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“JK”にも開かれた、オープンな鯖江づくり その途中 ──jig.jp 福野泰介さんインタビュー(前編)

2014年12月16日



“JK”にも開かれた、オープンな鯖江づくり その途中 ──jig.jp 福野泰介さんインタビュー(前編) | あしたのコミュニティーラボ
福井県鯖江市を「オープンデータ」(行政データを2次利用可能な形式で公開)のトップランナーにした仕掛人、アプリ開発を行う株式会社jig.jp(ジグジェイピー)代表の福野泰介さん。自治体によるオープンデータの利活用を進めるため、全国各地を飛び回る毎日だ。その一方、テクノロジーを使ってものをつくる人を育てるために地元・鯖江でも活動を行っている。今回は市民と行政を結びつけようとする鯖江での活動にフォーカスをあて、前後編でお話を伺った。

オープンデータを駆使する、子ども起業家の育成!? ──jig.jp 福野泰介さんインタビュー(後編)

企業も舵の切り時、オープンデータ利活用

──福野さんが鯖江市長にオープンデータ推進を提案した経緯は2013年5月の取材でお伺いしましたが、それから1年半、鯖江発のオープンデータはどんな盛り上がりを見せていますか。

福野 鯖江市では、スキルを持った企業のリーダー人材が自治体に短期で派遣される「コーポーレート・フェローシップ」プログラムを導入しました。2014年11月に1回目の報告会があり、初代フェローを務めたSAPジャパンの奥野和弘さんから、鯖江市のオープンデータ戦略の課題とそれに対する施策の提案がありました。この活動もそうですが、大企業もオープンデータに関心を持ちはじめたことで、1段上のフェーズに進んでいます。
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株式会社jig.jp代表の福野泰介さん

──なぜ大企業がオープンデータに関心を寄せるのでしょう。

福野 グローバル競争の激化で従来の事業に限界が来て、新しい世界を見据えた取り組みに先行投資する一環です。大企業もイノベーティブなことに積極的な姿勢をみせているのが、僕には新鮮でした。1年前、SAPジャパン主催のスタートアップ向けのイベントで、「総務省のオープンデータ実証実験を鯖江市と横浜市で行いましょう。オープンデータの世界標準仕様を推進する方向に日本政府も舵を切っているから、ここはガンガン攻めるべき」とプレゼンしたら、SAPジャパンさんが「おもしろいね」といってくださって。そこから話が発展して、僕がCode for Sabae/jig.jpとして参加している「コーポーレート・フェローシップ」プログラムをはじめ、鯖江で一緒にいろいろなプロジェクトを協働展開することになりました。

究極のオープンガバメントプロジェクト!? 「鯖江市役所JK課」

──オープンデータの価値を市民にわかりやすい形で伝えるという点では、どんなアウトプットが出ていますか。

福野 市内11路線を走るコミュニティバス「つつじバス」にはGPSが搭載されていて、今どこを走っているか、バス停がどこか、そこで降りたらどんな施設があるか、といった情報がオープンデータとして公開されています。それではと、ひと目でわかるスマートフォンアプリ「つつじバス位置情報」をつくりました。複数のメディアで取り上げられて話題になったので、市民もだいぶ関心を持ってくれたようです。

──利用状況はどうですか。

福野 利用者は増えていますが、そもそもバスに乗るのは主として高齢者の方なので、残念ながらスマホ世代ではないんです。若い人たちへどんなアピールが必要なのかと課題となっていたところに出てきたアイデアが、「JK課」(JKは女子高生の略語)です。

さすがに僕も本当に? と思ったのですが、「女子高生が集まって好きなことをやる」というコンセプトの課が市役所にできちゃいました。これはオープンデータというよりも、その根底にある「オープンガバメント(市民が参画する開かれた行政)」という考えから生まれたプロジェクトです。

──鯖江市は「市民主役条例」があるくらい市民参画に熱心ですが、それにしても「JK課」という発想はずいぶんユニークですね。どんな経緯で実現したのですか。

福野 鯖江市には全国の熱い学生が鯖江に集まる「鯖江市地域活性化プランコンテスト」というイベントがあります。この社会人版である「『おとな版』鯖江市地域活性化プランコンテスト」が2014年1月に実施され、僕も含めおもしろいアイデアを持つ“やんちゃ”な大人たちが集まりました。そのコンテストで、市役所の若手職員が出した「これからの市役所や公務員のあり方は?」という課題に応え、ニート株式会社代表・若新雄純さんのチームの出したプランが「鯖江市役所JK課」です。
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Sabota開発中の様子 提供:鯖江市役所

その若手職員はノリノリで、彼が相談を持ちかけた市民協働課の参事はさらに積極的で(笑)。2人が市長にプランを持って行くと、「よし、来年度の目玉にしよう」(笑)ということになって、僕も仲間に入れてもらったんです。

──女子高生が好きなことをやるといっても、いったい何を?

