話を聴くことが仕事の第一歩
──「コミュニティーデザイナー」とは、いったいどういったお仕事なのでしょうか。
山崎 ひとことで言うなら「人と人とがつながる仕組みをデザインする」仕事です。
──「人と人とがつながる」。ちょっとイメージがわきにくいですね……。
山崎 確かにわかりにくいですよね。ただ、僕らの仕事の流れに置きかえてみると、ある意味必然なんです。もともと僕は設計の分野にいて、公園や庭園を設計するランドスケープ(風景)デザインを専門にしていました。だけど、そもそも公園をつくる目的ってハードではなく、街の中に豊かなオープンスペースを生み出すことにあるわけです。いざハードをつくっても、それをどう使いこなしていくかという視点がないばかりに、新しい公園も数年で使われなくなる、ということが多かったんですよね。
──たしかに、これまではハードをつくることそのものが目的化されていましたよね。
山崎 そうですね。だけど、使う人を考えてソフト面の仕組みをデザインしないと、ハードはなかなか持続的に活性しないんです。ハードをつくっただけで人が集まるわけではないし、公園ができてすぐに「ここで何かやります」と手を挙げるプレーヤーが出てくるわけでもありません。せっかくできた公園を、地域の人たちと一緒に楽しい場所としてつくれないか──。そう思って、「パーク(公園)マネジメント」を手掛けたのが、事の発端ですね。
──どうやって、地域の人たちを巻き込んでいったのでしょうか。
山崎 初めに携わった兵庫県三田市の「有馬富士公園」では、サークル活動やNPO活動をしている人たちを訪ねました。そういう人たちの多くは、自分たちの活動のことをもっと知ってほしいと思っている。そこで、ひたすら話を聞く。話がひととおり終わると、「じゃあ、活動の中で困っていることはないですか」と訊ねるんです。そうすると、いろいろな声が出てきます。集会で利用する会議室の賃貸料が高い、チラシをコンビニでコピーしているが費用がかさんでしまう。倉庫を借りると高いのでしかたなく道具を自宅の子ども部屋に置いている……。
──日常的な活動の悩みを掘り下げていったんですね。
山崎 公園の工事中にそうしたヒアリングをしていたのですが、そこで浮かび上がった課題は、行政の担当者たちと話し合いながらちょっとずつ解決していきました。会議室を無料で貸し出したり、全団体の情報を入れるカレンダーをつくったり、倉庫をつくったり。それが実現していくと、次第に皆さんが「公園で何かやろう」という気運になっていったんです。
──地域で活動する団体の人たちにはどんな役割を期待していたのでしょうか。
山崎 「有馬富士公園」は県立公園なので、入園料はありません。ですから、自主的にさまざまなプログラムを一般の人たちに提供しながら、自らも一緒になって楽しむような存在が必要だと思っていました。ヒアリングをした50団体のうち初年度にプレーヤーとして参加したのは22団体でしたが、徐々に増えて11年目の現在では75団体が活動しています。
よそ者だから、地域をつなげられる
──「有馬富士公園」は、着実にさまざまな活動や発表を楽しむための場として機能しているわけですね。
その後、山崎さんは、公園だけでなくさまざまな領域でコミュニティーデザインを実践されていますね。
山崎 「パークマネジメント」のような仕組みをデザインする仕事をしているうちに、公園だけでなく広く街中で展開したらどう? とか、デパートをリニューアルするので人が集まる仕組みの知恵を貸してほしい、離島や商店街が元気になる手助けをしてほしい、行政の若手職員を対象に課を横断してエンパワーメントしてほしい、企業内を活性化するための研修に協力してほしい、といったハードありきではない、幅広い依頼を受けるようになりました。「コミュニティーデザイナー」と名乗るようになったのもそのころからです。
──たとえば、地域それぞれでコミュニティーデザイナーの役割を果たせる人がいればいいのに、と感じられることはありませんか。
山崎 それは、ありますね。しかし、地域では「何を言ったか」ではなく「誰が言ったか」が問題になるんです。「いいことだけど、あいつが言っているならオレは協力しない」、それが必ずある。「あそこの家とは江戸時代からケンカしてるんだ」なんて話は、本当にありますからね。ところが、よそ者はそこに住んでいるわけでもないし、商売をしているわけでもない。特定の思惑を持たない人たちが意見を整理・調整していく、その立場こそ必要なんだと思います。
──それは、企業なども含めて、伝統的な日本社会の人間関係を反映しているようなお話ですね。そのなかで、山崎さんのようなコミュニティーデザイナーは、滞っていた血のめぐりを解きほぐすような役割を持っていらっしゃると。
山崎 そういうことだと思います。「坊主にヒゲ面のよそ者が何だかやってるぞ、なるほどこれならうまくいくかもしれないから、いっちょう乗ってみるか」。そんな気運を盛り上げて、いずれは地域の人たち自身でまわせる仕組みをファシリテートするのが僕らの役割。だから、地域に入るときから、あらかじめ期限を決めてかかわるようにしています。だんだん僕らは遠ざかり、いつかはいなくなる。ワークショップにしたって、出たアイデアを模造紙に付箋で貼っていくというオーソドックスな方法しか使いませんから、一度やれば誰でもできます。特に何かすごいことをやっているわけではないんです。よそ者が入る、その行為だけで十分なんですよ。