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広がる、越境するFabの試み ──生活に根づくデジタルファブリケーションの展望とは(前編)

2015年06月17日



広がる、越境するFabの試み ──生活に根づくデジタルファブリケーションの展望とは(前編) | あしたのコミュニティーラボ
2012年、東京・渋谷周辺にデジタル工作機器によるものづくり(デジタルファブリケーション)を支援するFabスペースが続々と生まれた。それから3年、ムーブメントは多様に広がり、徐々にわたしたち生活者にも手が届く分野へと進出しつつある。さらなる広がりのカギとなるのは、既存のステークホルダーに留まらない、異分野への越境なのかもしれない。

2025年、“Fabスペース”は消滅する!? ──生活に根づくデジタルファブリケーションの展望とは(後編)

渋谷周辺に点在するFab拠点のネットワーク

2015年3月6日、東京・品川のCreative Loungeで、「TOKYO FABBERS’ MEETING #05 ──FABは通用するのか:FABコミュニティの未来予想図を描く編」というイベントが開催された。身近になったデジタル工作機器と、ネットで共有されるデータを使って、誰もが気軽に個人的なものづくりをする。そんな時代はやってくるのか。そのとき、ライフスタイルと社会はどう変わるのか。10年後の2025年を想定し、デジタルファブリケーションの可能性を探るトークセッションだった。
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FabLab Shibuya代表 梅澤陽明さん

モデレーターを務めたFabLab Shibuya梅澤陽明さんは、日本におけるFabムーブメントの勃興期を2012年とした。この年、つくば、鎌倉に次ぎ日本で3番目のファブラボとして誕生したFabLab Shibuya(渋谷区宇田川町)をはじめとして、レーザーカッターや3Dプリンターなどのデジタル工作機器を備えたFabスペースが東京・渋谷周辺に続々と開設されたからだ。
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TOKYO FABBERSネットワークを構成する6つのパートナー(提供:TOKYO FABBERS)

誰でもカジュアルに立ち寄れるFabへのエントランス「FabCafe Tokyo」(渋谷区道玄坂)、ファッションに特化したコワーキングスペース「coromoza」(渋谷区神宮前)、多様な素材に印刷可能なデジタルプリントのおもしろさを発信する「HappyPrinters」(渋谷区神宮前)、クラフト向けのツールも豊富に用意された会員制工房「Makers’Base」(目黒区下目黒)。

2012年に誕生した以上5拠点と、10年前から開設しているコミュニティースペース「IID世田谷ものづくり学校」内に2014年オープンした「PTA(Physical Thinking Area / Prototype Thinking Area)」(世田谷区池尻)を合わせ、「TOKYO FABBERS」というネットワークが生まれている。先のイベントでは、5回目となるミーティングの総集編的な位置づけとして、Fabの未来を考えた。

TOKYO FABBERSは、公益財団法人東京都歴史文化財団の東京文化発信プロジェクト室(現在事業を再編し、アーツカウンシル東京に組織を統合)との共催事業。渋谷周辺に点在するものづくり拠点に集うアーティストやクリエイターのコミュニティー形成を目指すプロジェクトだ。

「それぞれの拠点の特長に応じて、一般の人もFabスペースを使い分け、つくり手のネットワークを活用して新しいプロジェクトがはじまるような動きが出てくると、よりクリエイティブなシーンとしての可能性が膨らみ、おもしろい」と語るのは、TOKYO FABBERSのアートマネージャー、熊谷薫さん。
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TOKYO FABBERSアートマネージャー 熊谷薫さん

「とはいえ、互いに存在は知っているけれど横のつながりがなかったので、これまでは各拠点の現場の課題を掘り起こしてシェアするミーティングを重ねてきました。今後は、FABBERSがまちに出て媒介役になり、身近な生活や地域の課題を解決する糸口を探るにはどうしたらいいのか、〈まち〉と〈人〉にフォーカスした活動に注力していきます」

