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人口減少を食い止める?“お試し居住”で地域の魅力を発見する ──神奈川県「三浦トライアルステイ」の取り組み(前編)

2018年05月16日



人口減少を食い止める?“お試し居住”で地域の魅力を発見する ──神奈川県「三浦トライアルステイ」の取り組み(前編) | あしたのコミュニティーラボ
多くの地域が若年世代の人口減少に頭を悩ませる一方、自然を求めて地方移住を考えたり、二拠点居住で新しいライフスタイルを探る若者も増えている。そのきっかけづくりとして取り組みが活性化しているのが“お試し居住”。埼玉県秩父市や神奈川県箱根町、横浜市金沢区など、国内の複数の自治体で募集が行われている。

神奈川県三浦市もそんな自治体の1つだ。三浦市では、市内ツアーや交流会で地域住民と触れ合いながら新しいライフスタイルの選択肢を検討できる「三浦トライアルステイ」を2015年から実施。地元と移住希望者の「交流」に重きを置いたプログラムと、そこから生まれる新たな地域との関係性について、三浦市、トライアルステイ参加者の双方に話を聞いた。前後編でお送りする。

人生の“転機”に選択する、新しい働き方・暮らし方──神奈川県「三浦トライアルステイ」の取り組み(後編)

空き家を活用した“お試し居住”で移住のきっかけづくり

三浦半島の南端、神奈川県三浦市。三崎港で水揚げされる「三崎マグロ」はブランド化されて久しく、「三浦ダイコン」も古くからの名産品だ。東京湾、相模湾に囲まれた海のまちで、荒井浜海岸、油壺、城ヶ島などを有し、海水浴、ヨット、フィッシングといったマリンスポーツを楽しむ観光地としても知られる。流域の生態系が源流から干潟まで丸ごと自然のまま保全されている関東唯一の森林「小網代の森」(70ヘクタール、1.2㎞)はほかにない貴重な自然資源だ。

三崎港界隈には飲食店が軒を連ね、観光地としての賑わいを見せる
三崎港界隈には飲食店が軒を連ね、観光地としての賑わいを見せる

三浦市の人口は4万3,000人強(2018年3月現在)。1995年の5万4,000人をピークに減少が続いている。一方、観光客数は年間600万人を超え、増加傾向にある。マグロを食べに三崎港を訪れる人が多く、食事券などが付いた格安の「みさきまぐろきっぷ」(京浜急行電鉄が2009年から発売)のヒットも要因の1つとなっている。

しかし、三浦市役所 政策部市長室 室長・徳江卓さんは次のように話す。

「品川駅から終点の三崎口駅まで特急で1時間強と、東京から比較的近いため大半は日帰り観光です。滞在時間が短く、消費金額も少ない。年間600万人も来ていただいているのに、まちの魅力が十分に伝わらず、我々ももったいないと感じていました」

三浦市にとって、それが人口減少とともに年来の課題だった。

徳江卓さん
三浦市役所 政策部市長室 室長・徳江卓さん

澤口大輔さん
同じく市長室で三浦トライアルステイを担当する澤口大輔さん

そこで2015年からスタートさせたのが、空き家を活用した“お試し居住”の「三浦トライアルステイ」。一定期間、滞在することで三浦の魅力を体感し、ひいては二拠点居住や移住を検討してもらう──移住へのきっかけづくりと空き家解消をねらったプログラムだ。初年度は神奈川県の地方創生大学連携事業の一環として、三浦市が東洋大学、R不動産株式会社とともに実施した。

3年度目のトライアルステイが2017年11月から2018年3月にかけ4期に分けて行われた。

三浦市で募集された3年度目のトライアルステイの条件および注意事項(三浦市ホームページより抜粋)
三浦市で募集された3年度目のトライアルステイの条件および注意事項(三浦市ホームページより抜粋)。11月に1期がはじまり、続けて2期(12月〜)、3期(1月〜)、4期(2月〜)が実施された

参加費(事務手数料)は3万円。これとは別に参加保証料2万円(費用弁済が生じなければ退去時に返金)、火災保険料1万5,000円(入居時に1年分を支払い、退去後に日割り計算で返金)が発生する。滞在できる日数はフルで1カ月、最低限10〜14日(期間による)は滞在することとされている。

また、期間中の交流イベントと市内ツアーは参加必須のほか、トライアルステイで使用する物件(移住時に入居できる物件とは別)は参加者の属性に合わせ事務局が選定する。洗濯機、冷蔵庫など最低限の家電は配備されているが、設備の状況は物件ごとに違う。寝具や日用品は各自で用意する。

トライアルステイ実施の様子(画像提供:三浦市役所)
トライアルステイ実施の様子(画像提供:三浦市役所)

