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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

“入口封じ”と“出口づくり”でホームレス問題を解決する ──NPO法人Homedoor(前編)

2015年09月17日



“入口封じ”と“出口づくり”でホームレス問題を解決する ──NPO法人Homedoor(前編) | あしたのコミュニティーラボ
シェアサイクルとホームレスの人々への就労支援を結びつけたユニークなアイデア「HUBchari(ハブチャリ)」。大阪のNPO法人Homedoorは、その運営母体として知られている。理事長である川口加奈さんは、中学生の頃からホームレス問題に関心をもち、大学2年のときHomedoorを立ち上げた。持続的なサイクルを回しながら社会課題の解決を図る事業モデルは、どのように生まれたのだろうか。(トップ画像提供:NPO法人Homedoor)

日本社会に潜在する「見えざるホームレス」

厚生労働省の定義では、インターネットカフェなど深夜営業店舗を転々として生活している人は「ホームレス」に含まれない。家がない状態でもネットを通じて日払い可能な派遣労働にありつき、その日暮らしの生活を続けるうち、いつしか路上生活に陥ってしまう人もいる。統計データから漏れる「見えざるホームレス」の実態は明らかでないが、後を断たないのが現実だ。

ある深夜営業店舗のブースのPCを開くと、こんなバナーが現れる。

一人で悩まないで相談して下さい。
仕事がない……
家がない……
相談できる人がいない…… 
→詳しくはこちら

PC画面に表示されるHomedoorのバナー(提供:NPO法人Homedoor)
PC画面に表示されるHomedoorのバナー(提供:NPO法人Homedoor)

大阪で活動するNPO法人Homedoorが深夜営業店舗を運営する企業から広告枠の無償提供を受け、2014年12月から表示しているバナーだ。「ネットカフェ難民」と呼ばれる生活困窮者はやがて路上生活に至る。その前に相談しやすいしくみづくりをHomedoorは目指している。

「ホームレス状態を生み出さない日本の社会構造をつくりたい」。Homedoor理事長の川口加奈さんは、そんなビジョンを掲げる。

NPO法人Homedoor理事長 川口 加奈さん
NPO法人Homedoor理事長 川口 加奈さん

「ホームレス状態への入口封じ。ホームレス状態からの出口づくり。そして、ホームレス問題の啓発活動。これらがHomedoorの事業3本柱です」

先述した深夜営業店舗のバナー広告のほか、大阪市北区周辺でホームレスの人々におにぎりを配りながら行う夜回り活動「ホムパト」や、SEO対策を施したネット検索、他団体からの紹介などによって、まずはHomedoorを知ってもらう。

生活困窮者からの相談にも対応し、事務所と併設される「&ハウス」を案内。「大変な状況のもとでもほっと安堵できるような場所にしたい」との思いで2014年に開設したこの施設には、洗濯機やキッチン、昼寝スペースなどを備え、人との交流スペースとしての機能も持つ。

生活困窮者の人々のことを親しみを込めて「おっちゃん」と呼ぶ川口さん。こうした活動でおっちゃんたちから個別に話を聞き、生活保護申請同行など公的支援へのつなぎの役割を果たす。おっちゃんが自力で仕事を見つけるまでの就労リハビリ(6〜12カ月)として、中間的就労の機会も提供する。

Homedoorの認知〜路上脱出するまでの流れ。
夜回りやバナー広告など、Homedoorの存在を知ってもらうための経路を多く用意している
(画像提供:NPO法人Homedoor)
Homedoorの認知〜路上脱出するまでの流れ。
夜回りやバナー広告など、Homedoorの存在を知ってもらうための経路を多く用意している
(画像提供:NPO法人Homedoor)

最終的な目標は、就労自立もしくは半就労半福祉(編集部注:半就労半福祉とは、直ちに一般就労を目指すことが困難な人に対して、社会的な自立に向けたサポートを含んだ中間的就労のこと。ホームレスの人のなかには心身に障がいを抱える人も多い)。活動を本格的に始めたこの3年間で相談・支援したのは延べ300人で、中間的就労の場を提供したのは延べ130人にのぼる。

ホームレス問題の啓発活動としては、釜ヶ崎(あいりん地区)周辺のまち歩き、炊き出しへの参加、ワークショップの開催、中高・大学生向けの講演などを実施している。

Homedoorが取り組む9つの活動(提供:NPO法人Homedoor)
Homedoorが取り組む9つの活動(提供:NPO法人Homedoor)

シェアサイクル事業で就労支援と「ノキサキ貢献」

Homedoorが際立ってユニークなのは、中間的就労の場として、シェアサイクルのビジネスモデル「HUBchari(ハブチャリ)」を確立したことだ。コミュニティサイクルとホームレスの人の就労支援を結びつけたアイデアは前例がない。

