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震災後に誕生した「復興を象徴する」水族館──仙台うみの杜水族館、開業からの2年間

2018年03月22日



震災後に誕生した「復興を象徴する」水族館──仙台うみの杜水族館、開業からの2年間 | あしたのコミュニティーラボ
仙台港のすぐそばに建つ「仙台うみの杜水族館」。東北一の大都市に東日本大震災後、はじめての水族館ができた。そのコンセプトは「復興を象徴する水族館」だ。
今年で2011年の東日本大震災から7年。否が応でも海に"恐れ"という感情を抱いてしまう人びとの気持ちを、恵みの海のすばらしさ、楽しさにどのように引き戻すか。また、震災の記憶を風化させないため水族館はいかに被災地復興の象徴になりうるのか。開業からの2年間の振り返りと、未来へ進むための取り組みを探った。

“海のブランド回復”が水族館の新しい使命

2015年7月、「復興を象徴する水族館」としてオープンした仙台市宮城野区の「仙台うみの杜水族館」。開業初年度は12カ月で189万人の来館者数を達成して話題を呼んだ。以後も年間100万人を超す来館者数を維持し、仙台にはじめてできた水族館として、首都圏の水族館にひけをとらない人気を集めている。


高砂中央公園の敷地内に建つ「仙台うみの杜水族館」。周囲にはアウトレットモールなどもあり、親子連れが散歩がてら訪れている姿が見られた

杜の都・仙台から、人と海や川との新しいつながりを”うみだす”水族館。それが館名の由来だが、そこには復興に向けての特別な思いも込められている。


横浜・八景島シーパラダイスへは飼育員として入社した経歴をもち、海と海の生き物をこよなく愛する、仙台うみの杜水族館 藤森純一館長

館長の藤森純一さんは「海産物をもたらす”恵みの海”、そして釣りや海水浴を楽しめる”癒しの海”が、震災で一瞬にして”脅威の海”になってしまいました。だからこそ水族館としては、海のすばらしさ、楽しさを改めて伝えることで、お客さまが笑顔と前向きな気持ちを取り戻していただく一助になれば、と考えています。海のブランド回復がわれわれの新しい使命です」と話す。

そうしたコンセプトを、具体的な展示へとどう落とし込んだのか。

「地元の海には、こんなにすばらしい生きものがいるんだということを伝えたい」(藤森館長)と、1階には東北の海に棲む生きものが展示されている。幅14m、水深7.5mの巨大水槽は三陸の海を再現。屋根がない構造のため、マイワシの群舞やアカエイの遊泳に太陽の光が降り注ぎ、三陸の海を切り抜いてきたような美しい光景が目の前に広がる。


三陸の豊かさを感じられる巨大水槽。深さごとにどの生物が生息しているかを観察でき、多くの来館者が足を止めて見入っている

漁業の復興に水族館として寄与しようと、県内の水産業者と連携した展示も特徴の1つ。取材日には、志津川淡水漁業協同組合協力による、シロサケの受精卵を丼に盛って水槽に入れた展示があった。

解説文には「順調に成長すれば12月中旬あたりには生まれます。それまでは『はらこめし風』(※はらこめし:鮭の切り身とイクラ(はらこ)をご飯にのせた宮城県名物の丼料理)の展示をご覧いただけます。”巣立ち”ならぬ”丼立ち”を楽しみにご覧ください」。

そのほか三陸で生産がもっとも盛んなマボヤ、マガキの養殖の様子が展示されているのも、この水族館ならでは。


宮城ならではの「はらこめし水槽」のアイデア。鮭の切り身(模造品)と鮭の卵が展示されており、取材日には数匹の命がいまにもかえりそうだった


三陸でもっとも盛んなマボヤ養殖を再現した水槽は入口すぐにある。吊り下げられたマボヤを真下から眺めることができ、まるで海底を歩いているよう

2階に上がると、震災後に各国から寄せられた支援や協力に感謝する展示に続き、「世界との絆を改めて体感」(藤森館長)できるよう、オセアニア、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ、アジアの海の生きものが来館者を迎えてくれる。特に珍しいのは、体色が白黒に分かれているイロワケイルカとツメナシカワウソ。イロワケイルカは日本の3つの水族館で飼育されている9頭中の3頭だという。

約1,000人収容のスタジアムでは、おなじみのバンドウイルカ、アシカのパフォーマンスが子どもたちを喜ばせている。


アクリル面などの仕切りがなくプールとつながった観客席からは、パフォーマンスの時間外でも元気なイルカたちの姿を目にすることができる

復興を支援する企業の出資協賛と地域交流

仙台港の背後地、高砂中央公園内に建つ仙台うみの杜水族館。「市内に初の水族館を」という仙台市の呼びかけに応えた三井物産、カメイ、横浜八景島、ユアテック、河北新報社、仙台三越の各社や、一般財団法人民間都市開発機構の出資による仙台水族館開発株式会社が建物を建設し、水族館経営に実績がある株式会社横浜八景島が運営を受託している。

