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変わるものづくり産業、その未来像 ──Sony CSL 北野宏明所長インタビュー(前編)

2015年07月31日



変わるものづくり産業、その未来像 ──Sony CSL 北野宏明所長インタビュー(前編) | あしたのコミュニティーラボ
オープンなものづくりプラットフォームの普及に、多様なプレーヤーの参加。ものづくり領域におけるこれからの変化は、わたしたちの生活、ひいては産業全体にどのように影響するのだろうか。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下、Sony CSL)の所長であり、自身も研究者として多くの領域を多角的に見てきた北野宏明さんに、近年のものづくりの潮流、および個人/企業レベルでもたらされる変化とその未来について伺った前後編。

価値ある産業を生み出す秘訣は“Think Extreme” ──Sony CSL 北野宏明所長インタビュー(後編)

ネットワークとつながった新しい「ものづくり」の台頭

──今日は「近年のものづくりの変化が未来の生活にもたらすもの」をテーマにお聞きします。北野さんは「ものづくり」と聞いて、どんなイメージを持たれますか。

北野 日本でいう「ものづくり」には、どこかノスタルジックなイメージがありますよね。日本のものづくりはどちらかといえばハードウェアが中心。しかし「ものづくり」と一口に言っても、いまや対象になるのは物理的な“モノ”だけに限りません。

ロボット研究の分野でも、10〜20年前だと、ロボット単体の研究が進められていましたが、今はネットワークにつながるロボット、「ネットワークロボティクス」の時代です。センシング技術やネットワーク技術によって、社会の価値ある情報がクラウドから提供され、その情報解析によって新たな価値が生まれます。

インターネットでのいろいろなサービスを構築することは、「ものづくり」だとあまり認識されないところがありますが、色々なハードがインターネットサービスと連動して価値を生み出す動きが活発になっている。そこを無視してハードウェアだけに留まった「ものづくり」では、これから競争力を持てなくなってしまうと思います。

コンシューマー視点でみた、“デジタル時代のものづくり”とは

──コンシューマーの立場から見ると、近頃のものづくりにおいてどのような変化を感じていますか。
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役・所長 北野宏明さん
株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長・所長 北野宏明さん

北野 “アナログ時代からデジタル時代への変化”は感じられますよね。私は、フランスの「DEVIALET」やイギリスの「LINN Products」などの高級オーディオを好んで使っているのですが、そうしたモノからは“デジタル時代”のものづくりを感じられます。

アナログ時代は、毎年新商品が発表されるなか、型落ちした製品を使い続けてしばらくしたら買い替える、という流れでした。デジタル時代のオーディオには5年間ほどは使うことのできるデジタル回路やオーディオボードが備わっているので、5年間はソフトウェアアップデートだけをすればいい。信号処理系のアルゴリズムの改良で、同じハードウエアでも劇的に音質の向上が達成されるのがデジタルの特徴ですね。これは、アナログではあり得ない。

ソフトウェアアップデートでDSP(デジタルシグナルプロセッサ)のアルゴリズムが書き換わるから、それだけで音質がものすごく良くなる。最初に5年間もつハードウェアを設計し、あとはデジタル処理の計算で勝負をしている製品づくりです。そして5年ごとぐらいに、マザーボードの入れ替えのサービスをしてハードウエアを最新のものにしています。単品を買うという感覚から、かなりサブスクリプションに近い形態になってきている。つまり、つくり手と使い手の関係性にも大きな影響を与えているわけです。

一部の分野でこうした動きがありますが、デジタル時代のものづくりは、まだその全貌をあらわしていない。これからもっと活発になると思いますよ。

<インダストリー4.0>は人間の仕事をいかに変えるのか

──産業構造全体を見渡すと、たとえばドイツでは「インダストリー4.0(第4の産業革命)」などの動きがはじまっています。

北野 GE社が「産業革命」「インターネット」に続く第3の変革の波として提示している「インダストリアル・インターネット」にしても、基本的な考えは同じ。産業機械とビックデータとが結びつき、生産ネットワークの変革が起きるというものです。

タービン故障を予測できるようになれば故障する前段階でメンテナンスできるようになる。その結果、ダウンタイム(編集部注:メンテナンスなどでシステムが停止している時間のこと)やメンテナンスコストが低くなり、トータルとしてシステムの信頼度が増す、という利点がもたらされるわけです。インダストリー4.0を提唱するドイツの場合も、製造工程全体がネットワーク化されることで、「多品種大量生産」に対応できるようになります。
「新しい製造工程をつくろうとする動きは、世界レベルでじわじわと起こっています」(北野さん)
「新しい製造工程をつくろうとする動きは、世界レベルでじわじわと起こっています」(北野さん)

