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教室で本当に役立つものをつくりたい ──異業種連携による「みらいのこくばんプロジェクト」(後編)

2015年08月14日



教室で本当に役立つものをつくりたい ──異業種連携による「みらいのこくばんプロジェクト」(後編) | あしたのコミュニティーラボ
黒板メーカーと、デジタルコンテンツ制作会社が連携した「みらいのこくばんプロジェクト」。その開発にはいくつかの課題があった。教育現場のニーズの洗い出し、導入コスト削減──。そこで、教育現場でのノウハウを持つサカワと、ITのノウハウを持ったカヤックの強みが生かされる。後編では、Kocriがリリースされるまでの過程と異業種連携に成功する秘訣に迫った。

100年以上変わらぬ黒板にイノベーションを! ──異業種連携による「みらいのこくばんプロジェクト」(前編)

実際に小学校を訪ねてわかった現場のニーズ

「みらいのこくばんプロジェクト」は、カヤックの深津康幸さん(ディレクター)とエンジニアやデザイナーの開発メンバー、サカワの坂和寿忠常務取締役と東京支社のスタッフによるブレーンストーミングからはじまった。

現状の電子黒板の課題を踏まえてアイデアを広げていったが、実際に小学校を訪ねて授業を見学し、先生に取材すると、現場ではもっと地に足の着いたシンプルな機能が求められていることがわかった。深津さんはその経緯を次のように振り返る。

「当初はタッチセンサーを内蔵した専用プロジェクターを使う前提だったので、黒板に投影されたメニューボタンを触ると定規のビジュアルが出てくる、といったユーザーインターフェースを考えていました。でもそれは品質上のアイデアでしかなくて、学校の授業で求められていることではなかったんですよ。先生方は『いかに生徒の集中力を絶やさず、スムーズな授業ができるか』に注力しているわけで、見た目が未来っぽいとか余計な演出はいらない」
株式会社カヤック ディレクター 深津康幸さん
株式会社カヤック ディレクター 深津康幸さん

先生が苦手なパソコンを意識させないよう、アイコンは極力減らす。デスクトップ部が見えない最低限の光量でソフトを投影し、たとえば先生が黒板の離れた2点をタッチすればパッと直線が引ける、といったシンプルな機能を追求した。

2014年5月の「教育ITソリューションEXPO」でこのシステムを発表したところ、大きな反響を呼んだ。だが「アナログとデジタルのハイブリッド黒板」というコンセプトは実現したものの、まだ大きな課題が残っていた。

タッチセンサーからスマホのアプリへ大転換

その課題とは、価格。タッチセンサーを内蔵した専用プロジェクターが必要なので、このシステムを製品化するには従来の電子黒板と同等の価格になってしまう。これでは普及しない。もっと汎用性のある安価なものにできないか。

特別なプロジェクターではなく、最初から教室にあるプロジェクターを使えば、コストも抑えられるのではないか。タッチセンサーをやめて、スマホのアプリにすればそれが実現できる。

「けっこう大きな決断でした」と坂和さん。

「そもそも電子黒板も販売している会社なので、スマホのアプリをつくるということは、電子黒板の延長ではない競合商品を出すことになり、電子黒板事業の存続が危うくなりかねません。でも決心して良かった。スマホの可能性は拡大し続けているし、いまや大半の人が使っています。逆にスマホのアプリと決めてから、タッチセンサー式のときにあった機能の制約から解放されて、さまざまなアイデアが出ました」
株式会社サカワ常務取締役 坂和寿忠さん
株式会社サカワ常務取締役 坂和寿忠さん

ただ、学校現場からどのような反応が返ってくるかについては「ドキドキものでした」と2人は口をそろえる。生徒にスマホの携帯を禁止している学校も多い。それなのに授業で先生がスマホを使うのは、なんとなく気が引ける……。

ところがこれは杞憂に終わった。前年に引き続き出展した、2015年5月の「教育ITソリューションEXPO」で、アナログ黒板をデジタル化するハイブリッドアプリ「Kocri」を発表すると、当初の予想をはるかに超える3,000件近い問い合わせがあった。「これなら安価(月額600円/年額6,000円)だし、授業でぜひ使いたい」という声が9割に及び、否定的な意見は皆無だったという。スマホを使うことへの抵抗感はまったくなかったのだ。

