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【イベントレポート】「自分」を発見する! パーソナル化していくテクノロジーから生まれるものとは?

2019年04月10日



【イベントレポート】「自分」を発見する! パーソナル化していくテクノロジーから生まれるものとは? | あしたのコミュニティーラボ
近年では“IoT”ならぬ“IoB”(=Internet of Bodies)や“IoE”(=Internet of Everything)という言葉も注目されるほど、あらゆるものがオンラインに繋がっています。生体センサーの普及により、自分の身体にまつわるさまざまな情報が収集・記録され、これまで以上に細かなデータを扱えるようになった結果、パーソナルな領域にまでテクノロジーの応用範囲は広がりつつあります。全体最適の発想で世界を席巻するようなテクノロジーではなく、これまでとは異なるごく個人的な視点のサービスやプロダクトが世の中にもっと生み出されていくかもしれません。2019年3月18日、東京・六本木の「EQ HOUSE」で開催されたあしたラボ主催のイベントでは、そんな先駆的活動の実践者3名をゲストとしてお招きし、参加者とともに「パーソナル化していくテクノロジー」について考えました。当日の模様をお伝えします。

メルセデス・ベンツ×竹中工務店の異業種コラボ——「EQ HOUSE」

あしたラボ主催のイベント「『自分』を発見する! パーソナル化していくテクノロジーから生まれるものとは?」の会場となったのは、東京・六本木の「Mercedes me Tokyo」敷地内で2019年3月12日にオープンしたばかりの「EQ HOUSE」(イーキュー・ハウス)。

メルセデス・ベンツの遠藤友昭さんによると、当施設は「メルセデス・ベンツ×竹中工務店」による異業種のコラボレーションにより「人と建築・モビリティとリビングをつなぐ未来を具現化する建築」として建設され、今後も施設内でさまざまなイベントが企画されていくそうです。

遠藤友昭さん
メルセデス・ベンツ日本 カスタマー・コミュニケーション課の遠藤友昭さん

今回のイベントにゲストとしてお招きしたのは、富士通の山地隆行さん、東京大学大学院情報理工学系研究科講師の鳴海拓志さん、ロフトワーク「BioClub」(バイオクラブ)の石塚千晃さんです。

イベントプログラムは、ゲスト3名によるプレゼンテーション(第1部)からスタートし、トークセッション(第2部)をはさんで、ゲストに持ち寄っていただいた「パーソナル化していくテクノロジー」を参加者が体験するTouch&Try(第3部)が催されました。まずは、それぞれのプレゼンテーションとTouch&Tryの内容を振り返ってみましょう。

生体情報解析から“未来の眠り”を探る

ゲスト1人目は、あしたのコミュニティーラボの記事にもご登場いただいた富士通 共創イノベーション事業部(富士通研究所 AI社会実装プロジェクト)の山地隆行さん。プレゼンテーションでは生体情報解析プロジェクトがスタートした社会背景や医療費抑制につながるなど意義を語りました。そして、生体センサーと環境センサーを活用して睡眠状態の改善に活かす西川(ねむりの相談所)との共創プロジェクトの内容を改めて振り返りました。2019年3〜5月の期間中にはEQ Houseで西川・ABCクッキングスタジオとともに「未来の眠り」を開催する予定です。

山地隆行さん
富士通 共創イノベーション事業部(富士通研究所 AI社会実装プロジェクト)の山地隆行さん

「先進国のなかで、日本人は睡眠時間が短く、不眠症等に悩む患者も多いのです。我々はそんな課題に着目し、2014年からJR西日本さんと共同で乗務員の方の睡眠改善を支援するシステムの開発・検証を実施してきました。その後、西川さんやABCクッキングスタジオさんとの共創により生まれた『ねむりの相談所』や『快眠食レシピ』は、個々を知ることで新たなサービスへアプローチする、そんなプロジェクトとなりました」(山地さん)

トークセッション後、山地さんがTouch&Tryで披露したのは、生体情報解析プロジェクトから生まれ、EQ HOUSE内に実装された新たなソリューションでした。花王株式会社を加えた新たなコラボレーション企画によるもので、テーマは“アップデートする暮らし”。

