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大学生との共創活動の先に企業が見出したものとは ──立教大学佐々木ゼミとの8カ月(前編)

2015年02月19日



大学生との共創活動の先に企業が見出したものとは ──立教大学佐々木ゼミとの8カ月(前編) | あしたのコミュニティーラボ
立教大学経営学部佐々木宏教授のゼミ生と富士通の8カ月間にわたる共創プロジェクトが終了した。前期(2014年4月~7月)のアイデアソンの成果は以前レポートしたが、後期(2014年10月~2015年1月)では「IoTによる新たなユーザー体験・サービスの創出」をテーマに、チームを再編成して活動に臨んだ。そして2015年1月中旬開催された成果発表会では6アイデアが発表された。企業にとって学生と共創する意義は何か、そこでどんな気づきが得られ、新しい価値が生まれたのか。成果発表会の模様と企業側のインタビューをもとに、活動での成果を振り返る。

大学生との共創活動の先に企業が見出したものとは ──立教大学佐々木ゼミとの8カ月(後編)

アレルギー物質も一発感知する「スマ箸」というアイデア

「文句なく欲しいですね、これ。あったら買いたいと思いました。たとえば食物アレルギーのお子さんを持つお母さんならきっと必要なはず。そんなふうに目的を特化してもいいし、いろんな可能性が広がりそう」
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後期ゼミプログラムのテーマオーナーとなったIoTビジネス推進室室長・須賀高明さん

IoTビジネス推進室室長・須賀高明さんが審査発表でそう賞賛したのは、テーマオーナー賞を獲得した「2色サンド」チームが考えた、食べものから情報を検知する箸型デバイスの「スマ箸」。2015年1月16日、東京・六本木のHAB-YUで開催された、立教大学佐々木ゼミ×富士通の共創プロジェクト「IoT (Internet of Things)による新たなユーザー体験・サービスの創出」成果発表会でのコメントだ。

「スマ箸」は、食事時に箸の先端からアレルギー物質や有害物質を検知し、光って知らせるしくみだ。読み取り情報からカロリーも計算し、自動的にスマートフォンに記録する。「2色サンド」チームは、メインターゲットのユーザー層を20代後半のOLとして、既存のダイエットアプリに取って代わるような、効率的で簡単なスマートデバイスとして訴求したプレゼンテーションを行った。
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成果発表会での2色サンド「スマ箸」のプレゼンテーションの様子

成果発表会は、学生6チーム5分ずつのピッチとプロモーションムービー、審査員との質疑応答で進められた。プロモーションムービーは学生から事前に提出してもらい、富士通の社内イントラでグループ社員によるWeb投票を実施。初の試みだったが、3日間で126人が投票に参加。そこで46票を集めて「ベストムービー賞」を受賞したのも「スマ箸」だった。社員からは「欲しい!」「簡潔で端的」「これは実現できそう」といったコメントが寄せられた。

「最初は箸の持ち方のマナーに着目していたんですが、それだとすでにさまざまな商品がでているので試行錯誤した結果、ダイエットやアレルギーというテーマにたどり着きました」(3年、仲田彩乃さん)「アイデアが固まったのは成果発表会前ギリギリで、1~2週間前。急ピッチで準備を進めただけに2つも受賞できて嬉しいです」(3年、目崎桃果さん)と、チームメンバーは生みの苦しみを振り返り、受賞を喜んだ。
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2冠を達成したスマ箸チームのメンバー

リーダーの青木友翼(ゆうすけ)さん(3年)は「最先端技術の知見とビジネスの観点は学生だけでは得られません。企業の方々に教えていただきながら、一緒に取り組めたおかげです」とプロジェクトの意義を語る。
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モノによって人と人とをどうつなぐか

TBWA\HAKUHODO\QUANTUM Acceleratorの事業責任者・井上裕太さんが選出したQUANTUM賞は「マッスルペイン」チームの「Proglass」だった。コンセプトは、アスリートのモチベーションを上げることでスランプから脱し、「自分の成長を手助けするメガネ」。走行距離メーター、時間・速度表示、GPS機能を搭載しており、自分の目標とする「ターゲットライン」がレンズ上に可視化されるデバイスだ。過去の自分のデータだけでなく、他のユーザーとの対戦や過去の有名選手のデータとの競争も可能として、至るところにネットワークを介したコミュニケーションを行うことのできる機能を付与した。
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QUANTUM賞を受賞した「マッスルペイン」チームとTBWA\HAKUHODO\QUANTUM アクセラレーター事業責任者の井上裕太さん(一番右)

「今までにない体験を生み出す可能性が高い。昨日の自分と戦えるし、他の選手とも記録を競える。高い目標を掲げることでモチベーションを維持するというコンセプトがすばらしかった」と審査員の井上さんはコメントした。