10〜20年も経過したとき、生産性が非常に高くなり、新しいことができるようになる。その流れを止めることはできないでしょう。数十年のスパンで起きた過去の産業革命と同様、数年後にやってくるものではないにせよ、過去の産業革命に比べればかなりのスピードで産業変革の方向にいくのではないかと思っています。

──そうした大規模な産業変革に対し、なかには「人の仕事を奪うのではないか?」といった意見も頻出しています。北野所長はどのようにお考えですか。

北野 人工知能によってネットワーク化されたシステムが浸透するので、なくなる仕事はたしかにある、これは不可避なことだと思います。自動走行自動車もいずれ製品化され、それに伴って、たとえば職業ドライバーの数は減っていくかもしれません。しかし次世代の人はそもそもそういう仕事がない状態に生まれてくるわけで、長期的に見ればそうした変化にも適応できるはずです。

銀行のATMにしたって、かつてはすべてが窓口業務で銀行員がほとんど手作業で計算をしました。一時的に銀行員の仕事がなくなったかもしれませんが「今、その仕事がなくなったから困る」ということはなっておらず、それと同じことが起こるのだと思います。

個人レベルに進出したFabが世のなかにもたらすもの

──「あしたのコミュニティーラボ」では過去に、個人的なものづくり「=パーソナルファブリケーション」社会的に共有されるものづくり「=ソーシャルファブリケーション」を取り上げてきました。前段の「大規模な産業変革」の一方で、そうした個人レベルのものづくりが変化している動きもあります。

北野 Sony CSLでも3Dプリンターはよく利用されていて、たとえば研究メンバーの竹内雄一郎さんは「Printable Garden」という名で「庭を3Dプリンティングして過密型都市における緑化の促進や、生物多様性の向上に貢献する」という研究をしています。あとは個人的にデジタルものづくりカフェ「FabCafe」をやっているロフトワーク社の創業をお手伝いした経緯もあるので、そうしたマニファクチャリングの動向には興味がありますね。
研究員の竹内さんは水耕栽培の庭を3Dプリントする技術を開発している (写真提供:Sony CSL)
研究員の竹内さんは水耕栽培の庭を3Dプリントする技術を開発している
(写真提供:Sony CSL)

先頃、オーストラリアのモナッシュ大学とそのスピンアウト企業が3Dプリンターを使ってジェットエンジンを開発しました。バイオ3Dプリンターで細胞をつくる研究もあり、3Dプリンティングできるものも、どんどん増えてきましたよね。

大量生産の完全自動化によって産業にかかるコストは低くなるので、企業はそうした新しい分野に設備投資をし、グローバル環境で勝ち残っていこうとするでしょう。その一方で、ある程度のレベルを持った人が、Fabを活用したビジネスに参入していく動きは出てくると思われます。

「多品種大量生産」に対し、“Fab”は個人のカスタマイズに対応できるという価値を持っている。ほしいユーザーが近くにいる場で製造し、それが流行ったら、そのマスターデータだけダイナミックに展開する。そんなビジネスにも発展する可能性があります。

パーソナルファブリケーションやマス・カスタマイゼーション、IoTという言葉に代表されるように、いま、ものづくり産業では世界的な変化が起きはじめているようだ。そんななか、世界的なものづくり変革の波に乗るにはどうすればよいのだろうか。後編では、イノベーションを生み出し続けるSony CSLの基礎研究所としての役割について伺う。

価値ある産業を生み出す秘訣は“Think Extreme” ──Sony CSL 北野宏明所長インタビュー(後編)へ続く

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ソニーコンピュータサイエンス研究所

北野宏明

北野宏明(きたの・ひろあき)

株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長・所長


1961年生まれ。国際基督教大学 教養学部理学科物理学専攻卒業後、NECに入社、ソフトウエア生産技術研究所勤務。1988年より米カーネギー・メロン大学機械翻訳研究所に客員研究員として駐在、人工知能分野を研究。1991年、京都大学博士号(工学)取得。1993年ソニーコンピュータサイエンス研究所に入社、現在に至る。人工知能の延長としてのロボット研究にも勤しみ、「Pino」や「AIBO」などの開発に従事したほか、ロボットを用いた世界的コンテスト「ロボカップ」の創設者の1人でもある。分子生物学をシステムとして理解するシステム・バイオロジーの提唱者。


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