福野 中身はわざと決めませんでした。たとえばこんなことがあるよ、と示唆はしますが、強要はしない。「地域住民に市役所の窓口を開くこと」自体が大事だからです。JK課に協力してくれる女子高生がTwitterで告知すると、なんかおもしろそうだな、と20人ほどのメンバーが集まりました。ただ、JK課のネーミングがあまりに秀逸すぎてTwitterは炎上してしまいました(笑)。あえて炎上しながらも関心を集め活動を発展させようという、したたかなねらいもあったんですが……。

JKが発案・デザインした図書館アプリ「Sabota」

福野 で、彼女たちがあげてくれたやりたいことのなかに、「スマホのアプリをつくりたい」、というのがあったんです。アプリは彼女たちにとって日常のメディアですからね。

──彼女たちが言い出したんですか。福野さんが提案したんではなく?

福野 鯖江にもアプリをつくってる会社があるんだよ、くらいのことはいったかもしれませんけど(笑)、あくまでも彼女たちからの発案ですね。でっかい越前和紙にみんなで日常の不満を書き出して、その不満はどうしたら解決できるのかアイデアを出し合い、それをアプリにしたらどんなものになるのか、と落とし込んで行きました。アプリづくりって実際はこんなふうにやるんだよ、と説明して、最初のJK課の会議は終了しました。

彼女たちは本当に真剣でした。やがて固まったプランが図書館アプリ「Sabota」です。Sabotaは「さばえ(Sa)本(bo)データ(ta)」という意味ですね。「せっかく勉強する気満々で図書館に行ったのに席が空いてないとヘコんじゃうな」という、状況を解決するため、オープンデータを使って鯖江市図書館の空席状況がわかるアプリをつくっちゃおう、ということになりました。

──自主的なアイデアから願ってもない展開になりましたね。

福野 そうなんですよ。図書館の机にセンサーをつけていいかどうか市役所に聞いてみよう、と行ったらすぐOKが出たんです。SAPジャパンも、そういうすばらしい取り組みなら支援したいと、ボランティアでセンサー設備工事を手伝ってくれました。
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JK課が企画した「Sabota」。レッサーパンダは鯖江市西山動物園の人気者で、繁殖数は国内トップ

赤外線を利用した距離センサーを机下に取りつけて、空席状況をリアルタイムでオープンデータ化したあと、アプリ化するプロセスで、どんなデザインにしたいか絵を描いてきてと彼女たちに頼んだんです。それをPCでデザインし直すつもりでしたが、彼女たちが紙に描いてきた「つくえなう!」「○席空いています」などの文字やイラストや色合いがかわいかったので、そのまま使い、手描きテイストあふれるアプリができあがりました。現在は多い時で1日数百という単位でアクセスされています。

──そうしたオープンデータの価値を広く浸透させていく取り組みは、今後どんなふうに展開していきますか。

福野 すでに毎年開催されている「さばえIT推進フォーラム」と、「さばえ市民主役フォーラム」の2つのイベントを今年から融合して、「未来創造フォーラム」として同時開催しました。それぞれ集まってくれた市民のみなさんが、ITをうまく使って行政とコラボできるとおもしろくなりそうだね、と楽しんでくれたのでよかったかな、と。

イベントだけでなく、ワークショップも定期的に実施するつもりです。「Sabota」ができた背景を説明しながら、自分たちもアプリをつくれるのでは? と思ってもらうことが次の段階。自ら当事者としてアプリをつくってみることが、本当に使われるサービスになっていく一番の近道です。

福野さんは自治体のオープンデータ化を支援するときも、公開をゴールにしていない。実際使うフェーズでも、人々をあっと驚かせるようなJK課などのアイデアを瞬時に形にしていく。徐々に市民と市役所の距離が縮むなか、新しい活動もスタートさせてた。それが「つくる人をつくる」ための活動だ。後編は、福野さんが地元・鯖江で取り組みはじめた新たなアクションと、その根底に流れる考えについて聞いた。

オープンデータを駆使する、子ども起業家の育成!? ──jig.jp 福野泰介さんインタビュー(後編)へ続く

関連リンク
鯖江市役所JK課
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福野 泰介 ふくの・たいすけ

株式会社jig.jp 代表取締役社長


1978年11月8日石川県生まれ。国立福井工業高等専門学校電子情報工学科を卒業後、有限会社シャフトや有限会社ユーエヌアイ研究所の設立を経て、2003年に株式会社jig.jp設立。世界初のダウンロード型フルブラウザ『jigブラウザ』は当時の携帯電話利用者に衝撃を与えた。現在は、本店のある福井県鯖江市で「データシティ鯖江」や「Code for Sabae」などの活動のほか、子どもや高齢者向けのプログラミング講座を展開。高専卒業生として、全国の現役高専生へのサポートも行っている。


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