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“宇宙ビジネスビックバン”の波に乗り、月面ローバーは進む ──『「夢みたい」を現実に。』HAKUTOの挑戦(前編)

2015年06月25日



“宇宙ビジネスビックバン”の波に乗り、月面ローバーは進む ──『「夢みたい」を現実に。』HAKUTOの挑戦(前編) | あしたのコミュニティーラボ
地球から38万キロメートル離れた月。「HAKUTO」は、民間による月面ロボット探査を競う国際レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一参加するチームだ。2016年後半の打ち上げに向け、ベンチャー企業と大学とプロボノたちによる混成部隊が着々と準備を進めている。その特徴は“宇宙村”と表される、重厚長大な組織によるプロジェクト遂行方法とは180度異なるチーム運営方法にある。今回は、前後半にわたりHAKUTOを通じて “しなやかな組織デザイン”のヒントを読み解く。

しなやかな組織デザインで宇宙の壁に挑む ──『「夢みたい」を現実に。』HAKUTOの挑戦(後編)

民間初の月面ロボット探査に挑むプロジェクト

東京・港区のビルの1室。週末になると、所属先も職種もバラバラな平均30歳前後の社会人や学生が20人以上集まってくる。テーブルには、巨大な4輪が付いた月面ローバー「ムーンレイカー」の模型。

ミーティングしているのはチーム「HAKUTO」(白兎)のメンバーだ。多くのメンバーがプロボノ(仕事の経験やスキルを活かすボランティア)として参画している。HAKUTOは、月面ロボット探査を競う国際レース「Google Lunar XPRIZE」での優勝と、世界初の月面の縦孔(*)探査をミッションに結成された任意団体。

(*たてあな、編集部注:垂直にあいた穴のことで、過去の火山活動の研究対象になるほか、月表面の紫外線や隕石衝突などから守られるため月面基地を設置するのに適していると言われている)
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HAKUTOが開発を進める月面ローバー「ムーンレイカー」の模型。持ってみると驚くほど軽い

HAKUTOが挑戦しているのは、賞金総額3000万ドルの国際レース「Google Lunar XPRIZE」だ。月面に着陸させ、着陸地点から500m移動、高解像度の動画や静止画データを地球に送信する作業の達成度やスピードを競う。なお、アメリカの民間企業・スペースX社の商業用打ち上げロケット「ファルコン9」で打ち上げ、アストロボティック社のランダー「グリフィン」で月面に軟着陸する予定だ。

2017年末を期限として、民間による宇宙開発を加速し宇宙ビジネスを育成するべく、スポンサーをGoogleが務め、民間による宇宙開発を支援するXPRIZE財団が運営を行っている。世界10カ国以上から16チームが参加しており、HAKUTOは日本から唯一参加するチームとして名乗りをあげている。

企業、大学、個人それぞれの立場で自主的に参加

HAKUTOのプロジェクト構成は大きく3つのグループに分かれる。運営主体として、資金調達などの責任を負うのが、宇宙事業をミッションに掲げるスタートアップベンチャー 株式会社ispace(アイスペース)。プロボノによる週末ミーティングもispace内で行なわれる。

「ローバー」と呼ばれる月面探査ロボットの開発は、東北大学 工学研究科 吉田和哉教授の研究室とispaceによって共同で行われており、東北大の学生もメンバーとして参加している。
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ミーティングの一幕。プロジェクトが大きくなるにつれて参加人数も増えてきている

そして、3つ目が週末を使って活動するプロボノたちによって構成されるプロモーション部隊だ。より多くの人にHAKUTOを知ってもらい、パートナー企業やサポーター、ファンを増やし、スポンサー募集やクラウドファンディングで資金調達するための土台をつくるという重要な任務を担っている。

現在、プロジェクト全体で30~40人が活動し、累計で100人以上が関わってきた。企業、大学、個人とさまざまな立場から、それぞれのスキルを自主的に持ち寄り、民間初の月面ロボット探査という大きな目的の達成に挑む、ゆるやかにつながる共創プロジェクト。それがHAKUTOだ。

HAKUTOは2015年1月、Google Lunar XPRIZE中間賞授賞式で、モビリティサブシステム中間賞を受賞。開発したローバーが宇宙空間で機能することを証明し、賞金50万ドルを獲得した。

“スターウォーズのような宇宙船”をつくりたい

X PRIZE財団が最初に主催した賞金レースは、民間による有人宇宙飛行を競う「Ansari XPRIZE」だった。1996年に開始され、2004年にベンチャー企業の開発した宇宙機が賞金を獲得した。優勝チームが航空宇宙工学で全米屈指のジョージア工科大学大学院を訪れレクチャーした際、聴講側の学生として熱心に聞き耳を立てていた1人の日本人。
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株式会社ispace 代表取締役 袴田武史さん

