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しなやかな組織デザインで宇宙の壁に挑む ──『「夢みたい」を現実に。』HAKUTOの挑戦(後編)

2015年06月26日



しなやかな組織デザインで宇宙の壁に挑む ──『「夢みたい」を現実に。』HAKUTOの挑戦(後編) | あしたのコミュニティーラボ
民間参入により宇宙ビジネスビックバンを迎えている今、日本ではじめて民間として月面ロボット探査に挑む「HAKUTO」。民間による月面探査ロボット開発というアプローチによって既存の宇宙開発のやり方も変えようとしている。特にプロモーションの分野で中心的な役割を果たすプロボノメンバーとプロボノから常駐メンバーへ転換した2名。後編では彼らのプロジェクトへの関わり方や現場での奮闘の様子から見える、“新しい働き方”と“しなやか組織のつくり方”を追った。

“宇宙ビジネスビックバン”の波に乗り、月面ローバーは進む ──『「夢みたい」を現実に。』HAKUTOの挑戦(前編)

『「夢みたい」を現実に。』するプロボノたち

「宇宙ビジネス」なんて夢のような話に聞こえるだろうか。だがすでに、HAKUTOはあと一歩の段階まで来ている。そのことを強調するため、最近になって『「夢みたい」を現実に。』というタグラインを設定した。

「宇宙開発という舞台で新しいチャレンジの先頭に立とう、と。しかもそれがボランティアでもできてしまうことを証明したい。宇宙開発に対して多くの人が抱いている固定観念を外す試みでもあるんです」と袴田さん。

月面ローバーの開発とともに、大きな期待をかけられているのが、プロモーションを担うプロボノたち。ファンミーティングや子ども向けワークショップといった各種イベントの企画実施、Webサイトや映像制作、グッズデザイン、SNS運用、メルマガ発信、取材対応といった業務に携わっている。
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取材当日、子ども向けワークショップ用の模型見本をつくっていたプロボノメンバー

プロボノは仕事で培った自分の能力を活かすのが大前提。希望者はオリエンテーションを受けどんなことができそうか話し合い、3~4回ミーティングに出て、自分ができることを探す。

「敷居は低くしてあり、誰でもスタッフとして入りたければ入ることは可能です。ただし、こちらからタスクを振り分けることはほぼしません。『仕事は自分で見つけてください』と伝えています。自分自身で仕事を見つけないと、モチベーションは上がらない」(袴田さん)というのが、プロボノとしてHAKUTOに関わる原理原則だ。

自らもプロボノだからわかる、プロボノとともに活動する意義

プロボノリーダーを務める後藤拓也さんの本業は、ITベンダーに勤務するシステムエンジニア。学生時代に映画「アポロ13」に強く影響され、宇宙関係の職種に進みたいと考えていたが、なかなか機会に恵まれなかった。そんな時、テレビのニュースでHAKUTOを知り、「即断即決でメールを送った」のが2013年8月。

「当初は自分の本業でもあるエンジニアとして携わりたかったのですが、探査ロボットの開発メンバーの話を聞いたら、会話内容がほぼ理解できなくて、これはムリと諦めました(笑)。本業ではシステムエンジニアを務めているので、できることをやろうと。チームをまとめる仕事が向いているかな、と思いました」
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HAKUTO プロボノリーダー 後藤拓也さん

いかにプロボノたちのモチベーションを保つか。それが最も難しい、と後藤さんは明かす。探査ロボットは東北大学の研究室が開発しているので、主に東京に集まるプロボノたちがエンジニアとして関われる部分はそれほど多くない。それを期待して参加した人は当てが外れて辞めたり、本業とプライベートが多忙になりいつのまにか足が遠のく人もいる。

「あまり否定的なことは言わないように」、後藤さんは心がけているという。

「モチベーションを上げるには、自分のやりたいことをやってもらうのが1番。だから、HAKUTOにプラスになるアイデアだったら、どんなことでも提案してもらい、やってみようよ! と形にしていくようにしています」
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プロボノ活動を通じて、プロモーションの大切さがはじめてわかった。メッセージの発し方1つで人を動かすことができる。それはエンジニアとして新鮮な体験だった。本業での説明の1つひとつや、発表のスキルも向上したように思うと、後藤さんは話してくれた。