飼育スタッフ全員と、展示されている生きものの一部は、2015年5月に閉館したマリンピア松島水族館から引き継いだ。「復興を象徴する水族館」のコンセプトに賛同した30社以上が、ゾーンスポンサー、プラチナスポンサー、ゴールドスポンサーとして協賛している。

水産業の復興支援を目的として塩釜や気仙沼などの漁港を紹介する「うみの杜漁港」コーナーの展示では、地元の漁師を招いて来館者とコミュニケーションする企画などを実施する。また、女川町の復興祭で毎年ペンギンの散歩を披露するなど、地域へ出向いての交流も積極的にすすめている。


2017年2月~4月に開催された、楽天イーグルス選手コラボ水槽の様子(画像提供:仙台うみの杜水族館)

子どもたちへの教育も水族館の役割の1つ。仙台市内での取り組みでは、いくつかの小学校で飼育スタッフが出張授業をしている。今のところ単発だが「本当は何回か連続で実施したい」と藤森館長は望む。

「教室で子どもたちが気づいたこと、疑問に思ったことを、実際に海や川でフィールドワークして確かめたり、水族館に来て詳しく調べたり……。そんな授業を組み立てられればすばらしいですね」。授業時間の制限内で実現するのはなかなか難しいが、熱意ある先生の登場が期待される。

2017年2月~4月に開催した「2017シーズン開幕直前! 楽天イーグルス応援展示」も、重視している地域交流の一環だ。「楽天イーグルス選手コラボ水槽」では、背番号7の松井稼頭央選手を、背中に7つの斑点がある熱帯魚セブンスポット・アーチャーフィッシュ(テッポウウオ)にたとえたり、カワウソに似ているといわれる則本昴大選手の等身大パネルが、愛くるしいツメナシカワウソの水槽前に登場したり……。リピーターを増やすためにも、こうしたエンタテインメント性の高い企画展示やイベントは欠かせない。

震災の記憶を風化させない発信も続ける

水族館ができたことによる地域の経済効果について藤森館長は「観光交流人口の増加に寄与できているのでは」と話す。

「ここ高砂中央公園の土地はもともと、仙台市営地下鉄東西線(2015年12月開業)を掘削したときの残土置き場でした。何もない原っぱに水族館ができて、いまでは年間100万人がこの地域に集まり、近隣の商業施設にも波及効果が出ていると思います」


「他の水族館との差別化とリピーターの獲得は、引き続き課題」と前進する姿勢は絶えない

まちの東西を結ぶ地下鉄が開通し、新築マンションも建ち並ぶ仙台は人口増加が続き、復興から次のステップへ踏み出す都市の活況を呈している。

その一方で、福島第一原子力発電所20km圏内には時が止まったままの避難指示区域が残り、三陸沿岸部の荒涼たる風景が震災の爪痕を今に伝えているのも事実だ。「海のブランド回復」と表裏一体を成す取り組みとして「震災の記憶を風化させない発信を続ける」(藤森館長)ことも、東北一の大都市・仙台の水族館に課せられる使命にちがいない。

それには先に触れたような地域との連携が求められるが、発信を続けるために何より重要なのは「数ある水族館の中でいかに差別化を図り、常に進化を続けて」(藤森館長)リピーターを増やせるか。

プロジェクションマッピングを活用するなど演出方法の更新に加えて、水族館の特色を出す試みの1つが、飼育の難しい生きものの展示。

仙台うみの杜水族館では、ヨシキリザメの飼育に挑んでいる。藤森館長によれば「東京都の葛西臨海水族園が、かつて244日という記録を打ち立てました。われわれが挑戦して昨年252日を達成しましたが、やはり1年と生きられません。生態がよくわかっていないので手探りで飼育するしかないのです」とのこと。

じつは国内で水揚げされるサメの9割が気仙沼港から。なかでも7~8割を占めるのがヨシキリザメだという。サメはフカヒレ以外にも、かまぼこ、はんぺんなど練り製品の原料のほか、飼料や肥料にも使われ、軟骨は健康食品に利用される。被災した地域の水産業に深いゆかりのある魚の飼育に成功すれば、「復興を象徴する水族館」としての特徴も際立つにちがいない。


水槽を泳ぐヨシキリザメ。仙台うみの杜水族館では、飼育が難しい生き物の展示にもチカラを入れている(画像提供:仙台うみの杜水族館)

1階のフードコートでは三陸の海の幸をはじめ地元の食材を使った料理が提供され、マグロやヨシキリザメの解体ショーも。希少生物の保護から食料資源となる海産物まで、水族館の発信できる情報は幅広い。仙台うみの杜水族館は、復興の象徴として東北の”恵みの海”の価値を伝え続ける拠点となるだろう。


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