互いに得るものが大きかった異業種連携のプロセス

「みらいのこくばんプロジェクト」は「Kocri」のリリースで最初の成果をみた。2社の協働による異業種連携について、それぞれどのように感じているのだろう。

サカワは教育現場や電子黒板販売で積み上げた知見を提供し、カヤックはデジタルコンテンツ開発のスキルを発揮するといった具合に、役割分担がはっきりしていたために、協業はきわめてスムーズに進んだという。愛媛が本社のサカワは東京都港区に支社があり、横浜に支社を置くカヤックとは距離の支障もない。両社にとって、異業種連携の取り組みの過程でも互いに得るものが大きかったようだ。

異業種との連携によるものづくりははじめてだったという坂和さんは「カヤックさんとおつきあいさせていただいてから、社内の仕事に対する考え方が変わりました」と語る。

「まさにカヤックさんの経営理念“つくる人を増やす”の言葉どおり、社員のみなさんがいいものをつくって提供することに心底喜びを感じています。辛いことではなく、楽しいことをしているから、時間も忘れてしまう。そういう働き方をしなければ、と勉強になりました」

そんな坂和さんの「感度の良さ」をたたえるのは深津さんだ。

「“みらいのこくばんプロジェクト” なんていう素敵なネーミングも坂和さんだし、“スマホに振り切りましょう”のジャッジも坂和さん。もし僕らだけでやっていたら、果たして“みらいのこくばんプロジェクト”というアプローチになっていたのか、スマホに振り切れていたかどうかもわかりません」

深津さんも「大半が受託事業なので、今回のように、クライアントさんとともに試行錯誤しながら今までにないソリューションを生み出し、1つの製品をつくり上げ、リリースにまで至るプロジェクトはそうそうありません。われわれにとっても挑戦しがいのある仕事でした」と話す。
連携のプロセスを振り返る2人。共創の成果は「Kocri」だけに留まらないようだ
連携のプロセスを振り返る2人。共創の成果は「Kocri」だけに留まらないようだ

教育の未来を共創する理想的なモデルへ

今後どのように「みらいのこくばんプロジェクト」は展開するのだろうか。

「Kocriはプロジェクトのなかのコンテンツの1つ。他にもいろんなものがあったほうがいい。これから育んでいきたいですね」と望む深津さん。これに応えて、坂和さんも意欲を燃やす。

「黒板って誰もが触ったことのあるものですよね。イベントで使うなど、もっといろんな可能性が広がるはず。教室で生徒がワクワクするようなおもしろいこともやりたい。教育には“ワクワク感”が必要だと思うんです」

教育産業やメーカーの主導ではなく、学校の先生や生徒の意見を十分に吸い上げ、本当に現場で求められている最良のプロダクトやサービスを絞り込み、業界が一致団結してその実現に取り組む。坂和さんはそんな理想を抱いている。それが未来の社会を担う子どもたちのためにもっとも望ましいことだからだ。

「みらいのこくばんプロジェクト」はその理想へ向けて一歩を踏み出そうとする試みなのかもしれない。それはまた、地方を拠点とする地場産業と関東のICT企業の理想的な連携のあり方を示したモデルケースでもあるだろう。「100年以上変わらぬ黒板にイノベーションを起こす」というキャッチーな理念を共有した2社が、互いのノウハウを持ち寄る明確な役割分担のもと、あくまでも現場のニーズに密着する革新的な製品を開発してしまったのだから。
「教育に関するプロジェクトには、もっといろいろチャレンジしてみたい。気軽に問い合わせてほしい」と2人は語っていた
「教育系のプロジェクトには、積極的にチャレンジしてみたい。気軽に問い合わせてほしい」
とさらなる共創を見据える2人

坂和さんによれば、教科書会社などからも問い合わせが来ているという。「Kocriはあくまで第1弾。今後は、業界の枠も超えてさまざまな企業とコラボして、さらに可能性を広げたい」と新たな連携にも門戸を開く。地方と都市がタッグを組んで教育の未来を共創する“みらいのこくばん”づくりははじまったばかりだ。

100年以上変わらぬ黒板にイノベーションを! ──異業種連携による「みらいのこくばんプロジェクト」(前編)

関連リンク
ハイブリッド黒板アプリKocri
株式会社サカワ
株式会社カヤック


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