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求められるのは、アートとサイエンスを両立できるつくり手 ──Prototyping & Design Lab・山中俊治さん(前編)

2015年07月28日



求められるのは、アートとサイエンスを両立できるつくり手 ──Prototyping & Design Lab・山中俊治さん(前編) | あしたのコミュニティーラボ
次世代のものづくりを担う人材として、「デザインエンジニア」が注目されている。果たして、それはどのような役割が求められ、どのような視点が必要なのか。東京大学生産技術研究所(機械・生体系部門)で教授を務める山中俊治さんは、2013年4月から「Prototyping & Design Laboratory」(山中俊治研究室)でデザインエンジニアの教育および育成の活動をはじめた。そのねらいやものづくりの人材像について、山中さんに伺う。

専門性という壁にとらわれない人材になれ ──Prototyping & Design Lab・山中俊治さん(後編)

大量生産を支えた“20世紀型”デザイナーを越えて

──従来、ものづくりの現場では、機能の組み立てやしくみをつくるエンジニアや、ビジュアル面での設計や図工を行うデザイナーがいます。しかし、山中さんは、そのどちらでもない「デザインエンジニア」の教育および育成を進めていらっしゃいます。そこには、どのような問題意識があるのでしょうか?

山中 そもそも、英語の「デザイン(design)」という言葉には「機能をかなえる“設計”」という意味も含まれています。しかし日本では、設計とデザインは別の言葉として輸入されてしまったので、職能としても「スタイリングを決めるのはデザイナーで、機能を設計するのはエンジニア」というように分離してしまいました。もともと、工業デザインを行うスタイリングデザイナーという職業が成立するようになった20世紀初頭と、さまざまな分野で大量生産が導入されるようになった時期とは一致しています。
東京大学生産技術研究所 機械・生体系部門 教授 山中俊治さん
東京大学生産技術研究所 機械・生体系部門 教授 山中俊治さん

──本来、デザイナーはスタイリングだけでなく、機能設計にも重要な役割をもっていたと。

山中 そうです。大量生産というのは、誰もが同じものを安く手に入れられる点においてすばらしい、ということが前提になっていました。デザイナーが優れたひな形をつくれば、それを大量に複製できて、みんなが安く買えてハッピーになれると。しかしいつの間にかデザイナーは、良くも悪くも「売れる形をつくる人」になっていたように思います。

──そうした時代を経て、なぜ今、新しい役割がものづくりに求められているのでしょうか?

山中 背景の1つに、「大量生産」だけがもてはやされる時代の終焉が挙げられるのではないでしょうか。前世紀の終わり頃から、大量生産を前提とした社会が成長の限界を迎え、売れれば良いという時代ではなくなりました。みんなが同じものを手に入れることよりも、本当に欲しいものを手に入れることが重要になり、“ユニバーサルデザイン”や“ローカリズム”のような、マイノリティの価値観が生まれました。そうしたなかで、デザインエンジニアという統合的なものづくりへの関わり方が注目されるようになったのです。

エンジニアとデザイナー、2つの視座をあわせ持つ

──そもそもデザインエンジニアとはどういった視座をもった人を指すのでしょうか。

山中 そもそも機能やしくみをつくる「エンジニアリング」と、美的価値をつくる「スタイリングデザイン」では、思考方法がまったく異なります。

まず、エンジニアリング。「サイエンス」がベースにあるので、「客観的なエビデンス」(根拠)が求められます。製品の性能は「再現性がある実験」によって「客観的に実証可能である」ことがエンジニアのポリシーになっています。

そして、スタイリングデザイン。「アート」がベースにあるので、「主観の提示」により、他者から共感を得ることが求められます。そのため、製品の魅力は「作品」の形で提示され、感覚的な「共感」を得ることでデザイナーの仕事が成立します。

