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水産流通の再構築による「日常のなかのおいしさの体験」とは? フーディソンがつくる“食の感動”(後編)

2018年04月12日



水産流通の再構築による「日常のなかのおいしさの体験」とは? フーディソンがつくる“食の感動”(後編) | あしたのコミュニティーラボ
小売店での失敗、飲食店向け卸売りへのシフトチェンジ、そして仕入れ先のデータベース化……。いくつかのプロセスを踏んだ末、飲食店向け鮮魚仕入れシステム「魚ポチ」が誕生した。同サービスは1,500種類から「次の日に使いたい鮮魚」を注文できるECサービスだが、株式会社フーディソン代表取締役CEO・山本徹さんは「なにもITありきで考えているわけではない」と強調する。「すべてを置き換えるのは難しい」と言われる水産流通にITを組み込む上で見据えるべきポイントとは? 後編をお届けする。(TOP画像提供:株式会社フーディソン)

日本の水産業にエコシステムを築く フーディソンがつくる“食の感動”(前編)

定番魚以外の食を提供することが食育にもつながる

東京・中目黒駅ほど近くの路地裏に、創作和食店「だん 中目黒店」がある。常時12〜13種類の魚を取りそろえているという同店は、9割くらいの水産品を飲食店向け鮮魚仕入れシステム「魚ポチ」から注文しているという。

この日の「特別入荷」メニューは、岩手県山田湾産の真牡蠣。


だんが仕入れた岩手産の牡蠣と、取材日当日のメニュー。さまざまな種類を食べてもらいたいと、同じ値段で選べるしくみだ

魚ポチでの注文時には価格はもちろん「産地」「用途」「サイズ」「販売単位」さらには「バイヤーのコメント」を確認可能。品目だけではなく「産地」から検索できるほか、創業時からあるサービス「シーフードボックス」と同様の「鮮魚セット」(3,000円〜3万円)もいまだ人気商品だ。

商品リストは「全国の生産地から送られてくる水産品のデータ」「翌日築地市場に届くことがわかった水産品」で構成されており、パソコン、スマホ、タブレットなどから夜中3時までに「注文」すれば、フーディソンの自社配送網により、直ちに配送(14:00〜23:59→翌日配送、翌0:00〜3:00→当日配送)してくれる。

「一昔前は、僕もよく築地に通っていました」とは「だん」店主の弁。しかし同店は168席という客席を備える。「経営もホールも厨房も切り盛りする」という店主にとって、「どうしても自分のキャパが合わなかった」と言う。

「築地の仲卸なんかに注文することもありますが、“○キロお願い”なんて重量単位で頼めば価格が割高になることがあるし、逆におおよその金額を指定すると、歩留まりが悪くなることもあるんです。“魚ポチ”は1品1品、魚種や大きさの選定ができますし、鮮度もよいことから活用しています」(店主)


中目黒駅徒歩1分のところに店を構える「だん 中目黒店」

ホテルの料理人を務めた後、水産流通の生産現場や市場も渡り歩いてきた経験を持つ店主。魚のことをよく知っているからこそ、飲食店として魚を提供する醍醐味を知っている。

「舟盛りをご提供する際には、彩りのこととか考えてサーモン、エビなどの定番品を並べたくなる気持ちはよくわかります。でも“この魚なんだろ?”、“食べたことないけどおいしいね”と思ってもらえるような新鮮な刺身を提供したいのが僕らの本音。お客様の“食育”と言えば大げさに聞こえるかもしれませんが、うちでも1〜2種類くらいは一般的にはあまり知られていない変わった魚を置いておくようにしているんです。“魚ポチ”は、それを可能にしてくれるツールでもあります」

ユーザーの利便性向上の追求を本質に

飲食店への販路を拡大したときのことを、株式会社フーディソン 代表取締役CEO・山本徹さんはこう振り返る。

「仲卸業者さんは、大手チェーンあるいは中小規模で知名度のある飲食店にはアプローチしています。しかし、同じ中小規模の飲食店でも“個人店”寄りのお客様にはそうもいかないようです」

個人店だと扱う量も少なく、細かい要望にも対応されにくく、「看板メニュー」となるような珍しい魚は仕入れにくいのが実状。だから「だん」店主のいうように、わざわざ魚種が多い築地に行くしかない。


株式会社フーディソン 代表取締役CEO 山本徹さん

「だから仲卸業者さんも扱いが少ない場合は“欲しい魚があるなら、悪いけど築地まで来てください”という待ちの姿勢をとらざるを得ないのだと思います。そうした商慣習下にあったこともあり、“魚ポチ”は比較的抵抗なく受け容れていただけました」

今後、「魚ポチ」をどのように発展させていこうとしているのか。山本さんは「水揚げされたばかりの魚を自動的にデータ化し、サプライヤーと消費者とをマッチングできる水産プラットフォームにすることが理想」だが、一足飛びには行かない。「水揚げされた魚をデータ化することが既存のECのしくみにのせるにあたっての一番のハードル」だと言う。


フーディソンが目指すエコシステム(画像提供:株式会社フーディソン)

とはいえ山本さんは「魚ポチ」を「ITありき」で考えるわけでは決してない。

「結果的にEコマースという方法を選んだのは、単にサービスとの相性が良かったから。今はWebの広告を見てからサービス導入いただく流れが基本線ですが、東京都内に8万件くらいの飲食店があるとすれば、その半分(4万件)くらいはFAX、電話といったアナログな方法でないと飲食店のニーズをカバーしきれていないと思います。ITだけにこだわるのではなく、お客様の利便性に合わせてさまざまな方法を模索するのが本質です」

魚が持つストーリーを伝え販売するsakana bacca

山本さんは、一度は断念した小売のビジネスも2014年12月からはじめている。それは、上記図における「エンドユーザー」に対する直接的なアプローチ。同年に1号店がオープンした鮮魚小売店「sakana bacca」(現在は中目黒・都立大学・中延に展開)がそれである。

「定番魚の存在意義は、いわば消費者側の都合でつくられたものです。一方で“産地側”のストーリーを伝えられるような魚にも、一定のニーズがあると思う。その魚がどんな魚で、どう調理すればおいしく味わえるのか——そんなストーリーを伝えながら販売するのがsakana baccaのコンセプト」


sakana baccaのスタッフユニフォームは旧来の魚屋さんには見えないおしゃれな制服になっている(画像提供:株式会社フーディソン)

ほかにも、魚の調理・加工を最低限にすることで低価格販売を実現する丸魚専門店「おかしらや」(武蔵小山)、鮮魚加工人材・水産人材・寿司職人などに特化した人材紹介サービス「さかな人材バンク」、お魚さばき教室「sakana baccaクッキングスクール」など、新たに展開中の施策もある。

「サプライヤーが定番魚だけを安価に供給する——もうそんな水産流通の時代は終わるのではないでしょうか。僕らがフーディソンでやっていることは、価格だけではなく、おいしさに転化できる情報を伝え、おいしさを消費者の日々の生活のなかで体験してもらうこと」

山本さんが新たにつくる「水産業のプラットフォーム」は、単に「関係者の利便性を上げる」ことを目的に置いた「しくみそのもの」のことではない。私たち消費者を食にまつわる感動へと誘い、生産者、バイヤー、飲食店がその感動を提供できる、そんな世界のこと——。そこにはエコシステムづくりの真髄があるような気がした。

日本の水産業にエコシステムを築く フーディソンがつくる“食の感動”(前編)


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