打ち上げまでに、SNSのフォロワーも含めてHAKUTOファンの人数を38万人にする。これがプロモーションチームの目標だ。数値は、月と地球の距離“38万km”にちなんでいる。

誰でも宇宙開発に関われることを知ってほしい

記者発表会やファンミーティングのアテンドなど、より多くの人に認知し応援してもらうためのプロモーション施策全般を担当しているのが、コミュニケーションリーダーの米澤香子さん。NASAのエンジニアに憧れ、大学では航空宇宙工学を専攻したが「エンジニアよりも、技術を人に伝える仕事に適性を感じて」情報系の大学院に進学し、大手広告代理店に入社した。
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HAKUTO コミュニケーションリーダー 米澤香子さん

友人に誘われHAKUTOの忘年会に参加したことがきっかけで、2014年に袴田さんから誘いを受けた。当初はプロボノとして協力していたが、記者向けの発表会を平日に開く必要があり、所属企業の仕事として行うようになった。打ち上げに向けて、より本格的なコミュニケーションを推進するために、2015年4月からフルタイムでプロジェクトに関わっている。

「宇宙開発を身近なイメージに変えることを軸に、探査ロボットの公開実験をして身近に感じてもらったり、ファンミーティングでプロボノメンバーがかわるがわるプレゼンしたりして、宇宙開発には技術だけでなく、多様な側面があることを知ってもらおうと活動しています。HAKUTOを事例に誰でも宇宙開発に関われることを見せていきたいんです 」


HAKUTOメンバーの紹介動画「Introducing TEAM HAKUTO」(提供:HAKUTO)
Google Lunar XPRIZEは賞金レース。ともすればHAKUTOは単なる賞金稼ぎのチームに見られかねない。そこで米澤さんはプレゼンするたび、レースの意義と、参加の意図を伝え続けている。XPRIZE財団が着想を得たのは、チャールズ・リンドバーグの大西洋横断無着陸飛行(1927年)だったという。

「飛行機のパイオニアと言われるリンドバーグが、パリからニューヨークまでノンストップで飛ぶレースに優勝したことをきっかけに航空機の速さと安全性が注目され、投資も人材も集まり、航空機産業が発展しました。それをモデルにし、“誰もが当たり前に宇宙へ行き来する世界の実現”を目指し、はじめの一歩を踏み出しているのがGoogle Lunar XPRIZEというチャレンジであり、HAKUTOなんです」

夢を現実にするためのフラットなチームづくり

HAKUTOに関わるプロボノメンバーたちが宇宙へ託す夢はさまざまだ。だが、夢を実現する民間宇宙産業の勃興期に立ち合っているという高揚感は、すべてのメンバーが共有しているに違いない。袴田さんも後藤さんも指摘するように、ボランティアとして関わるプロボノにとって、モチベーションの維持が継続するための最大の要件だ。
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それをマネジメントするには、38万人のファンを生むという具体的な数値目標の設定も欠かせない。だが同時に、米澤さんが話すように、月面ロボット探査を競う国際レースでの優勝という目標達成の先にある、『「夢みたい」を現実に。』の高揚感の共有も大切な要素だろう。

HAKUTOのようなプロボノ集団によるプロジェクトは、多様性のある人材を集めてチームを組み、ある目的を達成しようとするすべての試みにヒントを与えてくれる。『「夢みたい」を現実に。』する楽しさに支えられているからこそ、目的ごとに柔軟に組み替え可能なヒエラルキーのないチームがいくつも併存できるのだ。「1人がチームをまたがって所属していたり、まったく専門と関係ないチームに所属していたりするのがおもしろい」と米澤さんも話す。

「宇宙開発」という夢を現実にするばかりではない。強制のない、内発的な動機で各自がスキルを活かし、誰もが共感可能な目的を達成できる「夢みたいにフラットな組織」を実現しようとしているのが、HAKUTOというチームの本質なのかもしれない。

“宇宙ビジネスビックバン”の波に乗り、月面ローバーは進む ──『「夢みたい」を現実に。』HAKUTOの挑戦(前編)

関連リンク
HAKUTO
Google Lunar XPRIZE


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