1カ月住み続けても10日間の滞在でもいい敷居の低さ

神奈川県川崎市在住の塚崎淳司・奈々恵さん夫妻は2018年2月16日〜3月18日の週末を利用して三浦トライアルステイに参加した。結婚2年目。「ゆくゆくは自然が豊かでゆったりした環境で暮らしたい」(奈々恵さん)との希望で応募した。

トライアルステイの物件は三浦海岸駅近くの海の見えるマンションだ。金曜日の夜に訪れ、土日を三浦で過ごす生活を約1カ月続けたことになる。勤務先は2人とも都内東部で、淳司さんが台東区谷中、奈々恵さんが江東区南砂。通勤時間は現在の自宅からは1時間半で、三浦海岸からだと2時間強だから、なんとか通えないこともないが、淳司さんの仕事が多忙な時期だったので週末滞在にした。

三浦トライアルステイに参加した塚崎淳司・奈々恵さん夫妻
三浦トライアルステイに参加した塚崎淳司・奈々恵さん夫妻

「三浦海岸は観光地なのでファストフードやカフェ、コンビニも揃ってますね。早朝に海岸を散歩して、海を眺めながら食べるハンバーガーもふだんと違う味がしておいしかった」と笑う淳司さん。

金田港の朝市に出かけたり、ぶらぶら散策してカフェで休んだりして、夫婦でのんびりした週末を満喫した。交流イベントや市内ツアーをナビゲートする地元の人たちとの交流も楽しんだ。

奈々恵さんは「最初に紹介されて行った居酒屋さんがけっこう衝撃的でした」と振り返る。「お通しが5品も出て。地域の人たちが、とれすぎた野菜や魚を持ち寄ってくれるそうです。それだけでお腹いっぱいになっちゃうほどでした」。

淳司さんもこう話す。「トライアルステイに参加していると言ったらそこのマスターがいろいろ教えてくれました。“三浦は漁港で栄えたまちで、外から来た人たちが行き交う場所だったので、ムラ意識も薄くオープンな土地柄だから、移住者には住みやすいと思うよ”と。確かにそんな印象を受けましたね」。

三浦トライアルステイのしくみは「とても良い」と淳司さんは思った。とりわけ「1カ月丸々でも、10日間だけでもOKという敷居の低さ」が参加しやすい。いきなり移住となるとハードルは高いが「二拠点居住ならできるかもしれない」。夫婦そろっての感想だ。

「会社ではマネジメントをしているので、在宅勤務もできなくはありません。Skypeで会議もできるし。個人的にはなるべくそうしたい。たとえば週に3〜4日は三浦で仕事をするとか」と淳司さん。二拠点居住は、働き方と暮らし方を同時に望ましく変える機会でもあるだろう。

地域住民が率先してトライアルステイ参加者をサポート

3年度目の今回(2017年11月〜2018年3月実施分)から、市民グループが提案して自主的に三浦トライアルステイに協力しはじめた。古道具店の店主夫妻、塗装業、不動産業、横須賀市役所勤務の人たち5名で構成される「MISAKI STAYLE(ミサキステイル)」のメンバーだ。交流イベント、市内ツアーの企画・実施し、参加者の入退去時の立会い、困りごとの相談などにのっている。古道具店では私設移住相談所も開設した。

淳司さんは「MISAKI STAYLEのメンバーはお世辞じゃなく本当に親切な方たちばかり。地元の人たちがこのプログラムを支えているのがすごくいいことですね」と話す。

塚崎さん夫妻は三浦の土地柄はもとより、「人との交流」に魅力を感じたと話す
塚崎さん夫妻は三浦の土地柄はもとより、「人との交流」に魅力を感じたと話す

三浦市役所の徳江さんも「市民の方々がトライアルステイに関心を寄せて協力いただけるのはありがたい。参加者の日誌を見ても“MISAKI STAYLEの人たちがいたおかげで安心して滞在できた”との声が多く好評です」と、官民連携の手応えを感じている。

これまで3年間のトライアルステイ参加者は59組、116名。そのうち2018年4月現在で1組が移住を決め、2組が二拠点居住をはじめている。横浜市から移住した一家は勤務先も横浜だが、始発の三崎口駅から座って50分程度で通勤できる。トライアルステイ中に土地を探して家を建て、移住後に第二子が生まれた。三浦市は保育園の待機児童ゼロ。自然に囲まれて子育てするにはうってつけのまちだろう。

後編ではトライアルステイに参加して二拠点居住を決めた杉本篤彦さん、三崎港でドーナツ店を営み地域活動にも取り組む藤沢宏光さんに話を聞き、三浦という地域の魅力をさらに掘り下げ、新しいライフスタイルの可能性を探る。

人生の“転機”に選択する、新しい働き方・暮らし方──神奈川県「三浦トライアルステイ」の取り組み(後編)へ続く


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