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【イベントレポート】「旅」は地域を変えるのか? 関係人口から考える、新たな地域活性の方法を探る

2018年05月11日



【イベントレポート】「旅」は地域を変えるのか? 関係人口から考える、新たな地域活性の方法を探る | あしたのコミュニティーラボ
あしたのコミュニティーラボでは、特集“「旅」は地域を変えるのか?”をとおして、民泊解禁に先駆けてゲストハウスやシェアハウスを活用しながら、自宅・職場とは異なる「サードプレイス」と関わりを持つ実践者を追いかけてきました。

そこからわかったことは、彼らは「人との出会い」を旅の目的のひとつとして大切にしているということ。そしてその「人との関わり」が関係人口・交流人口を生み、そこに地域活性化の可能性があるということです。特集の一環として2018年3月15日に開催された、あしたラボ主催のイベント「関係人口から考える、新たな地域活性の方法を探る」では、「旅」を起点に地域と関わりを持つ実践者が集合。各々の経験談から旅の可能性が探られました。

宿泊旅行には5万円のコストが必要?

観光庁による「旅行・観光消費動向調査」(平成28年)によると、日本人の国内旅行消費額は20兆9,547億円にのぼるそうです。消費額の内訳は、宿泊旅行が16兆335億円、日帰り旅行4兆9,212億円。延べ旅行者数(宿泊旅行3億2,566万人、日帰り旅行3億1,542万人)から換算すると、日本人は「宿泊旅行に1人あたり5万円」「日帰り旅行に1人あたり1万5,000円」をかけていることがわかります。

旅行をするのは、それなりの時間やコストが必要なこと。そんな固定観念に一石を投じるかもしれないのが、今年6月15日に施行される「住宅宿泊事業法(民泊新法)」です。この民泊新法により、もっと気軽に旅を楽しむ人が増えるはず。

今回のイベントでは“旅”や“関係人口”をキーワードにさまざまな立場で活動されている方々に集まっていただき、これからの旅の可能性をディスカッションしてもらいました。

TRAVEL HUB MIX外観
TRAVEL HUB MIX外観

イベントの会場となったのはTRAVEL HUB MIX(東京・大手町)。株式会社パソナが2017年にオープンさせた新しいかたちの観光案内所で「さまざまな事業者や個人、自治体や旅行者が参加することで『人生という旅』を楽しむ人々を発信し繋げる“関係”案内所」だといいます。

およそ2時間半のイベントの第1部は「旅」をテーマにしたトークセッション。旅にまつわる登壇者4名の活動を紹介します。

定期的に関わりを持ちたくなる地域との関係づくり

1人目は旅作家・小林希(のぞみ)さんです。

テキスト
旅作家の小林希(のぞみ)さん

大学在学中からバックパッカーとして世界中を旅してきた小林さんは、サイバーエージェントが立ち上げたアメーバブックス新社で7年間、書籍編集者として働いていましたが、ある日退職を決意。

退職したその日の夜から旅に出て、「旅作家」としての新たな人生をスタートさせました。その記録は『恋する旅女、世界をゆく――29歳、会社を辞めて旅に出た』として1冊の本にまとめられています。

「旅に出て価値観が変わり、“ありすぎるのに心が満たされない東京”に違和感を感じてきた」という小林さんの最近のブームは「島旅」。2015年には瀬戸内海の離島で、島の人たちとともに空き家を活用したゲストハウス「ひるねこ」をオープンさせました。

2人目は、株式会社百戦錬磨の岩沢隆太さんです。

岩沢隆太さん
株式会社百戦錬磨の岩沢隆太さん

かつてGMOインターネットグループでソーシャルゲームアプリの開発・運用を担当していましたが、徐々に活気をなくしていく故郷・長野県大町市の姿を通じて地域活性化を考えるようになり、民泊市場の将来性と民泊事業者としてのビジョンに共感し、百戦錬磨に入社。

百戦錬磨では民泊シェアリングサービス『STAY JAPAN』のWebディレクターを担当。イベントでは民泊事業の可能性を来場者に話しました。事業者として民泊に関わるほかに、地元大町市の「ゲストハウスカナメ」(2018年4月16日より「山と湖と集落の暮らしカナメノイエ」へと名称変更)に泊まったことがある岩沢さん。ゲストハウスの魅力についても語りました。

高野一樹さん
富士通デザイン株式会社の高野一樹さん

3人目は、富士通デザイン株式会社の高野一樹さん。以前の記事で紹介したとおり、長野県の古民家ゲストハウスとの出合いをきっかけに、2011年頃から全国のゲストハウスを巡る旅を続けています。

平日は富士通デザインに勤務する会社員でありながら、週末の時間を利用してゲストハウスを巡り、東京では「モテアマス三軒茶屋」というシェアハウスの管理人もしています。

田中輝美さん
ローカルジャーナリストの田中輝美さん

最後に登壇したのは、イベントのモデレーターを務めたローカルジャーナリスト・田中輝美さんです。本特集のインタビュー記事にも登場いただいたとおり、田中さんは山陰中央新報社の記者を経て、現在は「ローカルジャーナリスト」の肩書きで活躍しています。

移住・定住をしなくても、遠く離れた場所に住んでいても、多様なかたちで定期的に地域と関わる「関係人口」をテーマに、自らも島根県を拠点に全国をかけ巡る生活を継続。田中さんが上梓した書籍『関係人口をつくる 定住でも交流でもないローカルイノベーション』(木楽舎)は、旅人や地域関係者のあいだでも話題を呼んでいます。

