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島前高校出身の“若者”が海士町の未来を切り開く──海士町・島前高校魅力化プロジェクトが見据えるまちづくり(後編)

2015年03月11日



島前高校出身の“若者”が海士町の未来を切り開く──海士町・島前高校魅力化プロジェクトが見据えるまちづくり(後編) | あしたのコミュニティーラボ
島前高校魅力化プロジェクトの中心人物である岩本悠さんのように、Iターンで海士町に移住し、地域課題を解決しようとする人材は後を絶たない。島の伝統を理解するうちに、自らの価値観も変わっていく、そんな体験をできるからこそなのだろう。後編では、魅力化プロジェクトのメンバーに「教育×まちづくり」をうまく機能させる新規人材の取り入れ方について話を聞くとともに、これからの展望を語ってもらった。

危機感の共有が生んだ攻めの一手──海士町・島前高校魅力化プロジェクトが見据えるまちづくり(前編)

実は“イノベーティブ”な島民の魅力に惹かれた

積極的に島外からの人材を受け入れて、さまざまな施策を進めている海士町。新規人材の受け入れについて、何か方針や軸はあるのだろうか。

海士町役場・財政課長の吉元操さんは、「島の文化に合わせられる人としかご一緒しない。都会の文化をこちらに来て広げようとするのではなく、ここになじもうとする人を入れるのが基本姿勢です。文化・伝統を引き継ぎ、次の世代に島を譲るのがそもそもの目的で、島の文化を壊して、都会の文化を広めてしまっては意味がないのです」と話す。

島の文化を受容して自らを順応させることができる島外の人材を活用する一方で、島内の人材育成にも力を入れている。

実際、魅力化プロジェクトでは、2010年6月に月謝制の公立学習塾・隠岐國学習センター(以下、学習センター)を開設した。

学習センターとは、放課後や土日に、小学校から高校生までが集まり、サテライト授業など最先端の遠隔地教育も活用しながら学習できる環境だ。島前高校と連携をとり、高校での授業内容を踏まえたプログラムを組んで学習内容の定着をはかっている一方、生徒の学力に合わせた個別教材を作成し、基礎学力の向上にも大きな役目を果たしている。

そんな学習センターで指導スタッフを務めている大辻雄介さんは、2014年3月からのIターン組だ。もともと関西の塾や予備校に勤め、指導にはICTを早くから導入。自分でICTを使った学習素材をつくっていた経験もある。その実績が買われ、大手の教育サービス会社に入社した。
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隠岐國学習センター 大辻雄介さん

そこではインターネット上で配信するライブ授業を組み立て、1万5000人が同時受講するサービスを立ち上げたが、吉元さんらから学習センターが開設したのを機に移住を誘われた。当時の仕事も楽しく、その話を見送っていた大辻さんだったが、それ以降、海士町のことをチェックしてるうちに「端から見ているだけでは物足りなくなった」という。

こうして2013年夏に旅行を兼ねた下見に訪れ、そこで岩本さんからも話を聞き、「完成されてから飛び込むよりも、つくりあげていくプロセスを体感したい」と思い、学習センターのメンバーに加わり、移住を決断した。

海士町には、建設業から畜産業への異業種参入を成功させ、「隠岐牛」というブランドを生んだ隠岐潮風ファーム(2004年設立)や、岩牡蠣の養殖を成功させた海士いわがき生産(2006年設立)などの産業振興成功者がいる。大辻さんは彼らを例に「実はここには、イノベーティブな人が多い」と話す。
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遠隔授業の様子。手元の様子を映し解説を配信(提供:隠岐國学習センター)

「島の人たちは自分たちをイノベーターだとは思っていないでしょうが、やるしかないと決めたら、必ず突破口を見つけ出す。よくよく見ると実はエキサイティングなことをやっている、そんな海士町の人々に魅了されました」

一緒に連れてきた人も輝いてしまう場所、それが海士町

学習センターの意義は、基礎学力の向上はもちろん、社会に出てから何ができるか、生徒たちの将来の可能性を広げる場として機能することにもある。そこで、プロジェクトベースドラーニング型授業「夢ゼミ」で、自らのやりたいことに気づかせるというプログラムにも取り組んでいる。

