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行政だけでも、企業だけでもだめ。地域課題をあぶり出すエコシステム──アクティブワーキング@日南(後編)

2015年09月02日



行政だけでも、企業だけでもだめ。地域課題をあぶり出すエコシステム──アクティブワーキング@日南(後編) | あしたのコミュニティーラボ
7月初旬、日南市と.orgアライアンスが協働で実施した「アクティブワーキング@日南」。前編では、異業種から集まった11名の参加メンバーから、各オプショナルツアーが企業側にどんな効果をもたらしたのかを聞いた。では、受け入れた地域にはどんなメリットがあったのだろうか。後編では、企画の実現に奔走した日南市職員の話を中心に、“企業×地域”の取り組みの価値を掘り下げていく。

ふつうに仕事をしていれば、地域の魅力が見えてくる!? ──アクティブワーキング@日南(前編)

外に出て身につけたスキルを、地域で活かせる選択肢をつくる

企業を受け入れた日南市側では、どんな気づきがあったのだろう。

田鹿さんとともに「アクティブワーキング@日南」のオプショナルツアー企画とアテンドに奔走した日南市商工政策課の高橋奈々美さん(商工係主任主事)は、ツアーで伺った地元学生への聞き取りの内容を語ってくれた。

「宮崎福祉医療カレッジ(専門学校)の学生さんから生の声をはじめて聞いたときは、正直、目を見開かれる思いでした」
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日南市商工政策課商工係主任主事 高橋奈々美さん

「学生さんたちは口々に日南市を出たい、と言うんです。外の世界で自分の力を試したい。それならば、無理して地元に引き止めるのはよくありません。その反面、そんな若い人が多いのなら、いったん外に出た後、また戻りたくなる魅力的な選択肢が地元にもあるべきだと強く思いました。外に出て鍛えられ、身についた能力を郷里のために活かせる可能性を提示してあげたい。そんな道筋をつけることこそわたしたちの役割、とあらためて確認できました」

仮に本社が都会にある企業に就職したとしても、その企業が地域とともに新しい価値を創造し、何らかの接点をもっていれば、地域に留まって働く選択肢もあり得る。補助金や税優遇をチラつかせて既存企業の工場などを誘致する旧来型の雇用促進とは一線を画した、明らかに未来志向の産業振興戦略だ。ツアーの合間にモバイル端末で日常業務を続けながら地域の課題や魅力と触れ合う「アクティブワーキング@日南」は、まさにそんな働き方の実証実験。ここから、日南市も新たな一歩を踏み出していくのかもしれない。

企業の視点が思いもよらない気づきにつながる

ツアー初日の7月6日(月)、花王生活者研究センターのメンバーが「果樹の六次産業化」を目指しているダイダイ農家を訪ねたときのこと。農家では、ダイダイをジュースやドレッシングなどに加工していたが、どうしても酸味が強すぎて、なかなか芳しい評判が得られないという課題を持っていた。このとき、花王の吉岡大子さん(ライフスタイル研究室)が、なにげなくドレッシングの匂いを嗅いだ。

「あ! これ香りがいいですよ。オレンジとはまた違う。香料として使って、入浴剤なんかにしたらいいかも」──。

このひとことが大きなヒントになった。花王が商品化するとしたら圧倒的に量が足りない。ならば日南市でしか買えない希少な特産品として、逆に付加価値を高めてはどうか。そんなアイデアが出て、その場は大いに盛り上がった。

「農家の方が困りごとをわたしたち市の職員に相談されても、適切な回答ができませんでした」と高橋さん。
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「行政だけではなく、企業が参加したことで収穫があった」と話す高橋さん

「でも企業さんの視点が入ると、思いもよらない気づきを得られことがよくわかりました。農家さんも喜んでいて、これからダイダイ組合の会議などで提案されるでしょう。行政もフォローアップしていきたい」

オプショナルツアーでは、高橋さんが「アクティブワーキング@日南」の趣旨について地域の人たちに説明を尽くし、協力を仰いだ。

「やっぱりみなさん、今後どうしていけばいいのかというような、なにかしら悩みを持っていらっしゃるんですよ。そんなところに大きな企業さんが来てくれて、自分の話を聞いたり話したりできるというのは、なにか今後のヒントになるのでは、と思ってくれて。快く協力してくれました」

「若年層の独身男女に話を聞きたい」との花王からのリクエストにも、すばやく市役所の若手職員たちをアレンジした。勤務時間中に、公務と関係ない取材をするなど異例のことだから、上司に渋い顔をされると思いきや「いいなあ。オレじゃダメなの?」とうらやましがられるくらい協力的だったそうだ。

