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移住者たちが築く新たな「市」の文化 ──「人」の魅力を軸とした高知県の地域おこし(1)

2015年05月28日



移住者たちが築く新たな「市」の文化 ──「人」の魅力を軸とした高知県の地域おこし(1) | あしたのコミュニティーラボ
県民所得ランキングで沖縄県と最下位を争う高知県。だが、別の指標で見ると、全国随一とも思える豊かさが浮かび上がる。その豊かさとは、高知県民のおおらかであたたかい「人柄」。今回は行政の産業振興計画の要ともいえる「人」に焦点を当てて、地域を元気にする高知の取り組みを全3回で追う。高知に魅力を感じて移住してきた人々から、その一端を垣間見る第1回。

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郊外のオーガニックマーケットに県外から人が集まる理由とは?

高知市街から車で20分ほどの郊外にある、緑に囲まれた「池公園」。土佐湾にほど近いこの公園で、毎週土曜日に開かれているのが「池公園の土曜市 高知オーガニックマーケット」だ。野菜、果物、穀類、卵、パン、惣菜、菓子などのほか、衣類や革製品、木工品、雑貨など、多種多様な店舗が軒を並べているが、共通しているのはすべて「オーガニック」な商品ばかりということ。

農産物については、化学合成された農薬・除草剤・肥料を使用していないことはもちろん、加工食品は保存料や防腐剤などの添加物や遺伝子組み換え作物を使用しない、農産物・食品以外は手づくり工芸品のみといった、オーガニックマーケット独自の栽培基準とガイドラインに合致したものが売られている。

もともと高知は昔ながらの「街路市」が残っている町だ。300年の歴史がある日曜市をはじめとして、火曜、水曜、木曜、金曜それぞれに高知市内のあちらこちらで市が立つ。だが土曜日の市がなかった。

「土曜日の午前中こそ家族で買い出しの時間。日曜市には、オーガニックな店を好んで渡り歩き、買い物をしている人たちもいる。ならば、オーガニックな商品に特化した市があってもいいんじゃないか、という発想から、2008年にスタートしました」。そう話すのは、高知オーガニックマーケット出店者組合代表世話人の弘瀬豊秀さん。

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高知オーガニックマーケット出店者組合代表世話人 弘瀬豊秀さん

弘瀬さんは2000年に福岡からUターンした専業農家で、野菜や果樹などの有機栽培に取り組んでいる。「土曜市を発案したのは2年前に他界した家内だったんですが、僕は最初、やめとけって反対した」と明かす。

「こんな田舎の高知で、自然派志向の人たちのための市場なんか成り立つわけがない。呼びかけても迷惑かけるだけだから、と。でも家内は聞かずに突っ走った。そういうのが理想だったんでしょうね。もともと環境問題や有機農業に2人ともずっと関心がありましたし」

「売りつつ学び、買いつつ学ぶ」信頼で成り立つ

弘瀬夫妻はUターン後、日曜市で有機栽培の農産物を販売していたが、最初の1年は、1日の売り上げが2,000円程度の日々が続いた。しかし、次第にファンがつき、自然派志向の生産者も増加。そこでの機が熟したという奥様の判断は正しかった。結果、日本初となる毎週開催のオーガニックマーケットに35の出店者が集まった。

県施設の使用許諾の関係で、港のフェリー乗り場から池公園に場所を移してからも、賑わいは続いた。現在の登録者数は毎週の出店者が50、不定期の出店者が40にのぼり、1回の出店数は毎週60店近く。毎回の人出は1,000人前後にのぼる。出店料は毎週なら1カ月6,000円、不定期だと1回2,500円。そこから公園施設と駐車場の使用料を県に支払って運営している。

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訪れた人々はみな思いおもいにマーケットを楽しんでいた(提供:高知オーガニックマーケット)

