医療現場の想いをかたちにする看工連携プロジェクト

ケアの質を高めるカギは現場のひらめきにある!【看工連携プロジェクト(4)】

2018年10月3日



ケアの質を高めるカギは現場のひらめきにある!【看工連携プロジェクト(4)】

あしたのコミュニティーラボでは「医療現場の想いをかたちにする看工連携プロジェクト」をとおして、医療と工業という異なる分野の連携による課題解決の取り組みを追ってきました。このプロジェクトから生まれた“メディカルストロー”を「誤嚥(ごえん)防止用噛むストロー」として応募し、7月11〜13日に東京ビッグサイトで開催された国際モダンホスピタルショウ2018の特別企画「みんなのアイデアde賞」において準グランプリを授賞。今回は「みんなのアイデアde賞」の審査委員および受賞者の声から、看工連携プロジェクトと同様に「現場目線での課題解決を図るアプローチ」について迫っていきます。

「メディカルストロー」が準グランプリを受賞!

2018年7月11〜13日に東京ビッグサイトで開催された「国際モダンホスピタルショウ2018」は、一般社団法人日本病院会ならびに一般社団法人日本経営協会が毎年開催している医療・看護・介護の展示会です。その最終日に、特別企画「みんなのアイデアde賞」の授賞式が催されました。キャッチフレーズは「現場のひらめきをカタチに!」です。

そもそも「みんなのアイデアde賞」は、患者・介護者の治療・ケアに携わる人の着眼から生み出されたアイデアのコンテスト。昨年までの10年間は「看護のアイデアde賞」の名称で企画されていましたが、11回目となる今回から「もっと応募者の間口を広げたい」という思いから、この名称にリニューアルされました。トータルで27団体・35作品の応募があり、審査を経て、グランプリ・準グランプリを含めた7機関が受賞しました。

2018年「みんなのアイデアde賞」受賞機関一覧
2018年「みんなのアイデアde賞」受賞機関一覧

看工連携プロジェクトチームは「メディカルストロー(誤嚥防止用噛むストロー)」を応募し、見事準グランプリを受賞。

「メディカルストロー」について改めて説明すると、これはストローに備わった小さなポンプを口にふくめた状態で“噛む”ことで、水分補給ができるというものです。ポンプには逆流を防ぐ逆止弁が設けられ、寝た状態のまま使用が可能。高齢者に多い誤嚥性肺炎を防げるのはもちろん、嚥下機能の低下した被介護者の日常生活でも活躍します。

プロジェクトチームを代表し、受賞者による作品紹介に登壇したのは、東京工科大学 医療保健学部看護学科長・教授の野澤美江子さん。野澤さんは東京・大田区のものづくり企業とともに看工連携プロジェクトがはじまった経緯を紹介するとともに、受賞作の作品説明を行いました(詳しくはこちらの記事をご覧ください)。

メディカルストロー
メディカルストロー。国際モダンホスピタルショウ2018の「みんなのアイデアde賞」ブースにも出展された

ハードのみならず、ソフト面からの課題解決も歓迎

同賞の審査委員のうちの1人が、医療機関向けの家具・カート等什器・カルテ関連システム等のメーカーである株式会社ケルンの代表取締役社長、堀池聡さんです。

「医療業界はややもすれば閉鎖的と捉えられかねない世界。もっとオープンにならなければいけない、と常々感じています。11回目を迎えた今回は、看護はもちろん介護・福祉の分野の人まで裾野を拡げました。現場のひらめきから生まれた画期的なアイデアを実際のカタチにしていただくことを求めていますが、なにもハンドメイドされたハードウェア作品だけに期待しているわけではなく、現場の困りごとを解決するプログラムのマニュアル化、といった“ソフト面”からの作品もウェルカムです」(堀池さん)

堀池聡さん
株式会社ケルン 代表取締役社長の堀池聡さん

応募者は下記の点についてレポートをまとめ、審査会はケアする側とケアされる側双方の視点から、医療の質向上への貢献度を配慮し評価します。

・作品を開発・工夫したきっかけ・背景
・作品の特徴・改善工夫のポイント
・使用したときの利点・利便・有効性
・実際の現場での使用状況とその評価
・院内安全委員会で事前に検討されたか

「われわれのようなメーカーでは絶対に気づけないような素晴らしいアイデアを、こうした数万人規模の展示会(注:2018年は3日間で8万人が来場)で紹介してきたことで、次々と『うちも参加したい!』というステークホルダーが集まってきています。医療・看護にまつわる問題解決がますます前に進んでいるという実感がありますね」(堀池さん)

看護師たちのDIYで「災害に備える製品」を開発!?

さらに、他の受賞者にも話を伺いました。メディカルストローと同じく「準グランプリ」を受賞したのは、特定医療法人暲純会 榊原温泉病院(三重県津市)による「災害時足踏み式吸引器」でした。

災害時足踏み式吸引器
災害時足踏み式吸引器。足踏み式のため吸引動作も1人で対応可能で、壁掛けタイプのもの(左)、台車に入れた運搬タイプのもの(右)が開発されている

災害発生時に停電が起きたとき、もし復旧作業が長引けば自家発電にも限界がある——。吸引の必要な患者が多く入院している同院の看護師長 小堀輝美さんらは、かねてより「災害発生で停電が起こった際、口腔内・鼻腔内の痰を取る“喀痰(かくたん)吸引器”が使えなくなることで生命の危険性がある」ことに大きな課題意識を持っていたといいます。

災害時足踏み式吸引器は、バランスボールや浮き輪を膨らませるときに使うような市販の空気入れ(ポンプ)の“陰圧”を吸引に利用するというもの。空気入れを足で踏みこんだ際に踏み台が戻りやすいよう、そのための機構としてベッドのスプリングを代用しています。

