「日本一、企業と組みやすい自治体」の機動力
──﨑田市長は2年前に初当選されてから、さまざまな施策を打たれていますが、そもそも政策の柱というのはなんだったのでしょう?
﨑田 2年前の市長選に出馬した際、「同世代の若い人材が帰って来れるまちづくり」が大きな政策でした。地元に仕事がないわけではないが、若い人の志向とマッチしていなかった。そんな仕事がつくれたらと思い、企業と組んで新たな仕事をつくるためにはマーケティングの考え方が大切、と地域のおじちゃんおばちゃんたちに説いて回りました。
──当選後、自治体では珍しい「マーケティング推進室」を設けていますね。
﨑田 宮崎県庁を辞めてふんぎりをつける前に、厚生労働省に出向していた時期があるんです。そのときある勉強会で、田鹿倫基マーケティング専門官と知り合いました。私が市長に当選したら会社を辞めて来てくれますか、とヘッドハンティングして。民間人が公務員の名刺を持つと最強です。もともと日南市役所のポテンシャルは高く、行政の組織力や調整力と、民間の柔軟性を組み合わせれば可能性が大きく広がります。
──既存の、いわゆる企業誘致だけではなく、新しい視点でも取り組まれていると聞きました。
﨑田 そうですね。企業誘致は重要ですし、もちろん取り組んでいますが、その軸足だけではない。メインで取り組みたいのは、地域に根ざした魅力や抱えている課題と企業の経営センスを掛け合わせて新事業を創出し、雇用を生み出す施策です。日南市は、特定の名産品による一点突破型ではなく、農林水産それぞれの資源が幅広くあります。それらの地域資源をうまく外に売るために、マーケティングの視点と戦略を持つ「機動力のある行政」を武器にしていこうと決めました。「日本一、企業と組みやすい自治体」です。
──企業と組むためには意思決定の速さが重要である、としているそうですね。
﨑田 はい。さまざまな企業とともに模索するなかで、取り組みをはじめる当初には思いもよらなかった視点が生まれることもあります。そんな視点をムダにしないためにも、動きながら考え、修正する力を大切にしたい。お金はないですが(笑)、スピードと柔軟性はどこにも負けません。
シビック・プライドを持つ若者が活躍できるまち
──企業との新しい取り組みで生まれた成果にはどんなことがありますか。
﨑田 最新事例ではクラウドワークスさん(クラウドソーシングのマッチングサービスが主な事業)と組んだクラウドソーシングがあります。シイタケ農家の農閑期に、奥さんが自宅でウェブサイトの文章を書く仕事をクラウドワークスで得る。収入のない時期に、インターネットで仕事を受注する可能性が開けました。農閑期に収入が減るという農家の課題を解決する手段として、うまくいった事例ですね。アラタナさん(ネットショップ運営のサポートが主な事業)ともテレワークで活躍できるウェブライター創出の取り組みを進めています。
──全国的に若い人たちが地域に目を向ける傾向があります。日南市でもその息吹は感じますか?
﨑田 私の当選に刺激を受けてUターンした人間が4人います(笑)。ヨーロッパでいう「シビック・プライド」、つまり愛郷心よりも一歩進んだ、市民であることに誇りを持ち一員として何かしたくなる雰囲気を醸成していきたい。進学や就職で外へ出ても、培ったスキルを日南市で試せる場があれば戻って来られるわけです。むしろ都会で働くより日南市に軸足を置いたほうがおもしろい仕事ができるかもしれない。現にそう考える若者が最近増えているんですよ。