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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

オープンデータ発、鯖江から世界へ
——データシティ鯖江

2013年05月14日



オープンデータ発、鯖江から世界へ<br />——データシティ鯖江 | あしたのコミュニティーラボ
行政のもつデータを公開してアプリ開発に活用しよう。全国の学生からまちおこしのプランを募集しよう――そんなアイデアを市民が提案して、どんどん実現している町がある。福井県鯖江市だ。市民が主役のまちづくりはどのようにして芽生えたのか。

メガネフレームの世界的産地から、新たな息吹

福井県鯖江市といえばメガネフレームの産地として世界的にも有名だが、今また新しいムーブメントの発信地として注目を集めている。

名づけて「データシティ鯖江」。公共機関がもつさまざまなデータを使いやすい形で広く公開し、市民が活用できるようにする「オープンデータ」に市を挙げて取り組んでいるのだ。自治体としては全国に先駆け、しかも市民からの提案ではじまった。

きっかけをつくったのは、鯖江市に開発センターを置き、主にモバイルのソフトウェアを企画開発している株式会社jig.jp(ジグジェーピー)の代表取締役社長、福野泰介さん。そもそものはじまりは、ウェブの発明者であるティム・バーナーズ=リーが1994年に創設した、ウェブ技術の標準化と標準仕様の普及促進をめざす国際コンソーシアム「W3C(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム)」に、同社が参加したことだった(2010年)。福野さんは、こう振り返る。

株式会社jig.jp(ジグジェーピー)代表取締役社長 福野泰介さん

「国際会議に行って話を聞いてみると、本来ウェブでやりたかったことが、まさにオープンデータだ、と。人間が生み出すあらゆる知恵を集約できるのがウェブのすばらしさだから、そのために企業が利害を超えて集まり、あしたのウェブについてみんなで考えていこう――そんな組織のあり方に、すごく感動しました。ティム・バーナーズ=リーがイギリス政府と連携してオープンデータに取り組んでいると聞いて、なるほど、そういう動きはありだな、と思ったんです」

イギリスやアメリカに比べて、日本は行政のオープンデータ化が圧倒的に遅れている。ならば、まず地元の鯖江で先陣を切ろう、と福野さんは考えた。そこで2010年12月、W3C日本マネージャーの一色正男慶應義塾大学教授ともに牧野百男鯖江市長に「データシティ鯖江」を提案したのだ。

一方、自治体としても、市民からの先進的な提案を受け入れる土壌があった。鯖江では90年代に二度、体操競技の世界大会が開催され、延べ3万人の市民ボランティアが協力。これをきっかけにNPO活動の芽も育まれていった。2010年3月には、市民の参加と恊働によって夢と希望のある町をつくろうと、市民提案による「鯖江市民主役条例」が制定された。この第10条「市民と行政の情報共有」に「市は、積極的な情報公開や情報提供の運用を進めるとともに、市民の間で情報の共有化、活用を図るよう努めます」とある。

鯖江市政策経営部情報統括監 牧田泰一さん

鯖江市政策経営部情報統括監の牧田泰一さんは、「牧野百男市長は、ITによるまちづくり、市民との情報共有には熱心です」と語る。「2006 年からスタートしたブログは毎日のように更新していますし、Twitter、Facebookはもちろん、最近ではUstreamも市長自ら発信していますよ。ITを漆器、繊維、眼鏡に次ぐ鯖江の第4の産業にしたいとの思いもあります。市民の皆さんの参加と協働をさらに促進することになるであろうオープンデータは、その起点です」。

市民からの提案で条例が生まれ、その具体化も市民からの提案ではじまった。どうやら鯖江では、市民のリードするまちづくりが芽吹いているようだ。

「鯖江=オープンデータの町」として

福野さんが提案したのは、XML形式で行政データを公開すること。通常のウェブページに使われるHTMLよりも汎用性が高い形式で、公開データをさまざまに加工処理しやすく、スマートフォンのアプリケーションソフトなどウェブ上で多面的に活用できる。データの修正も、管理者である市のサーバで行えば、そのデータを利用しているアプリ作成者が変更しなくても自動的に修正される。

2012年1月、手はじめに鯖江市内のトイレ情報をXML形式でオープン化。その後、人口や気温などの統計、避難所やAEDなどの公共施設、観光・文化財に地図など、24種類の情報を行政がオープンにし、それに基づいて、福野さんを中心とする市民が38種類のアプリを作成した。

