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Ingressでつくる、あたらしいまちのストーリー ──岩手県庁ゲームノミクス研究会(前編)

2015年08月24日



Ingressでつくる、あたらしいまちのストーリー ──岩手県庁ゲームノミクス研究会(前編) | あしたのコミュニティーラボ
画面を緑と青で埋め尽くしたスマートフォンを手にした人々がまちを歩き回る。Google Mapsがベースのネットワークゲームアプリ “Ingress”のイベントではおなじみの光景だ。そのIngressと観光振興をうまく結びつけることで、今までになかった新しい層のファンを生み出そうとしている岩手県。県庁職員有志で研究会を発足させてからわずか1年で岩手=Ingressという方程式をつくりあげたスーパー県庁職員に、地域に“人を呼ぶ”ための仕掛けづくりと地域コミュニティーとの協力体制づくりのコツを聞いた。全2回でお届けする。

人と人とをリンクさせる、これからの観光振興 ──岩手県庁ゲームノミクス研究会(後編)

人を外に連れ出す!? 「Ingress」というゲーム

Ingress(イングレス)」は、「Niantic Labs(ナイアンティック・ラボ)」が開発・運営しているブラウザ・スマートフォン用のアプリゲームだ。2013年12月からAndroidアプリが、ついで2014年7月からiOSアプリがリリース、2015年夏現在200カ国で利用され、ダウンロード数は合計で1200万回以上を記録している。
Ingressのプレイ画面。画面上には、緑チームの陣地が広がっている(写真提供:(C)Niantic Labs)
Ingressのプレイ画面。画面上には、緑チームの陣地が広がっている(写真提供:(C)Niantic Labs)

このゲームでは、プレイヤーはエージェントと呼ばれ、青チーム(レジスタンス)と緑チーム(エンライテンド)に分かれ世界規模で陣取りを行う。実在する文化的・芸術的・歴史的な施設やモニュメントなどを「ポータル」と呼び、ポータルに一定の距離まで近づいて「ハック」することでアイテムを獲ったり、経験値(AP)を稼いだり、また仲間と連携して陣地を拡大したり……と、ゲームを進めていく。

ポイントは、ポータルの数が多ければ多い地域ほど、ゲームがプレイしやすいこと。東京や大阪など都心部のほうがポータルの数も多く、常にどこかで陣取り合戦が行われるため、ゲームの世界観を多くのタイミングで楽しむことができる。一方、盛岡市内には1年前まで40~60のポータルしか存在しなかった。それが現在では、都心部にも見劣りしない1,000以上にまで増加。さらに、Ingressを活用したイベントを県庁が主催していることが、大きな話題を呼んでいる。

今年2月14日。岩手県庁Ingress活用研究会が企画したIngressイベント「ハック&キャンドル in盛岡」には、全国から160名のエージェントが参加した。Ingressでは特定の条件をクリアしていく「ミッション」という機能が備わっており、このときのミッションは「南部利直隠し財宝事件」。城下町盛岡を形づくり、わんこそばの発案者とも言われている南部利直をテーマに、架空の事件の謎解きと連動したミッションを提供、ガイドブックも完備した。参加エージェントは実際に盛岡市内のポータルを探しながら、盛岡の歴史や魅力に触れ、知識を深めていった。

「自治体初」の仕掛けが人を呼ぶ

こうした企画の仕掛け人が、岩手県庁 秘書広報室 副室長兼首席調査監の保 和衛(たもつ・かずえい)さんだ。そもそも保さんが岩手県庁のなかに「Ingress活用研究会」を立ち上げたのは2014年9月のこと。
岩手県庁 秘書広報室 副室長兼首席調査監の保 和衛(たもつ・かずえい)さん
岩手県庁 秘書広報室 副室長兼首席調査監の保 和衛(たもつ・かずえい)さん

「震災復興でずっとお世話になってきた知人からIngressを紹介され、最初は興味本位でなんとなくプレイをはじめましたが、すぐに『これは観光振興に使えるのではないか』と、ひらめいたんです」

保さんはその日のうちにIngressを観光に活用するための調査研究の実施について企画書にまとめ、室長を説得。直ちにメンバーを公募し、仲間を集めた。県庁ではかねてから自主的な社会貢献活動を奨励する風土があり、それも研究会発足を後押しした。研究会発足を伝えるニュースリリースを発信し、“日本初”をアピールし、広報活動も積極的に展開。企画書作成から1カ月後には、研究会の第1回会議を開催した。

「ネットでいろいろ調べてみても、Ingressを自治体が主導で観光振興に利用する事例は見つかりませんでした。もしかしたら、日本の自治体では“初”の取り組みかもしれない。“自治体初”のブランドを得られれば、まわりの関心も集まり、こちらのペースで世のなかにいろいろな情報を発信できるかも知れないと思いました。Ingressをやってみれば『これはおもしろい!』と、気づく自治体はほかにもあると思ったので、一刻も早く“自治体初”の称号を獲得したかったんです(笑)」

エージェントを盛岡に呼び込め!

先述のとおり、Ingressを楽しむ環境を整えるためには、ポータルを増やすことが喫緊の課題だった。ポータルはエージェント自らが申請し、ゲームを運営するNiantic Labsが審査・承認する。その過程を経てはじめて、ゲーム上にポータルが存在するようになるのだ。保さんは「自分たちだけで地道にやっていてもはかどらない」と、ポータル申請のためのイベントを企画した。
(写真左から)岩手県庁 秘書広報室の高家 卓矢さんと保 和衛さん。高家さんも保さんもIngressのエージェントとして活躍している
(写真左から)岩手県庁 秘書広報室の高家 卓矢さんと保 和衛さん。
高家さんも保さんもIngressのエージェントとして活躍している

こうして2014年11月9日「ポータル探して盛岡街歩き」を開催。盛岡に新しいポータルをつくろうと、54人のエージェントが集まった。そのうち2割が県外からの参加者だったという。「岩手県が観光振興のために、ポータル申請イベントを行った」というユニークな取り組みは、Niantic Labsの協力もあり、すぐに盛岡市内にいっきに200以上のポータルが急増した。
さまざまな土地でミッションをクリアすることでもらえるメダルの収集に楽しみを見出すエージェントも少なくない
さまざまな土地でミッションをクリアすれば入手できるメダル
その収集に楽しみを見出すエージェントも少なくない

「どちらかといえば東京のような大都会、もしくは京都のような古都のほうがフィットするゲームなのでしょうが、まちでも古都でもない当地のような場所も、逆にそのミスマッチがおもしろいと感じてくれたのだと思います。これをきっかけにして盛岡はIngressを楽しめるまちに徐々に育っていきました。このイベントを通じてIngressの活用には地元の人たちとの連携が重要だ、と考えるようになったんです」(保さん)

ゲームを楽しむために、東京から盛岡まで何度もやってきてくれる人たちにどう満足してもらい、また来てもらうのか。活動を継続させるために、外部との協力が必須だと感じていた保さんに、偶然にも地元のIngressコミュニティーから連絡がきたことで、活動はさらに拡大していく。

人と人とをリンクさせる、これからの観光振興──岩手県庁ゲームノミクス研究会(後編)へ続く

関連リンク
Ingress
Niantic project
岩手県庁ゲームノミクス研究会


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