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福祉とデザインのコラボレーションが“個性”を生かすフィールドをつくる──フォントが「ちがいをちからに変える」原動力になるには(後編)

2018年04月03日



福祉とデザインのコラボレーションが“個性”を生かすフィールドをつくる──フォントが「ちがいをちからに変える」原動力になるには(後編) | あしたのコミュニティーラボ
渋谷で暮らし、働く、障害のある人の描いた文字や絵を、グラフィックデータとして活用し、新たな渋谷みやげを生み出そうとしている「シブヤフォント」プロジェクト。渋谷区、障害者支援施設、そこで働くメンバー、デザインスクールの学生、FabCafe Tokyoなど地域のステークホルダーが共創し、障害のある人の描いた文字や絵をフォントにして多くの人に使ってもらうことで、渋谷区が掲げる"ちがいをちからに変える"ダイバーシティを実現しようとする取り組みだ。後編では、参加した学生と障害者支援施設のスタッフに創作の経緯を聞き、プロジェクトの意義を掘り下げる。(撮影場所:工房ぱれっと)

シブヤフォントに見る地域のダイバーシティの広げ方──フォントが「ちがいをちからに変える」原動力になるには(前編)

デザイン素材としての多様な可能性を発見した

桑沢デザイン研究所昼間部1年の横山みのりさんは、4年制大学を卒業後、改めてデザインの勉強をしたいと入学した。

学生に一斉配信されたシブヤフォントのプロジェクト参加者募集のメールを見て「プロジェクト自体おもしろそうだったし、グラフィックデザイナーのライラ・カセムさんや、講師の磯村歩先生たちと接する機会も貴重」と考えて説明会に出席した。40人ほどの学生が集まり、ライラ・カセムさんがポートフォリオと志望動機をもとに選考。横山さん含め7名の学生がシブヤフォント・プロジェクトに参加することになった。


桑沢デザイン研究所 昼間部 横山みのりさん

2017年5月のキックオフミーティングで学生と各障害者支援施設がマッチング。学生は各々の障害者支援施設へ週に1回通い、働くメンバーたちと創作活動をしながらコミュニケーションをとる経験を1カ月重ねた。

「障害のある方と接するのははじめて。最初は少し戸惑いましたが、コミュニケーションを重ねていくうちに、みなさんの個性がだんだんわかってきて、最後には普通に仲良くなりました。障害者支援施設のスタッフには、”この人は力が強いので潰れないペン先の筆記具が必要”とか”この人はこういうことをしたら機嫌が悪くなる”といった特別の事情に関してサポートいただきました」と横山さんは振り返る。

渋谷のまちの写真など「お題」を提示し、真似して描いてもらったり、フリーで好きな文字や模様を描いてもらったりした。「写真の見方も独特で、輪郭を線で捉えていたり、文字も左右逆転したり、棒の位置がずれていたり、そういうところがすごく新鮮で、デザインの素材としておもしろい」と横山さんは思った。

福祉作業所 ふれんどのメンバーが描いた文字や絵をグラフィックデータとして活用し、FabCafe Tokyoのデジタルファブリケーション機材を使って、クリアファイルやメガネフレームなどに展開。

一見すると普通でもジッと見つめると「ムムっ?」と驚く発見があるパターンを、ハチ公像など有名スポットから知られざる路地裏まで奥深い”隠れた魅力”あふれる渋谷のまちに見立てた「MUMU」というブランド名のシブヤフォントは、前編でも触れたように2017年11月の「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」(通称:超福祉展)で初披露された。


製作の様子(写真提供:シブヤフォント・プロジェクト)

横山さんはこのプロジェクトを通じて「障害のある方が落書きのように描いた生き生きした線や文字、色のちょっと混ざった感じの独特の模様などをデザインの視点からコラージュして渋谷っぽいまちの景色に見立てるなど、さまざまなピックアップの仕方ができるので、福祉とデザインのコラボレーションはとても相性が良い」ことを発見した。

自分自身のスキルとしても「全体のコンセプトに則ってアイデアを提案したり付加するなど”デザインのまとめ方”に強みを発揮できること」に気づいたのが収穫だったという。

人間的な交流と自由な創作を楽しんだメンバー

福祉作業所 ふれんどには、主に知的障害のあるメンバー22名が登録・通所し、ふだんはスリッパづくりをメインの仕事にしている。施設長の古戸勉さんはシブヤフォント・プロジェクトについてこう語る。


福祉作業所 ふれんど 施設長 古戸勉さん。ふれんどと横山さんでブランド「MUMU」を生み出した

「障害のある方と学生さんが関わる、というのが新鮮でした。もちろんボランティアで学生さんが福祉作業所に入ることはこれまでもあったのですが、たいてい1回限りで終わることが多いのです。これはもしかすると継続できるチャンスではないか」

そして、ふれんどを担当した学生が、前述の横山みのりさんだった。

「それまでは定期的に創作活動に時間を割くことはしていませんでしたが、毎週金曜日の午前中をそれにあて、彼女が来てくれて、ゆっくりじっくりコミュニケーションを重ねてくれたのが良かったんですね。作品ができあがった後にも毎週のように来て、人間的な交流が深まりました。それがまず1つ、大きな成果」と古戸さんは振り返る。