 HUBchariポートで自転車の手入れをするスタッフ
HUBchariポートで自転車の手入れをするスタッフ
(写真提供:NPO法人Homedoor)

「ホームレスの人の仕事は主に廃品回収ですが、1,000円くらいの日当にしかなりません。一方で空き缶収集には自転車を使い、タイヤのパンクなどは採算が合わなくなると自力で直してしまいます。だからおのずとみんなうまくなり、ホームレスの人の7割以上が自転車修理を得意としているんです」

そんなホームレスの人々の“特技”を仕事にする方法はないか──そんな思いから生まれたのが、おっちゃんに就労機会を提供しながら路上の放置自転車問題も解決できるHUBchariのアイデアだった。

寄付された自転車や放置自転車の整備・修理を行う修理部門のほか、まちなかの各拠点で受付応対や清掃、台数調整などを行う接客部門を設け、それぞれのおっちゃんに合った訓練を行う。「支援される側」から、自分の特技を活かして「社会に貢献する側」になることで、就労への意識を高めていくしくみだ。

HUBchariの利用プランは2種類。月額会員が使えるポートは大阪市内に18拠点、1日利用・1回利用では7拠点が設置される。それらは店舗やビル、ホテルなどの軒先で、企業にとっては「ノキサキ貢献」という新たな社会貢献活動になる。

それだけではない。たとえばカフェの軒先だったら、自転車の返却ついでに「コーヒーの1杯でも」ということなるので、売上増にもつながるだろう。

Homedoorでは、このHUBchariのほか、駅前放置自転車の整理、企業からの業務委託、内職と4種類の中間的就労の場を提供。こうした中間的就労によって、多い人で月額15万円程度の収入になるため、それを貯めて部屋を借り、じっくり本格的な仕事探しに乗り出すこともできる。就労支援プログラムに参加できるのは原則6カ月だが、早い人なら2カ月程度で次の仕事を見つけられるという。

就労プログラムを利用した6カ月後の状態(2014年度年次報告書より抜粋)。段階的な社会復帰を目指す
就労プログラムを利用した6カ月後の状態(2014年度年次報告書より抜粋)。段階的な社会復帰を目指す
(提供:NPO法人Homedoor)

現在HUBchariでは50人ほどの当事者スタッフが働いており、4人の事務局スタッフと4人の現場リーダーが運営する。現場リーダーを務めるのはHUBchariプログラムの卒業生たちだ。

2014年度は就労支援の事業収益が増え、Homedoorとしても前年度比2倍以上の経常収益を上げた。活動を持続させるための重要な原資となっている。

好きでホームレスになったわけではない

Homedoorで自転車整理などの仕事をするW・Mさんが、「&ハウス」でみんなのために炊き込みご飯をつくっていた。料理人としての腕をふるう。

運営スタッフにつくりたての炊き込み御飯をふるまうWさん(写真右)
運営スタッフにつくりたての炊き込み御飯をふるまうWさん(写真右)

Wさんの実家は飲食店を営んでいた。最盛期には4店舗を構え、ニュージーランドでも仕事をしたことがある。だが経営破綻し借金も明るみに出て、母親が亡くなるまでの2年間は介護にかかりきりで仕事ができなかった。生活保護を申請せず自力でがんばったが、家も人手に渡った。2015年2月からネットカフェ難民に。路上生活も経験したが、持病があるので野外は身体にきつい。

居酒屋の深夜勤務に採用されたが、2週間でホームレスであることがバレてしまい解雇された。Homedoorはホームレスの友人の紹介で知った。今年の5月からHomedoorの仕事で一定の収入を確保しつつ、料理人の職を探している。

「料理屋をしていたので、残り物を拾いに来る人としてしかホームレスを見ていませんでした。いざ自分がその立場になって、はじめてわかりました。見かけだけで判断してはいけない。好きでホームレスになった人など、ほとんどいません。酒やギャンブルで仕事を失った人もいるでしょうが、それもすべてではない。それぞれ事情はさまざま。Homedoorの運営は大変でしょうけれど、仕事を見つけるステップになり、僕らにとってはありがたい存在です」

鮮やかな手つきで調理をするWさん
鮮やかな手つきで調理をするWさん

Wさんは「板前をやるしかない」と長年の天職に誇りをもつ。だが飲食店は店長も料理長も若い人が多く、高齢のWさんは採用されにくい。「それはしょうがない。しょうがないけど、なんとかしなければ」と意欲を燃やす──。

Homedoorは、2010年4月の設立から5年間のうちに、ホームレス問題を民間レベルで解決するしくみを構築してきた。では、同法人を立ち上げるに至るまでに、川口さんにはどんな“原体験”があったのだろうか。後編では、中学生の川口さんが見つめた「社会課題」に迫っていく。

14歳の少女が夢見た「何度でもやりなおせる社会」 ──NPO法人Homedoor(後編)

関連リンク
NPO法人Homedoor
HUBchari


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