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社会人の“これからの学び”を最新潮流から考える ──イベントレポート(2)

2015年05月20日



社会人の“これからの学び”を最新潮流から考える ──イベントレポート(2) | あしたのコミュニティーラボ
学びのキーワード整理とオープンエデュケーションの最新潮流を解説したモデレーターの北海道大学 重田勝介さん。続いて、第一線で活躍し、学びの研究・実践を行う登壇者によるプレゼンテーションが行われました。引き続きプレゼンテーションの様子をお伝えする第2回。

社会人の“これからの学び”を最新潮流から考える ──イベントレポート(1)
社会人の“これからの学び”を最新潮流から考える ──イベントレポート(3)

「知識」から「スキル」へ。重点を移す学びの新潮流

一方、同じ教育領域の研究者でありつつもICT活用を中心に研究している富士通の高橋哲朗さん。MITの研究員としての知見を活かし、学びに関する海外における最新潮流を紹介しました。

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富士通 / MIT 高橋哲朗さん

オープンエデュケーションの分野を語る際に欠かせない主力サービス、「オープンコースウェア」、「カーンアカデミー」、「エデックス」、「コーセラ」、そして「ユーダシティ」。海外ではこれ以外にも教育関連のテクノロジーが数多く誕生しており、高橋さんはそのなかから注目ジャンルをピックアップして解説していきました。ここではそれらを簡単にご紹介します。

1つ目は「教育SNS」。スマートフォンの普及とともに爆発的に広がったSNSは教育分野での活用も進み、先生と生徒、家庭をICTでつなぐ新たなプラットフォームが次々と生まれています。たとえば全世界で5,000万人ものユーザー数をもつ「エドモド」。授業内容に特化したコミュニティーを作成でき、未来の教室のあり方として注目が集まっています。

クラスドージョー」のような先生と生徒、親をつなぐサービスも登場しています。これは前述のエドモドのような理解を深めるサービスというよりも、生徒の学習意欲に働きかけるサービス。たとえば生徒がグループワークでリーダーシップを取った、など評価すべき際に先生が画面をタッチすると、生徒のアバターに得点が付与されます。「できたら褒める」をわかりやすく視覚化することで、生徒の挑戦意欲をかき立てるばかりでなく、生徒の教室での様子をデータで把握することが可能です。ICTを組み込むことで、教える側と教わる側双方の学びの効率化が図れるのです。

「課題解決型学習(以下、PBL)」は自主的に参加する学びのスタイルです。なかでも「グローバロリア」というサービスはユニークで、勉強ゲームを子どもたち自身が制作するというもの。ゲームをつくる過程で教科そのものの知識が身につくと同時に、プログラミングも学べる。ゲーミフィケーションを取り入れることで2つの新しい学びが一挙に実現するわけです。

また、新しいテクノロジーを教育に導入するEd-Tech市場はここ5年で急速に拡大しているのだそうです。2014年の投資額は約2,000億円で、年平均29%増と、他の先端科学分野と比べても桁違いの増加率となっています。その背景にはデジタルネイティブの台頭、モバイルデバイスの爆発的な普及、クラウドコンピューティングの普及やビックデータの蓄積などが挙げられるでしょう。

このEd-Techが教育にもたらす効果について、高橋さんは

1. 互いに教え合う双方向の場づくり
2. ICTによる教育にかかるコストの削減
3. 学習効果の向上
4. 教育者へのエンパワー

とまとめました。

その例としてMITの「ジャスト・イン・タイム・ラーニング」を紹介。これはプロジェクトを先に実践し、必要になったときに知識を学ぶ手法。「なぜできないのか?」という切実な疑問から知識を求めるので、学びに対するモチベーションが高く、得た知識がすぐ役立つことで深い理解と定着が図れます。

「知識」から、それを応用するための「スキル」の習得へと移り変わりつつある学びの潮流。新たな領域であるスキルの測定法やモチベーション維持の手法など、メタレベルの学びスキルの開発に高橋さんの関心は向かっているようです。

社会問題の現場を体験することで「身体知」を得る

19歳から24歳まで毎年2カ月、ギリシャやオーストラリアでマグロ漁船に乗っていた、という安部敏樹さん。専門は複雑系や脳神経科学でしたが、「理解」と個人が実際に身体を使って知識を習得する「身体知」は別物で、「学びで得た知識は身体知に落とし込まなければ意味がないことをマグロ漁から体得した」と話します。

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一般社団法人リディラバ 代表理事 安部敏樹さん

現在は一般社団法人リディラバでソーシャルビジネスを営む安部さんが目指すのは「社会の無関心を打破する」こと。社会問題の解決を阻むのは、「関係ないから興味がない」「情報化・視覚化されていないから知らない」「関わり方がわからない」という壁。当事者だけが頑張っても解決できないのが社会問題。関心・情報・現場の3つの壁を取り払い、非当事者が社会問題に関わるようになること。それが安部さんのミッションです。