病院のメンテナンスをする保安係の方とともにDIYでつくり上げた。ベッドのスプリングが使われるなど工夫が施されている
病院のメンテナンスをする保安係の方とともにDIYでつくり上げた。ベッドのスプリングが使われるなど工夫が施されている

「病院の保安係の方に手伝ってもらうなどしながら、基本的には廃材を使ってすべて自分たちの手で自作しました」と榊原温泉病院 看護部長の山下優江さんは話す。

小堀輝美さん、山下優江さん
左から、榊原温泉病院 看護師長の小堀輝美さん、看護部長の山下優江さん

以前、「医療現場の想いをかたちにする看工連携プロジェクト」第1回の記事で、東京北医療センター副センター長兼看護部長 又木満理さんのお話をうかがいました。その際、又木さんは、看護の現場で問題が発生したときの解決手段について「日用品で代用するなど、なんとか工夫してやり過ごしてきた」と話していました。

それは山下さんや小堀さんたちも同じ。今回「みんなのアイデアde賞」への応募は初めてでしたが「院内での予算が限られるなか、われわれ看護師がたびたび物品を購入するわけにはいかない。こうして細かな道具を自作することはこれまでに何度もあった」と小堀さんは話します。

今回の応募と授賞をきっかけに、同院はセクションごとのアイデアを募集し、院内表彰を与える活動もはじまった。

「みんなのアイデアを集めることが組織活性にもつながれば、と思っています」(山下さん)。

諏訪圏のものづくりの力を医療の現場に役立てたい

2018年のグランプリを受賞したのは、諏訪赤十字病院(長野県諏訪市)による「カテーテル受け台」です。2010年4月、NPO諏訪圏ものづくり推進機構内に医療・ヘルスケア機器推進研究会が立ち上がり、同院の「分科会」からの提案を受けるかたちで、地元の精密金属部品加工メーカーの株式会社LADVIK(ラドヴィック)とこの製品を共同開発しました。

「分科会ができたのは2011年のこと。以降の分科会では医療現場で感じる問題をたびたび洗い出し、諏訪圏のものづくり企業の皆さまと製品化に挑んでいます」

そう語るのは、諏訪赤十字病院 第二臨床工学技術課長の丸山朋康さん。

丸山朋康さん
諏訪赤十字病院 第二臨床工学技術課長の丸山朋康さん

あるとき分科会のなかで、技士が患者さんの体内に挿入されたカテーテルを使用し、人工透析などの機械のチューブから脱着する際、接続部分が汚染されてしまうという問題が持ち上がりました。そしてLADVIKらの協力も得ながら10数回の試作・改良を重ね、その課題を解決する器具「カテーテル受け台」が完成しました。

カテーテル受け台
カテーテル受け台。カテーテル接続口を安定的に固定することで、感染リスクを軽減することができる

これまでは、そうした課題が頻出しても「医師や看護師がその場にあるものでなんとか工夫して対処することが多かった」と丸山さんは話します。しかし「ものづくり企業のプロの視点が入ってきたことで、その課題がより高い精度で解決できるようになった」とも述べます。大田区の看工連携プロジェクトとも共通項が多いかもしれません。

なお同院は2017年も「点滴クリップ」という作品を同様のスキームで開発し、第10回「看護のアイデアde賞」でグランプリを受賞。点滴クリップは開発元である有限会社フィットからの製品化にも成功しています。

「諏訪圏にはものづくり企業が密集しているのでつくることは得意。ただこうした医療分野の製品だと営業をかけたり販路を拡げたりするのが容易ではありません。その点、諏訪赤十字病院さんの日本赤十字ネットワークがあれば、創りだされたものが埋もれることなく全国に届けていける点で有利に運べると思います」(NPO諏訪圏ものづくり推進機構 専門アドバイザーの遠藤甲午さん)

NPO諏訪圏ものづくり推進機構 専門アドバイザーの遠藤甲午さん、諏訪赤十字病院の宮坂知宏さん、丸山朋康さん、株式会社LADVIKの川村明さん、榊山豊さん、島﨑修さん
左から、NPO諏訪圏ものづくり推進機構 専門アドバイザーの遠藤甲午さん、諏訪赤十字病院の宮坂知宏さん、丸山朋康さん、株式会社LADVIKの川村明さん、榊山豊さん、島﨑修さん

全国に拡がる看工連携の着火点は“現場の想い”

「災害時足踏み式吸引器」を開発した榊原温泉病院、「カテーテル受け台」を開発した諏訪赤十字病院、そして「メディカルストロー」を開発した大田区看工連携チーム。

開発までのスキームには違いがありますが、患者さんのために医療・看護の課題を「解決したい!」という“現場の想い”が開発の着火点になっていることに変わりはありません。その想いの火が大きければ大きいほど、そのあとの共創プロセスに集まっている人の輪もまた大きくなっていくでしょう。

大田区看工連携チーム
大田区看工連携チーム。写真左から、ライズアップの西尾洋一さん、富士通の井上拓也さん、ライズアップの倉田優さん、東京北医療センターの又木満理さん、東京工科大学の野澤美江子さん、大田区産業振興協会の吉田孝次さん、和久稲朝太郎さん

本プロジェクトがきっかけとなり「看工連携」という用語が、医療・健康・介護がテーマのWEBメディア『日経デジタルヘルス』に掲載されました。

次回はプロジェクトの最終回として、「看工連携」のような現場発のイノベーションをより拡げていくためにどうすればよいのか、ともに考えていきます。お楽しみに!


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