを拠点に、南相馬市の小中学生3,400名のうち現在まで2,900名が自然エネルギーの体験学習をしている。

半谷さんは多くの子どもたちと接して「“発表する力”が“自ら考え行動する力”を引き出す」という確信に至った。

「発表するには考えることが必要で、発表したからには行動に移すことが期待できます。大人もそうですが発表には勇気が必要。間違ったらその場で直せばいい。発表に躊躇しない勇気を、楽しく体験学習するなかで育む。これを最も大切なテーマとして子どもたちと取り組んでいます」

「高校生あすびと塾」から生まれた『こうふく通信』

2014年4月からは、社会的課題に関心をもつ県内の高校生を対象とした「高校生あすびと塾」を福島市で月1回、開催している。「解決への志を明確にし、それを実現するための構想力、プレゼン力、人を巻き込む力を養うための私塾」(半谷さん)だ。企画・立案に留まらず、ここから『高校生が伝えるふくしま食べる通信』という社会事業が生まれた。あしたラボでも紹介した、岩手県の高橋博之さんが全国各地で展開する「食べる通信リーグ」に福島の高校生が参加。農家がどんな想いで作物を生産しているか、そのストーリーを食材付きで発信する季刊の情報誌で、2015年4月に第1号を発行した。

高校生が伝える ふくしま食べる通信
菅野さんらが企画・編集を担当した『高校生が伝える ふくしま食べる通信』

初代編集長を務めたのは「風評被害を払拭して福島の農産物を多くの人に食べてもらいたい」との志を抱いた福島県立安積高校2年(当時)の菅野智香さん。

「最初は全然うまくいかなくて、訊かなきゃいけないことを訊けなかったり、生産者さんの心の根底にあることまで引き出せなくて、追加取材もありました。すべてが勉強で、人と話すのも苦手なほうだったんですけれど、少しずつできるようになって……。一緒に編集した3人の後輩ともいいチームを組めたし、情報誌の購読促進イベントにも関わるなど、ふつうに高校生活を送っていたら絶対できない貴重な経験でした」と菅野さんは携わった2号分を振り返る。

菅野智香さん
あすびと福島・学生パートナーの菅野智香さん

菅野さんの志を後輩たちが引き継ぎ、通称『こうふく通信』(食材込で2,500円)は11号まで発行され、定期購読者は全国に700名。「単独で黒字になる事業にして、社会的意義を継続していきたい」(半谷さん)。編集作業や読者コミュニティー運営の実践を通じて高校生は成長し、なおかつ福島の農業の信頼回復に貢献している。

志はソーシャル、しくみはビジネス

小中学生の体験学習、高校生の社会実践などを通じて、福島の復興を担う将来の社会起業家を育てたい──半谷さんの志は明確でブレないが、一方で課題も見えていた。活動の財源を企業の寄付金のみに頼っていると収入が安定せず人材育成を継続できない。まさか小中高生から授業料を取るわけにもいかない。

2013年、半谷さんは凸版印刷から南相馬での3時間のフィールドワークの講師を依頼された。それが契機になり2014年、「被災地で社員を鍛える」を目的とした凸版印刷の1泊2日の社会人研修を「あすびと福島」が受託した。同年は凸版印刷、三菱商事、東芝の3社が1泊2日の研修を16回実施し、387名の社員が参加。社会人研修は継続し、2017年は凸版印刷、三菱商事、NEXCO中日本、NEXCO東日本、NEXCO西日本、富士通、セールスフォース、NEC、ジョンソン・エンド・ジョンソン、三井不動産に加えて、三菱電機労働組合や国家公務員に拡大し、全体では44回、863名にのぼる。

この結果、2013年度は4,200万円の寄付が収入の97%を占めていたのに対し、2016年度は寄付額が1,400万円に減った分、社会人研修の企画・受託による収入が3,100万円に拡大し、『こうふく通信』の売上と行政委託を合わせ6,800万円の収入を確保した。2017年度は社会人研修による収入が4,000万円を超える見込みだ。

あすびと福島の収入構成の推移
あすびと福島の収入構成の推移。年を追うごとに「社会人研修」の割合が大きくなっている(提供:あすびと福島)

「むろん営利事業ではなく、社会人研修の対価は復興を担う人材育成を継続するための浄財。そこも企業の方々にご賛同いただける要素になっています。“志はソーシャル、しくみはビジネス”が、あすびと福島の経営方針の基本です」と話す半谷さんは、別に生業があるので役員報酬を得ていない。

立場を捨て一個人として課題に向き合う

被災地の課題を解決する社会事業立案や、被災地で活躍するキーマンにインスパイアされるリーダーシップなど、企業によって南相馬をフィールドワークする社会人研修の目的はさまざま。だが、業種を超えて名だたる企業や労働組合、国家公務員の参加が年々増えているとなると、何らかの共通の価値を見出しているに違いない。

半谷さんによれば、こういうことだ。

「私自身の経験に照らしても、企業のみなさんは優秀な人ほど“立場性”が強くなります。つまり、知らず知らずのうちにお客さま側ではなく供給者側に立って物事を考えてしまう。しかし、今は多くの企業でCSV(Creating Shared Value)──新たな価値を創造し、その受益を社会と企業で分配すること──を盛んに言うようになっています。CSVの実現には社会課題の現場に向き合わなければなりません。課題に直面している人や地域のニーズを肌で感じ、どうすれば解決できるか考える必要があります」

さらに半谷さんはこう続ける。

「そのとき供給者側に立ってしまうと“コストがかかりすぎる”“技術が追いつかない”“過去に役員会で否決された”等々、できない理由を山ほど思いつく。ですから、いったん会社の立場を捨て、一個人として社会課題に向き合うことが大切なのです。震災で20年後の日本全体の課題を先取りした福島の被災地で一個人の感性で社会課題を自分ゴト化できれば、その課題解決に向かって諦めずに挑戦しようというモチベーションが強くなる。すると、“コストを下げる方法を考えよう”“技術のブレイクスルーに向かおう”“役員をこのように説得しよう”等々へと行動が変容していきます。この切り替えが腹落ちできるかどうかは、企業が社会とともに新たに発展していくうえでの社員のあり方として、ものすごく大きいんですよ」

半谷栄寿さん

「あすびと福島」では、国家公務員の研修も企画・受託している。人事院との話し合いでも「公務員であることを忘れ、一国民として被災地の現状をどう変えたいか考える。そのうえで仕事に立ち返れば、強いパッションで努力が始まる」との認識で一致しているという。立場を捨てた一個人として向き合うことが社会課題に取り組むためにいかに大切か。「あすびと福島」の活動が被災地の復興という枠組みを超えて強く訴えかけてくるメッセージだ。

後編では、南相馬で社会人研修に取り組んでいる企業の声と、社会人研修から派生した新たな「あすびと福島」の人材育成の試みを紹介し、社会起業家へ向かって走り出したトマト菜園農場長に話を聞く。

ソーシャルビジネスを生み出すのは“憧れの連鎖” ──「あすびと福島」が挑む人材育成(後編)


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