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民泊は地域を活性化できるのか? 長野県北アルプスの事例から考える

2018年03月26日



民泊は地域を活性化できるのか? 長野県北アルプスの事例から考える | あしたのコミュニティーラボ
あしたのコミュニティーラボでは「“民泊解禁”で拡がる、軽やかなライフスタイルとは」と題して、民泊解禁に先駆け、多様な生活スタイルを実践している「勢力」に迫った。

彼らが旅に求めていたのは、観光ともグルメとも違う「偶発的な人との交流」だった。民泊解禁を前に、いま国内では「新しい若者のライフスタイル」と、宿泊体験の適正なマッチングのしくみが問われている。さらにそのしくみが地域の活性化にもつながれば……。

その実践者の1人、長野県北アルプスで田舎の潜在価値を発掘し発信するLODEC Japan合同会社・たつみかずきさんのもとに伺った。

偶然の体験がもたらした「古民家ゲストハウス」というアイデア

「古民家ゲストハウス 梢乃雪」は2011年春にオープンした。場所は長野県と新潟県の県境に位置する長野県小谷村(おたりむら)。人口3,000人ほどの小さな村だ。

たつみかずきさん
梢乃雪オープンの経緯を語るLODEC Japan合同会社 CEOのたつみかずきさん

小谷村はスノーリゾート・白馬村にも近い。しかし白馬村よりもずっと山間にある小さな村であることから、外国人旅行者がわざわざ足を運ぶことは少ないという。実際、梢乃雪でも基本的には外国人旅行者の受け入れを目的においていない。

「なにもない」「ど田舎」というコンセプトのもと集まる人の多くは、都心部で暮らす学生や社会人。「週末限定憩いの場」として活用されている。ここでの「1泊」が、宿泊経験者ののちの生活スタイルを劇的に変えているケースがあることは、以前ご紹介した通りだ。

LODEC Japan合同会社 CEOのたつみかずきさんは、1986年、大阪府高槻市に生まれた。小学4年生のとき、父親のすすめから山村留学制度(親元を離れ受入先となる家族と地域での共同生活を送る留学制度)を使い、長野県小谷村へ。小学校卒業までの約3年を小谷村で過ごしたという。

その後、中学・高校時代、そして大学時代(中退)の約10年間は、地元・大阪、そして単身移住した京都で過ごした。京都では知人とともにイベント企画団体を立ち上げたこともある。そんなたつみさんが小谷村へUターンしたのは2009年、23歳のとき。

もともと梢乃雪は、たつみさんが家族とともにUターンで移り住んだ「我が家」だった。家の縁側で過ごしているうち、その場所を「古民家ゲストハウス」として提供するアイデアを思いつき、それが梢乃雪となった。

さらにたつみさんは2015年4月「LODEC Japan」という合同会社を設立。同社は梢乃雪、そして2014年にオープンした梢乃雪2号館「ゲストハウス カナメ」(大町市)のほか、2つのシェアハウス(metone)を運営している。しかし「それだけに特化した事業体ではない」とたつみさん。

湯原薫子さんと徳武彩菜さん
「大町市は飲み屋が充実している」と楽しそうに語るLODEC Japan合同会社スタッフの湯原薫子さん、metoneシェアメイトの徳武彩菜さん。ともに地域外からやってきた移住者だ

地域の関係者に頼まれて、Web制作(デザイン、コーディング)のお手伝いをすることもあれば、ライティングや写真撮影をすることもある。ほかにもパンフ制作、イベント企画、講演会などなど……地域住民や役場からの相談事があれば、雇用関係にはないLODEC Japanのメンバーがおのおの集まり、仕事をシェアリング。地域の問題解決にあたっている。

既存のゲストハウスとは一線を画す「新しい宿泊スタイル」を求めて

一般的に、梢乃雪のような「地域密着型」を謳うゲストハウスの多くは、旅行者にとっての「旅のインフラ」として活用される。すなわち、旅の道中で「安く泊まれる宿」であることが大前提。さらに、旅を楽しむための付加価値としてその土地ならではの交流——たとえば農業体験のようなものが「副次的な目的」として求められる。