「具体的には、1年次に『多文化協働』を学び、互いの違いや文化を認め合いつつ、協働する大切さを学ぶ。2年次には1次産業の跡継ぎ問題や、観光、定住、医療の問題など、地域課題を題材に解決するために自分たちならどうするか、グループワークで学ぶ。3年次には、個々のテーマを探り、それを深めていく。夢ゼミは、答えがない課題を解決するプログラムです」(大辻さん)
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夢ゼミでの一コマ。学習センター長の豊田さんと生徒の様子(提供:隠岐國学習センター)

学習センターの教育現場では、大辻さんの専門領域であるICT活用も進んでいる。「島留学」制度で島外から島前高校に進学してきた生徒の多くが、島で育った子どもと比べて学習進度が早く、教育格差が生まれやすい。そのため、その前段階である中学生の学力向上が島前3島の課題だった。

一方で、新たなプログラムをつくっても人員的に余裕がなく、容易に教員も増やせない。そこで、大辻さんの経験を活かして3つの島に離れた中学校の校舎をつないだ遠隔授業が考案された。それならば、指導スタッフの数も抑えられ、島をつなぐフェリーが欠航しても受講可能だ。最近は、海士町の生徒と同じように学習進度の課題を抱えた県外の離島からも生徒が参加し、受講するようになっている。

魅力化プロジェクトのもと、学習センターは大辻さんのような専門性を持った外部人材を積極的に受け入れて、海士町だけではなく島外も含めた地域課題を解決しようとしている。一方で、学習センターの課題として、収益性の問題を挙げた上で今後の展望として、大辻さんは次のように語ってくれた。

「学習センターに限らず、“外貨獲得”は島の取り組みの持続可能性を高めるための至上命題。遠隔授業にしても、マーケットとして拡大する可能性があります。将来的には夢ゼミの遠隔授業もやってみたい」

このように学習センターだけではなく、島全体の課題を語る大辻さん。一方で、新規のIターン人材として移住してきて1年。大辻さんにとって海士町とはどのような場所なのだろうか。

「僕は、まちがひとつの会社のようになっていると思っています。いわば私たちは海士町の教育事業部。一緒に移住してきた妻も、移住当初は暮らしていけるか不安な面があったと思いますが、これまでの経歴を生かし、今はローカルテレビ局『海士コミュニティチャンネル』でニュースを読み上げていて、僕なんかより島民に知られる存在になってしまった(笑)。連れてきた人も輝いてしまう、そんなところです」

地域社会の課題を解決する“未来のひとづくり”

現在は島前高校の卒業生が島外の大学に進学しているが、これまでの成果について岩本さんは「卒業生がいつか島に戻って、地域で起業してくれるのも楽しみで、その手応えは感じている」と話し、次のように続けた。
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「地域社会の課題を解決する“未来のひとづくり”をしているから、生徒が東大に進学するしないは関係ないんです。島前エリア出身の“Uターン”だけでなく、“Sターン”(島外から島前高校へ島留学で来た生徒が、都市部や海外の大学や企業で経験を積んだ後に、地域課題を解決するために再び島に戻ってくること)にも期待しています。一方で課題として、“グローカル”ということを考えたとき、ローカルな教育は形ができてきましたが、まだグローバルの面は弱いので、今後は世界とのつながりを進めたい」

岩本さんによれば、今後は高校に留まらず小中学校も含めた「教育」の魅力化プロジェクトに発展させ、いずれは島前エリアに「大学」を設立するという構想も持っているという。また、「卒業生が島に帰ってきたとき、すぐに仕事をつくるのは難しいだろうから、そういう若者たちが学び合い、出資も含めて事業化を支援できる環境もほしい。そのためには、この魅力化プロジェクトをまず教育産業として成り立つようにしなければなりません。現在進めているICT活用もその施策の1つになります」と語る。

吉元さんが語ってくれた、海士町が直面した「超過疎化」の危機に端を発し、岩本さんや大辻さんら、Iターン人材の活用によって成功モデルを築いた魅力化プロジェクト。その活動はまだはじまったばかりだが、海士町には島前高校出身の「若者」たちが地域リーダーとなり、まちづくりを進めていく未来がある。教育は地域社会の課題を解決する“未来のひとづくり”。まだまだ海士町からは目が離せない。

危機感の共有が生んだ攻めの一手──海士町・島前高校魅力化プロジェクトが見据えるまちづくり(前編)

関連リンク
隠岐郡海士町
島前高校魅力化プロジェクト


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