Opinions
各界の専門分野を持つ有識者の方々から、社会を変えるイノベーションのヒントを学びます。

専門性という壁にとらわれない人材になれ ──Prototyping & Design Lab・山中俊治さん(後編)

2015年07月29日



専門性という壁にとらわれない人材になれ ──Prototyping & Design Lab・山中俊治さん(後編) | あしたのコミュニティーラボ
日本のものづくりには、デザインエンジニアリングが欠かせなくなる──。東京大学大学院情報学環の教授、山中俊治さんはそんな思いから「Prototyping & Design Lab」でデザインエンジニア教育および育成に努めている。後編では、デザインエンジニアを育むために必要な「プロジェクトベースの教育」とは一体どんなものなのか、話を伺う。

求められるのは、アートとサイエンスを両立できるつくり手 ──Prototyping & Design Lab・山中俊治さん(前編)

必要なのは「シームレスな中間地点」に立てる存在

──日本で「デザインエンジニア」が注目されはじめているのに対し、海外の現状はどうなのでしょうか。

山中 欧米では、もとよりデザイナーとエンジニアの境界がありません。たとえば、イギリスのダイソン社では、開発に携わるすべてのメンバーを「デザインエンジニア」と称しています。

デザインエンジニアの教育および育成の場としては、世界最難関大学として名高いイギリスのインペリアルカレッジロンドン(ICL)と、同じくイギリスのロイヤルカレッジオブアート(RCA)がデザインエンジニアの教育拠点「イノベーションデザインエンジニアリング」(IDE)を立ち上げ、企業に優秀な人材を輩出しています。日本でも、そうしたシームレスな中間地点に立てるデザイナーおよびエンジニアを育成しないと、新しいタイプのものづくりに対応できなくなっていくでしょう。

──そのような日本におけるデザインエンジニアリングの教育機関をつくるべく、山中さんは慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)に拠点を構えられました。その経緯について教えてください。

山中 2005年ごろ、SFCのデザイン系研究室を訪れた際、あることに驚きました。美大生ほど絵が描けるわけではないし、工学部の学生ほどプログラミングができるわけでもないけど、その両方をちゃんと意識して、ものづくりに取り組んでいる。そんなデザイナーなのかエンジニアなのかわからない学生たちがいっぱいいたからです。

その背景にあったのが、SFCにおける、学問領域に縛られない「プロジェクトベースの教育」です。つくりたいものが先にあって、必要ならばきれいな形をつくろうとするし、プログラミングも電子工作もする。それは、私たちのやろうとしているものづくりのプロセスと、非常に近しいものだと感じたのです。

その後、2008年からSFCにある慶應義塾大学の環境情報学部と大学院政策・メディア研究科で、デザインエンジニアリングの教育および育成をはじめました。それが軌道に乗りはじめた頃に、母校である東京大学でも「新しい時代のデザインを核にした教育と研究をしてほしい」との誘いがあり、2013年から現在の「Prototyping & Design Laboratory」の活動がスタートしたわけです。

プロジェクトベースではじめ、必要な学問をあとから学ぶ

──「プロジェクトベースの教育」とは、具体的にどのようなものですか?

山中 従来、工学教育でも美術教育でも、基本的に積み上げ型でした。いろいろな基礎的な学問や技能があり、それらをすべて学んで、社会に出たらそれらを必要に応じて使う。これが一般的な教育プロセスです。これは社会に出ても同じことで、さまざまな専門部署で経験を積んで、最後の方でやっと統合的な意思決定ができる身分になる。そういうヒエラルキーになっていますよね。
山中俊治さんへのインタビューの様子
しかし、私はそれには限界があり、統合のための技術を初めから学んだほうが良い場合もあると考えています。すなわち、基礎演習ベースではなく、プロジェクトベースでスタートし、目的に応じた知識を探索し、必要なことはすべて学んでいくというスタイルです。映画監督が良い例ではないでしょうか。演技やカメラ、音声、編集など、どれの専門家でもないけど、どの知識もある程度必要です。デザインエンジニアは、まさにものづくりのディレクターなのです。

──そうすることで、限られた領域にとらわれずにものづくりができるということですね。

3D技術を取り入れた「美しい義足」プロジェクト

──現在「Prototyping & Design Lab」では、どのようなプロジェクトが進行中なのでしょうか?