こうした違いがあるため、エンジニアとスタイリングデザイナーの価値観がぶつかると、エンジニアは「根拠がわからない」し、スタイリングデザイナーは「そんな狭い観点で決めないでくれ」となる。もとより、両者の方法論に大きな差があるので、会話がかみ合わないのです。

──デザインエンジニアとは、その2役を1人でやるということでしょうか。

山中 両者を1人の人間が行えば、方法論の違いを自覚的に意識できます。まずは感覚的にものをつくり、それを実行するために工学ベースで考え直す。すると、だんだん美しさが失われていくから、再度、美しいという観点で弾き直してみる──といった感じで。エビデンスで動くもの、主観で動くもの、その両方を交互に行き来することによって、デザインエンジニア自身が両者の接点を見つけるのです。

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──そうなると、少人数でのものづくりが可能となりますね。

山中 インターネット社会が成熟したこともそれを後押ししています。“デジタルファブリケーション”や“クラウドファンディング”など、少人数による少人数のためのものづくり系ビジネスが成立する場が整いはじめました。大量生産というスタイルを用いなくても、ユーザーが求めるモノを届けられる。そんな時代が到来したことで、両者の能力を兼ね備え、よりフレキシブルにものづくりに取り組める「デザインエンジニア」が求められるようになったのです。

いち早く、プロトタイピングに着目して得た企業からの反響

──かつて工業デザイナーとしてメーカーで活躍してこられた山中さんですが、現在のような取り組みはいつからはじまったのでしょうか?

山中 2000年ごろから、私が主宰している「LEADING EDGE DESIGN」で“ビジョンメイキング”そのものを仕事にするようになりました。巨大産業の1工程としてのスタイリングではなく、もっとコンパクトにものづくりのビジョンを発信し、世の中に伝えるといったことをやりはじめたのです。

プログラミングや電子工作が得意なスタッフを雇い、美的感覚を教育して、スタッフ全員をデザインエンジニアに育てました。一方でモデリングを得意とする企業と連携して “1個しかないけど一応使うことはできる”といった、いわゆるプロトタイピングのできる体制を自分たちのなかにつくっていったのです。

──プロトタイピングに対する、世のなかの反応はいかがでしたか?

山中 その当時に生まれたプロトタイプに、後にニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションに選定される両手親指キーボード「tagtype Garage Kit」があります。これは製品化に至っていませんが、発表後、メーカー企業の研究者や技術者から「こうしたものができるなら、自分たちの研究をベースにしたプロトタイプをつくってくれないか」という依頼が来るようになりました。

両手親指キーボード「tagtype Garage Kit」(提供:リーディング・エッジ・デザイン)
両手親指キーボード「tagtype Garage Kit」(提供:リーディング・エッジ・デザイン)
プロトタイピングの流れはその当時珍しいもので、そうした反応はまさに、プロトタイピングの成果の1つだったように思います。製品開発は常に企業の利益と直結していますので、つくり手の意思とは裏腹に現状のマーケットに目が行きがちです。その点、プロトタイピングでは、ダイレクトに技術のもたらす未来社会を考え、ものづくりの理想を訴えることができます。メーカー研究者から反響があったことで、これからはプロトタイピングの時代が来ると確信しました。

世の中に発信し、反応を得て、それを製品の価値向上に生かす。まだ、現在のような動画配信サイトやクラウドファンディングといったものづくりの理想を発信できるプラットフォームがない時代でしたが、すでにそのようなニーズがあったのです。

デザイナーとエンジニア両方の価値観をもって、ものづくりを行う「デザインエンジニア」。企業の開発現場などで求められるようになった背景には、少数メンバーのチームでもものづくりや発信が可能となったこと、さらにプロトタイピングの考え方が広まってきたことにあるようだ。後編では、デザインエンジニアに求められる視点やその育成環境について掘り下げる。

専門性という壁にとらわれない人材になれ ──Prototyping & Design Lab・山中俊治さん(後編)へ続く


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