いまでは、郊外の立地にもかかわらず、ともすれば駐車場は常に満車の状態。家族連れを中心に多くの人で賑わっているのだが、市場ならではの活気あふれる雰囲気とはまた違う。ゆったりと食べ歩いたり店主との会話を楽しむ人、芝生や川沿いで元気に遊ぶ小さな子どもたち、楽器を思いおもいに演奏する人。周囲の恵まれた自然環境も手伝ってか、まったりと居心地のよい時間が流れている。

「売りつつ学び、買いつつ学ぶ」ことをモットーにしている弘瀬さん。

「お客さんが何を求めているか。出店者がどう生産しているか。お互いがわかり合えば信頼感が生まれます。ここで売っているものなら安全安心。その信頼で成立しているのです」

利用者のなかには、アレルギー体質や化学物質過敏症の人たちも多い。市に並ぶ商品は安心して子どもの口に入れられるものばかり。高知の街路市はどこも高齢化の課題を抱えているが、土曜市は若い子育て世代が出店者にも買い物客にも目立つ。若い世代からシニア世代まで、さまざまな世代が集まっているのが特徴的だ。
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土曜市には親子連れも多く訪れる

オーガニックマーケットの先駆けとして全国から視察も増えた。弘瀬さんによれば「信頼できる出店者の確保と毎週の定期開催」が出店継続における市の条件だが、他地域ではハードルが高いようで、高知に続く成功例はまだ少ないという。

お金儲けとは違う原理で動いている人が多い

出店者には土曜市に魅かれて移住したIターン組も多い。

有機栽培の小麦粉と天然酵母でつくるドラム缶焼きピザが名物の「らくだ屋」を出店している宮地剛・邦子さん夫妻は、大阪から山間部の嶺北地域へ移住した。理由は「子育てにふさわしい場所と、暮らしを見直そう」(宮地さん)との考えから。自給自足の農的な暮らしを目指して選んだ地が、かつての旅で「お金儲けとは違う原理で動いている人が多い」と感じた高知だった。

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土曜市でドラム缶ピザを販売する宮地さん夫妻

剛さんは、大阪で関わっていたNPO活動で、障がいのある人が働くカフェを運営、邦子さんも病院内の喫茶店で店長を経験していた。出店にはそうした経験も活かされている。店を構えると資金繰りに追われるため、土曜市の店舗だけが今の稼ぎ場だ。

高知に来て「結果をすぐに求めなくなった」と剛さん。

「骨折したり、地すべりで家が壊れたり、いろいろなことがおこったんだけど、すべてを受け容れるというか、まあ仕方ないよね、と」

この日のピザは、自家製味噌と甘酒でつくった味噌ソースをベースにしたもの。餅、うす揚げ、タケノコ、シメジ、タマネギをトッピングした和風の味が体にやさしい。午前中にはすでに完売してしまうほどの好評ぶりだった。

その宮地夫妻ですら衝撃を受けた夫婦がいるというので紹介してもらった。砂糖を使わずに玄米の甘味だけでつくった飴や菓子を売っている池田伸・幸子夫妻は、なんと燃料まで自給しているという。愛媛から四万十町の山里に移住し、ガスを引かず調理も風呂も薪炭を使っているのだ。

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移住生活を楽しむ池田さん夫妻

使う薪を山から木を拾って切るところからはじめる。さぞかし大変かと思いきや「薪の暮らしは意外と楽しいですよ! 朝起きて火を起こすのが嬉しくて」(幸子さん)と笑う。そのかたわらでは、4人のお子さんが元気に公園で遊んでいた。

Uターン移住者である弘瀬夫妻の働きかけからはじまった土曜市。オーガニック商品を扱うこのマーケットは賑わいを増しており、若い世代へも広がりを見せるこの取り組みは、全国への波及展開も期待されている。第2回は、江戸時代から続く「日曜市」を取り上げ、地域文化の維持と地産地消・地産外商の具体的な取り組みを追う。

“地域密着”で脚光を浴びる日曜市 ──「人」の魅力を軸とした高知県の地域おこし(2)へ続く
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関連リンク
池公園の土曜市 高知オーガニックマーケット


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