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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

酪農生産に科学的見地を取り入れたパイオニア  ──北海道・JA浜中町の人を枯渇させない地域づくり(前編)

奥さんに背中を押されて飛び込んだ浜中町

浜中町で新規就農して3年目の森田浩二さん。子どもの頃、近所の牛舎に入り浸って遊んでいたという。兵庫県の農業高校畜産科を出て、育成牧場で6〜7年働いていたが、そこの閉鎖にともない浜中町の研修牧場に入った。夫婦で体験見学に来たとき、親身になって応対してくれ、ここなら最後まで面倒みてくれるだろう、と思い北海道への移住を決めた。
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森田浩二さん

「どうやって嫁さんを説得しようか考えあぐねていたら、逆に背中を押されました。わたしが30歳になるまでに決めてね、と」

分娩して搾乳し、牛が一生を終えるまでの酪農の全プロセスを研修牧場で4年ほど体験。これらは育成牧場ではできなかった経験だ。
hamanaka2-5研修牧場内の様子
研修を終え、離農者の土地と機械を引き継いだが、牛はすべて新たに購入。先日、自分の牧場で生まれた牛が出産して、ようやく乳を搾れるようになった。初めての経験に喜びもひとしおだ。

夫婦揃って明け方4時半からエサやりや搾乳の作業を開始。午前8時〜9時にそれを終え、妻は子どもの世話、夫は牛舎の掃除などの仕事が続く。休憩を挟んで夕方3時頃から再び搾乳。夜7時には終わるようにしているが「ウチはちょっと労働時間かかりすぎ」と森田さんは苦笑する。「もっと効率的にやろうと思えばやれるんですけど、心配性なのでどうしても時間をかけてしまう」。
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牛1頭1頭の様子をいつも観察し、健康状態をつかんでおく必要がある。酪農技術センターから提供されるデータも重要だが、酪農家たるもの、見た目で「いつもとどこか様子がちがう」とすぐわからなければいけない。

「新規就農者の先輩がたくさんいるので、困ったことがあったら相談に乗ってくれます。ああしろ、こうしろとまわりからいちいち言われることはないですが、なんとなく見守ってくれているんだなあ、と常日頃すごく感じますね」と森田さんは浜中町の「居心地のいい風土」を語ってくれた。

大事なのは若い人のアイデアを拾い上げること

200〜300頭の乳牛を飼養する大規模酪農家が離農すると、研修牧場で目指している50〜60頭規模の家族経営では継承できない。そこで、法人経営のノウハウを積み重ねるため、農協所有の育成牧場跡地390haを活用して、2009年に株式会社酪農王国を設立した。JA浜中町が、コントラクター(農作業委託)事業を担う建設土木業、乳業、運送業、飼料業など9社に出資を呼びかけた。

いずれも酪農に関係する企業で、これまでもJA浜中町と密接な間柄だけに、地域づくりに協力する理念を互いに共有しており、異業種連携はすんなり運んだ。町ぐるみで酪農を支え、未来を切り拓く浜中町の風土がここにも垣間見える。
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生乳や育成牛の生産販売を事業とする酪農王国は、出資する異業種企業からの出向社員に酪農の経営ノウハウを伝え、後継者のいない大規模牧場に「のれん分け」して新規就農を目指す。いうなれば法人版の研修牧場で、法人経営の農場設立を促すインキュベーターだ。すでに2012年、従業員5〜6人の大規模酪農家を建設会社が継承し、株式会社MOWMOWファームが設立された。建築業としては公共事業の減少にともなう新規事業の開発になる。

JA浜中町組合長の石橋さんは、さらなる未来ビジョンを描く。搾乳ロボット導入による労務の短縮だ。すでに7戸で導入。100台程度は普及させたい。

「余った時間で何をするかというと、女性たちが各家庭でチーズをつくる。自信がついたら小さなチーズ工房を立ち上げ、バザールで試食販売し、地域内流通へ。いま現実に8人くらいのチーズづくりグループがあるので、それをもっと広げていけばいい。浜中らしい酪農文化をつくっていきたいんです」

そんな石橋さんだが、自分はアイデアマンなんかじゃない、と言い切る。
「たかが知れてますよ私の能力なんて。大事なのは若い人のアイデアを拾い上げること。東日本大震災以前から100戸に太陽光発電の導入を決めていましたが、それも一職員が〈メガソーラー発電で牛乳を搾ればエコミルクですよね〉と言うから〈おお、おもしろい、やろう!〉と乗っただけ」と豪快に笑う。
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浜中町では、酪農家100戸以上に太陽光発電システムが導入され、その規模は国内最大だ

浜中町は平成の大合併に巻き込まれず、酪農による独立独歩を続けてきた。町としての合意形成がしやすいのは、そのおかげもあるにちがいない。

1980年代に新規就農した第一世代はすでに、バトンを後継者に渡す時代を迎えている。世代交代により、日本で最も先駆的な酪農の町はなおも前進を続けるだろう。なぜならそれは、地域のなりわいを盛り立てるために必要なことを1つずつ積み重ねていくだけ、というシンプルな理念を町ぐるみで共有しているからだ。
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酪農生産に科学的見地を取り入れたパイオニア  ──北海道・JA浜中町の人を枯渇させない地域づくり(前編)

関連リンク
JA浜中町農業協同組合


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