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新しい文化を社会へ広げていくためには? FabLab Setagaya 1st Anniversary Meetup ! から見えた「ファブ」の未来

2018年03月05日



新しい文化を社会へ広げていくためには? FabLab Setagaya 1st Anniversary Meetup ! から見えた「ファブ」の未来 | あしたのコミュニティーラボ
あしたのコミュニティーラボ編集部の山本寛人です。突然ですが、みなさん、FabLab(以下、ファブラボ)というものづくりスペースを知っていますか? ファブラボは3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機器を使い、個人が自由な発想でものづくりに取り組む実験工房のことです。

ものづくりが企業のなかに閉じられることなく、広く世界に開かれ、誰もがものづくりをして多様なアイデアが世界に形になって現れる世界を体現する場、ファブラボ。しかし、一般の人々にとってはまだまだ足の遠い場所なのかもしれません。

今回、「FabLab Setagaya 1st Anniversary Meetup !」という、ファブラボ世田谷の一周年記念イベントの取材を通じて、ファブラボという1つの新しい文化が社会に開かれていく際に必要な3つのポイントを考えました。ファブラボを多面的に分析した各セッションの振り返りを通じてお伝えしたいと思います。

初心者を許容する

ファブラボが社会に開かれるためには、まずその場が持続的に存在し続けることが重要です。

日本初のファブラボである、ファブラボ鎌倉の代表を務める渡辺ゆうかさんからは、ファブラボ関係者が世界中から集うファブラボ国際会議に参加した経験から見えてきた、ファブラボが社会に存在し続けるために必要なことについてのお話を聞くことができました。

ファブラボ鎌倉 代表 渡辺ゆうかさん
ファブラボ鎌倉 代表 渡辺ゆうかさん

ファブラボは大学などの教育研究機関や地域のコミュニティセンター、文化施設に併設されたり、NPO/NGO、あるいは企業・個人が運営したりと、さまざま運営形態を持ちます。そのなかには、残念ながら運営を継続できないラボも存在します。渡辺さんによると、そのようなラボは「補助金や助成金など期間限定の資金で運営されており、自立したビジネスモデルを持っていない状態」と言います。

さらに渡辺さんは、場の継続性が重要であることのほかに、「初心者も許容することが大切」だと語ります。初心者やなじめない人の存在を認め、彼らを受け入れることでファブラボは広く社会に開かれていくのです。

では、初心者を巻き込んでいくためにはどうすれば良いでしょうか。そこで重要になるのは、ユーザーの日常生活の延長線上にファブラボの文化を置き、一部でもいいので自分でつくる喜びを知ってもらうこと。

たとえば、渋谷や銀座のロフトには「Loft&Fab」というスペースがあり、ロフトで購入した商品を自分で加工することが可能です。ものを1からつくる必要がなく、また自分だけのオリジナリティと愛着を感じられ初心者の一歩として、すばらしいしくみです。

また、「ロフト」という日常的に赴く場所にファブスペースを置くことで、自然な形でファブの文化に触れてもらうことができます。このように、初心者やまったく興味のない人の生活の延長線上に新しい文化を位置づけ、小さな一歩を歩んでもらうことで彼らを取り込んでいく試みが有効なのではないでしょうか。

共通する関心事に駆り立てられ、仲間を増やす

3Dプリンターなどを駆使し、ラボで生まれるビジネスの種を育て、ビジネス化する試みを行う株式会社DiGINEL(デジネル)の代表取締役 原雄司さんからは、ファブラボで生まれるビジネスの種を育てていく際に、大切なことについて伺うことができました。

株式会社DiGINEL 代表取締役 原雄司さん
株式会社DiGINEL 代表取締役 原雄司さん

「ファブラボからビジネスをつくる際に重要なのは、テクノロジーを使うことが目的ではなく、こんな課題が解決できる、おもしろいことができるという手段として活用することが大切だ」と原さんは話します。

会場で出会った参加者の東方秀樹さんはヨーヨー好きが高じて、自分でヨーヨーグッズを自作し販売。結果的には、6カ月で500個を販売しました。

東方さんは、好きなものに突き動かされたアイデアを形にした結果、共感を生み、個性的なものを生み出しています。また、デジネルさんのスタッフ12名のうち、10名はパラレルワークをしている方だと言います。マルチキャリアを許容することで、多様な人材の個性を活かすことに成功しています。

会場にファブラボなどでつくった製品を展示していた東方秀樹さんと東方さんが販売する自作のヨーヨーグッズ
会場にファブラボなどでつくった製品を展示していた東方秀樹さんと東方さんが販売する自作のヨーヨーグッズ

このように、多様な人材を活かしながら、メンバーが共感する共通の課題やおもしろさを軸にプロジェクトを進め、テクノロジーを手段として用いてビジネスをつくっていくことがファブ(ものづくり)を活かしたビジネスには大切だと考えます。

イベントを利用して多様な人々を巻き込む

さらに、ビジネス化を試みた際にはよりよい製品をつくり、広めたいもの。よりよい製品をつくるためには、製品のプロトタイプを生み出し、それを実際に試してもらい、試行錯誤を重ねていくことが大切です。

