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活かせるスキルを軸に、捨てる学びを。 ──東大 中原淳准教授インタビュー(後編)

2015年06月08日



活かせるスキルを軸に、捨てる学びを。 ──東大 中原淳准教授インタビュー(後編) | あしたのコミュニティーラボ
「大人の学びを科学する」をテーマにさまざまな企業でヒアリングやフィールドワーク、研修の監修などを行う中原淳さん。研修も、複数の業種にまたがるものから、社内での取り組みなどもある。後編では、組織内での学びやそこにおける1人ひとりのキャリアについて、中原さんと考えていく。

“自分はこれでいいのか”「学び」はそこからはじまる ──東大 中原淳准教授インタビュー(前編)

社内研修で重要なのは現場の声を聞くこと

──異業種交流であれば、違う価値観にも触れられ刺激になる。一方で、社内研修では、どのような点にフォーカスしているのでしょうか。

中原 現場の人たちが聞きたいのは、現場の言葉でしょう。僕は、リーダー研修の場で最初にいつもこんなことを言います。「みなさんが今考えていることを当てましょう。このクソ忙しい時期に18時から20時に呼ばれて、学者の小難しい話なんて聞きたくない。そう思っていますね?」。ビジョン設定とネットワーキングがリーダーシップには大事……などと理屈を講釈されても「だからどうした?」と、ちっとも心に刺さりません。頭ではわかっているからです。

そこで、僕はいろんな工夫をします。仮に課長職研修だったら、事前にその会社ですでに課長職になっている人たち数人にヒアリングして、課長に任命されてから1年間で悩んだことを研修現場で話してもらいます。結局、現場に刺さるのは現場の言葉。ただ、それだけだと「個別の経験にすぎないのでは……」となるので、4割くらいは抽象化して理論で補強するわけです。そのあとで、「みなさんが課長になって今の職場を変えるとしたら何をしますか?」と互いに話し合ってもらう。

──人材が足りず、マネージャー兼プレーヤーでなければならないなど、仕事を離れて学ぶオフ・ザ・ジョブの機会を設けにくい状況もあるようですが。

中原 オフ・ザ・ジョブの研修で可能なことは2つ。プレビュー・予習とリフレクションです。つまり、これから起こることを見せて、対処するための最低限の知識を身につけてもらい、半年、1年後にそれを振り返ること。あとはもうオン・ザ・ジョブで学ぶしかありません。かといってプレビューもリフレクションもなければ、すべて現場で試行錯誤しなければならず、それは明らかに非効率。他人の先行事例から少しでも学んで失敗を避けたほうが、どう考えても得策です。

課長になって1年後、誰もが“どんより”する

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──つまり、研修は対象者の段階に応じて、プレビュー・予習、リフレクションのサイクルを回していくべきなんですね。

中原 理想的にはそうだと思います。いくらプレビュー・予習しても、実際に部下を率いてみなければわかりませんから。課長職に任命され「やっと一国一城の主になれた」「海外出張の日程も自分で決められるようになった」と張り切っていた人が、半年後、1年後に会うと、たいていどんよりしている。

──どんよりしてしまうのは、どういった理由からなんでしょうか。

中原 結局は2つです。よく言われるように、上司と部下との板ばさみです。もうひとつが、マネージャーに上がってくる案件はグレーか限りなく黒に近いものばかりだということ。白黒がハッキリつく案件は下で処理できますから。

もちろん、プレビュー・予習の段階で「みなさん、これからグレーの世界を生きることになります」とは言うんだけど、その世界を実際に生きてみないと、しょせん自分ごとにはなりません。

「マネジメント」を一言で表せば「やりくり」。問題は何ひとつすっきりと解決しない、やりくりしているだけ。だから、本質的に矛盾・葛藤を抱えた仕事だと思って取り組んだほうがいいですね。

──実際にグレーの世界を経験したマネージャーたちが、どんよりから前へ進むためにはどんなリフレクションを?

中原 同じような経験を持つ人たちが集まり、抱えている矛盾・葛藤を話してもらうと、だいたいみなさんから出てくるのは同じような内容です。だからいったんすべてを受容してあげます。「それでいいんです」と。「日本のマネージャーは今、みなさんと同じような矛盾・葛藤を抱えています」とデータも出して、まずは安心してもらう。

こうした時間をとることで、「同じ組織のなかで誰もがぶちあたる壁だ」と現状を受け容れることができる。そうすれば、課題を整理し、上司や部下との関係、職場や事業について、あらためて振り返る気力も湧きます。

また、このような部門を越えたコミュニケーションは、思いや考えを共有するだけでなく、新しい気づきや発見にもつながることもある。これもオフ・ザ・ジョブのメリットでしょう。