居室内にいる生活者の活動量、会話・音、あるいは着座・横臥の状態等々を各種センサーで計測し、調光の状態が変わったり、その状態に適した温度になるよう空調が動いたり、香りが発生したり……といった変化・体験をもたらします。新しい価値をまとった空間に、参加者は胸を躍らせていたようです。

山地さんと参加者たち
拍手で音を立てて寝室内の環境変化を試す、山地さんと参加者たち

“なってみたい別の自分”になることで新たな自分を発見する

続いては、東京大学大学院情報理工学系研究科講師の鳴海拓志さん。鳴海さんは日頃からVR/AR等の可能性を追求する研究に従事しています。

プレゼンテーションでは「一人称体験の技術と自己の発見/更新」というテーマのもと、湾曲した壁に手を添えながら歩く被験者がその壁を“真っ直ぐな壁”だと錯誤してしまうバーチャル体験「Unlimited Corridor」、食べ物の見た目のサイズをARで変化させて満腹感を操作する「Augmented Satiety(拡張満腹感)」、VRの世界で自分の身体を変えて心的状態・認知を適切に変化させる「ゴーストエンジニアリング」等々、ユニークな研究内容が紹介されました。

鳴海拓志さん
東京大学大学院情報理工学系研究科講師の鳴海拓志さん

「心は身体に対して“陰”のような存在ですが、VRのようなヒューマンインターフェース(ユーザーとコンピューターとの接点になるハードウェアやソフトウェア)を活用して身体をデザインすれば、心の状態や能力を再設計できます。高齢者が若い人の身体を手に入れたら気持ちまで若返るかもしれないし、異なる人種の視点で世界を見てみれば差別意識が薄まるかもしれない——。そうした“なってみたい別の自分”になることの積み重ねが、ヒューマンインターフェースにおける究極のパーソナライズなのではないでしょうか」(鳴海さん)

Touch&Tryでは鳴海研究室・畑田裕二さんが開発した「#二重人殻(Double Shellf)」という作品が披露されました。被験者は、ゲストである石塚千晃さん。

「#二重人殻」ではまずiPhoneやiPadによる全身の3Dスキャニングにより、石塚さんのドッペルゲンガー(アバター)を作成します。

iPadのカメラとアプリケーションによって全身がスキャンできる
iPadのカメラとアプリケーションによって全身がスキャンできる

石塚さんがヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着すると、作成された実写のアバターを身にまとうことができます。石塚さんは、バーチャル空間のなかで鏡の前に立ち自分と対峙。やがて1人のドッペルゲンガーと対面します。

その後もドッペルゲンガーが他人に迷惑をかける様子を石塚さん自身が客観視したり、ドッペルゲンガーが100人に分裂するとそのなかに1人だけ、言うことを聞かずに自分勝手に動くものがいたり……といった具合に、数々の出来事によって石塚さんを楽しませていました。

バーチャル空間のなかで自身のアバターが100人に分裂する様子
バーチャル空間のなかで自身のアバターが100人に分裂する様子

バイオテクノロジーにまつわる議論を継続させていくコミュニティー「BioClub」

最後はクリエイティブ・ エージェンシー、ロフトワークの石塚千晃さん。石塚さんは同社の新たなコミュニティーである「BioClub」のディレクターを務めています。

石塚さんがプレゼンテーションで紹介した「BioClub Tokyo」はロフトワークが運営する渋谷のコワーキングスペース「FabCafe MTRL」施設内にオープンしたコミュニティー・実験施設。コミュニティーメンバーが主導する「BioClub Weekly Meeting」のほか、ウェットラボも併設されています。

株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター/BioClubディレクターの石塚千晃さん
株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター/BioClubディレクターの石塚千晃さん

「DIYバイオ、あるいはパーソナル・バイオという言葉が世の中でもてはやされていますが、それを一過性の流行で終わらせずに、継続させていく取り組みが必要だと常々考えています。バイオテクノロジーが他の技術と大きく異なるのは、世代を超えてもとに戻れないような変化を与えてしまう点。パーソナル化されるからこそ、倫理観などが問われ、そのための議論も必要となる。BioClubはそうしたことにしっかり向き合っていくコミュニティーにしていきたいと考えています」(石塚さん)

