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14歳の少女が夢見た「何度でもやりなおせる社会」 ──法人Homedoor(後編)

2015年09月18日



14歳の少女が夢見た「何度でもやりなおせる社会」 ──法人Homedoor(後編) | あしたのコミュニティーラボ
ホームレス問題という潜在的な社会課題の解決を目指し、2010年4月からスタートしたNPO法人Homedoor。これまで「HUBchari(ハブチャリ)」「&ハウス」などによって、生活困窮者やホームレスとなった“おっちゃん”たちの就労および生活を支援してきた。その活動の背景には、Homedoor発起人であり理事長の川口加奈さんが14歳のときに見つめた日本の社会課題があった。

“入口封じ”と“出口づくり”でホームレス問題を解決する ──NPO法人Homedoor(前編)

全校集会でホームレス問題を訴える中学生

NPO法人Homedoor理事長の川口加奈さんがホームレス問題に関心をもったのは、川口さんが中学生の頃のこと。電車通学がはじまると、一緒に通学していた友だちの1人が日雇い労働者のまち・釜ヶ崎(あいりん地区)最寄りのJR環状線新今宮駅を避け、地下鉄を利用していた。

「なぜわざわざ遠回りをするのか」。そう聞くと「お母さんに言われたから」──。新今宮駅は高架なのでホームレスの人に出会うことはないが「車窓から見える景色が教育に良くない」というのが友だち母親の考えらしい。

釜ヶ崎のことをこのときはじめて知った川口さんも母親に聞いてみた。「わたしも遠回りしたほうがいいんじゃない?」。母親の答えは「地下鉄で通わせるほどウチは裕福じゃないけど、気をつけなさい」──。川口さんのスイッチが入った。

「危ないから行くな、と言われると行きたくなるじゃないですか。ちょうど反抗期でもあり(笑)、母親に内緒で炊き出しに参加したのがボランティア活動をはじめたきっかけでした」

NPO法人Homedoor理事長 川口 加奈さん
NPO法人Homedoor理事長 川口 加奈さん

その日暮らしの日雇い労働者はホームレスになりやすい。日雇い労働者とは道路工事や原発のメンテナンスなど、自分たちの生活を支える仕事に携わっている人たち。そんな人たちがホームレスになり偏見を抱かれるのは、おかしいではないか。一度もホームレスの人に会ったことがないのに、自分とは関係がない、自業自得で路上生活になったと思い込んでいたのが恥ずかしかった。

14歳の川口さんは行動を起こす。ちょうどその頃、同世代がホームレス襲撃事件を起こしていたので、先生が言うより同世代の自分の言葉のほうが伝わりやすいと考え、全校集会でホームレス問題を話した。

「しかし誰も話を聞いてくれない。ならば書いて伝えようと、ホームレス問題に関する校内新聞を発行することを決めました。そして現場へ行かないと伝わらないと、釜ヶ崎の炊き出しに同級生を連れていった。わたしはバスケ部だったのですが、新聞を制作するボランティア部の活動に組み込めば顧問の先生が引率で来てくれる。印刷機とかも使い放題だし、半ばボランティア部を乗っ取ってしまったんです(笑)」

対症療法でなく、社会構造の根本解決を

ホームレス問題にのめり込む中学生。その原動力はいったい何だったのか。川口さんは当時を次のように振り返る。

「路上で凍死・餓死する人も多く、ホームレス問題は生死に関わる重大な問題。それなのに、伝えるべきことが伝わらない。そんな悔しさでしょうか。自分にしかできないことが見つかった高揚感もあったのかもしれません」

高校生になっても活動は続いた。全国3,000人のボランティアリーダーのなかから親善大使に選ばれ、ワシントンD.C.で各国代表とも交流した。そうして活動するなかで、あるとき、海外の親善大使から川口さんはこんな問いを投げかけられた。

「あなたは社会に良さそうなことをしているだけなの? それとも社会を変えたいの?」

日本でもっともホームレス研究が盛んな大阪市立大学経済学部に進学し、労働経済学で非正規雇用の問題などを学びながらも、その言葉が頭にこびりついて離れなかった。

「わたしが活動したからといって、路上で凍死・餓死する人が減ったわけでもなければ、相変わらずホームレス襲撃事件も起きていたわけです。対症療法的なボランティア活動では限界がある。もっと根本的にホームレス状態を生み出さない社会構造をつくらなければ──」

そう決意した川口さんが2010年、大学2年のときに立ち上げたのがNPO法人Homedoorだ。

Homedoor

NPOを立ち上げるも、行政にも企業にも相手にされず

入口封じ、出口づくり、ホームレス問題啓発。3つを活動の柱とするなかで、まずは「出口づくり」に着手した。ホームレスの人たちが自転車修理に長けていることに着目、シェアサイクルと就労支援を結びつけた事業「HUBchari」を考案。しかし、拠点として路上スペースを提供してもらおうと行政に掛け合うも、たらい回しにされたあげく、まったく相手にされなかったという。