「世界一ワクワクする印刷工場」のマス・カスタマイゼーション

Fab拠点同士や他企業との連携もさかんになった。

FabLab Shibuyaは、ロフトと無印良品で購入した商品に、文字やイラスト、写真などを「ちょい足し」してオリジナルなものに仕上げられる工房「&Fab」を、2013年から西武渋谷店モヴィータ館で運営している。常設するFabマシンの1つ、UVプリンター(木材、アクリル、金属など多様な素材や立体物にも印刷可能なデジタルインクジェットプリンター)は、HappyPrintersのサポートで導入されたものだ。
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&Fabの受付。奥に見える巨大なマシンがUVプリンターだ(写真提供:FabLab Shibuya)

このHappyPrintersの代表、堀江賢司さんの実家は愛知県一宮市で幟や横断幕など宣伝用の布印刷を手がける堀江織物株式会社。一品物のオンデマンド印刷から小ロットの適量生産まで、新しいデジタル印刷の可能性を試せるような「世界一ワクワクする印刷工場」を目指してHappyPrintersを立ち上げた。UVプリンター、Latexプリンター(布やビニール、フェイクレザー、壁紙など、大型のシート状素材に印刷可能)、レーザーカッターを備えている。
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HappyPrinters代表 堀江賢司さん

「うまくいくかどうかわからない素材や加工も試してみることができます。お客さんと一緒に、今まで想定していなかったマシンの使い方を試したり、新たな素材開発にもつなげられる。対企業のビジネスでは、クライアントにたいして不安定な要素を排除して確実につくることを求められるのでリスクを取ることができず、慎重になりがちです。それがお店なら、〈おまかせ〉ではなく〈つくることに参加する〉コンセプトを納得いただいたうえで、“実験”ができる。プリント工程と技術をオープンにし、つくる喜びをお客さんと分かち合えます」

お気に入りの写真をスマホケースに印刷したり、子どもの描いた絵をスキャンしバッグにプリントしたりと、個人が気軽に自分なりのものづくりを楽しんでいる。高齢者対象のパソコン教室のワークショップなども開かれ、パスケースに写真を印刷してトリミングと解像度について理解を深めたりしている。ユニークな利用例として、フェイクレザーに印刷し、着物の草履をつくる着物クリエイターさんも。
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UVプリンターはあらゆる物への印刷が可能だ

企業とのコラボレーションでは、富士通のハンディスキャナー「ScanSnap」のオリジナルカバープリントサービスを展開。店や会社のロゴを入れたり、メッセージを入れてプレゼントにするなどの使い方ができる。カバーは取り外し可能なので、新たにカスタマイズしたカバーを付けても、もともと本体に付いていた無地のカバーに戻せば、修理や交換は期間内メーカー保証の対象になる。

「モバイルバッテリーにオリジナルプリントするカスタマイズなど、メーカーさんとのこうしたコラボを少しずつ増やしていきたい」と堀江さんは話す。
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完成したScanSnapのカバー

「今まで印刷なんて想像もつかなかったような領域でも、マス・カスタマイゼーションの方法(一般に販売されている商品に装飾を施したり、所有者の好みを付け足すこと)なら入っていけます。印刷もデジタルデータを活用した少量多品種生産がこれから主流となるに違いないので、その方向への足がかりを築きはじめているところです」

個人がオリジナルのものづくりを楽しめる場としてのHappyPrintersは、印刷業の新しいビジネスモデルの可能性を開拓する拠点でもあるようだ。

企業とのコラボレーションによる、マス・カスタマイゼーションの潮流の一端を垣間見られるHappyPrintersの取り組み。後編では、ホームセンターでの新たなチャレンジを例に、わたしたちの生活におけるFabムーブメントの定着・可能性について考えていく。

2025年、“Fabスペース”は消滅する!? ──生活に根づくデジタルファブリケーションの展望とは(後編)へ続く


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