旅の目的は「人」である

4名の自己紹介のあとは、田中さんをモデレーターにしたパネルディスカッション。まずは田中さんから「同じ場所にもう1回行きたくなる地域はどういうところ?」との問いが投げかけられました。

小林さんは「また会いたくなる人がいるところ」。国内外の旅先を訪れたときには、その土地の「おせっかいそうな人」に「このへんで猫がいる場所はどこですか?」など、たわいもない質問をして、地域住民と仲よくなるのだといいます。

民泊事業の可能性を知る岩沢さん、全国のゲストハウスを渡り歩く高野さんの2人も、小林さんと同様、旅の目的はきれいな絶景やおいしいグルメではなく「人である」と話します。

パネルディスカッション
「旅の目的」が「人」で全員一致。“気軽に旅を楽しむ”コツがわかるパネルディスカッションとなりました

高野さんが「(ゲストハウスは)宿泊者と共同で調理をしてこたつで一緒にご飯を食べれば自然と仲よくなれる」というように、同じゲストハウスに気心の合う仲間が宿泊しているとなれば、時間を惜しまず、週末の時間を利用してそのゲストハウスに泊まりにいく生活スタイルが生まれます。

それがおのずと「地域との関わり」へと発展します。高野さんのような旅人は、地域活性の観点からもキーマンだといえそうです。

「地域と関わりを持ちたいという想いはあっても、具体的な関わり方というのは案外わからないものですよね。その点、みなさんのような旅スタイルは、地域と関係を持つことのハードルを下げる1つの方法となり得ます。小林さんの場合は“猫はどこ?”でしたけど、旅人のそれぞれが自分の好きなものをきっかけにできるはず。きっとそこから違う世界が広がっていくでしょう」(田中さん)

自由に身軽に旅をし、ふらっと家に帰る「旅猫」

トークセッションのあと、第2部・ワークショップがスタートしました。ここからのモデレーターは、富士通デザインの横田洋輔さんが務めました。

横田洋輔さん
富士通デザインの横田洋輔さん

横田さんは富士通デザインで主にコンセプトデザインやUXデザインを担当しています。あしたラボでたびたび紹介した「UX THINKING PROJECT」の牽引役でもあり、このプロジェクトから酒蔵ラベルコレクションアプリ「クラカラ」、伝統工芸のリデザインプロジェクトなどが生まれています。

そんな横田さんが新たに取り組む新規ビジネスが、地域・観光をテーマにした「旅猫(たびねこ)プロジェクト」です。いったい「旅猫」とはどういう意味なのでしょうか?

「旅に特別な目的・想いを持っていて、まるで“猫”のように、いつでも自由に、身軽に旅をし、またふらっと家に帰ってくる人たちのことを、私たちは今回“旅猫”と総称しています」(横田さん)

既存の格安移動手段(格安航空、高速バス等)、宿泊のシェアリングサービス(民泊、ゲストハウス等)などを利用し、気ままに旅をする「旅猫」が増えれば、都心と地方の距離が近くなり、関係人口・交流人口が増え、それが地域活性につながっていく——。

横田さんはそんな期待を持つ一方で「旅行にはそれなりのコストと長期休暇が必要、という心理的な障壁がある」と話します。

横田さん
「近所の町や商店街を散策することも“旅”であり、そのちょっとした行動が関係人口へとつながる」と語る横田さん

横田さんは旅猫プロジェクトにおいて「旅猫による気ままな旅の動機や行動——計画・準備段階の旅先選び、あるいは移動・旅先での行動をアシストするサービスや仕組みをつくり、旅の世界に新しい価値観を提供したい」と話します。

旅は地域に何をもたらすのか

横田さんは来場者に「旅猫宣言パスポート」を配布。そしてワークショップのなかで、来場者ぞれぞれの旅の動機や行動を「こんな旅をしたい(している)」「地元民としてあるいは、旅や地域に関わる事業者としてこうやって旅人を支えてみたい(支えている)」といったエピソードや思いとしてワークシートに記入してもらい、数人のグループに分かれて内容を共有しました。

旅猫宣言パスポート
旅猫宣言パスポート

「ローカルな仕事を見るために職人さんと旅人をマッチングしてくれれば」「ゲストハウスに泊まりながら銭湯を巡っている。お風呂につかりながらその土地の人と交流もできる」「役場や郷土資料館の人と仲よくなって古文書を見せてもらい、自分の先祖をたどる旅をしている」——ワークショップを通して、来場者それぞれの旅の動機や地域との関わり方が可視化されました。

旅猫プロジェクトではイベント終了後、3月27日に百戦錬磨と富士通が共同運営するWebメディア「旅猫×民泊」サイトをオープンさせました。今後は、手軽で気軽な旅のプラットフォーム「TABINEKO」の実現に向け、民間企業・団体とのコラボレーションも検討していくといいます。

旅について語り合うワークショップの様子
旅について語り合うワークショップの様子。自身と異なる旅の価値観に耳を傾け、活発な意見交換が行われていました

先述した「宿泊旅行に5万円」「日帰り旅行に1人あたり1万5,000円」の調査結果が示唆するのは、既存の旅の価値観が「ごほうび」的な意味を持つ、特別な体験に留まっているという現状です。しかし旅の障壁が下がれば、それぞれのスタイルや目的に合致した「旅」をかなえられるようになるでしょう。

そして、そんな旅人の千差万別な動機や行動は、関係人口・交流人口の増加を生み、やがて地域活性化にもつながっていくはずです。旅は地域に何をもたらすのか。これからもその可能性を探っていきます。

集合写真


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