提供:NPO法人 東北開墾
全3部に分けて、発行人のNPO法人東北開墾代表理事 高橋博之さんと、『東北食べる通信』プロジェクトに参加する生産者の1人、白石長利さんのお話をお届けする。
「「口じゃなく、身体を動かせ 」。名刺を漁船に変えて見えてきたビジョン──『東北食べる通信』が目指す日本版CSA(2)
食べてよし、見てよし、会ってよし。消費者と生産農家の顔の見える関係──『東北食べる通信』が目指す日本版CSA (3)
つくり手への感謝と理解が調味料では出せない味つけに
月1回、タブロイド判オールカラー16ページの大ぶりな冊子が送られてくる。毎号特集されるのは原則1人の生産者だ。東北各地で、熱い想いを胸に、農業や漁業に取り組んでいるスペシャリストたちのストーリーが紹介され、素材を生かしたレシピも掲載されている。冊子とともに自慢の1品が届く。
読者は、青果や海産物を味わいながら、それが誰によって、どんな背景のもと、どれほどの手間をかけてつくられているのかを知る。さらには、読者限定のFacebookグループに投稿し、生産者と直に交流することができ、都市部でのイベントや収穫体験ツアーにも参加できる。
この『東北食べる通信』の取り組みのユニークなところは、いわゆる産直品の宅配サービスとは違い、「情報誌+食べもの」の「情報」のほうに軸足を置き、SNSでの交流をきっかけに、食べる人とつくる人を混ぜ合わせ、結びつけることを主眼としている点だ。発行人のNPO法人東北開墾代表理事・高橋博之さんは言う。
NPO法人東北開墾代表理事 高橋博之さん
「同じ牡蠣でも、東京のオイスターバーで食べるのと、漁師さんの説明を聞きながら海を見て獲れたてを食べるのとでは、味が違うじゃないですか。生産現場への理解と感謝が、どんな調味料でも出せない味つけになるんですよ」
2013年7月に創刊した『東北食べる通信』には現在、1,100人を超える定期購読者がいて、そのうち約800人がFacebookグループに参加。生活者と生産者が直接交流するコミュニティーができている。
「生産者を東京に呼ぶと、みんな会いたくて来ます。本人に会うと今度は現場に行きたくなる。そういう循環を活発にしたい。『東北食べる通信』は月1回の生活者と生産者のお見合いです。気に入った相手がいたら結婚してほしい」
地図にない生活者のコミュニティーが生産者を支える
『東北食べる通信』webサイトでは独自のCSAを提唱している
「結婚」とは何のことか。高橋さんが目指すのは、日本版CSA(Community Supported Agriculture)だ。これは欧米で広がりはじめている農業との新しい向き合い方で、1人の生産者を複数の生活者のコミュニティーで支えるしくみのこと。
市場原理だけに委ねていると、価格競争のあげく生産効率の高い大規模の農林水産業しか生き残れない。小規模だが手間ひまかけて安全・安心な食べものをつくる生産者の価値を認めた生活者が、適正な価格で買い支える。前払い年額会費制で、天候不順などによるリスクもシェアし、生産者が市場価格に振り回されず、丹精込めた食べものづくりに取り組めるよう支えるのだ。
日本の場合は、都市も地方もコミュニティーが崩れているので、欧米のように地縁で支え合うCSAは難しい。「ならば都市に暮らす〈まちびと〉と地方に暮らす〈さとびと〉が共通の価値観で交じり合い、結び合う、地図上にない新しいコミュニティーをつくろう」と高橋さんは考え、その入口として『東北食べる通信』を創刊した。
「東日本大震災後の被災地と都市のつながりを見ていたら、できるに違いないと確信しました。都市の若者にとっては、“第2の実家”、石巻の父ちゃん、大船渡の母ちゃんみたいな存在になっていて、実の親には切り出せないような恋の悩みも“第2の実家”では相談できます。
スキルやノウハウやネットワークを持つ都市の人たちの流入によって地域は課題解決力が上がり、都市の人たちは、今までの仕事では体験できなかった、喜ぶ人たちの笑顔を目の前で見られて、生きるスイッチがオンになるんです。震災をきっかけに生まれた〈まちびと〉と〈さとびと〉の支え合いを平時にも継続させたい」
「「口じゃなく、身体を動かせ 」。名刺を漁船に変えて見えてきたビジョン──『東北食べる通信』が目指す日本版CSA(2)へ続く
食べてよし、見てよし、会ってよし。消費者と生産農家の顔の見える関係──『東北食べる通信』が目指す日本版CSA (3)
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