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“自分はこれでいいのか”「学び」はそこからはじまる ──東大 中原淳准教授インタビュー(前編)

2015年06月05日



“自分はこれでいいのか”「学び」はそこからはじまる ──東大 中原淳准教授インタビュー(前編) | あしたのコミュニティーラボ
社内での新人研修やリーダー研修、社外での体験学習だけでなく、最近ではオンラインでのオープンエデュケーション、アイデアソン、ハッカソンなど、社会人のための学びの機会は多様化している。だが、そうした場での経験を日々の仕事に活かし、役立つものとするための学びとは何だろうか。企業や組織における学習のあり方を研究し、マネージャー研修などに豊富な実績を持つ中原淳さんに伺った。

活かせるスキルを軸に、捨てる学びを。 ──東大 中原淳准教授インタビュー(後編)

成功体験に縛られていては、変われない

──現在では、社会人のための学びの場やツールは多様化し、キャリアアップや資格取得のための知識獲得の機会が増えています。そうした現状を中原先生はどのように見ていらっしゃいますか。

中原 確かにそうした機会は増えてきました。けれど、よく誤解されているのですが、知識の獲得というのは「最低条件化」しているのですね。それはできてあたりまえ。今はMOOCs(大規模公開オンライン講義)をはじめとして、場所や立場にとらわれないオープンな学ぶ手段がいくらでもあるのだから、自分で勝手にやればいい。

さらに付加価値の高い学びが求められています。たとえば、獲得した知識をいかに用いるか。あるいは、そうした知識自身をどのように創造するかです。リアルな場で行う研修では、もっと付加価値の高いことをやりましょうと。それは、僕の研修における根本発想でもあります。

──そもそも「学び」とはなんでしょうか。

中原 知識を蓄えることだけではなく、蓄積された知識を活用しながら「自分を変える」こと、そして「自分の周りを変える」こと。それが「学び」だと僕は考えています。大人になればなおさらそうです。

昔のように、定年60歳の世界じゃないのです。長く働く事、ないしは、定年なき時代をわたしたちは生きていかなければならなくなるかもしれません。そのようななか、会社が社員の仕事人生を丸抱えしてくれない今、自分で次のステージを切り開かなければならない「キャリアの個人化」がはじまっています。変化に応じて自分自身の学びをデザインし、継続していくことを考えなければなりません。

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──今までと同じ姿勢ではついていけないと。これまでもいろいろな変化を経験し、乗り越えてきたと考えている方も多いと思いますが。

中原 もちろん、今までもいろいろな環境の変化はあった。けれど、45歳で課長になったとしても、残り20年以上も仕事人生があることが最大の変化なのです。みんな長生きするようになっているんですよ。今後は年齢や体力の変化を見据え、残りの長い仕事人生において、自分のあり方を変え続けていかなければならず、何人たりともその学びから逃れることはできません。だから、学びは愉しみでもあり、所与の条件でもあります。

現在、研究室の大学院生有志とポストオフ(降格)の研究をしていますが、降格するのは「成果の出ない人」ではなく「成果をかつてだしていたのだけれども、それ以上学べない=自分を変えられない」人ではないか、という仮説を僕らはもっています。しかも、昔の成功体験を持っている人ほどそれに縛られて学べない、つまり自分を変えられない傾向が強い。

──多くの人が成功体験にとらわれ、新しい発想に至れないといった経験を持っていると思います。知識の獲得だけでは、自分を変えられないということでしょうか。

中原 学びには、おおざっぱに分けると「獲得する学び」と「捨てる学び(アンラーン)」の2つがあるのです。過去の成功体験が通用しないときには、その体験ごと棄却、つまりアンラーンしなければなりません。さらに他者と一緒に学ぶことは、相互作用をもたらします。自分が変わるということは、周りを変えることにもつながる。

「越境」して気づく、アンラーンすべきこと

──成功体験が次の成功事例を生み出す、限定のサイクルがなくなってしまったから、絶えず変化のためのアンラーンが必要だと。

中原 誰もが変化は怖いと思いがちですが、世界や環境に不変なことなんてありません。今までもずっと変わり続けてきました。明治期にはものすごい勢いでグローバル化を成し遂げたわけだし、戦後だってそうです。この国は、何度も何度も、外憂に対して挑み、挑戦してきた。だから大丈夫ですよ。変化を、むやみに怖がることはない。先人がなしてきたように、しなやかに変わって行けばよいのです。

──ただ、実際にアンラーンするといっても簡単ではないと思うのですが、実際にはそれを促すような学びには、どのようなものがあるのでしょうか。

中原 これまでの経験から学んだことを振り返る機会、いわば内省する時間を増やすことでしょうね。去年から、ヤフーの本間浩輔さん、池田潤さんらのお声がけで、異業種5社のトップビジネスマンが集まり、僕が監修・ファシリテーションしている研修もその1つです。異業種5社のトップビジネスパーソンがチームを組んで北海道美瑛町へ行き、地域課題の解決策を提案する。まさに武者修行的なプロジェクトです。