それに加えて古戸さんはメンバーの望ましい変化にも気づいた。

「横山さんが出した”お題”を無視して自由に描いても、彼女が声をかけて評価してくれるので、メンバーにとっては楽しい時間になったようです。最初は様子見で何もしなかった人が6回目くらいになると描きはじめたり、職員側ではそんなことはできないと思っていた人がきれいに色を塗り分けられたり、マンガのように吹き出しに文字を入れたり……誰からも言われていないことを自主的にやるようになったことが私たちスタッフにとっても新鮮な発見でした」


福祉作業所ふれんどに勤務する林佳織さん(写真左)と少し恥ずかしそうにインタビューに答えてくれた内藤梨沙さん(写真右)

超福祉展の成果発表でメンバーの保護者が感激していたことも古戸さんは強く印象に残った。

「我が子に限らず、障害のある方の創作が評価され、きちんと形になって注目されていることがうれしかったんだと思います。長い時間をかけてノウハウを積み重ね、粘り強くこうした取り組みを続けていけば、障害のある方を取り巻く空気も変わっていくでしょう。メンバーの創作活動が、工賃に反映する可能性のある福祉作業所の新しい試みとしても継続したいです」

この絵いいね、と思ったら障害のある方が描いていた

工房ぱれっとでは、クッキーなどを製造する「おかし屋ぱれっと」の隣室で裁縫製品をつくっている。

看板商品はウサギのぬいぐるみ「らぶらび」。学生時代に美術やデザインを学んでいたスタッフの玉井七恵さんは入職3年目でシブヤフォント・プロジェクトに関わった。


工房ぱれっと 玉井七恵さん。後述の前田さんと、桑沢デザイン研究所の橋本葵さんとともにブランド「CAMM」を生み出した

「メンバーの埋もれている才能を発掘するのは、私たちだけでは難しいと痛感していた時期だったので、学生さんやプロのデザイナーの方が外からの目で何か引き出してくれるのではと期待しました」

裁縫製品は完成までに時間がかかるが、シブヤフォントは文字や絵なので比較的短時間でできる。


工房ぱれっとに勤務する前田哲さん。CAMMのイラスト原画を担当した

「学生さんからすぐに“すごい!”、“いいね”、“天才だね!”と言われたりする機会をたくさん持てたので、メンバーにとってはうれしく、新鮮な体験でした」と玉井さんは振り返る。

「最初は”渋谷みやげ”というテーマに則り、学生さんも渋谷らしいものを考えて、地図記号を書いてみようとか、看板を描いてみようとか試したのですが、結局最後に並べてみて”これいいね!”と採用されたのは、自由に好きなものを描いた絵でした」

人物の絵をコラージュし渋谷のスクランブル交差点に集う人たち、という設定でランチョンマットなどに展開したキッチンウェアブランド「CAMM」がその成果物。多様で枠にはまらない人物の原画をあえて不揃いにコラージュし、誰でもウェルカム、みんなおいでよ!というメッセージを込めた。


前田さんが書いたイラストの一部。これが「CAMM」の原型になった

「今回できたデザインパターンは、みんなから生まれてきたもののごく一部なんです。キラリと光るものをもっている人がたくさんいるので、このプロジェクトがずっと続いて、それぞれの人がもつ固有のきらめきが日の目を見てほしい。”障害のある方が描いたからいいね”ではなくて、”絵や文字を見ていいねと思ったら実は障害のある方が描いていた”というふうに広まっていったら素敵」と玉井さんは望んでいる。

「ちがいをちからに変えるまち」具現化の試み

渋谷区障害者福祉課長の原信吉さんは、今後のシブヤフォント・プロジェクトの進め方についてこう考えている。

「福祉施設と連携した経験が豊富なグラフィックデザイナーのライラ・カセムさんがアドバイザーとして参加してくれたおかげで、障害のある方と共に創作していくメソッドはおおよそわかってきたので、連携する企業に関わる”ファッション”や、2020年東京オリンピック・パラリンピックを睨んだ”スポーツ”といったようにテーマを絞り込み、最終成果の”渋谷みやげ”として事業展開しやすいシブヤフォントをつくっていきたい」


前田さん(写真右から2番目)は、ボディーガードやテレビ番組など、絵のインスピレーション源を教えてくれた

その上で「こうしたプロジェクトを通じてもっとも進めたいのは、障害のある方への理解」と付け加えた。

「とても個性的で素敵な絵や文字を描く人が、一緒に作業を進めていると、ときどき飛び跳ねたり、急に黙ってしまうなど、理解しづらい行動をすることもあります。でも、何度も顔を合わせていれば、それも含めてその人の個性だとわかってくるし、べつになにも怖がったり尻込みしたりする必要はない。そんな理解が徐々にでもいいから浸透していってほしいですね」

多様性や異質さを互いに認めあうダイバーシティ。マイノリティーを排除せず社会に「包含」するインクルージョン。シブヤフォント・プロジェクトは、デザイン×福祉のフィールドに学生や企業が関与することによって、渋谷区が目指す「ちがいをちからに変えるまち」を具現化する試みの1つといえよう。

シブヤフォントに見る地域のダイバーシティの広げ方──フォントが「ちがいをちからに変える」原動力になるには(前編)


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