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“Think Extreme”が価値ある産業を生み出す ──Sony CSL 北野宏明所長インタビュー(後編)

2015年08月03日



“Think Extreme”が価値ある産業を生み出す ──Sony CSL 北野宏明所長インタビュー(後編) | あしたのコミュニティーラボ
“世のなかを変える研究”で知られる株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下、Sony CSL)の所長、北野宏明さん。産業界全体から個人まで、現在さまざまなレベルで起こる「ものづくり革新」について語っていただいた前編に続き、後編では、既存事業を超えて幅広い分野を対象としている基礎研究所であるSony CSLが、ソニーの「ものづくり革新」をどう支えているのかについて伺った。

変わるものづくり産業、その未来像 ──Sony CSL 北野宏明所長インタビュー(前編)

対象領域は、グローバルからヒューマンまで

──Sony CSLでは現在、どのような研究に力を入れているのでしょうか。

北野 当研究所には大きく分けて2つの領域があります。1つは、世界規模で直面している課題、いわゆる「グローバル・アジェンダ」に関するもの。サステナビリティ、メディカル、ヘルスケア、エネルギーといったものが対象となります。もう1つは、それよりも人に近い研究。人のクリエイティビティ、パーセプション(認識・理解・知覚)に関する研究です。

私たちの研究所は“Act Beyond Borders(越境し、行動する)”をモットーにしています。できること、できないことの境目なんて人間社会がつくった幻想に過ぎず、対象領域にも境目はない、と考えているんです。

──産業界全体のなかで、今注目しているのはどのような分野ですか。

北野 1つ例を挙げれば、農業ですかね。世界の農業生産の大部分は、極めて単純な原始的な農法でやっていて、いろいろなレベルで変えられる余地があります。

Amazonがキバ・システムズ(倉庫管理用ロボット)を買収し、物流ロボットによる自動化の動きがありますが、農業は倉庫のなかだけに限らず、もっとフィールドが広いんです。飛行機を使うような広い農地となれば、それをカバーするにはたくさんのロボットを必要とするのでコストもかかります。そこで、これからは測定したデータをもとにアクションを起こす、「データドリブン」な農業が躍進すると思っています。

当研究所でも、センサーネットワークやデータ解析によって、生態系が本来もっている生産性を明らかにする研究を行っています。従来の農業における工学的な制御とは異なり、生態系が本来持っている自律分散型のメカニズムを利用することで、石油資源に依存する農薬や肥料を使わずに食糧生産できる可能性があります。
研究所の船橋さんが手がける協生農法の研究では、限られたスペースに多様な作物を栽培してデータを収集している (写真提供:Sony CSL)研究所の船橋さんが手がける協生農法の研究では、限られたスペースに多様な作物を栽培して
データを収集している(写真提供:Sony CSL)

農業由来の環境問題を解決したり、これまで適さなかった土地でも農業をできるようにしたりする「マイクロエコシステム」を半人工的につくりあげ、それを開かれた自然環境の中で制御するのが、新しいパラダイムと考えています。

研究のテーマ設定基準は「将来的に役立つかどうか」

──ソニーの基礎研究所として、テーマ選定をする際どこに重点を置いていますか。

北野 研究テーマは自由度が高く、それまでにあまり気に留めていなかったテーマも説明を聞いたあとに「これはいける!」と感じれば歓迎しています。

遠藤謙研究員のロボット義足も、最初に話を聞いた当時、我々が義足をやることになるなんて思っていませんでした。彼からインドのジャイプールフットやスポーツ用のハイエンド義足の話を聞いているうち、彼を採用してここで活躍してもらうことができなければ、この研究所の価値はないと思ったんです。

どんな企業でも長期的に見れば、事業領域は変わっている可能性のほうが高いんです。だから現時点だけでなく「将来的な事業」に役立つかどうか、今と未来、2本の軸で見ていかなければいけないと思っています。

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研究の効果は「10年後」に現れると思っていて、10年後、ソニーのビジネスの成長領域が変わったとき、そこにちゃんと弾を撃てているかが大事なんです。なので、現時点でソニー本体の事業とずれていたって構わない。むしろずれていなかったら、我々研究所がきちんとした仕事をしていないということだと考えています。

基本的に、私たちの企業としての存在価値は世のなかに価値を生み出すこと。グローバル・アジェンダや、人のクリエイティビティの問題にフォーカスしているのも、将来的にその領域に貢献したいと考えているためです。

新たな価値は“極端さ”からはじまる

──ソニーの事業として動き出すもの以外に、Sony CSLではスピンアウトの動きがありますよね。

北野 2007年には位置情報システムやAR(拡張現実)をコア事業としたクウジット株式会社が立ち上がっています。また今年4月には、オンライン教育サービス事業を展開するソニー・グローバルエデュケーションを設立しています。現在研究が進んでいるエネルギー関連、農業関連についても、やがてスピンドアウトの可能性はあります。

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基本的には、研究成果を発表し世のなかに問うこと、もしくは、ソニーの事業になることが前提になりますが、ソニーのビジネスとマッチングしなかった場合でも、スピンアウトで会社をつくるオプションを検討すればよいのです。そのほかにも、他者とのコラボレーションによって動き出すこともありますから、価値の生み出し方は多様です。

──産業界全般を見ても、個人レベル、もしくは、企業レベルの“Maker”がさまざまな領域でイノベーションを生み出すべく活動しています。そんな人たちにメッセージを送るとすると、どんなことを伝えたいですか?

北野 “Act Beyond Borders”以外に大事にしている言葉が、“Think Extreme”です。

世のなかに価値を生み出すには、想定される、または想定外と思われることまで考えた、“極端”な状況、“極限的”な方法論・技術を想定しなければいけません。最初から落としどころを考えるのではなく、リアリティとのバランスをとりながらも、そうした“Extreme”を目指してほしいですね。

変わるものづくり産業、その未来像 ──Sony CSL 北野宏明所長インタビュー(前編)

関連リンク
ソニーコンピュータサイエンス研究所

北野宏明

北野宏明(きたの・ひろあき)

株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長・所長


1961年生まれ。国際基督教大学 教養学部理学科物理学専攻卒業後、NECに入社、ソフトウエア生産技術研究所勤務。1988年より米カーネギー・メロン大学機械翻訳研究所に客員研究員として駐在、人工知能分野を研究。1991年、京都大学博士号(工学)取得。1993年ソニーコンピュータサイエンス研究所に入社、現在に至る。人工知能の延長としてのロボット研究にも勤しみ、「Pino」や「AIBO」などの開発に従事したほか、ロボットを用いた世界的コンテスト「ロボカップ」の創設者の1人でもある。分子生物学をシステムとして理解するシステム・バイオロジーの提唱者。


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