聞けば、日南市の職員は「新しいこと慣れ」をしているのだという。油津赤レンガ館をコ・ワーキングスペースとして活用するときも、いくつかの段階を駆けあがるようにして実現にこぎつけた。﨑田市長のもと、田鹿さんがマーケティング専門官として登用されてから、そんな事例が起きはじめている。そんな空気感が市役所にできたことで、職員も協力的になっているようだ。
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宮崎県日南市役所本庁舎。その空気感は崎田市長のもとで変化しつつある

歴史的にも、人の出入りが盛んな港町として栄えた日南市には、「よそ者」を受け容れる土壌があるという。加えて、前例のないことを拒まずおもしろがり、変化を怖気つかずに楽しむ姿勢も常態になっているようだ。「アクティブワーキング@日南」のような新しい実証実験にはふさわしい地域といえよう。

地方と企業、二者の間に立つ人が相互にいることが重要

5日間のツアーを振り返って、参加メンバーの1人、富士通デザイン株式会社の高嶋大介さん(ソフトウェア&サービスデザイン事業部チーフデザイナー)は「複数企業の相互作用で地域に新しい価値を発見する可能性」を感じた。高嶋さんはこの半年、フィールドワークや「あしたラボ」と共催したイベントを通じ、企業がどのように地域と接点を持てばイノベーションが起きやすいのかを研究してきた。
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富士通デザイン株式会社ソフトウェア&サービスデザイン事業部チーフデザイナー 高嶋大介さん

「都会の仕事を地域に持ってきただけでは何も起きない。地域の人たちと触れ合い、地域に深く入り込み、地域の思いを尊重しつつ課題解決や魅力発信のビジネスモデルを組み立て、再び都会に戻したときイノベーションが起きるのではないか。それが半年間の結論でした。そのプロトタイプがまさに〈アクティブワーキング@日南〉だと思う。確信を深めました」

商工政策課の高橋さんは「はじめての試みでとても勉強になり、充実した仕事でした。これから何回も実施したいです。起業家を目指す人たちにも場を用意したい」と意欲を燃やす。一方で、「3日目の夜にパエリアパーティーで市民も招き交流しましたが、もっと途中で参加企業の方々の意見や感想をいただく機会を設けるべきでした」と反省点も口にした。

「今回は手探りでつくっていった部分が多くて。今後は内容をもう少し整理してパッケージ化したり、わたしたち行政側にも、参加企業からフィードバックをもらう機会をつくりたいです」

ツアーを発案し、日南市役所の田鹿さん、高橋さんとともに企画運営した.orgアライアンスの原田博一さん(株式会社富士通研究所R&D戦略本部クリエイティブ・メディエーター)はこう語る。

「日常の仕事を遮断せず地域に入る趣旨なので、わたしはもっとスカスカで余裕のあるスケジュールをイメージしていましたが、ホストである日南市の田鹿さん、高橋さんは熱意をこめてリストアップしてくれた。ここはそのとおりにやってみよう、とあえて口に出しませんでした。でも結果的にそれで良かった。やってみたからこそ自分でも確信が持てました。働く時間。振り返る時間。意見交換する時間。この3つを意図的に組み込むべきだと学びました」
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株式会社富士通研究所R&D戦略本部クリエイティブ・メディエーター 原田博一さん

原田さんは自らを企業のど真ん中ではなく「縁にいる存在」と規定している。富士通研究所での肩書き「クリエイティブ・メディエーター」は、企業の外に開いた窓口となって、人と人、組織と組織をつなぎ、新たな価値を生み出す媒介役の意味。.orgアライアンスも、社会課題を対象にイノベーションを起こすことを目的に、非営利法人化して、企業と公共セクターをつなぐ社会資本を目指している。

自治体としては先駆的な「マーケティング専門官」として民間から登用された日南市役所商工政策課の田鹿さんもまた、いうなれば行政の「縁にいる存在」だ。互いに企業と行政に所属していながらも、外部との「間に立つ」役割を果たしている。二者の間に1人が立つのではなく、間に立つ人が相互にいること。それがこうした活動では重要なことも原田さんは学んだという。

働きながら地域に入る「アクティブワーキング@日南」が企業と地域にどんな気づきをもたらしたのか。それは今後、どんな新しい価値をつくれるのか。今後、参加メンバーでさらに議論を深めていく予定だ。

参加メンバーが「アクティブワーキング@日南」をさらに深堀りする振り返りミーティングが、8月5日、東京・六本木の「HAB-YU platform」で開催された。次回は振り返りミーティングでの参加者のコメントから、取り組みの価値や可能性を見つめていく。

ふつうに仕事をしていれば、地域の魅力が見えてくる!? ──アクティブワーキング@日南(前編)

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