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“オープン”だからこそ持つ、人をつなげる底知れぬ可能性 ──データシティ鯖江、次の一手(後編)

2014年12月22日



“オープン”だからこそ持つ、人をつなげる底知れぬ可能性 ──データシティ鯖江、次の一手(後編) | あしたのコミュニティーラボ
市民参画をより促すツールとして注目されている“オープンデータ”。その利活用におけるトップランナー・鯖江市は新たな試みとして「コーポレート・フェローシップ」の実地実験を行った。プロジェクトの推進役として、鯖江市とSAPジャパンをつないだコード・フォー・ジャパンの関さんは自治体のオープンデータ活用を「市民参画のプロトコル」、市民が地域づくりに参画するためのルールのようなものだと話す。自治体と民間、NPO、市民がオープンデータによってつながったとき、自治体運営はどう変わるのか。新しい地域づくりの方法を追った。

自治体初、オープンデータ活用加速を民間企業・NPOとともに ──データシティ鯖江、次の一手(前編)

フェローという立ち位置を問い続け、試行錯誤

行政職員にないスキルをもつ人材が自治体に1年間派遣され、主として市民参画型のプロジェクトに従事する「フェローシップ」プログラムは、コード・フォー・ジャパンとパートナーシップを結ぶコード・フォー・アメリカで4年前にはじまった。このフェローシッププログラムは、コード・フォー・ジャパンでも今回の取り組みの前にテスト的に2014年6月から福島県浪江町で実施されており、住民の意見を積極的に盛り込んだタブレット端末の開発など徐々に成果を生みつつある。

「しかし」と、コード・フォー・ジャパン代表の関治之さんは続ける。
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一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表 関治之さん

「浪江町の場合は復興庁の予算が付くなど特殊な要件があったので実現できましたが、アメリカに比べて雇用流動性の低い日本では、役職をあきらめたり休職したりして1年間自治体に入る、というのは派遣される側もリスクを取らなければいけないし、受け入れる自治体にしても人件費やポストの点で前例がないだけにハードルが高いのが現状です。そこで短期間、企業から自治体にリーダー研修の名目で人材を派遣するという、双方がメリットを得やすいプログラムとして新しく立ち上げたわけです」

基幹業務システムを主とするソフトウェアベンダー、SAPジャパンでイノベーション系の技術営業リーダーを務める奥野さんは、「正直、先が見えずにしんどかった」と率直な感想を述べた。

「東京のITの大企業が冷やかしに来たと市民から見られやしまいか、と最初は思いました。企業と自治体が互いにどんなメリットを得られるのかという根本的な問題から、SAPと市役所のセキュリティポリシーが違うといった現場の問題まで、どうすればよいのか確証がないまま派遣の日が来たので、短期間に1つずつ確認して評価していかなければいけませんでした」

市役所、市民、コード・フォー・ジャパン、SAPジャパン、どこに自分の立ち位置を定めればよいのか。日々迷いながらの活動となったが、結局「その全部に美しく広がる雲」のような存在であるべき、と奥野さんは思うようになった。

エンジニアに求められているスキルが培える場

奥野さんは「派遣前から苦労した甲斐あって、企業人として得たものは大きい」と話す。ベンダーのふだんの仕事は顧客の提示した課題に対してソリューションを提供することだが、そこにはすでに課題があることが多い。しかし、今回はそもそも課題そのものを洗い出すことからはじまった。

奥野さんは「課題を見つける能力がエンジニアに求められている昨今、コーポレート・フェローシップの試みは絶好のトレーニングになる」と話す。
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SAPジャパン株式会社 奥野和弘さん

鯖江市のオープンデータに対する取り組みは先進的とはいえ、一部の意識の高い人たちだけの活動にとどまってしまっていることも確かだと奥野さんは続ける。泊まった旅館のフロント係、地場産業である眼鏡や漆器づくりに携わっている職人などに話を聞くと、鯖江がオープンデータのトップランナーであることは知っているが、それが自分たちの生活に何らかの影響を与えている実感は今のところまだない。

オープンデータの価値が浸透するには、市民が使って便利だと思うアプリケーション、サービスの充実が不可欠。そうした課題を捉え、一般市民も市役所職員もともに同じテーブルについて知恵を絞るアイデアソンをテストケースとして実施し、十分な手応えを得た。その結果を共有したうえで、オープンデータへの市民参画を促す市民主導のアイデアソンの定期開催を提案できたのも、役所の外へ出て市民との交流があったからこそだ。今まで行っていた行政を顧客とする業務では、そこまでの経験はできない。「すべてのプロセスが大きな収穫になった。短期間でも得られた理解度は深い」と、奥野さんは話す。

オープンデータは“市民参画のプロトコル”

鯖江市にとっても大いに意義があった。そもそも行政はジェネラリスト志向で人材育成をするため、ITのスペシャリストが現場の第一線でプロジェクトを牽引するのは貴重な支援となる。また外部の人材は、しがらみや前例や部署の壁にとらわれず、最も有効な戦略をニュートラルな立場から策定できる。コード・フォー・ジャパンの関さんは今後の展開を「このサイクルを回すことで、このフェーズではどんな解決策があるか模索して、各自治体のフェーズに合わせた人材を派遣できるようなしくみに成長する可能性があるのでは」と、話す。
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「便利なサービスやアプリケーションを生み出すのもオープンデータの大事な側面ですが、僕らはオープンデータを行政への“市民参画のプロトコル”というか、手続きの1つとして捉えています。限られた予算の中で、一部の人たちの利得になる声の大きさではなく、多くの市民の生活がそれによって左右される、数値に表れた事実に基づく意思決定が求められています。オープンデータはそのためのツールになる」

コーポレート・フェローシップのプログラムは2015年4月から3カ月の派遣期間で正式にスタートする予定だ。受け入れ自治体を公募し、想定される課題にふさわしい人材を企業から募集して、双方をマッチングする。今回の鯖江市におけるテストケースはプロセスすべてが勉強で、よい実地検証になったと行政も民間も、コード・フォー・ジャパンも声をそろえる。

オープンガバメントを推進するため行政の中に企業のスペシャリストが入り込んでどのように本質的な課題をえぐり出し、優先順位をつけて具体的な解決策を提案するか。そのプロセス自体も標準化しオープンデータとして公開する価値があるにちがいない。自治体が市民との地域づくりの1つの手法として取り組んでいる「オープンデータ」という形には、まだまだ底知れない可能性が潜んでいる。

自治体初、オープンデータ活用加速を民間企業・NPOとともに ──データシティ鯖江、次の一手(前編)

関連リンク:
福井県鯖江市
一般社団法人コード・フォー・ジャパン
SAPジャパン株式会社


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