学生で実績がないからというのが最大の理由。いきなり行き詰まってしまったが「行政がダメなら企業に」と、ビルやカフェ、ホテルの軒先のデッドスペースに自転車を置かせてもらう“ノキサキ貢献”のCSRを提案した。

「何のコネクションもなかったので200〜300社回りましたが、やはり“サークル活動?” “本当にできるの?”といった意見が頻出し、門前払いされました」

半年ほど何の手応えもなく、くじけそうになったが、とりあえず実績をつくることが大事と思い直し、「1週間だけイベントとして軒先を貸してもらえませんか」と方向転換。すると梅田ロフト(北区茶屋町)をはじめ4カ所で実験的にスタートすることができた。2012年4月のことだ。

スタッフお手製の看板が掲げられたHUBchariポート
スタッフお手製の看板が掲げられたHUBchariポート
(写真提供:NPO法人Homedoor)

これがテレビ東京『ワールドビジネスサテライト』に取り上げられ、メディアの取材が殺到。そうなると宣伝効果も高いことから「ノキサキ貢献」の協力企業が増えていった。

おっちゃんと「共依存」にならず淡々と毎日こなす

当初の苦境を跳ね返し、Homedoorの活動が軌道に乗っているのはなぜだろうか。HUBchariをはじめ、行政や企業からの業務委託など、自力で仕事を見つけるまでのつなぎとなる中間的就労支援のメニューが拡充し、個人の事情に応じた「入口封じ」と「出口づくり」ができている。それによりHomedoorの経常収益も前年度比倍増以上を達成し、持続的な運営が保たれているのだ。

だが、もっと本質的な理由は、川口さんの「淡々と毎日こなしている」という姿勢ではないか。モチベーションを共有する「共依存」を避けてきた。

「おっちゃんが就職しました、家を借りました。そこに至るまで半年や1年がんばってきたわけだし、その瞬間はうれしいですが、そのうれしさを仕事の原動力にはしていません。わたしたちはあくまでも路上を脱出したいと望んでいる人たちに手段と道筋を提供しているだけで、こうなってほしいと押しつけたり、相手によってモチベーションが左右されたりするのは支援上よくないんです」

互いに介入しすぎない距離感を保ちながらの活動を大切にしている
互いに介入しすぎない距離感を保ちながらの活動を大切にしている
(写真提供:NPO法人Homedoor)

現状では「HUBchari」「駅前放置自転車の整理」「企業からの業務委託」「内職」の4種類の活動で50〜60人ほどのおっちゃんに対して中間的就労支援の場を提供している。今後はさらに選択肢を増やし、確実に路上脱出できる割合を上げていく。

住む家が見つかった、就職先が見つかったなどの次のステップに進んだ人の割合は着実に増えてきている(NPO法人Homedoor提供のデータをもとに編集部作成)
住む家が見つかった、就職先が見つかったなどの次のステップに進んだ方たちの割合。
割合は着実に増えてきている(NPO法人Homedoor提供のデータをもとに編集部作成)

今の目標は入口封じのための宿泊施設の開設。そのためには寄付が欠かせない。Homedoorは経常収益に占める寄付金の割合が低く、ホームレス問題への理解の乏しさが悩みの種だ。

金融機関がホームレスの人を対象に金銭管理の講座を開いたり、中間的就労の機会を提供する業務委託というかたちで企業と連携したりすることはあるが、寄付となるとなかなか集まらないのが実情。3本柱の1つである啓発活動を地道に続けることで、ホームレス問題への人々の理解を促していきたいと話す。

Homedoorでは当事者による講演活動も行なっている
Homedoorでは当事者による講演活動も行っている
(写真提供:NPO法人Homedoor)

14歳でホームレス問題と出会ってから10年。おっちゃんたちと正面から向き合い、試行錯誤しながら活動を続けてきた。NPOは設立から5年を迎え、これまでに携わった当事者スタッフの数は延べ130人にのぼる。

多様なステークホルダーを巻き込みながらホームレス問題に立ち向かう川口さんの姿から、長期的な目線で社会課題に取り組むためには熱意や実行力のみならず、継続的な事業スキームを構想する力、当事者への過干渉をしないといった冷静な判断力の必要性がうかがえた。大阪から日本の社会構造を変えようと奮闘するHomedoorの活動に今後も注目していきたい。

“入口封じ”と“出口づくり”でホームレス問題を解決する ──NPO法人Homedoor(前編)

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NPO法人Homedoor
HUBchari


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