BioClubでは一般向けに数々のイベントやワークショッププログラムも企画されており、Touch&Tryのコーナーではワークショップ「やってみよう、DNA鑑定」の一部が披露されました。「生命を観る・編集する・創る」の3フェーズに分かれたトータル10時間のカリキュラムにより、参加者はバイオテクノロジーを簡易的に学ぶことができます。

ワークショップのようす

またプレゼンテーションでは、ロフトワークの関連会社・株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)による「パン築」(パンでドーム状の家をつくる実験プロジェクト)の様子も紹介されました。

テクノロジーのパーソナライズ化、その先にあるもの

プレゼンテーションとTouch&Tryの間では、ゲスト3名によるトークセッションも行われ、お互いの活動内容をベースとしながら「パーソナル化していくテクノロジー」について議論が交わされました。またTouch&Try後には、3つの「パーソナル化していくテクノロジー」を体感した参加者の振り返りとしてグループディスカッションが行われ、トークセッションや体験の感想、意見を共有。その対話から生まれた疑問・意見もゲスト3名にぶつけられました。

グループディスカッションでは、熱量の高い参加者同士のやりとりが生まれていた
グループディスカッションでは、熱量の高い参加者同士のやりとりが生まれていた

「Touch&Tryを体験された方の発言で、1つとても気になるものがありました。テクノロジーがパーソナライズ化されると『人の感情・健康がすべて管理されてしまう』——結果的に『人が考えることをやめてしまうかもしれないのではないか』というご意見でした。鳴海さんはそんな命題にどのように向き合っていますか?」(山地さん)

その問いかけに対し、鳴海さん、そして石塚さんはこんな考えを示しました。

「私の研究はどれも“多様性を増すため”の活動ですし、畑田くんの『#二重人殻』にしても、なりたい自分になれる環境があることでさまざまな可能性を示せるテクノロジーだと思います。しかし同時に『何にでもなれたとき、多くの人が同じ何者かに憧れてしまったら……』という懸念もあります。最近はバーチャルYouTuberなんかが流行していますが、たいていの配信者は“可愛い女の子”になりたがる傾向がある。

人間は現実の世界にしばられ、いまひとつテクノロジーの可能性を拡げきれていない、そんなふうにも感じているのです。我々の価値観を変えるような体験としては、まだまだ発展の余地があるのかもしれませんね」(鳴海さん)

「なかったものが存在するようになれば、人は必ず『これは自分に危害を加えるものなのか?』と瞬時に判定を下します。しかし実際に結論がでるまでには時間がかかるもの……。私も今日『#二重人殻』を体験し、自分のドッペルゲンガーと対面しましたが、正直、たった1回の体験ではまだまだその可能性についてはわからないことだらけ。

でも体験することと体験しないことは圧倒的に違い、すなわち “やってみなければわからない”。たった1回の体験が“わからない”からといって、そのテクノロジーの可能性を摘んでしまうことがあってはならないと思います」(石塚さん)

「とにかく体験してみることでわかることもあるのではないか」と石塚さん
「とにかく体験してみることでわかることもあるのではないか」と石塚さん

これにてイベントは終了しました。本イベントでは「生体情報」「ヒューマンインターフェース」「DIYバイオ」という3つの観点から、個人に発見をもたらし「自分」をよりよく変えていくテクノロジーからどんな価値が生まれるのか、ということを探りました。

きっとその答えは無限に存在し、石塚さんが示したように「わからない」ことも1つの答えになるはずです。この日「パーソナル化していくテクノロジー」を体感した参加者が各々どんな気持ちを抱き、その先でどんな答えを導きだすのか。

あしたのコミュニティーラボでは、パーソナル化によって多様性が増し、これまでにない可能性が新たに生まれ続けるような豊かな社会のあり方を読者の皆さんとともに、これからも考えていきたいと思います。


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