それが、HAKUTOの運営主体であるispaceの代表取締役、当時留学生だった袴田武史さんだった。袴田さんは、映画「スターウォーズ」をきっかけに宇宙に興味を持ち、宇宙船をつくりたいと航空宇宙工学を学んでいた。

「そのときわかったのは、“スターウォーズで登場する宇宙船が飛び交う世界“になるには、国主導の進捗の遅い宇宙開発では立ちゆかない。民間でイノベーションを起こしスピードを速めなければならないということでした。しかし、民間で宇宙開発するために必要な経営と資本を担える人材がほとんどいない。もともとエンジニアになろうと大学で学んでいましたが、それよりもそのバックボーンを担える人材になろうと思いました」

宇宙事業を目指すベンチャー企業、いよいよ始動!

卒業後、袴田さんは「経営と資本に明るくなろう」とコンサルティングファームで経験を積んだ。同時に、Google Lunar XPRIZEに参加するヨーロッパチームの探査ロボットが東北大学吉田教授の研究室で開発されることを知り、その日本版として資金調達をするプロジェクトに関わる。2010年、合同会社「ホワイトレーベルスペースジャパン」を設立したのと同時に、所属するコンサルティングファームに掛け合い、週2日はHAKUTOの活動を行う承認を得た。
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「コンサルティングファームではコスト削減の方法や効率化の方法など、HAKUTOに生かす基礎を学びました」と袴田さんは振り返る

しばらく2足のわらじでの生活が続いたが、2013年に資金調達に頓挫したヨーロッパ側が、当時の期限だった2015年末までの着陸船の開発と打ち上げ機の調達を断念した。これが袴田さんの転機となる。

「日本側からすると探査ロボットの開発は吉田教授の技術を使えば十分にできるので、彼らと共に活動を休止するのはもったいない。最終的に他の着陸船に相乗りして生き延びる道を独自に探り、合同会社を株式会社に組織変更してispaceを設立しました。HAKUTOを最初のプロジェクトとする、資源開発などの宇宙事業を目指すベンチャー企業としてアクセルを踏んだわけです」

宇宙ビジネスにも“多様化”の波

袴田さんによれば、いまアメリカを皮切りに「宇宙ビジネスビッグバン」が起きているという。

「市場開放、開発コストの低下、人材の多様性。この3つの要素で、宇宙開発事業は国家占有から民間の手に委ねられつつあります」

ナショナルプロジェクトとしての宇宙探究には巨額の税金が投入されるため、プロジェクトには明確な目的とその効果に対する説明責任が求められる。他の先端技術との兼ね合いもあり、国家予算におけるNASAへの配分は増えていないのが実状だ。そこでNASAは、本来の役割である宇宙における未知の領域発見に特化し、月を含む地球周辺分野の開発は民間に開放している。


静岡県の中田島砂丘でのフィールド走行試験の様子(提供:HAKUTO)
巨大なエンジンを1台つくるのではなく、小さなエンジンを何台も組み合わせ、ソフトウェアで制御すればロケットが打ち上がる時代だ。コンピュータがメインフレームからPCへダウンサイジングしたように、宇宙開発のハードウェアが小型化し、開発コストが下がったことも民間の参入を促している。

これらの背景があり、スペースXのイーロン・マスクやヴァージン・ギャラクティックのリチャード・ブランソンに代表されるように、他産業、特にIT業界で成功したさまざまな起業家がこの分野の可能性に注目し、チャレンジを開始している。衛星による地上ビッグデータの活用や通信サービス、小惑星や月の資源探査など、宇宙には新しい市場を切り拓くさまざまなビジネスチャンスが眠っているのだ。たとえば、特定の小惑星にはレアアースがふんだんに含まれていることが判明している。「一軒家程度のサイズの小惑星を持ち帰ることができれば、今まで地球上で採れた量以上のプラチナが採れる」(袴田さん)とする推測もあるそうだ。
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HAKUTOのタグライン『「夢みたい」を現実に。』は、プロジェクトの姿勢が表された言葉だ

宇宙ビジネスビッグバンの胎動は日本にも伝播しはじめ、その先陣を切る象徴的なプロジェクトがHAKUTOといえるのだ。

夢の世界だった“宇宙開発”が徐々に身近なものに変わり、HAKUTOの活動も加速度的に認知されはじめつつある。それはプロジェクト運営スタッフによる戦略的なプロモーションに寄るところも大きい。後編は、HAKUTOを支えるプロボノメンバーへのインタビューを中心に、目標達成に向けた奮闘を追った。

しなやかな組織デザインで宇宙の壁に挑む ──『「夢みたい」を現実に。』HAKUTOの挑戦(後編)へ続く

関連リンク
HAKUTO
Google Lunar XPRIZE


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