山中 主なプロジェクトが、2008年からスタートした「美しい義足」プロジェクトです。義足は通常失われた脚を補完する人工物ですが、これを「身体を拡張するもの」ととらえ、機能的で美しい義足を開発してきました。アスリートのための陸上競技用義足を足がかりに、これまで数種類の義足及びパーツが実用化しました。

現在は第2フェーズに入っており、アディティブ・マニュファクチャリング(俗にいう3Dプリンティング)を使って、必要とする1人ひとりに対して、人体のデジタル計測から、形状の最適化を含むデジタルデザイン、3次元生成までを一貫して行えるシステムを開発しています。それが順調に実用化できれば、2020年の東京パラリンピックまでには、いろいろな選手に私たちの義足を供給できるでしょう。

「Designing Body 美しい義足をつくる」
「Designing Body 美しい義足をつくる」(2015年6月4日~6月14日/東京大学駒場リサーチキャンパス内)
──6月に開催されていた「Designing Body 美しい義足をつくる」だけでなく、3月にも同様の展示会を開いており、積極的に外部へ向かって情報を発信していますね。

山中 従来の技術は、論文を通じて専門知識を持った人々の間で共有される、いわば閉じた世界にありました。しかし、論文に記された技術が社会の視線にさらされたとき、技術者には説明責任が生じます。今、求められているのは、問題が起きた時に説明できることだけではなく、実用化する前ビジョンを提示し、人々の共感を得る能力です。

そうした技術者と社会を結ぶ1つのインターフェースになりうるのが「プロトタイピングとデザイン」なのです。新設された研究所のギャラリーを使って、この1年間にロボティクス、3Dプリンタ、レアメタル、義足などをテーマに4つの展覧会を開催しました。通常は「美術」のためにあるのがギャラリーですが、ここでは「テクノロジーの未来」を見せるための場となっています。こうしたプロトタイピングと展覧会を組み合わせた「共感を生む場」づくりは、これからも続けていくつもりです。

説明をする山中俊治さん

──確かに展示されているものを見ると、スタイリングの美しさだけでなく、機能に基づく必然性も感じとることができます。これもデザインエンジニアを育むためには必要なことなのですね。今後はどのような教育や育成に取り組んでいこうと考えていますか。

山中 これまで、SFC山中デザイン研究室や東京大学「Prototyping & Design Laboratory」では、専門領域の壁にとらわれないクリエ—ションの専門家として、どのような領域でも活躍できる人材の育成を目指してきました。実際、いろいろな方面で活躍しはじめてくれています。

一方で、社会人デザイナーや社会人エンジニアを対象に、半年間の滞在プログラムも進行中です。最先端のテクノロジーとスタイリングに関わり、ハイブリッドな方法論に触れることで、新しい観点を持ち帰ってもらえると期待しています。

デザイナーもエンジニアも、一定レベルを超えているのであれば、ほんの少し壁を壊すような体験を得ることで、「デザインエンジニア」へと変わっていけるはずなのです。そうしたきっかけを提供できる社会人教育を目指して、広く企業に協力をいただいています。

──デザインエンジニアを必要とする企業をはじめとした組織が、イノベーションを起こそうとさまざまな取り組みを行っています。山中さんから見て、イノベーションに必要なものとは何でしょうか。

山中 個人的な見解ですが、イノベーションを起こしたいのであれば、小さな組織からはじめたほうがいい。大きな組織になると、組織を維持するためのコストもかかり、それに見合った利益直結の成果を求められてしまいますから。コンパクトに、クイックに、試行錯誤を繰り返すことができる場を提供していくことが、私は大事だと思っています。

求められるのは、アートとサイエンスを両立できるつくり手 ──Prototyping & Design Lab・山中俊治さん(前編)


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • RSS

Copyright 2018 あしたのコミュニティーラボ