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障がいのない社会実現のために、私たちがすべきこと──「超福祉展2018」自閉症VR体験ワークショップより

2018年12月26日



障がいのない社会実現のために、私たちがすべきこと──「超福祉展2018」自閉症VR体験ワークショップより | あしたのコミュニティーラボ
あしたのコミュニティーラボ編集部の杉妻謙(すぎのめ・けん)です。今秋(2018年)も11月7〜13日の会期で「超福祉展」が開催されました。あしたラボでは16年、超福祉展の主催者であるNPO法人ピープルデザイン研究所の須藤シンジさんのインタビューを掲載。17年には『「超福祉展2016」の展示から考える』と銘打った関係者座談会を、18年には超福祉展の出展者であるシブヤフォント(『フォントが「ちがいをちからに変える」原動力になるには』)を取材しました。4回目となる今回、私は講師としてワークショップ「超福祉の学校」に参加。現場から当日の模様をお伝えいたします。

文部科学省が主催する共生社会フォーラム

今年も東京・渋谷で「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」(通称「超福祉展」)が開催されました。会期中、メイン会場である渋谷ヒカリエでの出展ブースには大勢の来場者が詰めかけ、渋谷のまちを巡るモビリティツアー等、各種イベントも企画されていました。

文部科学省が主催する共生社会フォーラム
超福祉展のメイン会場(渋谷ヒカリエ8階)の様子

会期の後半となる11月10〜11日の2日間では、サテライト会場の1つである渋谷キャスト「スペース(G階)」において、文部科学省が主催、NPO法人ピープルデザイン研究所が共催するイベント「超福祉の学校 障害のある人とともに学び、つくる共生社会フォーラム」が開催されました。2日間のなかでは6つのワークショップが企画されましたが、私はこのうち2日目の「自閉症VR体験ワークショップ」で香川大学教育学部教授・坂井聡さんとともにワークショップの講師を務めさせていただきました。

香川大学には、障がいのある学生を支援する窓口として「バリアフリー支援室」が設置されています。坂井さんはそちらの室長も務められ、特別支援教育──とりわけ障がい児の教育方法や障がい児のコミュニケーション指導をご専門とされています。

インクルーシブ教育(障がいのある・なしに関わらず、すべての子どもが合理的配慮のもと通常の学級で受ける教育)の実現に向け、富士通は数年前からICT機器を利用した教育支援ソフトの開発等で坂井さんとご一緒させていただいており、最近の取り組みとしては「障がい理解の促進や特別支援教育の専門性向上にVRやテレプレゼンスなどを活用する実証研究」も発表しています。このたびのワークショップでご提供したのは、そうした取り組みのなかで生まれた「自閉症VR体験」です。

文部科学省が主催する共生社会フォーラム
坂井さんとの共同研究プロジェクトから生まれた、コミュニケーション支援ソフト「きもち日記」は超福祉展のメイン会場でも展示しました

共生社会の実現に向けたワークショップ開催

ワークショップ本番。イントロダクションのなかで坂井さんは参加者にこう呼びかけました。「障がいのある・なしにかかわらず、誰もが社会の一員としてお互いを尊重し、支え合って暮らすことを目指す──そんなことを念頭においた『共生社会』の実現に向け、とりわけ日本にはいくつかの社会的課題があります。その1つが障がいに対する私たちの意識の問題です」。

共生社会の実現に向けたワークショップ開催
ワークショップの講師を務めた香川大学教育学部教授・坂井聡さん

先般、内閣府が発表した「障害者に関する世論調査」では、こんな統計データが発表されました。「障害のある人に手助けをしたことがある」と答えた人の割合は約6割。かつ、手助けしたことがない人の“理由”の多くは「困っている障害者を見かける機会がなかった」──。坂井さんは「この結果から見えてくるもの」として、次のように来場者へ語りかけます。

「私たちは学校等で特別支援学級の児童・生徒と接してきたはずなのに、かなり多くの人が『障がい者を手助けした経験を持ったことがない』『困っている障がい者を見かたことがない』という……。これが日本の社会の実状です。私が思うに、これまでの学校教育で決定的に不足しているのは、障がいというものに対する理解ではないでしょうか。そこで今回このワークショップでは自閉症の子どもの日常を疑似体験していただきたいと思います」

共生社会の実現に向けたワークショップ開催
スタッフの介助のもと、参加者1人ひとりがVRゴーグルを装着。自閉症の子どもが見える世界を体験していただきました

VRゴーグルを装着して参加者に体験いただいたのは、自閉症の少年の日常風景です。母親に連れられてショッピングモールにやって来た少年……。しかし母親が用事を済ませるのを待つ最中、突然パニックに陥ってしまいます。なぜでしょうか?