──現在、そうした新しい気づきや発見からイノベーションが起こるのではないか、と多くの企業が期待して場づくりを進めています。よりイノベーションが起こりやすい学びの場が求められているということでしょうか。

中原 それは、学びの場というより、日本人は十分にイノベーティブだしクリエイティブなのに、それが潰される組織構造に問題があると思います。京都大学の武石先生らの研究によりますと、日本の著名なイノベーション事例でも、組織としてそこに資源動員(ヒトモノカネをつけた)したケースはわずかしかありません。たいてい組織のなかでは鼻つまみものが、困り果てたあげく外部の人たちを巻き込み、寝技を使い組織の内部をねじふせて実現しているのです。

イノベーションとは単にグッドアイデアを思いつくことではなく、製品やサービスに結実しサプライチェーンに乗せるまでの全プロセスをいいます。そして、それを成し遂げるには平均すると長い時間がかかりますよね。たとえば、10年かかるとしましょうか。つまり10年間、得体の知れない怪しげな、しかも金ばかり出て行く案件を社内に抱えこむわけです。だから、その覚悟がないのに軽々しくイノベーションなどと口にすべきではないと思います。新しいものを生み出すのは、いつの時代もそういう怪しくて楽しい場なんですよ。

今あるものをすべて捨て去る必要はない

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──一部の人ではなく、プロセスに関わるすべての人が学び続ける必要があるように思いますが、アンラーン・学び直しのきっかけをつかむためにはどうしたらいいでしょうか。

中原 「このままだとヤバいかな。でも何とか逃げ切れるかも」。みんな、そうやって揺れ動いているんじゃないですか。これは自戒を含めて言いますが、多くの人はそうした心の声をなかったことにする。考えるのが面倒くさいからです。でも、なんとなく感づいてはいる。だから、他人から「学び直せ」と言われたらムカつく。それだったら、自分で、さっさと変わり方も変わり先も決めたほうが断然いいわけです。

──とはいえ、手当たりしだいにアンラーンするわけにもいかないですよね。個人や組織がアンラーンしなければならない時の障壁や、それを乗り越える時の効果的な方法はありますか。

中原 組織が持っている大事なものが環境に変化に合わなくなってくると、組織としても個人としてもしんどくなってくる。

ある企業で僕が研修させてもらった時、管理職の方が半ば涙声で訴えていました。「今までプレタポルテの服を作ってたオレに、貸し服屋になれというのか!」。メタファーとして秀逸だったのでよく覚えています。

僕はいつも学生に「キャリアの転換はバスケットボールのピボットターンだ(片足を軸にもう片足を動かし体の向きを変えること)」と言っています。必ず軸足を決めて動く。両足を動かしたらバイオレーション(反則)を取られてしまうと。

高級既製服から安価な貸し服に移行しても、貸し服屋専業には勝てないでしょう。ならば、今の軸足を活かしてピボットターンするしかない。もしかしたらプレタポルテでも貸し服屋でもない第3の道を探す必要があるのかもしれません。

──まず自分の強みを客観的に棚卸してみることが必要なのでしょうか。

中原 今あるものをすべて捨て去るのは自殺行為だと思う。これまで積み上げてきた何らかの知識やスキルを他の領域で活かしてみたらいいのです。

僕は最近、高校の研究もはじめています。なぜなら、15年かけて企業を研究し続けた結果、自分とほぼ同年代の40歳前後のビジネスパーソンに対して、リーダーシップだの論理思考だのを教えるのは遅すぎると思いはじめたからです。もっと早く身につけていないと、いざという時に役立たないのではないか。ならば、文科省が学習指導要領で導入を図ろうとしている「アクティブ・ラーニング」(受動的に講義を聞くのではなく能動的に意見を言い合いながら学ぶ)の衣にかぶせて、就業時に必要なスキルの教育を前倒しできれば、と。

すると、先日ある人に言われました。「壮大な回り道だね。そもそも教育学者としてスタートした時に高校の研究をしていればよかったのに」。たしかに大きな回り道かもしれない(笑)。けれど、15年かけた企業研究のなかから活かせることも多いです。僕もまさに今、新たな領域に挑むアンラーンの真っ最中なんだと思います。

“自分はこれでいいのか”「学び」はそこからはじまる──東大 中原淳准教授インタビュー(前編)
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中原淳 なかはら・じゅん

東京大学 大学総合教育研究センター 准教授


1975年、北海道旭川市生まれ。東京大学卒業後、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、2006年より現職。研究活動を中心に、民間企業や公共領域の人材育成についても活動を広げている。著書に『教師の学びを科学する』(北大路書房)、『人事よ、ススメ!』(碩学舎)、『駆け出しマネージャーの成長論』(中央公論新社)などがある。


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