創造的関係性をつくりだす「グラフィックカタリスト」プロジェクト

カタリストとともにビジョンを「見える化」する──元気会横浜病院の取り組み(前編)【グラフィックカタリストPJ(3)】

2017年12月25日



カタリストとともにビジョンを「見える化」する──元気会横浜病院の取り組み(前編)【グラフィックカタリストPJ(3)】

JR中山駅から車でおよそ5分、公園や動物園など、自然の多い地域に「医療法人社団 元気会横浜病院」はあります。医療と介護の両面から患者さんをサポートする、医療療養型と介護療養型の病床を持つ指定療養型医療施設です。そんな元気会横浜病院のもっぱらの課題は「法人の理念や価値観を共有できる人材採用の難しさ」でした。この課題解決に乗り出したのが、グラフィックカタリスト・ビオトープ(GCB)。
GCBがプロジェクトに入ることで、どのような「創造的関係性」が生まれたのでしょうか。GCBメンバーの松本花澄さんが牽引した同プロジェクトの模様を、2編(前編=プロジェクト発端の背景、後編=プロジェクトメンバーによる座談会)に分けてお伝えします。

医療現場の難題をグラフィックレコーディングと対話で解決する!?──元気会横浜病院の取り組み(後編)

81年に創立——治す医療から、支える医療へ

「今までは“治す医療”が中心でしたが、高齢者の方であればなかなか病気が治らず長期化するケースも生じます。そのとき必要なのは、病気を抱えながらいかにその人らしく生きていくのか——すなわち“支える医療”です。だからこそ我々は “心を元気にする病院”という病院理念を掲げています」

そう話すのは元気会横浜病院の北島明佳理事長です。

元気会横浜病院
元気会横浜病院。県立の公園が隣接する

元気会横浜病院は1981年、一般病床189床を持つ一般病院として創立されました。85年に同病院の院長になった北島理事長の父・北島淳氏は、以降、高齢者医療に尽力。当時、老人慢性疾患患者の入院率が一定の基準を満たした病院を「特例許可老人病院」と位置づけていました。元気会横浜病院が「特例許可老人病院」の認可を取得したのは88年のことで、ここから横浜市内でははじめて高齢者医療に取り組む病院としての歩みをはじめました。

現在、元気会横浜病院は、介護保険適用と医療保険適用、精神療養病棟、計326床を持つ指定療養型医療施設として、医療と介護の両面で患者さんやそのご家族を支えています。

病院の病床区分
病院の病床区分。元気会横浜病院は赤字の医療療養型と介護療養型の病床を持つ指定療養型医療施設

「医師は病気を治してこそ——それはある一面ではその通りですが、高齢者にとってそれがすべてではありません。かぎられた人生の大切な時間を、医療と介護の両面から支えることが必要です。たとえば、少しでも口から食事を摂れるようになるなど、その方の可能性を見つけ、多職種でアプローチしています。それが“支える医療”です。しかし、そのような役割が求められているという認識を持つ医師は、そう多くはいません」(北島理事長)

それは、なぜなのでしょうか?

医学部に6年間通った後、医師国家試験を経て医師になることができます。さらに、国家試験合格後は大学病院や市中にある総合病院などでの2年間の初期臨床研修を経て、各診療科に進みます。

北島明佳理事長
医療法人元気会 横浜病院 北島明佳理事長

「総合内科、呼吸器、循環器、消化器……といった具合に臓器別に専門が分かれ、その専門性を追求していくのが主流です。また、病気の完治を目指すことにやりがいを持つ医師が多いので、支える医療である慢性期医療に対する関心は低いのです」(北島理事長)

2回のディスカッションで病院のビジョンを可視化

超高齢社会を迎えた日本において、元気会横浜病院のような療養型病院のニーズはこれからますます高まります。北島理事長はこうした課題解決に先立って、患者に対するサービス向上はもちろん、人材確保と病院内での教育体制強化にも努めてきました。

それでもなお、「うちのような病院があることすら若い方には知られず、縁あって入ってきたとしても、価値観を共有できず辞めていってしまう方が多かった」と北島理事長。「だからこそ、当院の理念やビジョンを共有し、同じ目的実現を目指すことができるスタッフに集まってもらいたい、と常々考えていました」。

人材確保の困難、そして入職後のミスマッチ解消にあたり、解決策の1つとして選んだのがグラフィックレコーディング(以下、グラレコ)を活用した取り組みでした。そうして発足した本プロジェクトを担当したのは、GCBの松本花澄さん、そして医師・コンサルタントである三島千明さんです。

松本さんたちは2017年夏、2回にわたって元気会横浜病院に出向き、ビジョンの可視化&グラレコを活用したディスカッションを企画しました。

北島佳苗さん
横浜病院の理事で、広報を担当する北島佳苗さん

最初のディスカッションテーマは元気会横浜病院の「ビジョンの可視化」。松本さんらは、北島理事長の妹で採用や広報を務める理事の北島佳苗さん、経営企画室にも所属する中村大輔医師とのディスカッションを実施しました。具体的には、場の意見を抽出する発散フェーズと、1枚のビジョンにまとめていく収束フェーズに分け、松本さんがグラレコで、ビジョンマップを作成しました。