農業、教育、医療あらゆる社会課題が山積する地域で、すでにあるものを大きくする「1を100にする」のではなく、「0から1を生み出す」課題解決のスキルを身につけていきます。目的はもう1つあって、ダイバーシティーあふれる人たちのなかで、ある時はリーダーになり、ある時はフォロワーになるといった経験を通じて、リーダーシップ経験を積んでもらうこと。6カ月かけて美瑛町にプレゼンし、6案のうち2案は採択され、4案は検討のプロセスに入っています。

こんなふうに、キャリアや組織の枠を飛び越えて「越境学習」する学びの場がもっとあっていい。大変だけど楽しい。「たのくるしい」っていうのかな。
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美瑛での研修の1シーン。カレーづくりを通じチームビルディングを行う
(提供:ヤフー株式会社)

──「たのくるしさ」は、どういったところにあるのでしょうか。

中原 朝5時に起き、7時から遠隔会議を開始、ひたすらプレゼンの準備。それでもさまざまな角度からアイデアをこてんぱんに叩かれ、6カ月間メンバーと「ガチ」でぶつかるなかで、本当の「社外縁」がつくりあげられていきます。いくら異業種交流会で名刺交換しても、こんなにガチな社外縁は築けません。電話1本で気軽につながれる最先端のソーシャルキャピタル(社会関係資本)ができるのは、大きなメリットで楽しいことです。

一方で苦しいのは、異業種間で言葉が通じないこと。たとえば、「施策」という言葉の定義ですら大混乱に陥ります。A社では、検討に検討を重ねて一分の隙もないものを「施策」というのに対し、B社では、とりあえず明日からキャンペーンやってみましょう、くらいのことも「施策」という。だから「施策をつくる」と言った時点でもう、それぞれの頭のなかに思い描いていることは何から何まで違うわけです。そこのすり合わせからはじめなければならない。互いの前提情報を探って対話しながら合意形成していくプロセスは、なかなか大変です。

──実際に参加されたみなさんはどのような反応でしたか。

中原 評価を行ったところ、やる前とやった後では明確な差がありました。経営者の目線で物事に考えるようになったとか、多様性あふれるチームを率いる経験ができた、自分のスキルや能力を相対化することができた、というような効果が語られています。

印象的だったのは、社内で饒舌なほうだと思っていた人が、自分よりももっとしゃべり倒す人がいたおかげで発言したくてもできなかったというのです。それを半年間経験し、気づいたことが「話せないことがこんなに苦痛だとは思わなかった」。それから部下から頻繁に話を聞くようになり、今までトラブルが起きてから対処していたところを、未然に処置できるようになった、という話を聴きました。その方はそれ以来、職場の部下に1人ずつ声かけを行うようになったそうです。

「越境」によって、異質さと出会い、葛藤し、「自分はこれでいいのか?」と自問自答するからこそ学びになります。

──しかし、そうした研修で得たことは、現場で活かされないことのほうが多いと聞きます。その場限りにせず、日々の仕事に活かしていく回路はどうしたらできるのでしょう。

中原 まずは、「思い出してもらうきっかけ」をたくさんつくることでしょう。僕が監修する研修のなかには、リマインダ(メールなどを使った備忘通知)が長いものが多いのです。たとえば「マネジメントディスカバリー」とよばれる研修では1年間リマインダを送り続けます。美瑛研修の場合には、終わってから最低1年間はヒアリングするし、アンケートも送ります。ただ、自分の業務とイコールのことをするわけではないでしょうし、得たスキルを直接転用できるとも限らない。その人なりの文脈に応用できればいいわけです。

先ほどの人のように、自分を変えるきっかけにもなる。また、その人自身も研修を通じて、誰かに影響を与えているでしょう。こうした学びを続けていく必要があるのです。

「学び」とは、自分と周りを変えていくことであり、そのための場としてリアルな研修を活用されるべきだと中原先生は言う。異なる業界の人たちとの交流は、新たな視点と気づきの獲得につながっているようだ。後編では、組織内での研修ではどのような体験を通じて学びにつながるのかを、中原先生と考えていく。

活かせるスキルを軸に、捨てる学びを。 ──東大 中原淳准教授インタビュー(後編)へ続く
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中原淳 なかはら・じゅん

東京大学 大学総合教育研究センター 准教授


1975年、北海道旭川市生まれ。東京大学卒業後、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、2006年より現職。研究活動を中心に、民間企業や公共領域の人材育成についても活動を広げている。著書に『教師の学びを科学する』(北大路書房)、『人事よ、ススメ!』(碩学舎)、『駆け出しマネージャーの成長論』(中央公論新社)などがある。


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