リディラバでは、社会問題の現場を訪ねる「スタディツアー」を企画運営しています。参加者を修学旅行や研修旅行という名目で半ば強制的に社会問題の現場に連れて行くこのプログラム。現場に立ってはじめて「身体知」に落とし込まれ、関心が芽生えるのです。これまで60以上のテーマを取り上げ、2,000人以上を社会問題の現場に送り届けきたリディラバはいわば「社会問題への窓口」を企業、学校、自治体、消費者に提供する事業。利用者のなかには問題意識を持ちツアー先に移住する人も増えているそうです。スタディツアーの発展事例として、全国のNPO、社会起業家をつなぐカンファレンスイベント「R-SIC(Ridilover Social issue Conference)」も開催。社会課題を解決するため、官民学を巻き込んで多方面でのプロジェクトを展開しています。

スタディツアーやワークショップで重視しているのは「課題設定能力」。「課題が解決できないのは、ほとんどにおいて課題の設定自体が甘いから。適切な問いさえ立てられれば、答えへの道筋はおのずと見えてきます」。安部さんによれば、スタディツアーのプログラムはいわゆる進学校に採用されることが多く、ツアー参加後には生徒の学力が目に見えて上がることも実証済みとのこと。ある学校ではプログラム実施後の定期試験の平均得点が20%増加、グループ活動での主体性は35%増加したそうです。課題設定を体系化し、当事者として関わること。それが学びにおいて大切な要素のようです。

サテライト授業で離島3島の中学校をつなぐ

予備校講師を経て、大手教育サービス会社で遠隔授業サービスに従事していた大辻雄介さんは、もう一度対面で子どもたちに向き合いたいと、離島である海士町に移住。公立塾として運営されている隠岐國学習センターでICTを活用した新たな学びの場づくりに取り組んでいます。

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隠岐國学習センター副長 大辻雄介さん

人口減少と高齢化で財政再建団体に陥る寸前だった海士町。町長をはじめ、管理職員の大幅な賃金カットという身を削る財政改革で捻出した2億円を原資に、島存続をかけた攻めの戦略に打って出ました。岩牡蠣の養殖、隠岐牛のブランド化、生の鮮度を保つ冷凍技術CASの導入などの精力的な活動が功を奏して漁業畜産がよみがえり、町の再生に成功しています。 

取り組みへの注目が集まるにつれ、島での暮らしに魅力を感じて移住してくるIターン者も増えましたが、その一方で島の高校が統廃合の危機に瀕していました。高校がなくなると移住してきた親世代も島から出てしまい、次々と若者が減ってしまう。そこで町は「島前高校魅力化プロジェクト」を立ち上げました。1.本土の高校生の島留学制度、2.学習内容の見直し、3.公立塾(隠岐國学習センター)の設立、の3本柱を軸にプロジェクトは展開されています。

「島全体が学び場、先生は地域の人」と考えれば、漁業、農業、福祉、医療など、学ぶ材料に事欠きません。島前高校の修学旅行先であるシンガポールで、島が抱える課題を大学生に英語でプレゼンする活動にも取り組んでいます。有名予備校出身の講師を擁する隠岐國学習センターで行われているのは、対話の型を学び、地域の課題を学び、自分のテーマを発見してグループワークでプロジェクト学習をする「夢ゼミ」と、学び方のノウハウを伝える「自立学習」です。

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学習センターの遠隔授業の配信先。他地域からも注目され、さらに配信先が増える見込み
(提供:大辻雄介)

その結果、島前高校の生徒数は80名とV字回復し、1学年が1学級から2学級に増加。合格倍率2.3倍と島根県内の最難関校になりました。

また、中学生の基礎学力定着を目指した取り組みもはじめています。中学校は中ノ島、西ノ島、知夫里島3島の各町村にあり、中ノ島海士町の学習センターに内航船で通うのは難しいため、2014年12月からはICTを活用した遠隔授業を配信開始。これによって参加人数が集まりボリュームゾーンができたことで、レベル別の個別授業が可能になり、3島の中学校がつながることで生徒同士の刺激にもなっていると言います。硬質化したコミュニティーを外部から揺さぶるのはICTならではの副次効果、と大辻さん。

「高校でも各島から通う生徒は海が荒れて内航船が欠航すると学校を休まざるを得ない状況は中学と一緒。今後は島前高校から3島各所への遠隔授業の配信も検討しています。今後は島内の学力格差をICTの活用で解消したい」と大辻さんは意気込みます。

それぞれ異なる「学び」と向き合っている登壇者のみなさん。その活動からは学びという分野の幅広さを感じると同時に、ICT技術との融合が織りなす新たな学びの可能性が感じられます。イベント後半ではワークを通して参加者と登壇者、双方にとっての「学び」の意義を掘り起こし、これからの学びとは何かを探りました。次回はその様子をお届けします。

社会人の“これからの学び”を最新潮流から考える ──イベントレポート(3)へ続く
社会人の“これからの学び”を最新潮流から考える ──イベントレポート(1)


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