そのようなアプローチを実践してきた株式会社神戸デジタル・ラボの舟橋健雄さん、山口 和泰さん、川崎重工業株式会社の三島裕太郎さん、富士通総研の佐々木哲也さんの4人が、良い製品やサービスを世に出すために必要なプロセスについてのトークセッションを行いました。

(写真左上から)株式会社神戸デジタル・ラボの舟橋健雄さん、山口和泰さん、富士通総研の佐々木哲也さん、川崎重工業株式会社の三島裕太郎さん
(写真左上から)株式会社神戸デジタル・ラボの舟橋健雄さん、山口和泰さん、富士通総研の佐々木哲也さん、川崎重工業株式会社の三島裕太郎さん

ユーザーにより受け入れられる製品をつくり出すためには、「プロトタイプ」つまり、ある程度仮の状態で、ユーザーからの反応をもらう場が必要で、そんなときにイベントの活用は有効です。佐々木さんも「イベントを活用し、プロトタイプの検証の場をつくり続けることが大切だ」と話します。

神戸で開催されている078を利用したプロトタイプ検証のプロセスを山口さんが紹介しました。

078は都市生活のおもしろみ、心地よさを追求する市民、クリエイター、エンジニアが集い、交わることで創り上げる参加型フェスティバルです。都市で楽しむ「音楽」「映画」「ファッション」に、 社会変化を加速させる「IT」、上質な「食」文化、次世代の「子ども」をテーマとしたものを掛け合わせ、ライブ、カンファレンス、展示会(トレードショー)を組み合わせた実験的・国際的な集約点を目指しています。一般のイベント参加者は音楽や食など思い思いの目的で来場し、その目的は人によって異なります。

コンセプトが複数あるイベントのメリットは、来場時に自分の興味外のコンテンツに触れることで新しい経験を得られることです。ものづくり側からすると、これはさまざまなバックグラウンドをもった来場者をプロトタイプの検証に巻き込むことができるメリットにもつながります。

ものやサービスをつくるときに、その内側にいる人達だけのものに閉じるのではなく、さまざまな目的のもとで集まった人々に検証を促すことで多様な人々にものやサービスを体験してもらうことで、ものやサービスの価値は磨かれていきます。そして、そこにさまざまな人が関わることで、その文化を広く社会へ広げていくことにもつながるのではないでしょうか。

体験してもらうことで当事者意識を醸成する

たくさんの人がファブに興味を持つようになると、ものづくりのハードルが下がることが期待される一方、そのリスクについても考えなければなりません。

ファブの品質保証・責任について考える慶応義塾大学の田中浩也教授、同大学 SFC研究所 増田恒夫さん、同じくSFC研究所で所員を務めながら看護師としても働く吉岡純希さんの3人からは、ファブが社会に広がっていく際の製品の責任について示唆に富むトークセッションが展開されました。

(写真左から)慶応義塾大学 田中浩也先生、慶應義塾大学 SFC研究所 増田恒夫さん、同研究所 吉岡純希さん
(写真左から)慶応義塾大学 田中浩也先生、慶應義塾大学 SFC研究所 増田恒夫さん、同研究所 吉岡純希さん

「近年では、ファブで自分のほしいものをつくるだけではなく、それを販売したいといった人が多い。だからこそ、品質保証や責任について考える必要がある」と田中先生。さらに、製造物の責任を問うPL法は30年前にできたものであり、現状に即していないと指摘します。

「重要なのは責任を誰かに押し付けるのではなく、社会全体で責任やリスクについてコンセンサスを取っていくことです」(田中先生)

ただ、ユーザーが責任やリスクについて、考えるのはたやすいことではなく、そもそも、自分ごと化していない物事の責任やリスクを考える必要性も感じないでしょう。

そこで重要なのはファブに興味のない人でも、小さくても良いから何かをつくり「当事者」になること。体験をしてみることで、つくる側の気持ちや感覚がわかります。新しい人々をコミュニティーに取り入れ、当事者の思いを共有していくことで、責任やリスクについて話す雰囲気が醸成されていくのではないでしょうか。

コミュニティーや文化を社会へ広げていくためには

ここまで、今回のイベントから得られた、閉じられた個人のモノづくりのための場にとどまらずに、ファブラボがより社会へ開かれていくためのノウハウについてご紹介しました。

セッションなどに加えて、ファブラボでつくられた、さまざまなものたちが会場を彩っていました
セッションなどに加えて、ファブラボでつくられた、さまざまなものたちが会場を彩っていました

今回得ることができたノウハウは、新しい場や文化が広く社会に開くために応用可能なポイントが3つあります。

1:初心者やまったく興味のない人を取り込むため、彼らの生活の延長線上に新しい文化を位置づけ、コミュニティーに巻き込んでいく必要性
彼らの生活から乖離した位置に新しい文化や場を置くのではなく、彼らの日常生活のすぐそばで、小さな一歩を歩ませることが大切

2:共通の関心事や課題意識などにより、仲間を増やす
人々が共有できそうな「共通善」を探すことで、多くの人々を結びつけることが可能になり、大きなうねりを生むことができる

3:責任やリスクを全体で考えるために、共感を広げる
共感を広げ、当事者の立場に立つことで、責任やリスクをも内面化することにつながる

これらのサイクルを回し続けることで、新しい場や文化を広めていくことにつながるのではないでしょうか。そんなことを考えた「FabLab Setagaya 1st Anniversary Meetup!」の時間となりました。


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