市のオープンデータを元にしたトイレ検索アプリ「トイレこんしぇる」

たとえば「災害時の避難所の位置、ルート」アプリでは、GPS機能を利用して、現在地から最寄りの避難場所までの最短ルートが表示される。行政のデータを市民が活用して作成した、スマホなどのモバイルデバイスで使えるアプリだ。

こうして鯖江は、オープンデータないしオープンガバメントの先駆けとして全国的に名を馳せ、「オープンガバメントサミット」や「オープンデータハッカソン」などの開催地となり、2013年3月には「オープンデータ流通推進コンソーシアム利用・普及委員会」の最優秀賞、Google賞を受賞した。

だが、今はまだ第一歩を踏み出したにすぎない。「こんな行政データをXML形式でオープンにすれば、こんなアプリができますよ」と実験的に提示しているだけだ。次のステップについて福野さんはこう展望する。

「今までは、たとえば観光案内のサービスでも、行政がお金を出してパンフレットなどをつくっていました。これからは、行政はもっている情報だけをオープンデータ化すれば、観光アプリなどのサービス提供は民間に任せられます。すると、民間ではビジネスが広がり、行政はコストダウンできる。もう一つの利点は、仮に鯖江市と福井市が同じ形式でオープンデータ化していれば、それに基づいて作成したアプリも、仕様をほぼ変えずに横並びで使えること。オープンデータが広まると同時に、アプリも横展開できるのです」

鯖江市を起点にしたオープンデータへの取り組みは、会津若松市、流山市、金沢市、横浜市など、じわじわと広がりはじめている。日本中の市町村が同じ形式でオープンデータ化すれば、アプリの市場規模も全国的に拡大するわけで、ビジネスとして大いに可能性が出てくるわけだ。

福野さんいわく、「課題はスピードがどこまで上がるか」。

「鯖江市は市民主役条例のこともあって、提案したその場で決まっちゃいましたけど(笑)、なかなかそういう自治体はないと聞いています。やはり大切なのは、地元の人の熱意なんですよ。行政と市民が良好な関係を築けるところは、オープンデータ化が進むと思う。なので、地元を少しでも盛り上げようと思っている人には、鯖江のモデルをまねしてみたり、オープンソース化しているいろいろなアプリをぜひ使ってみてほしいですね」

jig.jpでは地域のコミュニケーションアプリも展開している
(写真は鯖江の”ご当地おたすけアプリ”「教えて!おとうちゃん」)

地元の学生が刺激を受け、やがて主役になってほしい

鯖江は学生が集う町でもある。オープンデータに関するイベントではもちろんのことだが、ほかにも、町が若さで活気づくプロジェクトが目立つ。京都精華大学を中心とする近隣の学生たちが1カ月、古民家に滞在して創作活動をする「河和田アートキャンプ」(2005年~)。全国から集まった学生が鯖江に2泊3日で滞在し、〈市長になったつもり〉で練り上げたまちおこしプランを市民の前でプレゼンする「鯖江市地域活性化プランコンテスト」(2007年~)。

福野さんも審査員の一人になっている鯖江市地域活性化プランコンテストもまた、市民起点のプロジェクトだ。企画したのは、NPO法人エル・コミュニティ代表の竹部美樹さん。生まれ故郷の鯖江から東京の大学に進学し、ITベンチャーや新卒採用コンサルティング会社で働いたのち、Uターンした。

NPO法人エル・コミュニティ代表 竹部美樹さん

「仕事がつまらなくなり、自分は何をしたいのか考えたとき、鯖江だなと思ったんですね。市長のブログを見て図々しくコメントを書いたりしていたし、福野さんの会社の話も父から聞いていたので、鯖江がおもしろい動きをしていることは気になっていました。それで、いきなり市長にアポを入れて会いに行って……。実家の店がある商店街が、久しぶりに歩いてみたら寂しい感じになっていたり、そういう状況も目の当たりにしていたので、鯖江を盛り上げる企画を立てて提案したんです」

竹部さんは前職のおかげで、ビジネスプランコンテストの企画運営ノウハウと学生のネットワークをもっていた。そのスキルを活かしたプランに市長が乗った。「市長をやりませんか?」というキャッチコピーもウケた。

鯖江市地域活性化プランコンテストの説明会の様子(提供: 竹部美樹さん)