小谷村
冬は雪に覆われ、美しい景色が広がる小谷村

しかし、梢乃雪を運営するたつみさんは「うちの場合は、そうした目的ともちょっと違っていて、そろそろ一般的な地域密着型ゲストハウスのイメージからの脱却を図りたい」と話す。

「もちろん、宿での“交流”という部分は僕らの関心事ではあるのですが、単なる“体験の提供”“旅行プログラムとしての交流”で終わらせたくはありません。梢乃雪でやりたいことの本質は、もっとその先にある、地域への入口づくり、地域との接点づくりです」

では、たつみさんの言う「一般的な地域密着型ゲストハウスのイメージからの脱却」とは一体どういうものなのだろうか。

LODEC Japanのホームページにその答えがある。そこには「ゲストハウス」から新名称「noie」(ノイエ)への変更と名称の定義がまとめられている。「noie」(ノイエ)は「〜の家」を語源とし、ドイツ語の「neue」(新しい)の意味と「埜家」(いなかにある家/ひろくのびた大地)の意味も合わせ持つ——そんな「noie」は、「宿よりももっと“暮らし”に近い“家”」という意味を含んでいるという。

たつみかずきさん

【noieの定義】
・地域への「入口」/地域との「接点」となる宿泊ができる場であること
・宿泊者/地域住民/宿関係者等の施設に関係する人々の「交流」が生まれる場であること
・地域の暮らし/食/文化/歴史等の情報の収集及び発信媒体となりそれらの体験が行える場であること
・これらの要件を満たしていれば地域規模の大小及び提供する価格帯については不問とする
※2018年3月現在 上記内容は適宜変更する可能性があります
LODEC Japanホームページより引用

LODEC Japanのメンバーの一部は「梢乃雪での宿泊経験」がきっかけとなり、移住・定住した人たち。梢乃雪やカナメの管理人になった人もいる。noieの定義の1つ、“地域への「入口」/地域との「接点」となる宿泊ができる場であること”という部分が、メンバーの琴線に触れ、行動を促したというわけだ。

「もともと自分がやりたいのは“小谷村をなんとかする”ことですが、小谷村だけが潤っても意味がなくて、北アルプス山麓(小谷村、白馬村、大町市、松川村、池田町)全域への流入人口を増やし、行政・民間が協働し、さらにきちんと地域にお金まわるようなビジネスをしくみ化することなんです。それを僕らは“地域と人をつなぐ”と呼んでいます。地域への入口・地域との接点となるのが梢乃雪やmetone、さらに移り住んだあとの生業としてLODEC Japanがあるんです」

metone2号館
最近リノベーションが完成したmetone2号館。LODEC Japanの他施設と同様にアットホームな雰囲気

地域文脈で見た「民泊解禁」の未来像

旅館業者にとって民泊解禁は、競合が増えることになるため、必ずしもウェルカムと考えていない。さらに「営業日数の上限180日間」というルールを鑑みれば、実質営業できる日数は少なく、民泊解禁が“直接的”に移住・定住を促すのは難しいだろう。それを背景に、たつみさんは「移住・定住施策」について自らの考えをこう話す。

「移住ブームみたいなものも、ある種の虚構だと感じます。乗りたい車があっても現実的にそれを入手するのは別問題なのと同じように、雰囲気だけで実際には起こっていない。僕らも移住者だけを増やせばいいとは考えておらず、移住者であろうが旅行者であろうが地域との接点の絶対数——すなわち関係人口の増加こそがやるべきことだと捉えています」

民泊解禁で民泊事業者は確実に増えるだろう。その多くは「ホテルや旅館よりも安価な宿」あるいは「田舎暮らしを体験できる施設」になるかもしれない。しかし重要なのはコンセプトだ。仮にその一部が、noieのような「地域への入口」「地域との接点」というコンセプトを含む「関係人口増加」を見据えた宿ならば……。民泊解禁が「地域活性化」を担えるかどうか、いま民間の事業者、地域関係者の役割が問われている。


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