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100年以上変わらぬ黒板にイノベーションを! ──異業種連携による「みらいのこくばんプロジェクト」(前編)

2015年08月14日



100年以上変わらぬ黒板にイノベーションを! ──異業種連携による「みらいのこくばんプロジェクト」(前編) | あしたのコミュニティーラボ
一方は創業90年を超える黒板メーカーの老舗。また一方は「面白法人」を標榜し「つくる人を増やす」が経営理念のデジタルコンテンツ制作会社。この2社がタッグを組んで、学校の教室にある、誰もがおなじみのあの黒板にイノベーションを起こした。従来の電子黒板とはまったく違うコンセプトの「みらいのこくばん」は、どのようにして生まれたのか。そのプロセスを追うと、地方と都市の企業が互いの長所を持ち寄りながら新たな価値を生み出す、異業種連携の理想型が浮かび上がる。

教室で本当に役立つものをつくりたい ──異業種連携による「みらいのこくばんプロジェクト」(後編)

教室のアナログ黒板をデジタル化するアプリ

小学校の理科の時間。教室に生けてある花を先生がスマートフォンで撮影した。すると花のクローズアップが黒板いっぱいに投影される。その黒板は電子黒板ではない。全国の学校の教室に必ずある、誰もがおなじみの、あの昔ながらの横長の黒板だ。

「これが雌しべですね」

手もとのスマホ画像を先生が丸くポイントすると、生徒が見つめている黒板の大きな花の画像にもそれが反映された。

先生がスマホで操作しているのは、教室のアナログ黒板をデジタル化するハイブリッド黒板アプリ「Kocri(コクリ)」。黒板メーカーの株式会社サカワ(本社・愛媛県東温市)と、デジタルコンテンツ制作の株式会社カヤック(本社・神奈川県鎌倉市)が共同開発し、7月29日にリリースした。

事前にパソコンでつくった教材ファイルをクラウドサービスに上げておき、スマホに取り込めば授業で投影することができる。冒頭の例のように授業中に教室内のモノや生徒のノートをスマホで撮影し、黒板に大きく映すことも可能だ。また、原稿用紙のマス目、英語を書くためのガイド線、算数で使う図形などを投影できる。

必要なのはプロジェクターとiPhone(現時点ではiOS端末のみ対応)とAppleTV。iPhoneに「Kocri」をインストールすれば、AppleTVを経由して、どのプロジェクターでも利用できる。インターネット環境のない教室でも使える。

従来の黒板と電子黒板。それぞれの長所を融合したハイブリッド黒板を実現するアプリ「Kocri」は、サカワとカヤックが異業種連携で取り組む「みらいのこくばんプロジェクト」の最初の成果として生まれた製品だ。

電子黒板は授業で活用されていない

サカワは1919年創業の黒板メーカーの老舗。愛媛県を中心に四国を拠点とするが、6年前から電子黒板の輸入販売も手がけ、全国で2万台を超える販売実績を持つ。2020年までに全国の小中学校の教室に電子黒板を普及させる、という国の施策目標に後押しされ、電子黒板事業の業績は堅調に推移していた。

だが、常務取締役の坂和寿忠さんは内心、じくじたる思いがあった。

「小学校の教室は全国に44万教室と言われていて、そのうち電子黒板がある教室はまだ8万室。2割に満たないのです。50万円〜100万円と値段が高いこともありますが、導入した教室でも実際のところ使い勝手が悪くてあまり利用されていません。教室に導入された電子黒板の7割がホコリをかぶっているという統計調査も最近出ているくらいです」
株式会社サカワ常務取締役 坂和寿忠さん
株式会社サカワ常務取締役 坂和寿忠さん

パソコンに詳しくないと利用が難しい。多忙を極める先生は教材としての電子黒板を研究する時間もない。活用の進まない理由には、そんなことが挙げられるが、そもそも教室における電子黒板のあり方が課題となっている。

実際の教室では、前面には従来の黒板、その横に電子黒板が設置されている。先生が授業で使うのは、やはり従来の黒板が9割で、ときどき電子黒板を使いたいときは移動して操作し、また黒板に戻る。この行き来がわずらわしい。黒板とチョークを活用する「板書文化」が根強い日本では、電子黒板だけによる授業というのは先生にとっても生徒にとってもなじみが薄く、電子黒板はあくまで黒板による授業をサポートする位置づけなのだ。

「今はデジタルの黒板とアナログの黒板が完全に切り離されている環境。ならばそこをミックスして、今ある黒板を利用し、同じ投影面でデジタルとアナログがすぐ切り替えられるようにすれば使い勝手が良くなる」と坂和さんは考えた。

とはいえ「超アナログ企業」(坂和さん)のサカワには、デジタルコンテンツを制作するノウハウは何もない。そうした開発を得意とする企業と連携する必要がある。坂和さんの頭にすぐ浮かんだのが、かねてからWebサイトのファンだった「面白法人カヤック」だった。

100年以上変わってない黒板にイノベーションを!

坂和さんは「面白法人カヤック」サイトの問い合わせフォームから「100年以上イノベーションのない黒板の機能を拡張したいんです!」という熱い思いをしたためたメールを送信した。「僕自身、ワクワクすることやおもしろいことが何より大好きなので、会社の頭に“面白法人”とつける会社と一緒に仕事をしてみたい」気持ちもあった、と坂和さんは振り返る。

翌日、カヤック ディレクターの深津康幸さんから問い合わせへの返信が来た。
株式会社カヤック ディレクター 深津康幸さん
株式会社カヤック ディレクター 深津康幸さん

「弊社はデジタルコンテンツの制作会社ですが、最近はインタラクティブな体験型コンテンツや、センサーを使って手を振ると音が鳴るようなテクノロジーを用いたハードウェアなど、パソコンやスマホから外へ飛び出すデジタルコンテンツの制作が増えています。お問い合わせのメールによると、タッチセンサー式のプロジェクターを使った開発ということだったので、同じ方向性を感じました。ただ、それよりも、“100年以上変わってないアナログ黒板にイノベーションを起こす”というおもしろさと熱い思いに、これはフルにコミットする価値がある案件だな、と思って」と深津さんは心を動かされた。

こうして2014年、「みらいのこくばんプロジェクト」の名のもとに、愛媛の黒板メーカーと鎌倉のデジタルコンテンツ制作会社の異業種連携がスタートした。カヤックの深津さんによれば、地方の企業からの問い合わせや連携の提案はときどきあるが、単なる受託ではなく、クライアントと協業で製品リリースまでこぎつけたのは、今回がはじめてだったという。

異業種連携がはじめてだったサカワと、クライアントと協業での製品リリースの経験はなかったカヤック。双方に経験がない状態からスタートした「みらいのこくばんプロジェクト」だったが、制作したプロトタイプの評判も上々、7月29日にはアプリもリリースした。なぜ、このプロジェクトは滞りなく進行できたのか。後編では、開発のプロセスを追いながら、その成功の秘訣に迫る。


教室で本当に役立つものをつくりたい ──異業種連携による「みらいのこくばんプロジェクト」(後編)へ続く

関連リンク
ハイブリッド黒板アプリKocri
株式会社サカワ
株式会社カヤック


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