エントリーした学生を書類と電話面接で選考し、鯖江へは自費で来てもらう。竹部さんの熱意に、商店街や商工会議所、地元企業も協賛した。コンテストで出されたプランは実現可能性を重視して審査し、机上の空論には終わらせない。約2万本の眼鏡をつなげた「めがねギネス」でギネスブックの記録を更新――これが第1回で実現したプランだ。学生、市民、眼鏡業界が一丸となった。


1万6,530個のメガネをつなげて2,011メートルを記録し、ギネス記録に認定された(提供: 竹部美樹さん)

「コンテストの運営スタッフは地元の学生です。刺激を受けてほしい、私が東京でそうだったように。そしていつかは、自分たちが主役になって企画を立ててほしいんです。そのサポート役ができたら」と、竹部さんは思いを込める。

京大、慶大、早大、東大をはじめ、これまで117人の学生チームが鯖江市地域活性化コンテストに参加し、実現したプランは8つ。「今年はデータシティ鯖江も絡んだ、おもしろい企画が出てくるはず」と、福野さんも期待している。

僕は鯖江から世界を目指します!

1978年生まれの福野さんは石川県白山市出身。父親の転勤で中学3年の時、福井県に移住した。地元の福井工業高等専門学校に通いながら、アルバイトで、早くもソフトの企画開発を手がけていた。卒業後はフリーのプログラマーを経て、高専の先輩2人と起業。2003年にjig.jpを創業し、携帯電話からパソコンサイトを閲覧するブラウザをリリースしてヒットを飛ばす。その頃、鯖江出身のIT起業家、株式会社サイバーエージェントの藤田晋社長が福井県で講演し、福野さんもディスカッションのパネラーとして呼ばれた。

「藤田さんは〈東京に行って刺激を受けろ〉と。でも、福井の若者としては〈わかりました〉と言うわけにいかないと思ったので、〈僕は鯖江から世界を目指します〉みたいなことを言ったら、あとでたくさんの経営者の人たちが〈よくぞ言ってくれた!〉と声をかけてくれました。その時に初めて、福井にもおもしろい人がいることを知り、いろんな業界の人たちとつきあうようになりました。それが今につながっています」

福野さんは、今も折を見ては福井高専に顔を出し、母校の後輩を気にかけている。その一人、福井高専電子情報工学科の山腰貴大さんは、サークルで制作したアプリ「鯖江の野望」によって、鯖江市主催の「WEBアプリコンテスト2012」で最優秀作品賞を受賞した。福井県の各市町村が特産品を武器に競うカードゲームで、プレイヤーは鯖江市の代表としてほかの市町村と戦う。

鯖江市の特産品をカードに見立て、それを武器に他の市町村と戦うウェブアプリ「鯖江の野望」

「コンテストに出品された方々のアプリを見て〈データシティ鯖江〉の先進性に気づき、関心が芽生えてきました。さらに、鯖江で開かれた〈電脳めがねサミット〉で、数々の電脳めがねとオープンデータを組み合わせたアプリを見ることで、よりいっそう関心が深まりました。町の名所やWi-Fiスポットなど、知っていると便利だけれど集めづらい情報を自治体が集め、アプリに組み込めるようにオープンデータ化するのは、開発者とユーザーの双方にとって有意義だと思います」。そう話す山腰さんは、卒業研究に予定している早期プログラミング学習教材に鯖江市のオープンデータを組み込めないか検討中だ。

鯖江市のランドマーク「めがね会館」の前で

東京に行かなくても鯖江に刺激はある。いやむしろ鯖江にしかない刺激がある。市情報統括監の牧田さんは、「牧野市長からは、常々“閉塞感がある時代だからこそ、失敗しても良いからどんどん実験的な新しいものに挑戦しろ”と言われています」と力を込める。福野さんは「100年ちょっと前に〈メガネをつくるぞ!〉と言い出して世界有数のメガネ産地をつくりあげたのは、かなりスゴいことだと思う。たぶんシリコンバレーに近い状況があったわけですよ」と笑う。実は生まれ故郷が嫌いだったという竹部さんは、地域活性化コンテストの活動に没頭するうち、すっかり鯖江を好きになった。他県から移り住んだ福野さんも、〈東京へ行け〉の一言をきっかけに、かえって地元の良さを再発見した。住んでいる町を好きにならなければ何もはじまらない。すべてはそこからはじまる。

データシティ鯖江(鯖江市HP) http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview.html?id=11552
株式会社jig.jp http://www.jig.jp/
鯖江市地域活性化プランコンテスト http://sabae-plancontest.jp/


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