そして、あしたのコミュニティーラボ賞を獲得したのは、「チームつぶがい」の「Feel Deli」。贈り物と共に気持ちを運ぶプレゼントボックスで、カメラ付きのスクリーン画面が装着されている。贈り手は受け手の反応を見られ、受け手は贈り手に受け取ったときの感動を伝えられる。実家から仕送りがあったときや、卒業時にお世話になった先生にお礼を言いたいときなど、その思いは本当に相手へ届いているのか? そんな問題意識から生まれたサービスだ。選出したあしたのコミュニティーラボ 柴崎代表からは「プレゼントを贈るときの新しい文化をつくれるかもしれない」というコメントがあがった。

受賞3チームが決定し、8カ月にわたるプロジェクトがいよいよ終わりを迎える。総評で佐々木宏教授は後期のプロジェクトを振り返り、次のように述べた。
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立教大学経営学部教授 佐々木宏さん

「後期は本当に貴重な産学連携の取り組みでした。いつ山があって谷があるか、コースがまったくわからないマラソンを走るような厳しさ。そのプロセスは学生にとって良い経験になったと思います。最終的に生み出されたコンセプトを見ると、6チーム中4つが家族や大切な人との〈つながり〉をテーマにしていたのがとても印象的でした。一般にモノとモノをネットワークでつなげることがIoTと説明されがちですが、提案の多くがそれを利用することによって人と人とをつないで、親密な関係を築くものでした。インターネットは、元来フィジカルな距離を縮めるものと考えられてきましたが、IoTは、人と人のメンタルな距離を縮めるというのが本質かもしれない。この発見こそが、学生からの最も重要なメッセージといえるのではないでしょうか」

共創の手法開発からユーザー体験起点の製品開発の試みへ

前期の4カ月間(2014年4月~7月)は「学生との共創」をテーマに活動が行われた。企業としてのねらいは、イノベーションをもたらすために必要な「異なる領域にいる人やモノたちをつなぐ存在」として学生を捉え、富士通グループのさまざまな部門にこのプロジェクトに共感してもらい、協力を仰ぐことにあった。結果として、前期の成果発表会には十数部門の富士通グループのスタッフが参加し、学生たちのプレゼンテーションも大いに盛り上がった。
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前期の発表会ではチームごとにブースを持ち富士通社員に説明する取り組みを行った

確かな手応えと可能性を感じたが、1つ課題が存在した。それは、前期には学生たちの考えたアイデアのアウトプット先がなかった、つまり、学生のアイデアを引き取って形にする役割の人たちがいなかったことだ。それによってアイデアは宙づりの状態になってしまうし、富士通と学生が共創できたとは言えないのではないか。そこで後期の4カ月間(2014年10月~2015年1月)では、前期の活動を見て共感を寄せていたIoTビジネス推進室がテーマオーナーに名乗りを上げた。

つまり、前期がもっぱら価値共創の手法開発に重きを置いていたのに対し、後期はユーザー体験を踏まえた製品サービス開発を本格的に目指したのだ。
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前回の発表会同様、今回もIoTビジネス推進室のメンバーのほか、多くの富士通社員が参加した

「後期はアイデア重視の方向性を強調した」とIoTビジネス推進室室長の須賀さんは振り返る。「ビジネスモデルまで求めると学生さんたちのアイデアが萎縮してしまうところもあるので、とりあえず実現できるかどうかは富士通に任せてもらい、これだったら自分も買いたい! お金を払うよ! と思えるものを素直に出してもらおう、と。それに応えてくれたと思うし、つくるほうとしても挑戦しがいのあるアイデアが出ました」

IoTビジネスではエンドユーザーへの訴求が重要。生活者として最も鋭敏な感性をもつ学生のニーズ
やウォンツに触れられたのは貴重な機会だったと須賀さんは続ける。「立教大生のアイデアと富士通の技術力が、互いに知恵比べの競い合いのようになるとおもしろいなと思っていました。テーマオーナー賞のアイデアをわれわれが引き取って開発して、ほら実現できたろ、と学生さんたちに見せてあげたい」。
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近々実施される社内ハッカソンのテーマに「スマ箸」を取り上げ、プロトタイプを作成する予定。今度は企業側にものづくりの真価が問われる番だ。

前期以上に実現性を重視したアイデアが出てきた後期の成果発表会。学生たちからはプレゼンテーションが終わった安堵の表情が見て取れた。ここから先は富士通のテーマオーナーたちがどのように技術を組み入れるかがカギになってくる。共創活動がそもそもはじめてという社員が多かったなか、どのような試行錯誤が行われたのだろうか。主要メンバーへのインタビューによって、学生と企業との共創のヒントを掴む。

大学生との共創活動の先に企業が見出したものとは ──立教大学佐々木ゼミとの8カ月(後編)へ続く


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