それは少年が“感覚過敏”を引き起こしたから。自閉症とは先天的原因により「対人関係の特異性」「コミュニケーションの質的障がい」「イマジネーションの質的障がい」等の特徴があらわれる障がいとして知られていますが、加えて視覚・聴覚などの感覚が人よりも過敏になることがあります。すなわちVRのなかの少年は、モールのなかに響く誰かの足音、物を落とす音、さらには照明の光……等々の刺激をとても耐え難い「強い光」「大きな音」だと感じてしまっているのです(編者注:映像の制作元であるThe National Autistic Society〈イギリスの国立自閉症協会〉が公開している360°動画はこちらからご覧いただけます)。

体験後の参加者からは「何をしていいのかわからなくなり、不安だった」「心配した母親が話しかけてくれても、注意力が散漫になってしまい、耳に入ってこない」「いつも自分が指導している自閉症の子どもの気持ちがわかったような気がする」などの声が挙がりました。

共生社会の実現に向けたワークショップ開催
VR体験後、参加者にはグループになってもらい、VR体験を通じて感じたことを語り合っていただきました

カタカナを読み書きできない子どもに講じるべき対策とは?

障がいのある子どもたちがやがて社会で独り立ちする。そのときに大切なのは、社会の側が、その子どもたちの特性をきちんと理解してあげることではないでしょうか。坂井さんはVR体験後の講話のなかで「障がいは“そのヒト”にあるのではなく、“社会”の側にある」のだと力説します。

「私のところに相談にやってきた発達障がいを持つ高校1年生の女の子は、世界史と化学だけテストで点数がとれないことを悩んでいました。なぜならば、彼女はカタカナの読み書きが苦手だったのです。従来の教育ならば、指導者は彼女に『カタカナの練習をしよう』と説いていたのでしょう。しかしこれからの教育は違います。カタカナの読み書きと、世界史ができることは本質的に違う。私は彼女の学校の先生に、彼女のテストではカタカナにふりがなを振ってもらうようお願いしました。すると彼女の世界史・化学の点数は飛躍的にアップし、彼女は大学のセンター試験でも合理的配慮(編者注:センター試験では障がい等で受験時に配慮を受けたい場合「受験特別措置」を申請することができる)を申請することとなりました」

カタカナを読み書きできない子どもに講じるべき対策とは?
自閉症VR体験ワークショップの参加者は約40名。坂井さんの講演にも真剣に耳を傾けます

「障がい」との向き合い方は今、こう変わっている

WHO(世界保健機関)では旧来、ICIDHモデル(国際障害分類)というものを用いて「障害」を分類していました。その考え方は「疾病→機能・形態障害→能力障害→社会的不利」の一方通行により、障がい者が社会的な不利を被るというものでした。つまり「疾病」「機能・形態障害」から「社会的不利」までの間に、社会的環境や物理的環境の役割をいっさい反映していなかったのです。

「障がい」との向き合い方は今、こう変わっている
ICIDHモデル(国際障害分類)

しかしICIDHモデルは2001年頃からICFモデル(国際生活機能分類)に改定されました。ICFモデルでは「障害」という言葉を「生活機能が低下した状態」だと位置づけ、主に「心身機能・構造」「活動」「参加」という3要因の相互関係によって引き起こすとしています。すなわち、障がいという問題を「参加できない状態・活動できない状態」も含めてとらえているというわけです。

「障がい」との向き合い方は今、こう変わっている
ICFモデル(国際生活機能分類)

「ICFモデルの考え方に立てば、社会の側が環境を整えれば、障がい者が参加・活動できるようになる。しかしそんな社会を実現するのには、周りの人たちの理解が不可欠です。10人中4人が『手助けしたことがない』なんて社会であってはなりません」

障がいのない社会とは「障がいがある人がいない社会」では決してありません。支援する側に立つべき私たちが障がいのことを今よりもっと深く知り、「相手がどんなことを考えているのか」「その相手が何を苦手とし、何に困っているのか」を考えながら、AIなどの最新テクノロジーの活用も含め、最適な支援方法やサービス提供を講じていく──。そうすることで、本当の意味での「障がいのない社会」が実現されていくのではないでしょうか。

「障がい」との向き合い方は今、こう変わっている
筆者であるあしたのコミュニティーラボ編集部・杉妻謙


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