ビジョンマップ
1回目のディスカッションで松本さんが描いたビジョンマップ

続いて行われた2回目には前回メンバーに病院スタッフ10数名が加わり、再びディスカッションを実施。ここでは中村医師に関するエピソードと、スタッフによる「外から見た中村先生」を可視化しました(前編にて後述)。元気会横浜病院の理念を表す“1枚絵”も作成しました(後編参照)。

病院の理念を体現する医師、救命医療の現場で行き着いた「これからの医療」

理念を共有できる医師を採用するために、2回目のディスカッションで可視化の対象となった中村先生は、医師になる前は大学病院のリハビリ課で作業療法士(日常動作や日々の生活を通じて身体と心のリハビリテーションを行う専門職)として仕事をしていました。

「作業療法士ですから、病気になった患者さんがさらに元気になれるように──例えば再び仕事に復帰できるように──するのが私の仕事です。しかし患者さんの治療方法やその後の方針を決めるのは基本、医師。入院や外来受診のときに感じたことがあるかもしれませんが、かぎられた時間のなかでの医師・患者間のコミュニケーションは難しいものです。患者さんの思いを汲み取り、その思いをかたちにすることは、作業療法士という立場ではハードルが高すぎると思うようになりました」(中村先生)

その後中村先生は医師になることを決意し、医学部に入学。医師となり救急医として働くなかで1つの問題に直面しました。それが先述した北島理事長の話にもあった通り「大学や初期臨床研修では“支える医療”ではなく“治す医療”、つまり病気を治すことにしかフォーカスが当たらない」というものでした。

「そこで感じたのは、病院側から提供するものと、患者さんが求めていることのズレでした。病院側はできる治療を提案し、それを聞かされた家族は了承せざるを得ない状況におかれます。患者さんのこれまでの思いや家族の気持ちが置き去りになり、冷静になったところで初めて、コトの重大さに気づくケースを目の当たりにしてきました。患者さんや家族の理解度に合わせて、1人ひとりに合った医療に携わりたい、と考えるようになったのです」(中村先生)

中村大輔さん
元気会横浜病院の医師で、経営企画室の中村大輔さん

「たとえば、救急車を呼ぼうと思ったということは『危ない病気ではないか』と『不安になるから』ですよね。ならば、不安にならないようにするために医師はどうあればいいのか。そうして行き着いたのが療養型病院です。療養というと急性期病院の後ろを指しますが、私からすると急性期病院の手前に療養型病院があります。発症しないようにすることのほうがむしろ大切です。病気が起こる前の質、つまり療養期の質を高めることができれば、その人がその人らしく人生の終わりまで過ごせるはず。そこにやりがいを感じました」(中村先生)

「こういうことがいいたかった!」という感動があった

そうした想いは正に元気会横浜病院の理念と合致していたものの、周囲からは「療養型病院に行くなんてもったいない」なんて意見も……。さらには反対する声も聞かれました。しかし中村先生は大きな志を持っていざ、元気会横浜病院へ入職。それ以降、療養型病院の医師として、経営企画室のメンバーとしても活躍しています。

そんな中村先生の生き方を可視化の対象にすることで、共感する医師を見つけたい。そんな考えに至りました。こうして2回目のディスカッションで松本さんが描いたグラレコが、下の写真です。

グラレコ
「中村先生のキャリアや想い」「病院スタッフから見た中村先生」をもとに可視化されたグラレコ。「想いをひたすら可視化してもらうことで、見えてきたものがありました」(中村先生)

病院のビジョンの可視化、そしてそれを体現する中村先生——。このたびのプロジェクトについて、北島理事長はこう振り返ります。

「とにかく話が止まらなくなる場でしたね。自分たちが伝えたかったことを松本さんが端的に絵で表現してくれる。絵が進むたびに“そう、こういうことがいいたかった!”という感動がありました」(北島理事長)

グラフィックレコーディングパネル
3人が特に気に入っているグラフィックレコーディングパネルをピックアップ

松本さんのグラレコは大きな額縁に入れられ、院内できちんと保管されています。ディスカッションへの参加がかなわなかった300名超の病院スタッフも、松本さんのグラレコに興味津々なのだとか。

「理念や想いというのは得てして概念的なもの。だからカタチにしにくく、伝わりにくい。けれどグラレコがあると、そうした理念や想いを常に共有しやすいと感じています」(北島理事長)

・「描く」ことで、誰もが当たり前に想いや願いを表現できる社会の実現にむけて、グラフィックメソッドを発信する
・人と人がつながり、新たな関係性をはぐくむ「カタリスト(触媒)」の価値実証を行う

これは「創造的関係性をつくりだす「グラフィックカタリスト」プロジェクト」発足にあたり掲げたGCBのミッションです。元気会横浜病院での活動は、まさにこのミッションを実行したものだったと言えるのではないでしょうか。

続いて後編では、プロジェクトを牽引してきたGCBの松本花澄さん、医師・コンサルタントの三島千明さんらプロジェクトメンバーに元気会横浜病院の北島佳苗理事を加え、2回にわたるディスカッションを総括していただきます。


医療現場の難題をグラフィックレコーディングと対話で解決する!?──元気会横浜病院の取り組み(後編)


カタリストとともにビジョンを「見える化」する──元気会横浜病院の取り組み(前編)【グラフィックカタリストPJ(3)】

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