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人と人とをリンクさせる、これからの観光振興 ──岩手県庁ゲームノミクス研究会(後編)

2015年08月25日



人と人とをリンクさせる、これからの観光振興 ──岩手県庁ゲームノミクス研究会(後編) | あしたのコミュニティーラボ
岩手県はいま、全国からエージェントが足を運びたくなる「Ingressの遊び場」へと変貌している。しかし、仕掛け人である岩手県庁の保和衛さんは「岩手をゲームの遊べる場所にすることが目的ではない」と話す。活動の発足の様子を伝えた前編に続き、後編では岩手県がねらいとする「Ingressを使った観光振興策」の真意と、連動して活動している“地域コミュニティー”とのつながり方を伺った。

Ingressでつくる、あたらしいまちのストーリー ──岩手県庁ゲームノミクス研究会(前編)

地元コミュニティーとのつながりが大きなバックアップに

ここまでの過程には、地元のIngressコミュニティーが実はとても大きな存在だった。「参考林(さんこうりん)むん」の名で活動する伊藤力(つとむ)さんは、300名以上が参加する「Google+」内のエージェントコミュニティー「Ingress Iwate Japan」のオーナーを務めている。
盛岡在住で、「参考林(さんこうりん)むん」の名で活動する伊藤力(つとむ)さん
盛岡在住で、「参考林(さんこうりん)むん」の名で活動する伊藤力(つとむ)さん

「僕も世代的にゲームはよくやっていたほうですが、いわゆるオンラインゲームなどには興味がありませんでした。そんな僕がなぜIngressにはまるのか、その魅力をひと言で伝えるのは本当に難しいんですよね。たとえていうなら“賽の河原の石積み”のようなゲームなんですよね。何時間もかけて移動して、自陣営の陣地を拡大しても5分後に相手陣営が自陣営のポータルを壊してしまう。積んで、崩されてをひたすらやっているだけなんだけど、なぜだかやめられないんです(笑)」

1年前には、岩手県内にIngressコミュニティーは存在していなかった。立ち上げの契機は、研究会発足のプレスリリースを見た青森のIngressコミュニティーのオーナーから「岩手でもコミュニティーをつくってはどうか」とすすめられたことだった。伊藤さんは、すぐにコミュニティーをつくり、メンバーを増やしていった。チームが拡大するにつれ、今度は自ら県庁に接触。何か一緒にできることはないか、保さんにメールで協力を申し出たと話す。

みなが楽しむための“コミュニティー”の意見

保さんはIngress Iwate Japanとの連携について、次のように話す。

「最初からコミュニティーのみなさんと2人3脚で活動できたのは、とても幸運でした。コミュニティー内で情報共有などもしてもらえるし、何より、Ingressのおもしろさを実際によく知っている人の意見を傾聴できるのはありがたい。イベントはトライを繰り返して改善していくような仕事と異なり一発勝負です。たとえば、難しく設定しすぎたミッションでは誰にも喜ばれない。だから企画のたたき台の段階から伊藤さんに相談しています。ゲームのルールはもちろん、ゲームの世界観を壊さないテクニックに関する意見は、大いに参考になっています」
岩手県庁・保和衛さんと参考林さんは、イベント企画について忌憚ない意見を交わす仲だ
岩手県庁・保和衛さんと参考林さんは、イベント企画について忌憚ない意見を交わす仲だ

オープンな活動は、新しいメンバーも呼び込んだ。工藤誠士さんは今年4月に入庁したばかりの新採用職員。保さんとは異なる業務に携わっているが、研究会のメンバーであり、伊藤さんのコミュニティーにも所属している。
岩手県庁 ゲームノミクス研究会のメンバーの1人、工藤誠士さん
岩手県庁 ゲームノミクス研究会のメンバーの1人、工藤誠士さん

「大学時代、Ingressを通じていろいろな場所へ赴きました。入庁前から岩手県庁でIngressを活用する取り組みがあると聞いていて、県庁への入庁が決まっていた今年2月の『ハック&キャンドル in盛岡』のときに、保さんに研究会へ参加したいと直談判しました。地元の産業振興に関心があるので、県職員とエージェント、双方の立場からイベントなどを盛り上げていきたいです。」

活用の本質は、“岩手の魅力”を感じてもらうこと

保さんはこれまでの活動について、次のように総括する。

「ゲームを目的に盛岡へ来てもらうだけで終わらせるつもりはありません。ゲームを楽しんでもらうことはもちろんですが、ゲームを通じ地元のことを知ってもらったり、魅力を感じてもらったりするのが本来のねらいです」
エージェントが自ら写真を撮影しポータル申請をする仕組みは自然と人を外に連れ出す
エージェントが自ら写真を撮影しポータル申請をするしくみは自然と人を外に連れ出す

2月の「ハック&キャンドル in盛岡」では、オプション企画として地元店舗とコラボした「リアルわんこ」と題した食イベントや、文化地層研究会のメンバーによる「盛岡再発見街歩き」も用意された。地元の“リアル”なイベントの開催日・開催場所にリンクさせ、集客にも成果を上げた一例だ。

県庁研究会が提供するミッションも、岩手の歴史的な背景やエピソードを伝える企画を提供するよう心がけている。「南部利直隠し財宝事件」のほか、今年5月には、神奈川県横須賀市役所とのコラボ「岩手県×横須賀市 友情の架け橋ミッション」をリリース。ここでは両地にゆかりのある先人・米内光政にちなんだポータルを巡るミッションだ。

「私はゲームの観光面での活用というのは、ゲームの世界とうまく調和させながらゲームのプレイヤーに向けて岩手の魅力を発信していくことだと考えています。新聞に岩手の広告を出す場合は、新聞の読者がお客さんになる。それと同じで新聞の読者がゲームのプレイヤーに置き換わったと捉えています」

異なるセクターとダイレクトにつながる意義

しかし、「携帯アプリゲームを地元の観光振興につなげる」という県庁の活動に理解を集めるのは、簡単なことではなかったはずだ。
2014年11月に行われた「ポータル探して盛岡街歩き」の様子(提供:岩手県庁)
2014年11月に行われた「ポータル探して盛岡街歩き」の様子(提供:岩手県庁)

「当然、関心を持ってもらえないこともあります。しかし既存の組織同士で連携を図る方法に限らず、おもしろいと思ってくれる人とダイレクトにつながっていく方法もある。今回の場合は後者の方法。組織や団体のなかにも私たちの活動に関心を示す人もいて、そういう人と一緒になれば、より高い効果が見込めます。何か“こと”を成し遂げるには、“異なるセクターにいる人同士でダイレクトにつながっていく”ことが、これからの時代の仕事のしかたになっていくのではないでしょうか」

昨年9月に発足した「Ingress活用研究会」は、今年5月に「ゲームノミクス研究会」に改組した。これからの研究会の活動について「いつまでもIngressだけに頼っていられない」と強調する保さんは「gamification(ゲーミフィケーション、日常の要素にゲーム的な考え方を取り入れて改善を図るの意)という言葉が注目されているように、岩手でもゲームのいいところを地元の社会活動に応用していきたい」と、意気込みを見せている。

行政からスタートし、地域コミュニティーとともに地域を盛り上げようとする新しい動き。これからの活動の広がりとともに、日本初の試みがどのようなゲームフィールドを開いていくのか、これからも目が離せない。

Ingressでつくる、あたらしいまちのストーリー ──岩手県庁ゲームノミクス研究会(前編)

関連リンク
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岩手県庁ゲームノミクス研究会


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